3-10.夜戦の始まり
それから、二年ほど過ぎた。
急速に規模を拡大する大蛇は、遂に無視する事の
出来ない組織として認識されるようになった。
人数だけを考慮すれば盗賊集団スサノオにも匹敵し、
合計で三十名程が一丸となって活動している。
「すぅ……すぅ……」
ある夜。
幹部の集まりが解散した後、
桜花はそのまま屋根裏で寝息を立てていた。
「桜華」
「すぅ……」
「桜華!」
「わわっ! はい! って、なんだ小町か」
「なんだとは何よ、失礼ね」
「ゴメンって……。で、何? 寝てる私を叩き起してまで話しかけるなんて、よっぽどの用件なんでしょうね?」
「よっぽどの用件よ。ちゃんと行水したの?」
「……あ、忘れてた」
「きったな~い」
「な、何よ! 一日くらい忘れたって──」
「は〜ん、自称美少女が聞いて呆れるわね」
「行水して来ます。って、自称じゃなくて他称だから!」
「いやあんた以外の口から聞いた事ないわ」
と、何年経とうと変化も成長もない茶番を繰り広げる。
眠い目をこすりながら、桜華は薄暗い中で行水を済ませた。
屋根裏に戻り、今度こそ寝てやろうと、
座布団を幾重にも重ねて寝床とする。
──まあ、悪くはないか
座布団が動きやすい事を除けば、悪くない寝心地であった。
──さ、おやすみ
「ちょっと桜華」
「……今度は何?」
「なんでここで寝ようとしてんの?」
「え〜、だってアジト帰るの面倒臭いし」
「たまには帰りなさいよ。あんたの部下たちがかわいそうじゃない」
桜華の部下たちが集まるアジトは、
ここから歩いて十分の距離にある。
大した距離ではないが、わざわざ眠気に
耐えながら歩く気にはならない様子。
「それに、美少女があそこで寝てたら襲われちゃうでしょ?」
「……は?」
「え?」
「え?」
呆れたように溜め息をつき、小町が続ける。
「はあ。ま、良いけどさ。たまには顔見せなよ」
「うん、近いうちにね」
桜華と小町──大蛇の創設メンバーである
二人の会話は、毎度このようなものだ。
しかし今日は、そこに喧騒が割り込んでくる。
「桜華さん! 桜華さん!」
階下より、たいそう慌てた様子の呼び声が聞こえた。
彼女はその声に聞き覚えがある。
自身が管理するアジトに所属する部下の男児だからである。
「どしたの?」
駆け足で階段を降り、何事かと問う。
「防人十人が、ウチらのアジトに向かってるみたいなんです!」
「……小町、ちょっくらアジトに顔出して来る」
「うん、行ってらっしゃい」
後から降りてきた小町が、
寝床に置かれていた桜華の刀を所有者へ手渡す。
「あんがと」
彼女はそれを左腰に携え、
大急ぎで幹部集会所を後にした。




