3-9.八つ頭の大蛇
──七年前のウルスリーヴル国
──どこかの屋根裏部屋
その場所に、八人の若者が座する。
円形に座布団を並べ、皆が内側を向いて組織の活動について話す。
「んで、今回の成果は?」
ごく普通の町娘と言った風貌の彼女が、
だらしなく胡座をかく桜華に問う。
「真剣十二本と、防人一人の負傷。ねえ、私の豆大福食べたの誰?」
「十二本か、結構大きいね」
「しかも、全部防人の特注品だからね。私たち大蛇にとっては高級品だよ。ところで、私の豆大福食べたの誰?」
「在庫は?」
町娘が、自身の右隣に座する少年に問う。
彼は鍛冶屋の息子で、父親の倉庫を利用して
大蛇の武器在庫を抱えている。
「桜華が持ってきたのを合わせて真剣三十本、木刀二本、かんしゃく玉十個だよ」
「へえ、わりと貯まってきたじゃん」
「ねえ、私の──」
「なんだかんだデカくなってきたね、大蛇」
「ね。このまま成長すれば、アイツらにも」
「ねえ! 私の! 豆大福は!」
「うるさいね、さっきから!」
「だって酷いじゃん。楽しみにしてた豆大福、誰かに食べられちゃったんだよ⁈ 泥棒だよ、泥棒!」
「あんたね……自分が何者で何をやってるか、考えた事ある?」
言わずもがな、桜華は大蛇八幹部の一人を務めている。
そんな彼女に、他人を泥棒呼ばわりする資格など無いと。
そう言う指摘である。
「そんな事より」
幹部の一人、百姓のせがれが不毛な会話を断ち切る。
「今回の事で、防人の目は更に鋭くなるかもね。特に桜華、君は指名手配級でしょ」
「まあね〜」
「呑気だな……」
「防人なんて、誰が何処からかかって来ても同じだもん」
相当な自信には、彼女が天才的な
剣術の才能を持っているという裏付けがある。
実際のところ、昨晩、防人の男三人と同時に
対峙したが引けを取らず、むしろ一人を負傷させ撃退している。
「さすが、天才剣士様は違うね」
幼い頃から桜華を知る、町娘の彼女が言う。
「だから違うって」
「……?」
が、桜華はその名誉ある称号を否定。
自身で考えた、もっとも好ましい二つ名を言い放つ。
「美少女剣士だって、何回言えば解るの?」
「はぁ……黙ってりゃかわいいのに」
つい漏れ出した本音を、
何とか小声にまで押し殺すことに成功。
しかし残念ながら、桜華の耳にまで届いてしまう。
「なにか?」
「何でもないですぅ」
数秒間、おかしな空気感になるも、
町娘は気を取り直して幹部全体へ向かって指示を出す。
「んんっ! とにかく、蛇が育ってきたとは言え、まだまだ奴らに抵抗するには足りない。武器と協力者の確保を優先して進めるよ!」
「りょ〜か〜い」
各々、その指示に対する了承の返事をして解散。
各自のアジトへと帰ってゆく。
屋根裏には、町娘と桜華の二人だけが残った。
「……ねぇ、桜華」
「ん?」
「本当に、勝てるのかな?」
「……勝つよ、私は」
「スサノオは、かなりの強敵だよ?」
「……」
桜華の脳裏に嫌な記憶が蘇った。
産まれは分からず、物心着いた時には
既に他の孤児と共に、神社で神主の世話になっていた。
時には喧嘩をすることもあったが、
皆、大切な家族であった。
そんな平穏を破壊したのが、彼女らの言うスサノオである。
彼らは極悪非道な盗賊の集まりで、
狙った獲物を盗る為には手段を選ばない。
邪魔をすれば、虫けらの様に
殺すことも厭わない程である。
──きゃああああっ!
──やめて! やめてよ!
幼少期の桜華と町娘の彼女──改め小町は、
神主の計らいにより、押し入れの奥へと隠された。
長らく使われていない布団は埃臭く、
自然と呼吸が浅くなる。
結果的に気配を隠す事に繋がり、
二人は何とか見つからずに済んだのであった。
──あれ……剣が無い?
人の気配が失せた後、
二人は押し入れから這い出て様子を見た。
御神体として祭壇に置かれていたはずの、
天叢雲剣が無くなっていた。
スサノオはそれを標的として襲撃したのである。
「……桜華?」
「ん?」
「どしたの? ぼーっとして」
「いや、ゴメン。なんでもない」
「で、他人様の話聞いてたの?」
「うん。もちろん、私は戦う。その為に私達は大蛇を立ち上げたんだから」
スサノオに討たれた蛇は復讐を誓い、
八つの頭を持つ大蛇として、着々とその牙を磨き続けていた。
他の幹部もみな、スサノオから
何かしらの被害を受けた者たちである。
「そうだね。んじゃ、これからもよろしく、桜華」
「小町……。うん、よろし──ん?」
小町の握手に応じようとした桜華は、
彼女の指に付いた白い粉を発見。
「ねえ、小町」
「うん?」
「私の豆大福、美味しかった⁈」
「バレた!」
犯人だと気付かれた小町は、急いで屋根裏から去る。
ドタバタと、おおよそ秘密会議の直後とは思えぬ騒々しさである。
「待てーっ! 返せーっ! 私の豆大福ぅ!」
桜華も騒ぎながら小町を追う。
そこには大蛇の頭も、復讐の鬼も居ない。
ただ、二人の仲睦まじい少女たちが駆けるのみであった。




