1-2.心の乱層雲
「女性」改め、王国騎士団第一部隊長、「アインズ」と共に、城の廊下を進むユウキ。炊事洗濯などを担う従者たちが忙しなく行きかう。その誰もが、アインズとすれ違うたびにわざわざ足を止め、軽く頭を下げる。
「……」
彼女はその度に肩ほどの高さまで手を挙げ、笑顔で応対している。
「ここよ」
何度か踊り場を経て階段を上り、両開きの扉の前まで来た。
アインズがノブに手をかけて押した。
昼どきの日差しが、ユウキに強烈な光を刺した。
「眩し——」
「さて、さすがに乾いているわよね」
おびただしい量の布が干されている。その白さがまた、眩しさを強調する。
「アインズ様。如何なさいましたか?」
突然現れた二人の気配を察してか、洗濯物を干していた女性が垂れる布をかき分けて出てきた。
「この前洗濯してもらったこの子の服、もう乾いているかしら?」
「はい。先ほど——こちらです」
乾いた洗濯物が入れられた籠から、ユウキの服が取り出された。
他の物とは雰囲気の異なる、クライヤマ製の服だ。
「ありがとうございます」
女性から服を受け取った彼は安堵した。
——この服、高級感があって着心地に違和感があるんだよなあ
「この服と一緒に、首飾りは無かったかしら?」
「ええ、懐にございました。ただ、つい先ほどツヴァイ様が持って行かれまして」
「ツヴァイが?」
その名前を聞いたアインズは、少し眉間にしわを寄せた。
「ええ。どなたの物かと尋ねられましたので、えっと……」
女性がユウキに視線を向けた。
「ユウキです」
「失礼致しました。ユウキ様の物とお答えしましたところ、何やら思案された後、貰っていくと仰っていました」
「返してもらわないと……」
「ツヴァイか。ありがとう、尋ねてみるわ」
アインズが礼を言って元来た方へ戻りだした。
ユウキもそれに倣い、女性に軽く頭を下げてアインズの背中を追った。
「あの。ツヴァイって方はなんであの首飾りを?」
再び廊下を進みながら、ユウキが訊いた。
「どういう目的かは分からないわね。ただ……」
「……?」
「ツヴァイはユウキ君にとって、ちょっと厄介かもね」
「厄介?」
「ええ。何て言うのかしらね……。私も君には話しにくいけど、クライヤマに対する疑念を持っている人も、少なからず居るの」
「疑念……?」
「……着いたわ。ここがツヴァイの部屋よ。疑念については、まあ話してみましょうか」
ユウキの心にもやがかかったまま、目的の人物、ツヴァイが居るという部屋へ。
アインズは一度深呼吸し、扉をノックした。
周辺を観察していたユウキは、今から入ろうとする部屋の入り口に
「第二部隊長ツヴァイ」
との表記を見つけた。
「アインズよ」
「ああ、入れ」
中から男性の声で返事が聞こえた。知的な印象の声色をしていた。
だがその一方で、アインズの声とは裏腹に、若干の冷たさを感じさせる。
ユウキは少し、不安な気持ちになった。