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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第三章:乖離
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3-8.ならず者の集まり

桜華の復讐物語 開幕

 ──七年前のウルスリーヴル国


「はあっ、はあっ」


草木も眠る丑三つ時。

ウルスリーヴルの下町を駆ける人影が、ひとつ。


しかしそれは、幽霊や妖怪などといった存在ではなく、

れっきとした人間の男児である。


黒い風呂敷を外套(がいとう)の代わりにし、

顔が見えぬように隠しながら走る。


「待て! 待たんか!」


彼を追うは、提灯を持った大人の男、三名である。


相手が子供であるのは三人とも承知しているが、

その利き手には短刀を握っている。


「はあっ、はあっ、くそ、しつこいな!」


少年が背負う籠には、防人の駐屯所から

盗んで来た十本程度の真剣が在る。


体力と走力に自信があったが故に、

本窃盗の実行者として立候補したわけであるが、

予想以上の重量に苦戦を強いられていた。


「待てと言ったら待て!」


「はあっ、はあっ、げ! もうこんなに!」


思っていたより距離を詰められていた。

もう五十メートル程だろう。

焦燥は彼の息を更に荒くする。


「ひいっ、だ、誰か助け──ぐわぁっ?!」


背後を警戒しながら走っていた少年は、

足下の石に気付かず、顔面から見事に転倒してしまう。


無論、籠の中身は前方へ飛び散る。


「や、やば……」


任務に失敗する。それだけなら良い。


追ってくる防人に捕まれば、

どんな刑を受けるか分かったものではない。


「あ〜あ、こんなに沢山ぶちまけちゃって」


「……え?」


半べそをかいていた少年に、何者かが手を差し伸べた。

聞こえたのは、言葉のわりに柔らかい女性の声である。


少年と同じく黒い風呂敷を外套にしていて、

更に頭巾のようにして深く被っている。


その手を借りて立ち上がると、彼女は真剣を拾い籠に戻した。


「ほら、早く行きな」


「えっと、貴女は……」


「いいから、早くアジトに!」


少し声を荒らげて、左腰に携えた刀を抜かんとする。

チラッと見えた(つば)は、とぐろを巻いた黄金の蛇を模していた。


「お手数をお掛けします!」


「はいはい」


それを見て、やっと彼女が何者なのかを察した少年は、

籠を背負い直して再び走り出す。


「やれやれ、手のかかるお使いだなぁ」


「お嬢ちゃん、こんな時間に何を?」


少年を追ってきた三人は、彼女を前にして停止。

その言葉の真意は心配ではない。

同じ様な外套を見れば、盗人の仲間であろう事はすぐに分かる。


「おじさん達こそ、どうしたの?」


「盗人の小僧を追っているんだ。見なかったか?」


「さぁ」


「……君は、小僧の仲間かな?」


「教えな〜い」


「答えなさい。君は、大蛇(オロチ)の一員か?」


ウルスリーヴル南側を縄張りとする、ならず者の集まり。


それが、大蛇である。ある事件をきっかけに、

その被害者が集まる形で規模を増している。


「知〜らない」


「このっ!」


真ん中に立っていた男がしびれを切らし、短剣を振り上げた。


それに呼応し、少女は柄を握る。


「今日こそ斬ってやるぞ!」


「……っ!」


刃が振り下ろされる。


「遅いよ!」


自身へ迫る刃を見切り、彼女は刀を鞘から抜いた。


「なにっ⁈」


短刀は容易く受け流され──


「ぐああっ!」


──男の胸に斬り傷が付いた。


彼は痛みに悶えながら地に倒れる。

傷口を抑え、流れる血を見て更に喚く。


一人が彼を介抱し、もう一人は少女へ。


「ええい小娘! よくも──」


「……まだ、やる?」


いつ体勢を立て直したのか。いつ動いたのか。


彼には全く理解できなかったが、しかし実際のところ、

少女の持つ刀の刃が自身の喉元まで迫っていた。


「う……」


「せっかくだから覚えといて」


「……?」


「余程の剣豪が必要だよ。この美少女剣士にして大蛇八幹部の一人──」


「……」


ごくり、と男は生唾を飲んだ。


「──桜華を斬りたければ、ね」


──クソ


──盗人


──小娘


そんな罵詈雑言を飛ばしながら、

三人の男たちは退いていった。


負傷者を連れて背を向ける三人など、

彼女がその気になれば始末できたわけだが


──ま、いっか


と、刀を鞘に納めた。


頭巾を取ると、綺麗な桃色の髪と透き通った紫色の瞳が露に。


「さてと、豆大福が残ってるんだった」


そう楽しげに語る彼女は、

ニコニコしながら拠点へと戻っていく。


その姿はさながら一般の少女のようであり、

どこか鬼のようでもあった。


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