3-6.零れ桜
緩く……非常に緩く、縛られたフリのまま、
三人はウルスリーヴル城の廊下を進む。
──障子!
──ふすま!
──畳!
──鴨居!
一応、連行中の身だが……ポリアはそれどころではない様子だ。
知識が有るからこそ、他人とは違った視線で物事を観察できる。
──知っているから違って見える、か
特別なことのように思えたが、思い返してみれば、
ユウキも最近その事を実体験していた。
「こちらです」
異様な丁寧さで黒衣の男性に誘導され、
曲がり角では逐一、会釈しながら進行方向を示してくれている。
おおよそ、彼女が言うような罪人に対する扱いではなかった。
「どこへ向かっているのかしら?」
先導する桃髪の女性にアインズが問う。
彼女は軽いスキップで進んでいたが、
その質問を聞いて後ろ歩きになった。
「不届き者を捕らえたって報告しに行くんだよ。不法入港は重罪だから、ねっ」
──ねっ、じゃないわよ。ねっ、じゃ
妙な天真爛漫さに、アインズの頬は小刻みに震える。
ユウキはそれを見て驚いた。
自身が知る中で、アインズが三番目に追い詰められていたからだ。
すなわちこの女性は、鎖の守護者カマイタチに次ぐ脅威であ──
「はい、到着っと」
「ここは……」
廊下を進んでたどり着いた最奥には、障子があった。
それまで見たものとは異なり、ここにもまた桜の模様が入っている。
特別な部屋の入口であろう事は、説明を受けずとも容易に理解できた。
「……?」
その障子を前に、桃髪の女性が正座をした。
「桜華で御座います」
少し声を張り、中に居る人物に聞こえるよう名乗った。
それは同時に、入室の許可を乞うものでもあった。
「桜華か。良いぞ、入り給え」
聞こえてきた返事は、可。
女性らしき声は柔らかくお淑やかで、
高貴な人物なのだろうと想像できる。
正座のまま障子を開き、ゆっくりと立ち上がった。
後に続く人物らが通れるよう、更に開いて部屋の中へと進む。
「あ……」
部屋の奥を見ると、おそらく先程の返事の主であろう人物が座している。
桜華の服装と似ているが、その豪華さには明確な差があった。
所々に黄金の装飾が存在し、火灯窓から差す陽の光を反射する。
「おやおや、何事じゃ?」
ゾロゾロと入室する六名を見るや、
徳利から盃へ酒を注いでいた手が止まった。
「はい、不法入港者を捕らえた次第でございます!」
「不法入港者……?」
「はい! 異国の騎士と、姫君です」
「妄想が過ぎるんじゃない?」
思わず声に出てしまったアインズだが、
しかし、彼女の言葉は桜華には届いていない。
「失礼ですが、そちらの金髪の方」
高貴な女性が、アインズに問いかける。
「はい?」
「ご出身とお名前を伺っても?」
「ブライトヒル王国より参りました、アインズと申しますが」
「……なるほど。すると、そちらはユウキ殿、ポリア殿でございましょう?」
「はい」
「ポリアです」
──いったい何だ?
微妙な空気が流れる。
手に持っていた徳利と盃を目の前の御膳に置き……
「……桜華よ、御主は」
「はいっ!」
「減給じゃ」
「はああ、なな、なんと勿体なき……え?」
「黒衣の者、もう良い。その縄を解け」
「はっ!」
「あああ、天舞音様⁈ げ、減給とは──」
うろたえる桜華に、天舞音は優しい顔のまま言った。
「ブライトヒル王国より、お客様がいらっしゃる。見かけた場合、妾の元へお連れするように」
「あ──」
「この言葉に聞き覚えはあるな?」
「……はい」
「そうじゃ。今朝、わざわざ従者を集めて全員に出した指示じゃ」
「……はい」
天舞音が言葉を重ねるたび、
桜華の目線と声のトーンが落ちてゆく。
己の犯した間違いに気付いたためである。
「桜華は寝坊でもしておったかえ?」
「……いえ」
全て思い出したと、そんな顔である。
爛漫な中にあった凛々しさは、これっぽっちも無くなった。
「であるが故に、減給と申したのじゃ」
「もも、申し──」
「謝意を向けるべきは、妾ではないぞ」
「はっ! 申し訳ございませんでしたっ!」
ユウキ、アインズ、ポリアに向かって大声で謝り始めた。
「面目無い! 面目無い〜!」
「え、えっと……」
そこまで謝られると、彼らも
どう言ったら良いのか分からなくなってしまう。
困惑する誰しもに、天舞音が冷静に語る。
「お客人、どうか部下の粗相をご容赦くださいな。腹の一つや二つ、斬ってご覧に入れますゆえ」
「天舞音様、私、お腹一つしかないです」
「お黙り!」
「はいゴメンなさいっ!」
──やれやれ
これにて、一件落着とは行かないが、
第一の厄介な出来事は無事? 解決したのであった。




