3-4.離れない記憶
──ハーフェン港
ニューラグーンを発って数日。
幾度かの野宿を経て、ユウキ、アインズ、
ポリアの三名はハーフェン港へ到着した。
朝と昼のちょうど中間くらいの時間である。
「やっと着いたわね」
「……もう、くたくたですよ」
「わ! 見てくださいあれ、あの建物!」
疲弊した二人に対し、ポリアは異文化に興味津々の様子である。
「うん、元気そうで何よりよ……」
「とりあえず、泊まれる場所ですかね」
「ええ。まずは……お風呂に入りたいわね」
「港街の機能を保持しつつ、ウルスリーヴルの文化が散りばめられてる! この光景はハーフェン港でなきゃ見られない貴重な──」
「……。どう? 今度こそ背中」
「早いとこ決めちゃいましょうか」
「私に対して塩になってきたわね……」
──フュンオラージュ川での悲劇
──早く忘れてくれ!
港から程近い場所にて、三人分の部屋を確保。
必要な荷物だけ馬車から下ろし、各部屋へと運び、
少し休憩の時間を設けた。
長旅で溜まった疲労を回復しようと、
アインズは湯を張った風呂に肩まで浸かって脚を伸ばした。
「ふう……」
思わずため息が漏れる。
馬車での寝泊まりは、彼女が思っていたよりも、
遥かに身体に悪いようであった。
腕や脚などに少し痛みが生じている。
筋肉が凝り固まっているためであろう。
これでは、次なる「鎖の守護者」との戦いが不利になりかねない。
湯に浸けたまま、よく揉みほぐす。
「そう言えば昔、よくお母さんにこうして貰ってたっけ」
脳裏に記憶が蘇ってきた。
──お母さん、脚が痛いよう
──あら。たくさん外で走ったからかしらね
──うう……
──大丈夫よ。こうして、お風呂で温めながら
母親がやってくれたように、大きくなった自身の脚をほぐす。
「お母さん……あ母さんね……」
大切な人の命を守りたいと騎士になったアインズ。
家族だったり、友人だったり。
しかしその為には、見知らぬ人の命を奪う必要があった。
バケモノが出現したのは、つい最近の出来事であり、
彼女が王国騎士団の一員になった頃はまだ人間が敵であった。
そこへ、自身の希望による行動と、
母親の言い付けの矛盾が押し寄せたのである。
──いい? アインズ
──命は皆、等しく尊いものなのよ
「……っ!」
ふと記憶がフラッシュバックし、瞬間だけ頭痛がした。
──そんな、そんな!
──お父さん! 嫌だよ!
尻もちを着き涙目になった自身の前に横たわる遺体。
──ごめん……なさい……ごめんなさい……
血の海を前に立ち尽くす自分を、震えながら見上げる母親の姿。
「思い出したって、何にもならないのに……」
数秒ほど目を瞑り、深呼吸を一つ。
「……そろそろ出ないとね」
ザバンと湯を波立たせながら立ち上がり、
掛けておいたタオルで髪を濡らす水を拭き取る。
右足から浴槽を後にし、身体もしっかりと乾燥させる。
普段は風になびく金髪も、今は重く垂れている。
私服に着替えて髪や頭皮を乾かし、
二時間後に集合する事になっていた宿のロビーへ。
「ポリア、アインズさん来たよ」
「は〜い」
「あら、早かったのね。お待たせ」
「いえ! 建築様式を見学できたので良かったです!」
「そ、そう……」
「まずは入港の手続き、ですよね」
「そうなるわね」
手続きが出来る役所の様な施設は、
宿から徒歩で十五分程の所にある。
そこへ向け、三人が歩きだす。
宿の玄関扉を開くと、太陽光と共に、
磯の匂いが混じる海風が吹いた。
金髪は美しくなびく。
「さあ、行くわよ」




