2-33.夢へ向かって
──ポリア宅前
二人の旅に同行したいと言う少女、ポリアの自宅へ。
馬車を停めて馬を落ち着かせ、玄関扉をノックする。
「ああ、ユウキさん。ごめんなさいね、あの娘ってば荷物が多くて」
「荷物?」
「い、今、行きます……っ!」
廊下の奥から聞こえてきた声に気付き、様子を伺う。
「ほんとだ、凄い荷物……」
大きな鞄を背負い、それに加え、大きな風呂敷包みを両手で運んでいる。
──鈍器か何か?
「なるべく身軽で行きなさいとは言ったんですけど、文化系の本と帳面を沢山持っていくんだって聞かなくて」
「なるほど……」
「ふふっ、勉強熱心で良いじゃないですか」
いつの間にかユウキの背後にいたアインズが感心した。
かく言うユウキも、その勤勉さには恐れ入っていた。
クライヤマにも一定の教育は存在したが、彼はあまり得意としていなかった。
「持つよ」
「す、すみません、ありがとうございます」
ポリアから風呂敷包みを受け取り──
「重っ!」
これを持って自室から降りてきた事に、少し敬意を表した。
先程貰ったニューラグーンの座席車まで運び、
戸を開けて待機していたアインズに引き渡す。
アインズが持ちやすいように、結び目を差し出す。
「重いですよ」
「ええ」
荷物を受け取ったアインズは、右手で結び目を持って左側の座席に乗せた。
──か、片手⁈
「そっちも乗せちゃいましょうか」
ポリアが背負っている鞄も、かなりの重量に見える。
そんな物を持っていては別れの挨拶に集中できまいと、
アインズが気を利かせた。
「では、お願いします」
「うん、覚悟は出来た!」
少女から鞄を受け取った。
地につけて汚してしまわぬよう、
少年もまた気を遣って必死に持ち上げる。
それを、先程と同様にしてアインズへ渡す。
「一応、重いですからね」
「ええ」
彼女はまた右手で受け取り、座席へ。
──片手!
「これで全部かしら?」
「はい、ありがとうございます!」
ユウキらに礼を言い、母親の方へ振り返った。
両名とも寂しげな表情を浮かべている。
「じゃあ、行ってくるね」
「ええ。行ってらっしゃい、ポリア」
アインズが母親に一礼し、馬の手綱を握った。
寂寞と興奮が入り乱れたまま、ポリアはニューラグーンの座席車へ。
戸を閉めた後も、繰り返し母親に手を振っている。
「では、出発しますね」
「ええ。くどいようですが、娘を頼みます」
どうしてポリアの母親は、ここまで自分らを信頼するのだろうか。
ふと疑問に感じたユウキ。
それを察してか、母親は少年に小さな声で言った。
「ポリアは、クライヤマの事を勉強して、皆が間違っているのだと私や父に力説してくれたんです」
「……そうだったんですね」
「それにあの娘、あなたを見て嬉しそうにしていました。ふふっ。普段は大人しいポリアが、あんなに興奮して何かを話すなんて」
そう語る母親の表情は、寂しさよりも嬉しさが勝っているように見える。
一人娘が長期の旅に出ることは、無論、寂しい上に心配だろう。
しかしポリアの両親は、彼女のあまりの熱心さに心打たれ、
迷いを払拭して此度の了承に至った。
——中等学校が終ったら進学するものだ
——みんな同じ決められた事を勉強するんだ
——世論がそうなら妄信的に主張するんだ
そう言った数々の拘束を破壊して見せたポリアが、
遂に己の殻さえも壊して旅に出たいと申し出た。
その成長が、彼女らにとっては何よりも嬉しかったのだ。
「……じゃあ、そろそろ。必ず、無事で返しますから」
「ええ。よろしくお願いします」
ユウキも馬車へ。
ブライトヒルの紋章が入った座席車に乗り込んだ。
ゆっくりと動き出し、次第に距離が大きくなっていく。
少女はまだ、手を振り続けていた。
「家族……親……か」
微笑ましい親子の姿を見て、ユウキは呟いた。
彼の言葉を聞いてか、
手綱を握るアインズの手には強い力が込められていた——。
第二章 破壊 完




