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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第二章:破壊
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2-23.鏡写しの少女

──ニューラグーン国城下街、中等学校


「……と言う事だから、因数分解が出来ない時は、この解の公式を使って──」


昼休みが終わり、午後の授業が始まった。

事前学習と演習を済ませていた少女──ポリアにとって、恐ろしく退屈な時間が始まる。


教師の話をリソースの半分程度で聞きながら、彼女は、昨日目撃した人物に想いを馳せていた。


田舎町に相応しくない、豪華絢爛な馬車。

それから降車した、クライヤマの衣服を纏った男性である。


──どうして、この街に?


もしかしたら、気のせいかもしれない。

そう自分を疑いながら、脳内に定着する記憶たちに問い掛けた。


クライヤマ以外の文化にも関心があった彼女は、世界各国の書物を収取した。

簡潔ではあるものの、様々な民族衣装についての記述や、絵なんかも見てきた。


その中で、クライヤマのそれと似た衣装は存在したか。


「ポリアさん」


──ううん、やっぱり無いよ


「ポリアさん」


──クライヤマの特徴はクライヤマにしか無いよね


「ポリアさん!」


「え、は、はいっ!」


リソースはすっかり考え事に割かれていた。

運の悪い事に、数学の問題に答えるよう、指名されていたようである。


少女は立ち上がって前を見る。


「この問題の答えは?」


黒板に大きく書かれた二次方程式を、教師はチョークでコンコンと叩く。


「えっと……」


経緯は聴き逃していたが、その問題には見覚えがあった。

何日か前に解いたような気がした為、帳面のページを遡る。


──これだ


案の定、式から解までが自分の筆跡で記されていた。


「マイナス三 プラスマイナス ルート六です」


「はい、正解です。授業はしっかり聞いて下さいね」


「はい、ごめんなさい」


ポリアが着席すると、授業が再開された。

もう聞き逃さぬよう、クライヤマに関する思案を出来るだけ抑える。


──間違い、無いよね?


いくら思い出そうとしても、やはり似た衣装には心当たりが無かった。


──仮にそうとして、なんでこの国に?


東側の窓からは、未だ見慣れない巨大な鎖が確認できる。


──世論の通り、クライヤマが悪だとしたら?


──どうして、ブライトヒルの騎士さんと一緒にここへ来たの?


──クライヤマに侵略の意図があって、ブライトヒルと協力関係にあるなら、二人しか来てないのはおかしくない?


ニューラグーン国は、ブライトヒル王国に比べれば、かなりの小国である。

ブライトヒルが悪意を持って信頼を裏切れば、簡単に滅ぼされるであろう。


ニューラグーンが歯向かったとて、勝ち目がないのは明らかだ。

すなわち、二国の信頼関係にはバランスなど無く、比重はほぼブライトヒルに偏っている。


──という事は、ブライトヒルも人員を割けない状況ってことでしょ?


それすなわち、バケモノから本国を護る事は、

ブライトヒルにとっても必須事項であると言う事になる。


周辺諸国の中では最もクライヤマから近いブライトヒル。

そこがバケモノに落とされれば、陥落がほぼ不可能なバケモノ達の砦が完成する。


──だからこそ、人員を大きく減らすことは出来なかった


──逆に、そんな状況なのに一人使ってまで、クライヤマの人をニューラグーンに送ったのは?


──どうして?


「せんせー!」


一人の男子生徒が、教師の話を遮る。

挙手をしており、決して授業妨害を試みている様子ではない。


「はい、どうしましたか?」


「この公式は、因数分解できるけど、凄く面倒な場合にも使えるんですか?」


数秒おいて、教師が彼に向かって応えた。


「使えますよ。解決策が出ない時は、多少の時間を割いてでも、公式に賭けてみてもいいかもしれないですね」


──っ!


──そっか、そう言う事だ!


今しがた思い浮かんだ考察を、帳面の最後のページに書き留める。

またもや、脳のリソースを全て持っていかれていた。


──バケモノに対する解決策は見出されてない


──そこに、クライヤマの人が無実を主張して現れたら?


──その人が、この状況を打破できる策を考えていたら?


──見えない「解」を示したのだとしたら?


──騎士を一人遣わす価値があると判断されても、おかしくないよね


考察が盛り上がり、傍から見れば勉学に必死な学生の様相であった。


……つまり、と。


ポリアは己の結論を導く。


──ブライトヒルの王様はあの人に賭けたんだ


──あの人に、打開の可能性を見出したんだ!


満足できる推論が立ったポリアは


──やっぱりね


と、自分の気持ちが間違っていなかった事に安堵した。


クライヤマは、巫女は、世界に対する悪意など持っていないと。


持っているはずがないと。


内心で興奮していた彼女は、自身もまた、

推論を真実かのように語っている事になど気付いていなかったのである──。


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