2-22.潰える束縛
──効いたかな?
自身の身体に太陽の力が入り込んできたカマイタチは、悲鳴とともに、堪らず実体を顕にした。
それも──厄介なユウキに顔を向けて、である。
「終わりだよ、カマイタチ」
「ブリッツ・ピアス!」
ユウキはこの攻撃の前、アインズに背を向けて走った。
そこから更に走り、カマイタチを超えて振り返った。
その少年に向かって顕現した敵は無論、冷静さを欠いた状態でアインズに背を向けた事になる。
《グ?!》
尻尾による迎撃も虚しく、彼女の突きが腰まで貫く。
──足が崩れた、今しか無い!
到来した最大のチャンスを捉え、少年の剣は再び炎を帯びる。
「サン・フラメン!」
《──日の巫女の、力……》
顔面に大形な傷を負い、喉を焼かれたカマイタチは、不協和音にて言葉を放つ。
《放っては──》
「とどめ!」
動きが鈍った敵の右側にまわりこみ、剣を縦に振り上げ——
その時の獣の眼差しは怨嗟の様であり、畏怖の様でもあった。
──硬い皮膚を切り裂いて首を落とした。
「やったわね」
「ええ、これで一息──」
「……つけないみたいね!」
何かの音が聞こえて背後を観察したアインズは、先程自分らが登ってきた階段が崩れていくのを発見した。
磨かれた綺麗なタイルが、まるで嘘であるかのように砂となって落ちていく。
神殿の下が何なのかは不明だが、地面が見えない以上、落ちていい場所でないのは明らかだ。
「ユウキ君、掴まって!」
「はい!」
──ああ、またアレか!
鎖に急接近する為にとった手法、ブリッツ・ピアスを利用した亜光速移動である。
カマイタチと戦った踊り場を抜け、次の階層に続く階段へ。
「危なかったわね」
「うわぁ……」
未知なる敵と戦った大舞台は、妖しく明滅する砂となり奈落へと消えた。
崩落を眺めながら、瞬きを一つ。
「……あら?」
「戻って来た……?」
次に目を開けた時、ユウキとアインズは平野に立っていた。
鎖を破壊する為にやって来た、ニューラグーン国近郊に広がる緑の大地である。
太陽は、真南から少し西に傾いている。
「そうだ、鎖は⁈」
感嘆している場合ではない。
主目的であるそれの様子を見る。
「さっきとは、まるで様子が違うわね?」
放たれていた夜空の様な輝きは無く、ただ青白い鉱物が設置されているのみ。
「そっか、鎖の守護者を倒したから」
「なるほど、ね……っ!」
脚に括った短剣を抜き、再度、破壊を試みるも、やはりアインズの攻撃は通らない。
「確か、月長石って言ってましたよね」
「ええ」
カマイタチは言った。
《月長石を如何と知り触れた?》
日長石と相対する名前の石である事から、少々安直であると思いつつ、少年の中で仮説がたった。
「僕なら、壊せるかも」
アインズが一歩下がったのを確認し、少年が再び剣を構える。
「サン・フラメン!」
炎を帯びた剣を、月長石めがけて振り下ろした。
──いける!
攻撃を受けた石は、みるみるヒビ割れていく。
大木の枝のように多方面に別れ、やがて、一周したヒビが裏側で邂逅する。
──ピシッとガラスの破壊音に酷似した音が聞こえ、月長石は見事に砕け散った。
「やった!」
「やるじゃない」
月長石が割れると、呼応して鎖が朽ち始めた。
かの神殿と同じように砂となり、太陽光を受けて煌めきながら風に乗って散っていく。
「……確信しました」
「……」
「これは、僕の使命だ」
「繋がったわね……命が」
「リオの命を──意志を、僕が継げるって事ですね」
「……」
自身の言った意図とは異なる解釈の返答であったが、
──まぁ、いいわ
と、明るい空を眺める。
月長石のあった場所を起点に、鎖が次々と崩壊していく。
やがて月表面まで達し、これにて鎖が一本、破壊された。
──やったよ、リオ
日長石を手に持ち、陽光にかざす。
彼女がよくやっていた動作をなぞり、その輝きを観察する。
「あれ……?」
ふと、手触りに違和感を覚えた。
「どうかしたの?」
「あ、いえ……」
──ずっと剣を握ってたから、感覚がおかしくなったんだな
少し……ほんの少し、石が小さい気がした。




