2-20.視野の狭窄
「──そこ!」
敵はアインズの背後に。
爪を振り上げ牙をむき、彼女への攻撃に神経を向けている。
ならば、と。
少年から攻撃を仕掛けた。
《ギググッ!》
──かすった!
首元を狙った縦切りが、ほんの少し皮膚を掠めた。
しかし追撃は叶わず、カマイタチは一歩退く。
「大丈夫ですか、アインズさん」
「ええ……ユウキ君? どこに居るの?」
「え……? アインズさんのすぐ右に居ますよ」
「……? あら、本当だわ……」
完全にユウキと向き合って始めて存在に気付いた様子のアインズ。
彼はその様子にも違和感を覚えた。
「……」
不意に、ワンステップ踏んでアインズの横に動いた。
「ユウキ君……?」
──やっぱり、見失ってる
「もしかして、視野が狭く?」
「視野……? あれ、確かに言われてみれば──」
《グギャァァァ!》
「くそ、サン・フラメン!」
アインズを襲った状態異常について話す暇もなく、カマイタチが攻撃を仕掛ける。
五本の長い爪を用いて、槍のように突き刺してくる。
アインズから見て左側へ来た攻撃だが、やはり彼女には見えていない。
「うおおおおお!」
《ググ!》
その攻撃に合わせてサン・フラメンを発動し、爪を薙ぎ払う。
炎を纏った剣は簡単に爪を破壊。
「そっちね! ブリッツ・ピアス!」
視野狭窄という状態異常を受けた彼女だが、
敵が正面に居ればなんら問題なくブリッツ・ピアスを使える。
今回は、ユウキの攻撃によって怯んでいる。
これならば──
「なっ⁈」
「風⁈」
──それでも突きは当たらず、カマイタチは風となって実体を消した。
やがて敵は暴風となり、ユウキに襲いかかる。
「ううっ⁈」
「ユ、ユウキ君!」
つむじ風の如く渦を巻き、それが少年を包む。
《グギャギャギャギャ!》
笑い声ともとれる奇声を上げる。
つむじ風が複数個に分身し、それぞれが小型のカマイタチとなり、回転刃のようにアインズへ襲いかかる。
「くっ、近付けない……!」
「ぐわぁ⁈」
ユウキを包んでいたつむじ風は突如として解散。
その際に弾けるように散ったため、彼はあらゆる方向へ張力を受けた。
風は流れ、小さなカマイタチが集まって再び実体化。獣が姿を現した。
「無事?」
「はい、なんとか……」
──ひょっとして、マズいかも?
今の一撃で致命傷になる大ダメージを負った訳ではない。
しかし、対峙するは普通のバケモノとは一線を画する存在。
ブライトヒルに出た氷纏いのバケモノにユウキが勝てたのは、
覚醒した太陽の力と偶然相性が良かったからに過ぎない。
──くそ、どうすれば……
勝ち筋が見えないことほど、絶望的なことは無い。
相手は風に姿を変えて一方的に攻撃できる。
実体が消える以上、ユウキらにカマイタチを攻撃する手段は無い。
《グギャギャギャア‼》
「うっ‼」
爪による急襲。
とっさに回避行動をとることはかなわず、剣を横にして頭上からの攻撃を受けとめた。
しかし、巨体から受ける振り下ろし力は大きく、ユウキはあっという間に押し込まれていく。
「隙あり!」
このピンチをチャンスと捉え、アインズがカマイタチの脇腹を狙う。
その足で確実に走り込み、斬り上げ攻撃を見舞う。
視野を絞られている以上、自身の得意技である亜光速の突きは盲点を増やすため逆効果。
速度が得られずとも、確実に相手を捉え、動き方を伺える方法を選んだのだ。
《ギャググギガ!》
作戦は巧いこと機能し、カマイタチは大きく怯む。
しかしやはり、致命傷を与えるには至っていない。
「結構硬い皮膚をしてるのね」
「そうなんですよね……」
アインズの斬った部分には、細かい切り傷が付いているのみであった。
「あれ……?」
何か攻撃手段はないか。そう探っていた彼女は、ふとカマイタチの手を見る。
右手には鋭い爪が指の数だけ備わっているが、左手は違った。
先ほどユウキが行った爪攻撃の迎撃——サン・フラメンによって、そちらの爪が大きく欠損していたのだ。
——なるほどね




