2-19.鎖の守護者・カマイタチ
「動物……? イタチですよね、これ」
「私の知ってるイタチは、こんなに禍々しいオーラをまとってないわよ」
「で、ですよね……」
恐怖とはまた違った感覚を覚えさせる。
二人を強く睨む存在に、どうしても後退りたくなる。
言うなれば、圧迫感である。
《何をしにここへ来た?》
「えっ⁈」
「……最近の獣は喋るのね」
突如、二人の脳内に声が響いた。
男声と女声が重なって同時に同じ言葉を放つ。
不協和音のようであり、聞くだけで不愉快な音色であった。
《何をしにここへ来た?》
「ここは何なんだ?」
《何をしにここへ来た?》
「しつこいな……。なんか知らないけど、ここで目覚めたんだよ」
《月長石を如何と知り触れた?》
「月長石……?」
《月長石を如何と知り触れた?》
「もしかして、あの奇妙な石のことかしら」
不安になった少年は、己の首にかかる日長石に触れた。
奪われてはおらず、無事にかかっていた。
《月長石を如何と知り触れた?》
「その月長石とやらを壊せば、鎖を何とか出来るんじゃないかと思って触れたのよ。悪い?」
《悪しき》
「……かわいくない獣」
《──排除》
「排除だって……?」
《余は鎖の守護者カマイタチ。「鎖の破壊を目論みし者」を排除する》
カマイタチと名乗った獣は、丸めていた体を伸ばし、四足歩行になった。
爪は異様に鋭く、立っているユウキと目線の高さが揃う。
身体は全体的に黒く、部分的に赤い斑点が見られる。
──特異なバケモノを観察していた、その刹那
《キィィィィィィィィィィィィィッ!》
先ほどまでの知性が消え去ったかのような爆音でもって空間を震わせる。
「うわっ⁈」
「う、うるさいわね、いきなり!」
不協和音とは異なり、今度の咆哮は明らかに獣の喉から鳴っていた。
精神的にでは無く、物理的に耳を劈く高音だ。
「悪いけど、鎖の守護者だって言うなら容赦しないわよ。ブリッツ・ピアス!」
獣の顔面に目掛けて突きを繰り出す。しかし彼女の攻撃は空を突いた。
「速い? どこに──」
「アインズさん! すぐ左に!」
「え……?」
ユウキの言葉に従って目線を左へ向けると──
《シャァァァァァァッ!》
威嚇をしながら爪を振り上げるカマイタチの姿が見えた。
「ブリッツ──い、居ない⁈」
「右です!」
──おかしい
カマイタチとアインズの攻防を観ていたユウキは、大きな違和感を覚えていた。
──僕でも追えるような敵を、アインズさんが見失うはずない
力を覚醒させ装備を身につけているとは言え、ユウキはただの少年だ。
そんな彼が捉えられる動きを、ブライトヒル王国騎士団第一部隊長アインズが捉えられないなどと言う現象は、普通に考えたら起こりえない。
「これは厄介ね……っ!」
自分の攻撃が当たらない事を理解し、次は左に来ると勘を頼りに剣を振るう。
無論、再び空を斬る。




