2-18.真白な神殿
──見知らぬ場所
「んん……?」
目を覚ましたアインズは、自分の身体が冷たい床にうつ伏せになっている事に気付いた。
「なに、ここ……?」
立ち上がり周辺を観察する。
身体に痛みは無く、倒れていたのはダメージを負ったからではないと悟る。
「たしか、鎖を壊そうとして……」
直前の記憶である、あの石が脳裏を過ぎる。
「そっか。私たち、あれに吸われて──」
直感的に言った「私たち」という表現により、自分には連れが居たはずであると思い出した。
鎖の破壊を目的としてブライトヒルから旅立った、クライヤマ出身の少年である。
「ユウキ君? 居たら返事をちょうだい!」
彼を探しに、再度周辺をよく見る。前方に姿は無い。では背後かと、振り返る。
一つ一つが極相林の大樹に匹敵する大きさの柱が、一定間隔で横に並んでいた。
「ユウキ君!」
その内の一本、アインズから見て右の方の柱に、背中からもたれかかった彼を発見した。
「ユウキ君、起きてユウキ君!」
膝立ちになり、少年の肩に手を置いて何度も呼びかける。
「うぅ……」
その甲斐あって、彼は無事に意識を取り戻した。
アインズは、安堵のため息をひとつ。
「アインズさん……? ここは? 鎖は、どうなりました?」
「それが分からないのよ。私も、今さっきここで目覚めたの。……この場所、見覚えはある?」
「いいえ、全く無いです」
「そう……。立てる?」
起立の可否を問いながら、左手を差し出す。
「はい。ありがとうございます」
少年はその手を頼りに立ち上がった。
彼もまた、周辺をキョロキョロと見回す。
「とにかく、外に出てみましょう」
「そうですね」
柱の間を抜け、明るい方へと進む。内装自体は豪華なのだが、装飾などは全く無い。
シンプルが一番良いと言う感覚が存在するとはいえ、これはシンプル過ぎて好感を持てない様相である。
全体的に白を基調としていて、それも殺風景さに一役買っている。
床は鏡面のように磨いてあり、歩みを進める自分の姿がよく見えた。
「外よ」
様々な場所を旅していたユウキの視線が、アインズの言葉で前を向いた。
「なんだ……これ……?」
目の前の景色は、まさに異次元のようであった。
内装と同じく白を基調とした巨大な神殿が建っている。
二人が立っているのは、そのほんの一部に過ぎない。
構造自体は単純で、一番大きな建物が最上層にある。
そこへ向かうように伸びた長い長い階段、複数の踊り場と、その踊り場から左右に伸びた道の先に小さな建物──塔が立っている。
小さいと言っても、人間のモノサシで測るには巨大であり、先程の柱が一つのパーツに過ぎないくらいだ。
「凄いわね……?」
「なんなんでしょう、ここ」
「さあ、ね」
未だ状況が掴めず、また周辺を見る。
今二人が立っているのが、この巨大な建築物の最下層であるようだ。
「あれって、月……よね?」
「月?」
彼女が指さすは、階段を登った先の更にその奥。
空に座する赤黒い天体である。
「月……なんですかね」
彼らの知る月とは違った。月蝕によって赤黒く見える事があるのは既知だが、問題はその大きさであった。それこそ、クライヤマで見た近さと同等であろう。
「それにしては、奇妙ね。怖いとすら感じるわ」
「確かに……。普通じゃないですね」
見える月の外周がボヤけていて、そこから全方向に夜空が流れ出ているように見える。動きはゆっくりだが、確実に広がっていた。
「とりあえず、ここを出ないと」
「ええ、そうね」
見たところ、これ以上、下へ続く道は無い。上へと進むほかないようである。
「段多いな……」
既に百段程は登っただろうか。
しかし上を見ると、最寄りの踊り場までは残り半分と言ったところ。
着慣れない鎧を装備したまま登るのは、少年にはかなりの負荷である。
「おんぶしてあげましょうか?」
「……いや、結構です」
かと言って、その提案は少年のプライドが承認しないようだ。
それから五分ほど、黙々と登り続けた。
遂に最後の一段を上がり、踊り場の床を踏むに至った。
「ふう」
「……はぁ、終わったー!」
「って言うのがあと四回分あるわね」
「終わりました、色んな意味で」
特に何も無いと思われていた踊り場だったが、近くで見ると、装飾のない腰ほどの高さの台座が置かれてあった。周辺と同じく真っ白であるため、遠くからの視認は困難だったようである。
「アインズさん、あれ、さっきの石じゃないですか?」
その台座上に例の不気味な存在を再発見した。
「本当ね……」
──一歩
──また、一歩
ゆっくりとソレへ歩み寄る。そんな二人を、突如として暴風が襲った。
「な、なに?!」
少年は腕で顔を守った。目に何か入ると厄介だからな、と。
立っていられるのが不思議な程の風で、大嵐かと錯覚する。
数秒ほど吹かれ、やっと静かになる。
なんとなく前を見るのが怖く感じられ、恐る恐る瞼を開く。
「……いったい、今度は何?」
先程まで台座が置かれていた場所に、大きな獣が居座っていた。




