2-16.凝縮した夜空
「さあ、着いたわよ」
「うう……死ぬかと思った……」
至近距離で見る鎖は、さらに巨大だ。
一つ一つのパーツがユウキの倍以上の大きさを誇る。
地に刺さる部分は剣のようになっていて、いったいどれ程の深さまで地を抉っているのかは、安易な推測を許さない。
「えっと……」
──こんなデカいの、どうやって……
現状、このあまりにも巨大な鎖を破壊する方法は全く思い付かずにいた。
「大砲でも一門借りてくるべきだったかしら」
アインズの言葉は誇張などではなく、むしろ、この巨大な構造物を破壊するに際しては、現実的に手段になり得る。
「仕方ない……一か八かね」
数歩下がった彼女は、鎖に向けて亜光速の突き攻撃を繰り出した。
が、二人の聴覚を刺激したのはやはり、剣が弾かれる音であった。
「ダメね。君の力はどう?」
「やってみます」
こうしている間にも、四班のメンバーが命を懸けて戦っている。
いくら強い騎士であるとは言え、その正体は人間である。
体力が無尽蔵に湧いて出るわけではない。
なるべく早い解決が望まれる。
──また力を貸してね、リオ!
少年は日長石に祈り、剣を構える。
深呼吸をし、目を見開いた。
「サン・フラメン!」
唱えると、彼の持つ剣の刃が炎を纏った。
猛然としていて、同時に優しい暖かさを持った炎である。
少年はそれを振りかざし、師の教えに背いて全力で叩き付けた。
「うっ! 硬いっ!」
それでも、結果は同じであった。
どうやら人間の攻撃ごときで壊せる存在ではないようだ。
無論それは、ユウキもアインズも、見た時から分かっていたわけだが。
「……掘るしかない?」
「これだけの土を、ですか……?」
ここに刺さっている鎖を支えているのは土だ。
やろうと思えば掘り起こせるはずだが、月を固定するほどの強度である以上、想像を絶する深さであることは間違いない。
「どうしたら……」
「少し観察してみましょうか」
無理やり破壊するのは困難との結論に至ったアインズが、武器を腰に戻して鎖をよく調べ始めた。少年も彼女に倣い、しゃがんで鎖の根本付近を注視する。
──ん?
冷静に調べると、異変は簡単に見つかった。
「アインズさん、これ何でしょう?」
「どれ?」
「ここ、なんか隙間ありません?」
巨大な鎖と地面に刺さる剣のような構造との境目。
剣でいうガードの部分に当たる位置を、ぐるっと一周囲うパーツ。
奇妙な模様が刻まれた、縦五十センチ程の部品である。
そこに、ユウキが隙間を発見したと言う。
報告を受けたアインズは、彼が調べていた方に回って確認する。
「あら、本当ね」
彼女の小指がギリギリ入らない程度の隙間が見られる。
「剣なら入りそうね」
「確かに」
携えた剣を抜き、隙間に当ててみるアインズ。
「うん、いけそう」
自身の計画が実現できそうだと判断した彼女は、切っ先を地面に向け、ガードを横から無理やり隙間にねじ込んだ。
「どうするんです?」
「ちょっと離れてて。私の蹴りがご褒美だって言うなら、そこに居ても良いわよ」
「えっ⁈」
数歩下がったアインズ。
それを見て急いで離れるユウキ。
助走をつけ走り込む。
恐ろしく綺麗なフォームの飛び蹴りがかまされ、
それをくらった剣が鎖の部品に衝撃を伝える。
見事、部品は力を受けて歪んだ。
「やったわね」
「ワイルド過ぎる……」
「何か?」
「いえ! 非常に可憐な蹴りだったと思います!」
「よろしい」
剣を拾い上げ、鎖の様子を伺う。
「もう少しですね」
「ええ。ユウキ君、そっちは頼むわ」
「了解」
広がった隙間に再び剣を差し込み、押し込む。
ユウキはアインズと逆方向に同じ事をする。
「同時に押しましょうか」
「そうですね。タイミングは任せます」
「了解よ。せーのっ!」
少しばかり歪みが広がった。
「もう一回よ、せーのっ!」
バキッ! と、歪みが限界を迎えた部品が半分に割れて地面へ落ちた。
が、安堵や達成感を味わう前に、二人はソレを見てしまった。
「……なに、これ?」
「なんだか、吸い込まれそうですね」
そこにあったのは、拳大の石だ。
本体は青白く、不規則な形をしている。
輝きはこの世のモノとは思えず、ユウキはそれを満足に表現する言葉を知らなかった。
強いて言葉にするのなら──夜空を凝縮した様、となる。
光を放っているにも関わらず、明るさよりも暗さの方が目立つ。
そんな、摩訶不思議な石である。
「もしかして、これを破壊すれば……?」
「かもしれないわね」
アインズは脚に括られた短剣を抜き、逆手に持って不気味な石を突いた。
──その刹那
周辺数メートルに渡って景色が歪み、まるで渦のようになる。
範囲内の全てが石に吸い込まれるようであり、近くに居た二人も例外では無かった。
「なな、なんだ⁈」
「す、吸われるわ……っ!」
「アインズさん!」
段々と聞こえる音が遠のく。
終いには景色そのものも暗くなり、二人はまるで存在しなかったかのように吸い込まれてしまった──。




