2-15.至大な鎖へ
軽い交流を済ませた四班のメンバーとユウキら。
三台の馬車に分かれ、鎖の刺さった場所へ向かう。
うち一台は、他とは違う国の紋章と装飾が施されている。
その特異な馬車に乗る二人——ユウキとアインズは、激しい緊張感に襲われていた。
バケモノとの戦闘経験はあるものの、四班の中から一人でも死傷者を出せば、疑いが膨れ上がることは間違いない。
「見えて来たわね」
「……でっかいですね」
ブライトヒル王国城から見た時も巨大に見えた無機質なそれは、ここまで近付くと、逆に現実感を喪失する。あまりのスケールに、夢なのではないかという錯覚が起こる。
距離にして約一キロメートルと言ったところで降車し、ここからは徒歩で接近する。
これと言った特徴のない平野で、足元にはくるぶし程までの低い草々が茂るのみ。
一見すると最高の景色なのだが、降車してからわずか数分で、奴らの姿が見え始めた。
「動物……ではなさそうだな」
この場にいる誰も、人間と同様の歩き方をする生き物を知らない。
「各位、戦闘態勢」
ブラントが命じると、四班の騎士たちが武器を手に取った。
「知っての通り、我が国の騎士団は一度奴らに敗北を喫している。気を抜くなよ」
「班長、目標は?」
ケスラーが訊く。
「まずは、ブライトヒルの二人が鎖に近付けるように敵を減らす」
「りょーかい、掃除ですね」
「お二人は我々を気にせず鎖へ直行してください。敵は決して近付かせません」
「分かりました。すみません、こんな事に付き合わせてしまって」
「……構いませんよ。鎖の事を少しでも知れるなら、我々としても本望ですし。よし、進軍開始だ!」
ブラントの言葉をきっかけとして、四班のメンバーが走り出した。
遅れること数秒、アインズも剣を抜き、ユウキに向かって言う。
「あの人たちが開けてくれた道を真っ直ぐ突き進んで、言われた通り鎖へ直行するわよ。いい?」
「はい!」
「うん、いい返事ね。じゃあ、行くわよ!」
ユウキも剣を抜いて鎖へと向かう。
右側に三人、左側に四人の騎士が散開しており、それぞれ闊歩するバケモノに奇襲をかけている。ユウキとアインズは七人を横目に見ながら、その間を突き進む。
今のところバケモノの妨害は無く、このまま行けばあと一分ほどで鎖に到着するだろう。
想像の何倍も強固な守備に驚きながら、なおも進撃を続ける。
ニューラグーンの騎士団の中で、大隊から独立している一班から五班は、成績優良者の集まりである。
幾度もの戦いを生き残る、もしくは、それに匹敵すると判断された騎士が所属している。
その中でも四班は頭一つ飛び出ているとされており、以前ニューラグーンの騎士団が返り討ちにされた鎖調査において、一人の負傷者も出さなかった唯一の班であった。
「来たっ!」
アインズと、その背中を追うユウキ。
二人の距離は五メートル程あるが、そこへ小型のバケモノが割り込む。
四班の防壁を跳躍によって突破した個体であった。
少年はスピードを落とし、跳んで襲い来る敵を迎撃する心構えを決めた。
両手で持った剣を構え──
「止まらないで!」
「……っ!」
そんな彼に進めと声をかけたのは、四班の新人騎士ユリアであった。
彼女を信じて構えた剣を戻し、再度スピードを上げて疾走する。
──ギャギャギャッ!
勝利を確信したバケモノが奇声を上げる。
ユウキの拍動はいっそう速くなったが、しかし、それは杞憂であった。
──グギッ?!
バケモノの身体に細い鎖が巻き付く。
その終点にある小さな鎌の刃先が、見事にバケモノの顔面を捉えた。
「ありがとう、ユリアさん!」
礼の言葉が聞こえたかどうかは不明だが、ユウキはアインズを追う事を優先。
が、少年は騎士でも何でもない民間人。
騎士であるアインズの体力についていけるはずが無く、距離は詰まらない。
必死に追いかける少年だったが、今度は逆に、アインズのスピードが落ちているように見えた。
「ユウキ君、私に掴まって!」
「え?」
鎖までは残り十数メートル程度。
しかしその進路には中型のバケモノが立ち塞がっている。
四班は皆、敵の対処に追われている様子だ。
「一気に抜けるわよ!」
「りょ、了解!」
アインズの思考を察したユウキは、右手を伸ばして彼女の左肩へ。
「目を瞑って、歯を食いしばっておいてね」
「はい」
「行くわよ。ブリッツ・ピアス!」
──亜光速の突きを利用した、擬似的な瞬間移動である。
通せん坊のバケモノを貫き、勢い衰えず、そのまま鎖へ到着した。




