2-12.深い畏怖の念
三人の視線を受けながら、今度はユウキが説明を始める。
「結論から言いますと、この旅は、ブライトヒル王国の国家計画ではないのです」
「……?」
王は、どういう事だと眉間にシワを寄せ、理解が追いついていないようである。
──まあ、そうだよね
「ブライトヒル王国ではなく、僕個人が言い出し、僕個人が実行しているに過ぎないんです。アインズさんはそんな僕に同行してくれているだけで、先程言った通り、国家計画ではありません」
「なるほど……?」
納得はしたが、まだ疑問が残っていた王は、話の根幹について質問を投げる。
「貴国の計画ではなく、貴方個人での行動とのことですが、何を目的に?」
「目的は先述の通り、鎖の──」
「そうではなく」
鎖の破壊と答えようとしたユウキ。
しかし、その言葉は途中で遮られてしまった。
「貴方は何故、何の目的で、鎖を破壊しようと考えたのですか?」
「それは……」
表面的な目的ではなく、旅に出ようと決心したその由縁は何なのか。
深く掘り下げた質問を受け、とうとう彼自身の身分を明かす時が来た。
やはり、少し竦んでしまう。
ふと、アインズの左手がユウキの右膝に置かれた。
──大丈夫、私がついてるわ
そう、励ましの意味を込めたアインズなりの優しさであった。
意図を悟ったユウキは、腹を括って、ゆっくりと口を開いた。
──そうだ
──黙ってても、どうにもならない
「クライヤマの……巫女の無実を、世界に証明するためです」
「巫女の……? なぜ、貴方がそれを?」
「僕が、クライヤマの人間だからです」
「なにっ⁈」
ユウキの告白を聞いた王の顔は、驚くようで、怯えるようでもあった。
近衛兵も、それを聞いて身構えていた。
──やっぱり、そうだよね
二人が思った通り、この国では、クライヤマや巫女に対する不信感、恐怖心が抱かれていた。
名乗った以上、ユウキもその対象となる事は間違いない。
「あ、貴方が、クライヤマの、人間だと……?」
「はい」
王の手が小刻みに震えている。
それほどまでに、ニューラグーンに染み付いた畏怖は大きいのだ。
「ア、アインズさん……? これは、どういうことですか? この機に乗じてニューラグーンを──」
「どうか落ち着いてください。ブライトヒルにも、この少年にも、そのような気は一切ございません!」
「で、では、何をしにここへ⁈」
今にも逃げ出しそうな国王。
槍を構えそうな近衛兵。
「私たちは、鎖を破壊する為に来ております」
「なぜ、なぜクライヤマの者が、鎖を──」
「無実だからです。クライヤマも、巫女も、世界に対して悪意など無いと。クライヤマの人間である僕自身が示すために、貴国のお力を貸していただけないかと、そう言う想いです」
「我が国の、力……?」
「私から補足致します。鎖を破壊する旅に出た私共ですが、二名ではどう考えても戦力不足なのです」
「し、しかし言葉だけなら──」
何とでも言える。それは、その通りである。
言葉巧みに言いくるめ、被害を与えることも不可能ではない。
しかし、やはりユウキにそんなつもりは無い。
──信じてもらえないなら!
「命をかけます」
「……なに?」
「もしも僕が、ニューラグーン国を裏切ったのなら、殺していただいて構いません。首を落とすなり、引きずるなり、お好きになさって下さい」
王の眼を真っ直ぐ見つめる少年。
彼の言葉に嘘偽りは無かった。
本気で、心からそう言い放ったのである。
「な、なぜそこまで──」
「僕にしか出来ないからです。クライヤマ唯一の生存者である、僕にしか」
「クライヤマの生存者は、確かに彼だけです。これは私個人としてではなく、ブライトヒル王国騎士団第一部隊長のアインズとして、その誇りをもって保証致します」
「ううむ……」




