0-3.太陽の岩戸隠れ
大勢の住民に抵抗できるはずも無く、巫女は、いとも容易く捕らえられた。
裏切者を捉えた。
邪神を討ち取った。
そんな報告を叫びながら、暴徒がクライヤマを練り歩いた。
散々痛めつけられた巫女の意識は朦朧としている。
抵抗はおろか、声を上げる事さえ、彼女にはもうできなかった。
「嘘つきだったのか」
「私たち、散々尽くして来たのに」
報告を聞いた住民は、口々に恨み言を吐き捨てる。
それだけ、巫女に対する疑念が広まっていたのだ。
もはや、彼女の心配をする者など——
「リ、リオ……⁈」
——この少年、ユウキを除いて存在しない。
「ユウ……キ……?」
この場においては異質な、自分を心配する声。
それを聞いた巫女——否、リオは、枯れた震える声で声の主を呼んだ。
「リオ! な、なんで、こんな! 放せ! リオを放せよ!」
大きな籠に、無造作に入れられたリオ。
数人の大人がそれを担ぎ、ある場所へと向かう。
少年ユウキは彼女を救わんと、その進路上に立ちふさがった。
しかし——
「どけ、小僧!」
「ぐあっ⁈」
もはや、何かに憑りつかれたような顔の男によって、蹴り飛ばされてしまう。
通り過ぎる人々に踏まれたり、蹴られたり。巫女だけでなく、彼女に味方する者に対しても、酷い仕打ちが待っていた。
「リオ! リオ!」
「……っ‼」
地に倒れた少年と籠がすれ違う一瞬。リオはとっさに胸のさらしを剥いだ。
胸の間から自身が大切にしていた日長石の首飾りを出し、籠の隙間から落とした。
少年はそれを、咄嗟に懐へしまった。
「ま、待ち……やがれ!」
あばらが痛んだが、ユウキは必死に立ち上がった。
その頃にはもう、籠は何メートルも離れていた。
口の中には鉄の味と、砂の触感が広がる。
それでも彼は、追いかけた。
だが——
「よし、そっちから押せ!」
「いくぞ、せーの!」
体格の大きな男たちが数人で、大きな岩を動かした。
日の巫女は、巨大な岩戸に監禁されてしまった。
「リオっ‼」
どうすることも出来なかった。
いくら探しても、リオの救出を手助けしてくれる住民は居なかった。
ただただ、泣いていた。
岩戸に縋りつき、ただ、ひたすらに。