2-9.綱渡りの覚悟
——ニューラグーン国城下街、食事処
宿の近くで発見した食事処に入った二人。
さっさと注文を済ませ、料理を待つ間に、アインズによる解説が始まった。
「ニューラグーンとブライトヒルは、結構昔から仲良しの国なのよ」
「昔って?」
「そうね……それこそ私の親世代とか、下手をすると、更にその親くらいかしら」
「結構ですね」
「そうなのよ」
少年にとって国同士の友好関係という話題は、きわめて新鮮な物であった。
クライヤマは、周辺の国や集落とはかかわりを持っていなかった。
持つ必要すらなかったからだ。
そのおかげか、クライヤマは今まで、諸国の争いに巻き込まれたことは無く、
侵略されたことも、したことも無かった。
しかし、かかわりの少なさが、此度のような疑念の一因とも言えてしまう。
「なんでも、昔の戦争で共闘したことが始まりみたいね」
「なるほど。じゃあ、城に行ったら歓迎されますかね」
「そうだといいわね。まあ、ブライトヒルの騎士だって証明すれば会ってくれはするんじゃないかしら」
「……この旅にアインズさんが居てくれて、本当に良かったです」
彼女にも、彼女の同行を提案したブライトヒル国王にも、心から感謝していた。
おそらく自分一人ではどうにもできなかったであろうと、たったの二日目にして悟った為である。
「ふふっ、良いものも見れたしね?」
「良いもの?」
何のことやらと考えていたユウキは、アインズの不敵な笑みを見て、またしても今朝の光景を思い出してしまった。
——ああこれ、永久に擦られるやつだ
「ってところまでは良いけれど」
「え?」
「懸念点が一つ。ユウキ君、あなたの身分をどうするかよ」
「……」
世界がこんな状況だ。クライヤマの出身であることを公表すべきか、アインズにも本人にも判断しかねている。
「弟って嘘をつく方法もあるけれど、ばれたら国同士の信用問題になってしまうわ」
いくらユウキが言い出した旅とはいえ、彼個人のためという制約のもとでは、限界があるだろう。そのことは、ユウキにも容易に理解できた。
ならば、と。
彼は覚悟を決めて言った。
「言いますよ。正直に、クライヤマ出身だって」
「……疎まれるかもしれないわよ?」
すぐ近くに鎖が刺さったニューラグーンでは、ブライトヒルよりも深く危機感が浸透しているだろう。
その分、かつてのツヴァイのように、クライヤマに対して不信感をもつ者が多いはずである。
そんな中で国王に正体を晒すことには、巨大なリスクが伴うであろう。
「まあ……もう、慣れましたよ」
「そう。強いのね」
無論、ユウキの言葉は嘘である。
己の大切な故郷が、己自身が、そして何より想い人が、世界から疎まれることに慣れる事など出来ようはずがない。
「お待たせいたしました」
少し空気が重くなったタイミングで料理が届いた。
いったんリセットするのに丁度いい出来事である。
「いただきます」
手を合わせ、向かいに座るユウキにも聞こえるかどうか程度の声で呟いた。
ユウキもそれに倣い、食事の挨拶を口にした。
——わ、美味しい
十数時間ぶりの食事は胃に嬉しく、味も最高で、
二人ともあっという間に平らげてしまった。




