9-3.過重を受け止める
──数日後、トリシュヴェア国
タヂカラ邸に集まったユウキらは、鎖を破壊した日からトリシュヴェア国で起こったことをハルから聞いた。空に穴が空いた日の話が主であった。
「という訳だから、君やクライヤマの巫女を信じてみようとする人は増えるかもしれない。それに──」
話の途中、ハルは兄タヂカラを見て微笑んだ。
「なんだよ、ハル」
「兄さんがアニキとまで呼ぶユウキくんや、そのユウキくんが大事にする巫女の事なら、トリシュヴェアの人間は信頼すると思う」
タヂカラが以前語ったように、トリシュヴェア国ではクライヤマに対する疑念を持つ人が多かった。
ニューラグーン程の恐怖感情ではないにしろ、ここの人は、厄災の原因はクライヤマの侵略だと考えたのだ。
しかし、空に見たユウキの姿とタヂカラの話があれば容易に払拭されるであろう。
「ようし! アニキの想い、俺がしっかり背負うぜ!」
万事の解決は、タヂカラに対する国民の信頼にかかっている。少し前なら困難だったかもしれないが、今はもう問題ないだろう。
彼は今や、ユウキと共に戦った救世主の一員だからだ。そう理解していた為、ユウキらもハルも心配はしなかった。
大男タヂカラとも、別れの時がやってきた。タヂカラ邸の前で馬車を準備し、挨拶を交わす。
「タヂカラさんも、本当にありがとうございました。クライヤマであなたに岩を動かしてもらわなかったら、一体どうなっていたことか」
「なぁに、そんくらいお安い御用さ」
ユウキは最後にタヂカラとハルと握手をして、馬車に乗り込んだ。アインズもまた、大男兄弟と握手を交わす。
「では、私もこれにて。お世話になりました」
「ああ。色んな国を見れて勉強になったぜ、ありがとうな。桜華の嬢ちゃんが言ってた凄いのとやら、ぜひ見てみたかったが……まあ、平和なら見る必要はねぇか!」
「そうですね。今後一切、使う必要が無い事を祈ります」
そう言って微笑み、アインズも馬車へ。動き出した馬車をしばらく見送り、兄弟は大声で叫んだ。
「お二人ともお元気で!」
「達者でな!」
ユウキはそんな二人に、大きく手を振った。
──さらに数日後、トリシュヴェア国
「おっし、今日はこいつで最後か」
小難しいことは弟のハルに任せ、タヂカラは現場仕事を手伝っていた。
せっかく目覚めた力もある。戦い以外にも、誰かの役に立つような力の使い方をしたいと願ったのだ。
「相変わらずスゲェ量を運ぶな、タヂカラは」
「おう! 力だけが俺の取り柄だからな!」
荷台に大量の花崗岩を載せ、所定の場所まで運ぶ。タヂカラは、ほかの作業員の何倍もの量を一気に運んでしまうのだ。
その日最後の一往復の道中、タヂカラは国の事について独り言を呟いた。
「花崗岩なぁ。トリシュヴェアもそろそろ、岩以外にも何か考えた方がいいんだろうな……」
旅に同行して他国を見た彼は、自国を少し卑下した。ブライトヒルの豊かさとウルスリーヴルの高い国防力は、特に彼の目を引いた要素だ。
「かと言って何も思いつかねぇが……ま、後で皆と考えりゃいいか!」
楽観的に言いながら荷台を押していると、やがて崖下の道に差し掛かった。
彼と対向するように、向こうから薪を運ぶ女性が歩いてくる。その彼女に、危機が迫っていた。
「ん? 何だこの音──! マズイ、落石だ! おいアンタ逃げろ! 岩が落ちてくるぞ!」
そう呼びかけるが、女性はパニックに陥ってしまいその場で腰を抜かした。
「くそ、間に合ってくれ!」
タヂカラは運んでいた荷台をその場に放置し、大急ぎで彼女の元へ。赤いオーラを放ちながら、女性に向かって転がっていた岩を受け止める。
「ご、ごめんなさい!」
「なに、いいって事よ」
タヂカラはその岩を比較的安全な場所に落とし、女性を立たせた。
「ありがとうございます、助かりました」
恩人となったタヂカラに、彼女はそう微笑みながら礼を言った。彼はその笑顔に、数秒間釘付けにされてしまう。
「……お、おう! この先もちぃと危ない道だからな、気を付けるんだぞ!」
祖父に似たのだろうか、タヂカラは岩場の華を発見してしまったのである。
──数年後、タヂカラはこの時の女性と結婚。タクハタという娘ができ、家庭と国という二足の草鞋を履く。また現場仕事の傍ら、旅で学んだ事をみなと共有し、国の発展を目指すのであった。