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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第八章:終幕
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8-4.それぞれの戦い

 ──同刻、ウルスリーヴル国


 月の神殿から溢れ出したセレーネのオーラは海を越え、ウルスリーヴル国にまで悪影響を及ぼした。空は闇に覆われ、おぞましい音が人々の耳へと飛び込んで来たのである。


「見たら分かると思うけど、世界は今闇に包まれようとしてる!」


 国防組織防人の長は旅に出て不在であるため、代わりに彼女──小町がウルスリーヴル城前にて防人に指示を出していた。少し高い台の上から全体を流し見、再び声を放った。


「このウルスリーヴル近郊や島内にもバケモノが現れて、一部の防人は既に出撃して交戦中だよ!」


 当初の見積もりでは、防人戦力の半分も出せば問題ないだろうとしていた。しかし、際限なく湧き出るバケモノは防人を大きく消耗させ、ジワジワと押され始めてしまったのである。


「戦闘員と非番を交代で前線に送るつもりだったけど、作戦変更! バケモノ共を、全員で迎え撃つ!」


 小町が声高らかに伝えると、集められた数百人の男女は「おう!」と応答。それを聞いた小町は少しだけ目を瞑り、不在の友を想った。


「ウルスリーヴルは決して落とさせない! 桜華が居ないから負けましたなんて言い訳も、絶対しないよ!」


 小町は腰に携えた刀を抜き、もう時期消えゆく隙間から差す僅かな日光を、刀身に反射させた。それを隊員たちに向け──


「防人全隊、出陣せよ! 目標はバケモノの殲滅、及び国民の安全確保!」


 そう宣言し、彼らが隊列を成して散ったのを確認。刀を鞘に戻し、小町もまた台から降りて戦場へと赴く。


 そんな彼女へ、高貴な格好の女性──天舞音(あまね)が声をかけた。


「おうおう。指導者としての姿、なかなか様になっておるのう、小町や」


「……なに、天舞音さん直々に手伝ってくれるわけ?」


「本来はそうすべきなのだろうが、妾はちと呑みすぎたみたいでな」


 と言いながらも、天舞音はしっかりとした足取りで小町へと近付いた。


「要件は何?」


「いや、ただ感激しておったのよ。まさか、お主も指導者の器じゃったとはな」


「……なんか勘違いしてるみたいだけど」


 小町は片足体重で右手を腰に当て、ため息と共に言う。


「大蛇を表立って率いてたのは、桜華じゃなくて私だからね」


「おや、そうだったのか? 桜華は自分が頭だと自信満々に言っておったがのう?」


「……あいつ、帰って来たらぶん殴ろうかな」


「はっはっは。相変わらず仲の良い──おや?」


 二人が話をしていると、大地を震わせるほど大きな破砕音が鳴り響いた。


 闇を拡散していた穴は大きくなり、今度は光を放ち始めた。それと同時に、真っ白な神殿で戦う少年と少女の姿を映し出す。


「あれって……ユウキさん?」


「そのようじゃな。しかし、この温かさとあの姿……さながら太陽神と言ったところじゃな」


 天舞音の言葉通り、日輪の力もまたウルスリーヴルがある島まで届いている。


「桜華のやつ、ユウキさんの足引っ張ってないだろうね……」


 空を眺めながらそう言った小町の顔は、天舞音が今まで見た中で最も悩ましげであった。


「なんじゃ、そんなに桜華の事が心配かえ?」


「は、はぁ?! べべ、別に心配じゃないけど?!」


「ふふふ。そうか、そうか」


 突如として内心を見抜かれた小町は、若干顔を赤らめながら天舞音に背中を向けた。そのまま防人たちを追うように歩く。


「まったく、この天邪鬼め」


「なにか?」


「いや、なんでもない。ほれ行け、防人はお主を待ちわびているぞ。内側の守護は妾に任せるがいい」


 振り返った小町は黙ったまま頷き、また前を見て走り去った。




 ──ウルスリーヴル国、南河川敷


 川端に、何十人もの男女が集まっている。その誰もが若く、子供とも言える者たちだ。代表の六人が前に出て話をしていた。


「見ての通り、お空があんな事になっちゃってる。バケモノって奴も現れて、ウルスリーヴルの危機みたい!」


 前に立った男女の内、骨董屋の娘が子供たちにそう説明した。子供らは慌てず騒がず、静かに彼女の話を聞いていた。数秒の沈黙が訪れると、一人の男児が挙手とともに口を開いた。


「あのー! 僕達はそのバケモノっていう怖いのと戦うんですか?」


 彼らは普段、この河川敷を使って集団で剣の練習をしている。今こそ、その成果を見せる時なのか。男児はそう問うたが、骨董屋の娘の答えは否である。


「ううん。最初はそれも考えたけど、そこはやっぱり、防人に任せておけば良いと思ったの」


「じゃあ、僕達は何を?」


「私たちがやるのは、避難支援だよ」


 非常事態に際し、国内の人々は逃げ惑った。だが、皆が皆きちんと逃げられた訳ではない。


 足が悪くて逃げられない者や老人、親とはぐれて泣いている子供など、困っている人は無数にいる。彼らは、そんな人々を助ける活動をしようと言うのである。


「じゃ、そういう訳だから、いつもみたいに六つの班に別れて活動しよう。以上、解散!」


 少女がそう告げると、子供たちは班毎に別れて班長の到着を待った。


 六人の代表者は骨董屋の娘の周囲に集まって、自身が担当する班の元へ散る前に少し話をする。


「防人の人たち、大丈夫かな?」


「ね。バケモノって、とんでもないんでしょ?」


 鍛冶屋の子と百姓の子がそう心配するが、骨董屋の子は楽観的である。


「大丈夫に決まってるでしょ? 防人には、小町さんがついてるんだから」


「確かに。なんかそれだけで安心かも」


「でしょ? ほら、みんな待ってるから私たちも解散!」


 駄弁っている暇は無いと、代表たちも解散。各自、自分が率いる班の元へと向かって行った。




 ──ウルスリーヴル国近郊


 バケモノの群れを押し返すため、小町は戦場の前線に防人の増援を派遣した。後方部隊への指示出しを終え、彼女もまた前線へと出る。その道中、防人の男性が小町に駆け寄った。


「小町様!」


「どうしたの?」


 よほど急いで来たのか、彼は息を切らしていた。数秒で息を整え、小町に対して報告をする。


「南河川敷にて、妙な子供たちが集会を開いていると報告が上がっております」


「……子供たち? そう。その子らは何をしてるって?」


「見た者によりますと、我々防人とは無関係に避難支援等を行っているとの事です。やめさせるべきか否かと、質問を預かっております」


 その子供たちとやらに、小町は心当たりがあった。何年も前に、同じ目標を掲げて集まった仲間──否、家族である。


「いいよ、やらせておきな。私らも蛇も、各々戦ってんのよ」


「蛇、と言いますと?」


「なんでもない。とりあえず、好きにさせておけ伝えてくれる?」


「御意!」


 小町からの回答を受け取り、男は戻って行った。空を見ると、先程までよりもユウキの放つオーラが強くなっているように感じられた。


「みんな、戦ってる……」


 そう呟きながら、小町は家族同然の少女を思い出して微笑んだ。


 直後には毅然とした指導者の顔に戻り、彼女もまた戦場へと駆け出すのであった。


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