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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第七章:開幕
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7-10.リオとセレーネ

──月の神殿、最上階


 オーラの輝きが収まった頃、ユウキらは月の神殿に立っていた。地に足が着いた事に安心を感じた一行だが、目の前で高笑いをする黒衣の少女の存在に気付いたため言葉を詰まらせた。


「君は──」


「はぁ、もう来ちゃったの? もう少し寝てればよかったのに」


 声も姿も知らないが、ユウキは目の前のソレが月の巫女セレーネであると理解した。台座に乗っていたセレーネはそこから降り、己の邪魔をしに来た者たちを一瞥する。


「で、何の用?」


「君のやろうとしている事を止めて、日の巫女は邪神じゃないと世界に証明する」


「ふ〜ん。バカみたい」


 月の巫女とはどんな邪悪な存在なのだろうか。そう思っていたユウキは、実際のセレーネを見て驚愕した。姿形は人間であるし、見た目の年齢も自分とそう変わらない。セレーネという敵は、彼の予想に反してただ一人の少女であったのだ。


「それで何になるの? 日の巫女が生き返るわけ?」


「あの子の名誉を──」


「くだらな。そんなに日の巫女を悪く言われてるのが嫌なら、お前もあの世に行けば聞こえないじゃん」


 それは確かに、ユウキが当初目ざしていた事である。背中に岩の冷たさを感じながら考えていた、ユウキという人間の最終目標だった。


だが、今は違う。


「君を止めるんだと言った。世界には沢山の人がいる」


 語りながら、少年は旅で出会った人らを回想する。ブライトヒルの騎士団と国王。ニューラグーン騎士団四班、国王。ウルスリーヴルの天舞音や小町。トリシュヴェアのハル。ヴェルクリシェスのピュラーに長老。


そして、今も共に居る旅の仲間。


「みんな、戦ってる。世界の破壊なんてさせない。護ってみせる」


「……くだらな」


 決意の言葉と共に、ユウキは敵に切っ先を向ける。しかしセレーネは、そんなユウキを嘲笑った。


「ほんっと、くだらない。何その正義感。日の巫女に選ばれて、役割を与えられて調子乗っちゃったわけ?」


「……違う。僕が自ら歩んだ道だ。役割を与えられたんじゃなく、勝手にやってるだけ。そんな僕を、あの子は選んでくれたんだ」


「あっそ。じゃあ──」


 セレーネはニヤリと笑い、月長石のオーラを放った。次第に強まるオーラ。その中で、彼女の姿が変わった。


「私も勝手にやるから!」


 ユウキらも臨戦態勢をとり、セレーネの攻撃に備える。彼女はオーラを集約して作った剣を両手に持っている。


「止めてやる、セレーネ!」


 その言葉を合図に、四人は一斉にセレーネに向かって走った。それを見たセレーネは、双剣を構え──


「寄るな、この虫ケラ!」


そう叫んだ。


「これは……!」


 すると、彼女を中心に月輪のオーラを濃く含んだ風が広がり、ユウキらに打ち付けられた。ユウキは日輪の力を纏っていたため無事だが、アインズらは違う。


「な、何よこれ……!」


「冷たくて、寂しい……」


「くそ、動けねぇ!」


 あっという間に拘束されてしまったのだ。戦いはユウキとセレーネの一騎打ちとなる。


「あんたさ、本当に私に勝てると思ってるわけ? そんなチンケなブツしか無いのに?」


 セレーネはそう笑いながら、剣をユウキの日長石に向けた。クライヤマで見た時よりも更に一回り小さくなっており、力はもう限界に近い事が窺えた。


「さあね!」


 だがユウキは狼狽えること無く、剣を振るった。素早く振り下ろした刃は、月輪の双剣により容易に受け止められ、ユウキには大きな隙が生じた。


「死んじゃえ!」


「ううっ?!」


 その隙を突き、セレーネはユウキの腹につま先蹴りを見舞った。少年は俯きながら一歩下がって再び前を向く。しかし、彼の視界にセレーネは居ない。


「くそ、どこに──」


「ユウキくん、上よ!」


──っ!!


 アインズが知らせた事で、ユウキは間一髪でセレーネの斬撃を回避。だが、彼女は勢いそのままで斬りかかる。なんとか防いで鍔迫り合いに持ち込んだユウキ。


「なになに、その程度? それじゃ、バケモノや人形は壊せても……私には指一本触れられないよ?」


その鍔迫り合いは、セレーネが軽々と押す。


「人形……?」


 ユウキの防御はすぐさま限界を迎え、姿勢が崩れる。セレーネはその隙さえも見逃さず、二本の剣を振り下ろす。


「負け、られない!」


「チッ! 面倒な奴!」


 単純な力では勝てないと察したユウキは、両手に日輪のオーラを集めて彼女の剣を掴んで止めた。


「サン・フレ──」


「いいの? ここで爆発させたら、この舞台がもつか分からないよ? そしたらほら、お友達ごと奈落行き間違いなしじゃない?」


 セレーネに言われ、ユウキはサン・フレアの発動を辞める。思惑通りとセレーネは不敵に笑った。


「ユウキ殿、私らに構うことない! 思いっきりやっちゃいなよ!」


 桜華はそう叫ぶが、ユウキにはやはり彼女らを犠牲にするという選択肢は存在しない。攻撃の代わりに、少年は掴んだセレーネの武器を握り潰した。


──サン・フラメン!


 すぐさま剣を拾い直して攻撃を試みるが、セレーネは既に退避していたため空を斬った。


「そうそう、お前に一つ良い事を教えてあげる」


 月長石のオーラで両手持ちの鎌を生成しながらユウキに語りかける。出来上がった武器で素振りをして、セレーネはまたニヤリと笑った。


「どうして、私は復活できたと思う?」


「どう、して……?」


「力を相殺された私は、日の巫女が一定の太陽の力を保ち続けることで、常に打ち消されて動けなかった」


 鎌を振り下ろし、ユウキを切り裂かんとする。彼はそれを躱して反撃を試みるが、いとも簡単に受け流されてしまった。


「リオが死んだから、君の力を打ち消せなくなったんでしょ?」


「──違う」


「え?」


 予想と異なるセレーネの返答に、ユウキは思わず疑問符を返した。


「私が動けるようになった頃、日の巫女はまだ生きてたよ」


 ユウキは息を乱しており、隙あらば整えることに専念する。対してセレーネは未だに笑みを浮かべており、さらには自身の話をするほどの余裕を持っていた。


「じゃあ、なんで君は……?」


「弱くなったんでしょ、日の巫女が」


「弱まった……リオの力が、弱まった?」


「そ。それってつまり、日の巫女が私利私欲に溺れたって事でしょ? お前の事を愛したからでしょ?」


 戦いは戦力的にも精神的にも、セレーネが優位に立っている。少年の息がなかなか整わないのは、激しい運動による動悸ではないからである。


「それってさ……みんなが邪神って呼んだこの月の巫女(わたし)と、全く(おんな)じだよねぇ?!」


「ち、違う! リオは、リオは!」


「盲信も、そこまで行くと笑えないね。お前が好きな日の巫女は私と同じなの。何も……違わない!」


 ユウキは叩き付けられた鎌を一度は防いだものの、剣はそのまま湾曲した鎌に攫われ、奈落の底へと消えた。それと同時に、ユウキのオーラは点滅を繰り返すようになる。


「あ〜あ、時間切れっぽいね」


「はぁ、はぁ、ま、まだ──うわっ!」


「アニキ!」


 膝をついたユウキ。セレーネはいたずらに妖艶な顔をした後、彼の胸ぐらを掴んで動けないアインズらの方へ投げ飛ばした。


「日の巫女に選ばれし者。ちょっとだけ、面白かったよ。バイバ〜イ!」


 弱る一方のユウキに対して、セレーネは加速度的に力を増していく。飲み込んだ月長石が、時と共に身体に馴染んできているのだ。


「ま、まずい……床を、壊される……!」


 セレーネは鎌を霧散させ、次は巨大な槌を創り上げる。二人の戦いによって既にひび割れていた舞台に、強烈な衝撃が加えられた。


 無論、床は容易に崩壊し、ユウキたち四人は奈落へ真っ逆さまに落ちていく。セレーネはオーラを巧みに操って浮き、その様子を笑いながら見た。


──に、日輪よ……!


 ユウキは残った力を振り絞って祈りを捧げ、落ちる仲間たちをオーラで包んだ──。


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