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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第七章:開幕
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7-6.金環の決戦

 ユウキが放つオーラを不快に感じ、バケモノは顔をしかめた。小鬼共は相変わらずアインズらに攻撃をしているが、時折、少年の方に視線を向ける。


「サン・フレア……!」


 ユウキがそう呟くと、彼を中心に光の爆発が起きた。人間にとっては暖かい波動に感じられたが、バケモノにとっては違う。己の身体を焼き払う裁きの焔にも等しい。


《グギャアアアアアアッ?!》


 光に飲まれた敵は、思わず苦痛の叫びをあげた。それまで感じていた不快が己の全身を包み込み、あまつさえ、体の内部まで侵入してきたからである。


「……ガキンチョが消えた!」


 爆発が収まると、桜華らを襲っていた小鬼は消失していた。ただ地面に小さな土山ができているだけである。


《グググ……!》


 バケモノは再び二匹の小鬼を作り出し、今度は弓を持たせてユウキを射抜こうと試みた。しかし、矢は少年に達する前に軌道を変え、地面に刺さる。


《ガガガ……! グゲ! グゲェ!》


 バケモノは太刀の切っ先をユウキに向け、小鬼共に対して弾幕を張れと命ずる。小鬼はそれに従って次から次へと矢を放つが、全て同じ末路を辿る。


「……終わりだ、バケモノ」


 次の瞬間、両方の小鬼の額に短剣が刺さった。サン・フラメンを使った短剣であるため、小鬼は瞬時に絶命して土に戻る。


《グ……ガァ!》


 怒りと恐怖に震え、バケモノはユウキに向かって太刀を振り上げた。そのまま猛烈なスピードで迫り、少年を斬り裂かんとする。


《……ガ?》


 突然、肩から先が軽くなったと感じたバケモノ。見ると、今まさに振り下ろそうとしていた太刀は、腕ごと地面に転がっていた。ユウキが動く様子を目視出来なかったバケモノは、ただ困惑するのみ。


《グギャアアア──》


 全ての腕を失ったバケモノは、捨て身の突進を試みた。しかし、ユウキに指一本触れる事すら叶わない。


 喧しい雄叫びはその途中で静かになり、首から上が地面へと転がる。遅れること数秒、体もまた地面に倒れた。バケモノの体は灰となり、月影の中に舞い消えていった。


 それを見届けると、ユウキはその場に膝を立てた。不慣れな力を発動したためである。


「やったわね。お疲れ様、ユウキくん」


「すみません、ありがとうございます……」


 アインズが差し出した手を頼りに、ユウキは体を起こした。彼らの目的である五本目の鎖は、もう目の前である。気が付くと、少年の姿は元に戻っていた。




 最後の鎖を前にすると、ユウキは僅かな違和感を覚えた。


「これ、他の四本より太いですね」


「そうだね。アインズ殿の蹴りじゃ壊せなそう」


「そうね。じゃあ試しに防人で殴ってみましょうか」


「わわっ! こめんって嘘嘘!」


 アインズと桜華が茶番を繰り広げている間に、タヂカラは鎖を観察した。パーツを破壊し、月長石を露出させるためだ。


「ちょいと離れてな」


 いつものように隙間を発見したタヂカラは、そこに手を突っ込んだ。赤いオーラを放って部品を広げて破壊。やはり、そこには核となる月長石が輝きを放ちながら存在していた。


「じゃあ、行きましょうか」


「ええ。最後の守護者、気合いを入れないと」


 多面のバケモノと戦った影響で、四人の消耗が激しい。多少の不安はあったが、ユウキが選ばれし者の力を発揮すれば問題無いだろうという期待もあった。


「では──」


 守護者の座す神殿へ向かう為、ユウキが石に手を伸ばした……その時。


《待てよ、ユウキ》


「──っ?!」


 瓦礫の影から、青年が現れた。月の巫女の遣い、ジュアンである。


「お、お前……」


 ジュアンの姿は、以前にも増して人間味を失っていた。無理に月輪の力を注いだ事で体が侵食され、もはやバケモノと遜色無い。


 剣を持った右腕以外は、不気味な濃い紫色をしている。顔の左側、半分程度がもはや人のそれではない。血の色をした眼光が、対峙する者を突き刺すかのようである。


《セレーネ様の所へは行かせない》


「ジュアン、君は……」


《何だよ》


 赤髪の少女ピュラーが指摘した、ユウキとジュアンの共通点。それは、巫女への恋慕である。自分とジュアンに共通点など無いと考えていたユウキだが、今では彼の言葉をよく理解出来た。


「君が言った通り、僕達は同じだったんだね」


《ふん。今更何言ったって、絆されねぇぞ》


「……いいさ。どの道、ここで終わらせなきゃいけない。日の巫女は、リオは邪神なんかじゃないって、証明するために」


 ここで決着をつけなければならない。ユウキとジュアンはその共通認識のもとで剣を構える。ユウキは一瞬だけアインズの目を見て、手出しは無用であるという意思を伝えた。


《いくぞ、ユウキ!!》


「来い、ジュアン!」


 体に力を込めると、ユウキはまた選ばれし者の姿に変化した。ジュアンもまた月のオーラを全身から放つ。剣と剣、オーラとオーラが激しく衝突し、火花を散らした。


「ねぇ、教えてよジュアン。君は、いったい何者なんだ?」


《執拗いな。ボクはボクだ。月の巫女セレーネ様にお仕えする者。そう言ってるだろ》


 斬って避けて弾かれて。一歩引いてはまた踏み込む。何か一つでも間違えれば死にかねない命懸けの駆け引きを、二人は無数に捌き続ける。


「出身は? 年齢は? 何処で生まれてどんな人生を歩んできた? なぜセレーネに仕えてる?」


《あ?》


 ユウキが複数の問いをぶつけると、ジュアンは思わず答えを探した。自分の事に関する記憶を整理するという作業の為、戦闘が疎かになった。


 膠着状態かと思われた衝突は、次第に日輪が押し始める。


「……どうなの? 教えてよ」


《はぁ、はぁ、はぁ……ボ、ボクは……》


 互いに距離をとり、呼吸を整える。その間もユウキはジュアンを真っ直ぐに見つめていた。対して、ジュアンは記憶を探る事に必死であった。


《ボクは……ボクの、生まれ……?》


「分からないの? だったら君は、セレーネがつ──」


《黙れ! 違う、ボクは奴らとは違う! セレーネ様と共に育ち、セレーネ様に仕えてきた、唯一無二の存在だ!》


「だったら、僕の質問に答えてよ」


 月の巫女を信仰するルナリーゼンで生まれ育ち、セレーネに貢物を捧げる役割を担っていた。その過程で彼女に恋をし、やがて互いに惹かれ合った。


 ユウキの目の前で頭を抱えるジュアンの言う事が正しいのなら、しっかりと彼の記憶に刻まれているはずである。そう考えての問い掛けであったが、ジュアンは答えない。


《うるさい……うるさい、うるさい! ボクはボクだ。セレーネ様の奴隷だ。それでいいんだよ!》


 強い憎悪を露わにし、ジュアンはユウキを睨んだ。その感情を表すかのように、月長石のオーラが大きくなっていく。そのオーラは風のように広がり、後方でバケモノの対処をしていたアインズらにまで届いた。


「冷たい。それに、何だか寂しい感じがするわ……」


「何これ、嫌な風」


「気味が悪ぃな」


 風を浴びたのはバケモノも同様であり、彼らは月輪のオーラによって殺気立つ。まるで、ジュアンの憎悪に同調しているかのようであった。


《……さあ、くだらない話は終わりだ。邪神の使い魔め、ボクが殺してやる!》


 負の感情を見せ、武器を構えるジュアン。ユウキは何も言わず、ただ戦闘態勢に戻った。



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