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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第七章:開幕
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7-4.多面のバケモノ

 バケモノの咆哮が終わると、周囲は恐ろしく感じられるほど静かになった。それまで喧しく喚いていた異形は、鬼のような顔でユウキらを睨んでいる。


「……なんか、気味わりぃな」


 二本足でその場に立ち、腕は二対ずつある。片方の右手には太刀を、一対の両手には弓を構えている。強靭な肉体を見せびらかすかのように、上半身には何も身につけていない。下半身には腰蓑を着けている。


 もっとも奇妙なのは、一つの胴体に二つの顔があり、それぞれが背中合わせになって互いに反対方向を向いている事である。


《グギギャ……!》


「来ます!」


 バケモノが先手を打ち、アインズに向かって矢を放った。彼女はそれを難なく躱し、剣を構えて突撃する。


「くらいなさい!」


 アインズが剣を振り抜いて攻撃を仕掛けるが、バケモノは鈍重な外見からは想像できない軽捷さによって回避。しかし、その先には大男タヂカラがいる。


「おらァ!」


 赤いオーラを纏った重い攻撃が繰り出される。地面を砕き、岩をも投げる怪力であるが、バケモノはそれを太刀で容易に受け止めた。


「やるな──ぐおっ?!」


 それどころか、タヂカラの力を巧みに受け流してバランスを崩させ、前のめりになった彼の胸部に蹴りを見舞った。


《グググ!》


 タヂカラが数歩退ると、バケモノは満足気に笑う。


「笑ってる暇無いわよ!」


 そこへ、亜光速移動によりアインズが急接近。声を聞いて初めて彼女の移動に気付いたバケモノ。アインズが武器を振り下ろすまでのほんの一刹那では反応出来ず、ただ刃が迫るのを見ている事しかかなわなかった。


だが、事態は好転せず──


「随分と立派な身体をお持ちね……!」


 バケモノが持つ強靭な肉体はアインズの斬撃を僅かにも通さず、むしろ彼女に隙を作った。


 再び亜光速移動を用いた事でバケモノによる斬撃を受ける事は無かったが、彼女が直線的に後方回避すると見たバケモノはその進路を追うように矢を放つ。


「──っ!」


 迫り来る矢尻を目視することは出来たアインズだが、今から行動して避けるのは困難な状態であった。動きで翻弄する事は可能だと考えていた彼女だが、向こうが一枚上手だと察する。


「おっと危な〜い!」


 間一髪、その矢は走り込んだ桜華が弾いた。勢い余って二人は衝突したが、アインズの踏ん張りによって転倒はしなかった。


「……助かったわ」


「お菓子、奢ってよね」


 (おど)けた会話をしながらも、追撃を警戒して目線はバケモノへと向ける。


《グ! グギギ!》


「行かせねぇぞ!」


 バケモノが太刀を持つ手を、タヂカラが全力で押さえている。彼は真っ赤なオーラを放ちながら歯を食いしばっており、そのまま腕を折ってしまうのではないかと思わせる程の剛力だ。


《グギャ! グギャアア!》


 その拘束を解かんと、バケモノはタヂカラに向かって弓を引く。放たれれば無事では済まない。そう理解してもなお、タヂカラは拘束を緩めなかった。


「やっちまえ、アニキ!」


 そこに接近する、ユウキの姿を見たからだ。


──まだ、まだフラメンは使わない。太陽の力を悟られないように、ギリギリまで隠すんだ!


 敵は、月の巫女セレーネがその力を使って創造した存在。ユウキが繰り出す太陽の力を必ず忌避する為、如何に力の使用を悟られないように振る舞うかが鍵となるのだ。


 大鎌を持ったバケモノとの戦いで学んだ彼は、ただの鉄の剣を構えて突進する。


だが──


《グガガガガガガ!》


「な、こ、こいつ! 腕は要らねぇってのかよ?!」


 バケモノは腕を壊す覚悟で拘束を無理やり引き剥がし、大男を、迫るユウキに向かって蹴り飛ばす。


「なっ?! タヂカラさん!」


 飛ばされたタヂカラが接近するが、ユウキは足を止める事で精一杯であった。無論回避は出来ず、タヂカラもろとも後方の地面に叩きつけられた。


「悪いアニキ、大丈夫か?!」


「え、ええ……なんとか……」


 思わず放してしまった剣を拾い、ユウキは体勢を立て直した。アインズと桜華が応戦している様子を見る。戦力的に劣ってはいないものの、彼女らには決定打が無い。


「そこ!」


 帯から鞘を抜いて納刀していた桜華は、バケモノの斬撃に合わせて抜刀。濃い桃色のオーラを放って無数の斬撃を浴びせるが──


「……いや、どんだけ鍛えたらそうなるわけ?」


 アインズの攻撃と同様、強靭な肉体に対して効果を発揮できず、ただ皮膚を撫でているだけに留まる。


──なんとしても、僕が攻撃をくらわせないと防戦一方だ……


 今ユウキらが対峙している敵は、系統としてはトリシュヴェアで戦った鎖の守護者オオタケマルに似ている。


 カマイタチやアマビエの様な小賢しい能力は持たないが、純粋な強さで押し切る類のバケモノだ。顔が二つある為、ヴェルクリシェスのクタベのような性質も兼ね備えていると言える。


「そっちに行ったわよ!」


 アインズが警告すると同時に、バケモノはユウキらの方へ走りつつ太刀を構えた。


「アニキ、俺がもう一回止めるから、そしたら斬っちまえ!」


「はい!」


 二人の元までたどり着いたバケモノは、両手で太刀を水平に振る。タヂカラがその攻撃を受け止め、またしても二者の力比べとなった。


「はああああっ!」


 そうなってすぐにユウキは飛び上がり、敵を目掛けて垂直に斬撃を放つ。


《グガギ!》


 バケモノはもう一対の両腕で弓を横に持ち、それを防ぐ。金属の剣と木の弓がぶつかった瞬間、ユウキはこれを好機と捉えた。


──今だ!


「サン・フラメン!!」


 叫び声とともに剣が日長石のオーラを纏い、弓を容易く破壊。ユウキの剣は勢いを保ったまま、弓を持つ右腕を斬り落とした。


「よし、やっ──うぐっ?!」


 だが、喜んだのも束の間。着地した瞬間のユウキを、蹴りが襲った。もろに受けてしまった少年は後方に飛ばされ、バリバリと草むらを破壊しながら地面へ。


「アニキ! クソっ!」


「そこよ、ブリッツ・ピアス!」


 ユウキを蹴った足が戻る前に、アインズが突き攻撃を仕掛ける。しかし、やはり彼女の力では刺さらない。無理に押し込んでみても、皮膚が僅かに凹むのみ。ダメージには繋がらない。


「ユウキ殿、大丈夫?」


「……あんまり」


 目を覚ました少年は、強打した胸を気にしながら桜華の肩を借りて立ち上がった。


「状況は……よくないですね」


「うん。ユウキ殿のおかげで弓は封じられたけど、私やアインズ殿の攻撃がまるで通らないからね……」


 腕を一本失ったバケモノは後退し、アインズやタヂカラを見て威嚇している。そうかと思うと、低い声で怒ったように呻きながら右手で持っていた剣を左に持ち替えた。


そして──


「何やってんだ、アイツ……?」


 空いた右手でもう一本の左腕を掴み、自ら引きちぎった。胴体から独立した左腕は、やがて元より持っていた太刀と全く同じ形状へと変化した。


「ふうん。二刀流、ってわけね」


「来ます!」


 バケモノは牙をむき出しにし、唾液を撒き散らしながら吠える。二本の太刀を正面で交差させ、体勢を立て直したユウキらの方へ突進した。




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