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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第六章:墜下
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6-8.鎖の守護者・クタベ


 ──ヴェルクリシェス国、長老の間


 月の巫女セレーネと、少年ジュアンについての口伝を聞いたユウキら。しかし、聞いたとて分からない事は山のように残っており、ただ首を傾げるばかりである。


「セレーネはジュアンを蘇生しようとして、その過程で力を手にしたってことですよね?」


「ああ」


 少年の言葉を肯定した長老。しかしユウキには更なる疑問が生じた。


「なら、僕らの前に現れた奴は何者なんだろう……?」


「現れた奴?」


「ジュアンを名乗る奴が、少なくとも2回、僕を殺しに来ているんです。セレーネの遣いだって言ってましたが」


 大昔に死んでいるはずの人間が、どうやって己らの前に姿を見せているのか。そんな疑問である。


「……それよりも、今は鎖の破壊に集中しましょう」


 唸るだけの時間は無駄だと判断し、アインズは沈黙を切り裂く。


「そうですね」


 考えても分からない事より、まずは目の前の課題を解決しようとの意図であった。


「戦いに出るの?」


 大人しく話を聞いていたピュラーは、いつの間にかユウキの前に。ピョコンと小動物のように跳ね、少年に問うた。


「うん。四本目の鎖も斬らないとね」


「応援してますよ、ユウキ様!」


「う、うん……」


 己に向けられた熱すぎる視線に困惑しながらも、ユウキは次の戦いに向けて決意を固める。


 どのようなバケモノが鎖を守護しているのか。予測するに足る根拠は無いにしろ、少年は内心で色々と想像して用心していた。


 月の解放は近い。それで目的が達成できるのかユウキには分からなかったが、少なくとも落ちた月を戻すことは出来るだろうと考えた。


「それ、武器?」


 ピュラーは次に、アインズや桜華の方を見る。彼女らが腰に携えた刀剣を見るなり、指さしてそう言った。


「そうよ」


「武器がどうかしたの?」


 少女は少しの間考え込んだ後、言葉を続けた。


「ユウキ様が居るのに、その他たちも戦うんだ。もしかして大きい人も?」


 冗談やからかいの意図は無く、ピュラーはただ純粋に聞いたのだが……。


「ねえアインズ殿。あの子、斬っちゃうね」


「………………挟み撃ちにしましょうか」




 一行は、ヴェルクリシェス付近の鎖へ。非戦闘員のポリアは長老の家に預けられた。歳の近い赤髪の少女ピュラーが、彼女を各所に案内する事になっている。


──何冊の帳面が埋まるのかな


 勉強済みの国でさえ、数冊使い切るほどに何かを書き留める彼女。全く未知の集落となると、その規模は計り知れない。


「さて、やっちまうか」


「ええ、お願いします」


 鎖へと近付いたタヂカラは、パーツの隙間に指を入れ力ずくで広げる。その内部にはやはり妖しく輝く月長石が存在していた。


「四本目、行きましょう!」


 少年が鼓舞し、三人は「おう」と気合を込めた返事をする。それを合図に、ユウキは鎖の核となる石へ手を伸ばした。




 ──真っ白な神殿


 最初に目を覚ましたユウキは、近かった桜華、タヂカラ、アインズと順に声をかけて起こした。


 頂上にある大きな建物は、ニューラグーンの時と比べるとかなり近くに感じられた。同時に、天に座する月と思しき禍々しい天体もまた、圧迫感を強めている。


「今回のはどんな奴かね」


 頭の後ろで手を組みながら階段を上る桜華が呟いた。


「……間違いなく、苦戦は強いられるわよね」


 初めて討った守護者カマイタチから前回のオオタケマルまで、圧勝であった事はただの一度も無い。彼らはいつもギリギリの所でなんとか勝機を見出してきた。機転だったり新しい仲間だったり、何がきっかけになるかはその時次第であった。


「ふん。何が来ても、ぶっ倒すだけだ」


「なんか楽観的だね、タヂカラ殿は」


「でも何が来るか分からない以上、それくらいの心持ちで居るのが良いかもしれないですね」


「まあね〜」


 長く苦しい上り階段も、やがて最後の一段となる。毎度の如くフロアの中央に台座が設置されている。


「なんだか、気持ち悪い感じがするわね」


 その台座に近付くにつれ、彼らは何者かの視線を強く感じた。一箇所から見られているのではなく、あらゆる方向から監視されているような、奇妙な感覚である。


「来るぞ!」


 タヂカラが声を上げるのと同時に、どこからか閃光が放たれる。光がおさまると、台座があった位置には四足のバケモノが現れた。


「牛、ですかね……?」


「私の知ってる牛は、牛の顔してるよ」


 体の大きさや骨格は誰もが知る牛に相違無いが、顔面は人間に似ている。人面牛とでも表現すべきそれは、見るだけで不快を感じるようなおぞましさである。


 何よりも不気味なのは、顔以外にも、あちらこちらに目が存在することだ。首や四肢、腹や背中に至るまで全身に在るそれは定期的に瞬きをする。


 まるで、死角は無いと言わんばかりの容姿である。


《我は、鎖の守護者クタベ。巫女様の崇高なる目的を阻害せんとする愚者を、葬るモノである》


 一同の脳内にクタベと名乗ったバケモノの言葉が響く。高い声と低い声が奇怪な塩梅で入り乱れており、聞き取りにくいようで容易に捕捉出来るものであった。


「教えろ、バケモノ。月の巫女の目的は何だ?」


 ユウキが問うと、クタベは身を翻して人間たちから距離を置いた。顔の目を見開き、また不協和音にて言葉を放った。


《巫女様から至宝を奪った愚劣な世界を、罰することである》


「ジュアン、か……」


《もう話す事は無い。無駄な抵抗などせず、潔く罪を償うが良い!》


 クタベは対峙する罪人らにそう強く伝え、全身の目から光を放った。


──今のところ不調は無いな


──食らっちゃった以上、何かが起きる前にやるしかない!


 バケモノの能力によって視野狭窄や運動失調を経験した一行。今度も何かしら不利な状況になるだろうと警戒しつつ、剣を抜いた。



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