1-10.無謀な闘争
——ブライトヒル王国城門近辺
走り出したユウキは、大急ぎで市街地へと向かう。
自身が、クライヤマが、そして何よりリオが。
この地獄のような出来事の黒幕ではない事を証明する唯一の方法。
それは、リオから日長石を託されたユウキ自身が戦いに身を投じ、事態の収束に臨むことであった。
「あっちから騒音が聞こえる……」
生まれて初めて見るブライトヒル王国の街並みだが、喧騒は土地勘のない彼をも容易に導く。さらに走り、城下街へと出た。
ここまで来ると、既に戦いの痕跡が見られる。
「うう……ひ、人の死体……‼」
無惨にも切り裂かれた、もう動くことのない人間だったモノ。
「けど、これくらいで諦めるわけには……」
気を強く保ち、騎士の死体へ近寄る。
「ついてる……のかな? まだ、きれいだ」
その手元には、剣が転がっていた。比較的、美品であった。
「くそっ、い、意外と重いな」
始めて手に取った武器。
アインズを始めとする騎士たちが軽々と振るっているそれは、
全くの素人でしかないユウキにとっては、持ち上げるだけで一苦労の代物であった。
「よ、よし。なんとか」
よろけながらも、武器を手にした。
——と、そこへ。
——グギギィ……
「……っ! バ、バケモノ⁈」
人間の子供ほどの大きさをした小型が、少年を見て呻いた。
彼とて覚悟は決めていた。
だがしかし、騎士でも何でもないユウキはバケモノを恐れた。
あの時とは違い、死にたいという感情に支配されていない。
むしろ、やるべきことを見つけて、真逆の感情を抱いていた。
そんな中、一人で遭遇してしまったバケモノは、
天使などではなく、やはり恐るべきバケモノに見えた。
——ウギギ‼
「う、うわ!」
目を瞑ってしまった。
ろくに相手の動きを観察せず、ガムシャラに剣を振る。
——ウギャァ⁈
「あ……た、倒した……?」
重さに引っ張られ、尻もちをつきながら当てずっぽうに振り回された剣は、奇跡的にバケモノを捉えた。
目を開けた彼の視界に、小型バケモノの死骸が映った。
「勝てたけど、こんなんじゃダメだ。こんな、偶然の勝ちじゃ」
再び重い剣を持ち上げ、喧騒が最も大きそうな方向へと進む。
——ブライトヒル王国市街地中央
「う……で、でかいな……」
更に戦場を駆けたユウキは、今度は大型のバケモノと遭遇してしまった。
自身の倍とまではいかないものの、体格差が有りすぎる存在に数歩、後退りした。
——グギャァァァ‼
「き、来た‼」
バケモノが長い爪を振り上げ——
「う‼」
——勢いよく振り下ろした。数刹那前までユウキが立っていた場所に爪があった。
「あ……危なかっ——」
安堵しようとしたユウキ。
だがバケモノはそれほど優しい存在ではなかった。
振り下ろした爪を、そのまま地面に擦りながら彼の方へ。
「や、やめ——」
また、目を瞑ってしまった。
——ああ、僕の使命は。
——ああ、こんなところで幕を閉じるのか。
諦めてしまったわけではない。
かといって、諦めなければなんとかなる、
などという根性論でどうにかなるような状態でもない。
彼の心理状態にかかわらず、終焉はまっすぐとユウキに迫る——が。
「君、目を開けて‼ 立ち上がるんだ!」
「——え?」
死を間近に控えた彼を救ったのは、またしても騎士であった。
「くらえ、バケモノ‼」
——ウグギャァア⁈
首元からヘソまでを裂かれた大型のバケモノは、断末魔と共に地面に倒れた。
「あ……ありがとう、ございます」
見ると、その人物は、やけに豪華な装飾の鎧を身に着けていた。
第一部隊長を務めるアインズの鎧姿と比較しても、豪華さに大きな差を感じる程であった。
すなわち、彼女よりも地位が上の人物であると想像できる。
「君は……どうしてこんな所へ出てきた?」
顔を見て、相手がクライヤマから救助された少年であることに気が付いた様子。
「やらなきゃ、ダメなんです。僕が、やらなくちゃ!」
「……? とにかく、ここは危険だ。事態が終息するま——待つんだ!」
話も聞かずに走り出したユウキ。
騎士が静止を促すも、止まらない。
「君、そっちは——くそ、邪魔をするな‼」
いつの間にか周辺に集まってきた、小型と中型の群れ。
ユウキを追う事はかなわず、仕方なく対処に当たる。