1-9.光陰の危地
「はあ……はあ……」
重い一撃を食らわせたアインズだが、彼女もまた疲弊が進行する。
「立て、アインズ!」
素早く体勢を立て直したバケモノは、生成した氷の剣を、今にもアインズに振り下ろさんとする。
その様子を見ていたツヴァイは、彼女に回避を促すが——
「——うっ‼」
今から立ち上がっても間に合わない。
そう判断したツヴァイは、瓦礫から剣程のサイズの金属棒を拾い、大急ぎでバケモノのもとへ。
とりあえず攻撃を止められれば良い。
その一心であった。
「させるか!」
剣が振り下ろされる。
アインズと刃の距離が縮まっていく。
彼女が裂かれる、その直前。
なんとか攻撃を防ぐことに成功したツヴァイ。
勢いそのまま、彼女から刃を遠ざけ、鍔迫り合いに持ち込む。
「バケモノめ!」
——ググ、グギュギググ
「助かったわ!」
命拾いしたアインズは一歩退き、再び剣を握る。
ツヴァイが引き留めている間に、彼女は考えた。
どうしたらこの状況を打開できるだろうか。
「くそっ‼」
ツヴァイが握る金属棒は、次第に凍っていく。
一番厄介なのは言うまでも無く、冷気を操る力であろう。
それはどうしようもない。
防ぐにはバケモノを殺す他ないが、それが出来なくて困っているのだ。
「あれは……」
状況を観察していたアインズの目に、嬉しい光景が飛び込んできた。
火事だ。
化け物が空気を冷やし続けたことによって湿度が低下し、砕けた木材が燃えやすくなったのだろう。
「——ブリッツ・ピアスッ‼」
未だ小さな炎だが、細長い氷の武器を破壊するには十分。
そう睨んだアインズは、道中で燃える木材を剣で攫い、鍔迫り合い中の剣に向かって亜光速の突きを見舞った。
——ギギギ!
「やったわ!」
目論見通り、氷纏いが持っていた剣の破壊に成功した。燃える木材は勢いそのまま、アインズの剣から離れる。
——グググギッ‼
憎しみに歪んだ表情をしたバケモノは、右手を天に向けた。
「気をつけろ、氷の塊だ‼」
空気中の水分が、半ば強制的に凝集されていく。
直径数十センチメートルほどになったそれを掌に乗せ、くすぶる炎に落とした。
「こいつっ‼」
大きく広がれば有効な攻撃となったであろう火種は、無慈悲にも消されてしまった。
問題はそれだけにとどまらず——
「まずいわね……地面が濡れたわ」
「場所を変え——」
融けた氷が水となり、地面を濡らし、そして——
「ちっ、手遅れか!」
「動けない……‼」
足を巻き込んだまま地面の水が凍り始めた。
無論、身動きが取れないという厄介な状況に陥ってしまう。
——ギギギグゥ‼
「……本当にまずいな」
バケモノは、自身の腕を核として氷塊を生成。
巨大な槌と化したそれを振り上げ——
「ツヴァイ‼」
「ぐおっ⁈」
足を拘束されて動けなくなったツヴァイを、氷の槌が勢いよく襲う。
左わき腹に打撃を受けた彼は、いとも容易く吹っ飛ばされた。
それと同時に、懐に忍ばせていた日長石の首飾りが飛び出した——。