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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第五章:選択
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5-9.命の選択

 ──ブライトヒル王国市街地、奥


 仲間の死を目の当たりにし、一時、混乱したアインズ。走った末に転倒し、少し頭が冷めた。


「近くで、誰か戦ってるわね」


 不規則かつ、妙なインターバルのある金属音が繰り返し聞こえた。よろよろと立ち上がり、方向を確かめる。


──っ!


 ふと、温かさを感じた。幾度となく近くで感じた覚えのあるものだ。その正体に関しては、すぐに察しがついた。


「ユウキ君?」


 アルニムの最期がフラッシュバックし、一気に不安が大きくなる。彼が同じような目に遭うかもしれない。そう思うと、自然と足が動いた。


 音の発生源へたどり着くと、一人の騎士が鎌を持ったバケモノと戦闘をしていた。そのすぐ近くには、血を流して石壁によりかかる少年が見られる。ボロボロでありながらも、彼らへ歩み寄った。


「ツヴァイ!」


「アインズか、丁度いいところに来た」


「ユウキ君は?!」


「気を失っている。かなり出血が見られるから、危険な状態かもしれん」


「そう。そいつが襲撃の核ね? 助太刀するわ。さっさと倒して帰投しましょう」


 よろめきながら剣を抜く。しかし、戦闘への参加はツヴァイによって遮られた。


「待て! そんなボロボロの体で何が出来る」


「それは、お互い様でしょ?」


 消えたり現れたりするバケモノを観察しつつ、攻撃できる隙を伺う。


「……よく聞け、アインズ」


「なによ?」


「ユウキを抱えて撤退しろ。こいつは私が食い止める」


「……は? 何を言って──」


「どうやって鎖を壊した?」


「どうやってって……ユウキ君の、太陽の力よ」


「なら、なおさら言った通りにしろ」


 視線はバケモノに向けたまま、言葉を続ける。


「お前も分かっているだろう? その子は、世界に必要だ。みすみす死なす訳にはいかん」


「そんな……だからって、貴方を置いていけは──」


「現実を見ろ! あの状態のユウキが事切れる前にこれを倒し、全員で共に逃げるなど……ぐおっ?! 実現の可能性は皆無だ!」


「そうだけど……そうだけど!」


「迷っている暇は無い! さっさと選べ! 今、最も必要なのは誰だ?! 誰の命が一番大切だ!」


「……っ!」


──いい? アインズ

──命は等しく尊いものなのよ


またしても、母親の呪いが蘇る。


「早くしろ!」


「命は……命は……っ!」


「アインズ!」


「わ……分かったわ」


 剣を納め、ユウキの元へ。少年を背負い、亜光速で退避。


「おっと、バケモノ。貴様の相手はこの私だ!」


──ググギャア!


「ぐああっ! ぐうっ!」


 大振りの一撃がツヴァイを襲う。また一つ傷が増え、彼の動きはさらに鈍る。


「ツヴァイ!」


「振り向くな! 走れ!」


 歯を食いしばり、よろめく足に鞭を打って走った。ユウキが背中と肩に負ったのは、治療をすれば助かる傷だ。しかし、放っておけば出血量のため死に至る。


「そうだわ、ポリア! あの子に頼めばすぐに救援に戻れるじゃない!」


 一筋の希望を見出し、アインズは城へと向かう。自身の意識も朦朧としている。それでも、必死に地面を蹴り続けた。




 ──ブライトヒル王国城、医務室


 大量の負傷者が運び込まれている。隊長室にポリアの姿が見えなかったため、一度ユウキをここに預けることに。


「ポリアを見なかった? 私たちと一緒に帰ってきた子なんだけど」


「ああ、あの子ですか。先程、意識を失った状態でここへ運ばれて来ましたよ」


「……え?」


「この奥です」


 案内されるがままに進むと、確かにポリアが眠っていた。


「いったい何が?」


「この子、他人を治療する力を持っているようですね」


「ええ」


「大量の負傷者を見て、いても立ってもいられなくなったようだと聞きました。要するに、力の使いすぎです」


「ポリア……」




 ──ブライトヒル王国城、廊下


 歪んでいた景色は、更にうねる。医務室を後にし、第二部隊の作戦室へ足を運んだ。待機している騎士を求めての行動である。


「入るわよ」


 戸を押した勢いで倒れてしまわぬよう、踏ん張る。


「アインズ様?」


 中には数名の騎士が居た。ツヴァイから待機命令を受けており、そわそわしていた。よほどの有事にのみ出撃を許可されている。


「ゆ、有事よ。ツヴァイが東部市街地の奥で……一人で強力な奴と……戦ってる。お願い、助けに……」


「隊長が?! すぐに向かいます! おい、行くぞ!」


 他数名の待機騎士にも出撃を促し、第二部隊が隊長の援護に向かう。彼らを見送ったアインズは、自身の足がそれ以上前に進まないことを憎んだ。


「はぁ……はぁ……私も、行かないと……」


 なんとか壁伝いに歩き、医務室へ向かう。一瞬でも休めば、あのバケモノと対峙する事も出来るだろうと見込んだからだ。


「アインズ隊長? ご無事ですか?!」


 そこへ、第一部隊の騎士が通りかかる。明らかに問題がある隊長に駆け寄り、肩を支えた。


「ありが……とう。私はいいから……待機してる第一部隊も、東部市街地の奥に……ツヴァイの……救援に……お願──」


 ここで限界を迎えたアインズ。支えも虚しく、その場で膝から崩れ落ちた。

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