5-7.大鎌のバケモノ
──ブライトヒル王国市街地、他所
鎖の破壊を目論む少年ユウキと、旅の仲間であるタヂカラもまた、凶報を聞き付けて外へ出た。アインズらと同様に散開し、各方面へ散る。
「酷い。かなり大規模な襲撃なんだな……」
街の中央から奥へ進むに連れ、凄惨さは増していく一方だ。崩壊した建物もそうだが、何より、人間の遺体がユウキの精神に大ダメージを与える。
「あれは……囲まれてる!」
正面に、一人の騎士を発見。複数のバケモノに包囲されており、いつ攻撃を受けてしまってもおかしくない。
この状態で一撃でも貰ってしまうと、ドミノ倒し的に、死ぬまで苦しめられるだろう。
「サン・フラメン!!」
剣に炎を纏わせ、騎士の背後に迫るバケモノを両断。太陽の力を受けた敵は、苦痛に歪んだ顔で断末魔を上げた。
──ふう
刃についた血を払う。
顔を上げ互いの顔を見て、先に反応したのは騎士であった。
「君は……ユウキではないか!」
「ツ、ツヴァイさん?!」
知っている声。知っている顔。ブライトヒル王国騎士団、第二部隊長のツヴァイである。
「戻っていたのか」
「はい、つい先程」
「そうか。……凱旋のセレモニーと行きたいところだが、生憎、取り込み中でな」
「みたいですね」
剣を構え、二人は背を合わせた。敵はまだまだ居る。十数匹の群れだが、彼らには数十にも数百にも見えた。
「やれるか?」
「やらなきゃ、死ぬだけです」
「……ふん、見ないうちに勇ましくなったな」
──フギギ、ギグギャ!
「行くぞ!」
「はい!」
クライヤマの少年とブライトヒルの騎士。背を合わせて地べたに座った。息を切らしながらも、互いの健闘を讃え合う。
「はぁ……はぁ……なんとか、なりましたね」
傷を負いながらも、群れを殲滅した二人。解放感を求めて空を見るが、待っていたのは圧迫感である。
「ああ……。だが気を抜くな。あの氷のバケモノの様に、襲撃を率いる……デカブツが居るはずだ」
「ですね。そいつを……見つけ出さないと……」
ツヴァイが先に立ち上がり、ユウキに手を差し伸べた。少年はそれに甘え、ゆっくりと立った。
「僕らが居ない間にも、こんな襲撃が?」
「襲撃じたいはあった。だが、ここまで規模の大きいものは無かったな」
「なるほど……もしかしたら、焦ってるのかも」
「焦っている?」
「ああ、そっか……」
ジュアンやセレーネと言った、バケモノ以外の敵を知っているのは旅のメンバーだけだ。
「まあ、後でゆっくり話しますよ。とにかく、敵は奴らバケモノだけじゃなさそうで、鎖が壊れて、そいつらは焦っているんじゃないかなって」
「となると、我々は敵を追い詰めている事になるな」
「ええ、そう願いた──」
危機を脱したのも束の間。話などしている暇は無いぞと、そう示す様にソレは姿を見せた。
「──バケモノ」
「ああ。この強者感、間違いない。襲撃の核だろう。しかし……」
ソレを前に、ツヴァイは背筋が凍るのを感じた。ユウキもまた、手が震えている。新手のバケモノは、三体の守護者と戦った少年でさえも、恐怖に陥れた。
「……どうやら、私は疲れきっているようだ。奴がどこからどう現れたか、まるで分からない」
「奇遇ですね……僕もです」
大きさは人間の五割増しほど。そんな巨体が歩けば、何かしらの気配を感じるはずだ。だが、二人が気付いた頃には、敵はそこに立っていた。
「見るからに強そうですね」
顔はバケモノだが、骨格はより人間に近い。顔の下には、髭のような短い触手が蠢く。フード付きのローブを身に着けているようにも見え、死神を思わせる。
「ああ。それに、あの武器……敵とは思えんな」
ツヴァイの大鎌によく似た武器を所持している。相違点と言えば、バケモノのそれは、いたずらに肉々しいことくらいである。
──ゴゴグ……ゴゴグ……
低音と高音が入り混じった声で、ユウキとツヴァイを威嚇。余りの気味悪さに震えた。
「ここで奴を討つぞ、ユウキ!」
「はい! サン・プロミネンス!!」
先制攻撃をと、炎を飛ばした。
「くっ! ダメか」
敵は鎌を横に降り、襲い来る炎を散らした。
「ラスレート!」
ツヴァイは即座に力を使い、自身の武器を強化。紫色のオーラを纏った鎌が形を変え、バケモノの腰辺りへ向かう。
しかし──
「なにっ?!」
ツヴァイの一撃は、空を斬った。跳んだのではない。バックステップでもない。回避などと言う生易しい行動ではなかった。
「消えた……?」
振り抜いて一周したツヴァイ。地を踏み付けて勢いを止め、周囲を警戒する。
「後ろだ、ユウキ!」
「なっ?! サン・フラメン!」
防御力の足しになればと、力を使った剣でガードした。
「お、重い……っ!」
腕が痺れた。しかし、今さら痺れくらいがなんだと意思を強く持ち、反撃に出る。
「うおおおおおお!」
受け止めた鎌を払い、胴体目掛けて振り上げた。
──ググゥ……!
これは胸を掠め、ほんの僅かに日長石の力が敵に流れ込む。その不快さ故か、バケモノは怒ったように顔を歪め、また姿を消した。