表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第五章:選択
121/180

5-5.凶報の声

 王国の紋章が入った絢爛な馬車と、小さな友好国の刻印が施された座席車。その傍を走る重種の馬。各国から集まった五人を乗せ、出発地、ブライトヒルへと帰還した。


──戻って来た……!


 本当にクライヤマを中心に一周したのかと、実感を得られないまま馬車で市街地を進んでいく。


「おっきい堀! おっきい橋! おっきい門! おっきいお城! すごいですブライトヒル王国!」


「そ、そう……。楽しんでくれて何よりよ」


「でも確かに、改めて見ると凄いですよね、ブライトヒルは」


 街の規模、城の大きさ、人の数。それら全てが、これまでの旅で見た他国よりも秀でている。


 クライヤマの次に見たのがブライトヒルであったユウキは、故郷の外はどこもこのレベルだと思っていたが、どうやら大きな勘違いであるらしいと、そう気付かされた。


「あの部分の補修に、トリシュヴェアの花崗岩が使われたと聞いたことがあります」


馭者をしながら、アインズは城を支える土台を指さして言った。


「そうなんか。実際に使われてんのを見るのは、初めてかもしれねぇ」


「他にも細かい所に使われてるいるとか。まぁ、私も詳しくは分かりませんが」


「いやぁ、さっそく勉強になったぜ」


「それは何よりです」




 ブライトヒルに入って暫く走ったところで、馬車が停止した。窓から外を見ると、すぐそこブライトヒル王国城が見えた。アインズと門番の会話が聞こえてくる。


「アインズよ。通れる?」


「おかえりなさいませ、アインズ様! もちろんでございます。お通りください」


「そっか、アインズさんって、隊長なんですよね! 騎士団の歴史なんかも知りたいなぁ!」


 ポリアの好奇心は、いつどこに向くか分からない。己の殻を破った彼女を止めることは、両親でさえ難しかったのだ。


「アインズ様だって! 様が付いてるよ、ユウキ殿!」


──貴女にも付いてましたよ


 ユウキの左隣に座る桜華。アインズの名に位の高い敬称が付いていることを笑いながら、彼の方を見て笑った。


「あはは……あ──」


 彼女の顔を見ながら愛想笑いを返すユウキだったが、桜華の背後──扉を開けて笑顔で立つアインズを発見してしまう。


「ごめんね〜桜華」


「ひいっ?!」


「他国の国防組織の人間は、入城不可ですって」


「ええっ?! ごめんなさい嘘嘘! 騎士様! アインズ様! 美人隊長様ぁ!」


「分かればよろしい」


──怖っ


 姿勢を戻し、視線をアインズの方へ。


「私は所定の場所に馬車を停めてくるから、ここで降りて待っててくれる?」


「了解です」


促されるがまま降車し、綺麗に舗装された石床へ。


「それと、ユウキくん」


「はい」


「前に使ってた部屋は覚えてる?」


「ええ……たぶん」


「まだ使えると思うから、タヂカラさんと一緒にそこで休憩しててね。何事も無ければ、すぐに迎えに行くから」


「わかりました」


 旅に出る前の記憶を必死に探る。居たことがあるとは言え、ほんの数日だ。迷ったら、大男と共に城内を練り歩くことになってしまう。


「それから、ポリアは私の隊長室に案内するわね」


「はい!」


「……私は?」


「三人一部屋か、芝生か?」


「ううんアインズ殿だぁ〜い好きぃ〜」


 守護者アマビエの如く体をウネウネさせながら、芝生は嫌だと媚びを売る。唇を変に尖らせて指をあて、瞼を盛んに開閉。


「……芝生ね」


「え、ごめんて」


しかし、虚構の愛に向けられる視線は冷ややかであった……。




 ──ブライトヒル王国城、一室


 クライヤマから救助された少年が、目を覚ました部屋。久方ぶりに感じるベッドの柔らかさに感動しつつ、旅路での睡眠環境が、如何に劣悪であったかを再認識した。


「ええ、目を覚ました時にはもう、この部屋でした」


「起きたら知らねぇ所に居たなんて、大変な騒ぎだろうよ」


「まあでも、あの時の僕は……いや、なんでもないです」


 窓から見える景色は、当初とは様変わりしている。


 ニューラグーン方面。アインズに言われて初めて目にした巨大な無機は、もう無い。


──全破壊まで、もう少しか


逸る気持ちはあるものの、慌てたとてどうにもなりはしない。


──ジュアンとか、月の巫女とか


──気になる事は沢山あるけど


 次の敵が誰で、どのような戦闘になるのかは、彼にはまだ分からない。体を休める事も、戦いの内であると。自身にそう言い聞かせた。


「ふあ〜。気ぃ抜けたら眠くなってきたな」


「そうですね。僕も瞼が落ちそうですよ」


 しかし、世界を混乱させているバケモノと言う存在にとって、少年の心持ちなどは知ったことではない。いつ如何なる時であろうと、絶望を連れてやって来る。


「襲撃! 襲撃! 騎士団員各位、直ちに出撃!」


……微睡む暇もなく、壁の向こうから凶報が告げられたのである。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ