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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第五章:選択
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5-3.帰還の前夜

 ——ブライトヒル王国近郊、平野


 トリシュヴェアを発ち、二回目の夕暮れ。


 あたりが暗くなる前に、ユウキ一行は野営の準備にかかる。馬車を停めて馬を癒し、火を起こす。


「薪の準備、できました」


「ええ、ありがとう」


 荷物の中から火打石と打金を取り出し、ほぐした繊維状の植物に火花を落とす。わずか数回の挑戦で火種ができ、そこへ息を吹きかける。大きくなった炎に、少しずつ薪をくべていく。


「野宿も慣れたものね」


「そうですね。もう、何回目か分からないですし」


「悔しいけど、アインズ殿の料理美味しいんだよね~。悔しいけど」


「よかった。食材が一人分浮いたわね」


「わわっ、ごめんって‼」


「ははは……」


——ずいぶん賑やかになったな


 思い返してみれば、最初はユウキとアインズの二人だけだった旅のメンバー。良くも悪くも静かで、二人は火を囲んで穏やかに話をしたものである。


 だが今は違う。ポリア、桜華、タヂカラと仲間が増え、騒がしいほど賑わった。これはユウキにとって、寂しさの解消とともに、己の実績を保証するものでもあった。


「つまり、ニューラグーンやブライトヒルのような体制のことです!」


「ほう、そいつが王制ってやつか! さすがポリア大先生、分かり易ぃ説明だ!」


「えへへ~」


 仲間ができた。護る者ができた。賛同してくれる者ができた。慕ってくれる者ができた。


 冷たい岩戸に背中を預け、バケモノを前にして、己は何を考えていたのだろうか。ふと、あのような思考が、頭から消えていたことに気付いた。


「ねえねえ。二人だけの時は、どんな感じだったの?」


「別に、今と変わらないわよ」


「最初の夜でしたね、剣を教えてくれたのは」


「そうだったわね。あの時に比べれば、ずいぶん腕を上げたんじゃない?」


——なんだか恥ずかしいな


 剣を持つことで精いっぱい。上手く武器を支えられず、逆に振り回されていた。アインズに向かって全力で放った攻撃は、一歩たりとも動くことなく止められた。


 幾度かの戦いを経て、その当時よりは強くなれたのではないかと、ユウキは自信をもった。


「んじゃ、私と斬りあってみる?」


「……いえ、遠慮します」


——勝てるわけがないんだよな……


 だからと言って、上には上がいることも理解している。ブライトヒル王国騎士団の第一部隊長や、ウルスリーヴルの国防を担う防人の頭には及ばない。いくら剣の扱いが上達したとて、経験が圧倒的に不足しているのだ。


——それに、やっぱり僕は一人じゃ何もできない


——バケモノを倒せるのも、鎖を斬れるのも


——全部、リオの助けがあってこそだ


「ああ、一つ思い出したわ」


——?


「ブライトヒルを出た次の日の朝、重大事件が——」


「うわあああああ‼ なんですかそれ僕知らないです‼ 夢か何かじゃないですかね⁈」


 見てはいけないものを見たという、どちらかといえばユウキにとっての大事件があった。朝日を反射して輝く水面と、川岸に丸めて置かれた衣服、そして例のモノが、ユウキの脳裏にフラッシュバックする。


「え、何それ気になるんだけど」


「気にするような事じゃないです」


「あれ? 知らないんじゃなかったのかしら?」


「いいじゃないですか、もう! お互い忘れましょうって!」


……暗くなった平原に、ユウキの絶叫だけが響き渡った。


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