1-7.凍てつく空気
——ブライトヒル王国市街地
ある程度のバケモノを退け、市街地にて再会したアインズとツヴァイ。
「やはり、駆け付けるのが遅かったようだな」
「……ええ、そうね」
ツヴァイの言葉を聞き、彼が見に行った方面の被害状況を察したアインズ。
ツヴァイもまた、アインズの返事のみで勘付いた様子であった。
「そうか。クライヤマも、このような地獄絵図だったのか?」
「ええ。ただ、あそこは民間人しかいないから、悲惨さで言えば桁違いね」
「ほう。住民を虐殺してまで……。巫女の狙いは何なのだろうな」
「またそんなこと言って……」
「逆に訊きたいのだが、お前はなぜ疑わない? 今回の件で、お前は実際に現場を見ているはずだ」
クライヤマに足を運んだのは、アインズ率いる第一部隊だけ。
すなわち、想像や見聞きでなく自身の目で現状を確認したのは、ユウキと彼女らだけと言う事になる。
第三者目線に限った話では、アインズらだけだ。
「お前たちの報告と現状からして、クライヤマが諸悪の根源なのは間違いないだろう?」
詰められて少し困った顔をしたアインズだったが、しかし、まっすぐにツヴァイの目を見て言葉を返した。
「まだ、見てないわ」
「見ていない?」
「まだ、クライヤマの悪意を見てない。邪って決まってわけじゃないわ」
「……」
「……巫女も、ユウキ君もね」
「ふん、信じていると言う奴か?」
「信じるというより、一方的に決めつけていないだけよ」
「そうか……ところで」
先ほどから不自然に身体を縮めるアインズ。
それに少し、震えているように見える。
「体調でも悪いのか?」
「え? そう言う訳じゃないけれど……何だか寒くない?」
「……言われてみれば、少し涼しいとは思うが」
未知のバケモノとの戦い。
緊張もあるだろうし、戦っていれば身体を動かす。
むしろ体温が上昇して暑くなるのが普通なのだろうが、
ツヴァイはともかく、アインズには寒いとすら感じられた。
「「……」」
一体何事かと、二人は周辺を見渡す。
が、寒さ以外の異常を発見するには至らない。
「うう……風邪でも引いたのかしら……」
「……いいや、妙だ」
「?」
「急激に寒さが増しているように感じる」
つい先ほどまで、「言われてみれば涼しい」と言っていたツヴァイ。
僅か数十秒の間にその評価は「寒い」へと変わった。
「手が……」
いつの間にか、大鎌を持つ手がかじかんでいることに気が付いたようだ。
アインズもまた、両手に呼気をあてて温めている。
「この寒さ……まるで突きささるようね」
「ああ。冷風が吹いているわけではない。この辺りの空気そのものが冷えているように——」
——バリバリッ
「「——っ⁈」」
瓦礫と化した木材を踏む音が、二人の耳に入った。
非常に重い音で、踏まれた木材は確実に砕けているであろうと言う事は、想像に難くない。
それすなわち、人間の行為によって鳴ったものではない、と。