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【完結】天ノ恋慕(旧:太陽の少年は月を討つ)  作者: ねこかもめ
第四章 : 責務
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4─20.乞う資格

 ──最上階、王の間


 南部火薬庫の方面で火災が発生していると、王に報告があってから数十分。王や近衛兵、屋敷に残っていた者たちの耳に飛び込んだ轟音や怒号は、何が起きているのかを容易に想像させた。階下での喧騒は一時大きくなり、今ではほとんど聞こえなくなった。


「何だ! 何をしている! 早く鎮圧しろ!」


 人一倍高貴な格好をした老爺が喚く。言葉の矛先となっているのは、老爺──使役者の王に仕える近衛兵の男二人である。しかし危機に瀕した今、態度はもはや従者のそれではなかった。


「どうやったって無理だろ! 奴らは大岩を投下する方法を持ってるんだぞ!」


「なんだと貴様、何だその態度は!?」


「お、おい少し落ち着──」


「落ち着いてられるか! だから最初に言っただろ、労働者を抑圧し過ぎればどうなるか! きちんと説明しただろ!」


 この辺りの岩山で良質な花崗岩が採取出来ることを知った時、彼らは二派に別れて言い争った。先住民を力で支配して奴隷化するか、恩恵を与えて採掘を手伝って貰うか。多数派として勝利したのは前者の意見であり、今に至る。


「口答えをするな! さっさと奴らを殺しに出ろ!」


自分勝手な命令にこれ以上従ってなるものかと、近衛の男は語気を強めて王を否定する。


「嫌だね! 俺は死にたくない。そんなに収めたきゃ自分が出りゃあいいだろ、王なんだからそれくらい責任を負ったらどうなんだよ、えぇ?!」


迫る死を拒絶した彼の目には一雫の涙が浮かんでいた。同時に、拳もまた強ばって震えた。


と、そこへ──



「お前らん中にも、まともな事言う奴は居るんだな」


二階までを制圧し、一人で階段を上がった反乱の首謀者、タカミがやって来た。使役者の死体から奪った剣を右手に持ち、返り血を浴びてなお笑顔で居るその姿は、怨嗟の鬼と言い表せるものだ。


「ちち、小さい事は良い! 殺せ、奴を殺せ!」


タカミの恐ろしい顔を見た王は、鬼を指さしながら再度喚いた。


「じじいの言う通り、話は後だ!」


「畜生!」


己まで死んでたまるかと、近衛の二人は剣を構えた。


──おっと、こりゃあ分が悪いな


戦うことに不慣れな反乱メンバーがここまで順調にコマを進められたのは、タカミの力による投石と、事前に練った誘導作戦の恩恵である。勢いで来てしまったが、騎士でも戦士でもないタカミにとって一対二、ないし三は、本来は絶対に避けたい状況だ。


──誘い込むか


 つい先程通った出入口から部屋を出る。王の間での戦いに勝ち目が無いと判断したタカミは、ならば自身の得意な場所に変えてやろうと思案した。すなわち、多くの瓦礫が転がる廊下である。


「どこへ消えた?」


「こっちだ!」


叫び声とともに、大岩によって瓦礫と化した壁の一部が近衛兵目掛けて飛ぶ。


「ぐあっ?!」


「お、おい、大丈──」


倒れた仲間を介抱しようとした男だが、そこへ鬼が迫る。


「よそ見してんじゃねえ!」


「く、くそ……」


剣に腹を貫かれた男は立つ力を失い、その場に膝をつく。


「悪く思うなよ」


「──っ?!」


瀕死の男の襟を掴み、大岩の穴に放り投げた。断末魔に耳を貸すことなく、もう一人の男の元へ。投げられた瓦礫によって怪我をおっている。


「や、やめ──っ!」


二人目もまた大穴へ。


「これで残りは……」


再び王の間へ足を踏み入れると、逃げ出すために窓へ向かう老爺を発見した。


「言っとくが、ここは三階だぞ」


「うう、うるさい! 捕まるくらいなら死んだ方がマシだ!」


「……はぁ」


無駄に言葉を放ちながら周囲を見たタカミ。すぐに投げられそうなのは花瓶くらいであった。


「逃がすわけねぇだろ!」


「ひいっ?!」


それを手に取り、王の顔面に投げつける。


「ぎゃああっ!?」


顔を逸らした王だったが、額──左目の上あたりに直撃し、傷ができた。


「きき、貴様、なんて事を!」


痛む場所を押さえた王の手に血が付いた。頭部の傷であるが故に想像するより出血が多い。


「大人しくしろ」


「ぐっ!」


また逃げようとした老爺の胸ぐらを掴み、タカミはその目を真っ直ぐに睨んだ。


「や、やめてくれ、頼む、殺さないでくれっ!」


「……あぁ?」


 ここまで冷静を装ってきたタカミだが、老爺の命乞いを聞いて少し頭に血が上る。


「てめぇに……命乞いをする資格があると思うか?」


「頼む、頼む!」


襟を握る力が更に強くなる。首が絞まり始めた老爺は苦しみながら、なおも懇願し続けた。


「い、命……だけは!」


「やめろ」


「助けてくれ!」


「……やめろ」


「お、お願──」


「やめろつってんだろ?!」


「ふぐぁっ?!」


 我慢の限界を迎えたタカミ。ついに右拳を王の顔面にぶつけた。しかし、たったそれだけで収まっていい怒りではなかった。


「ふざけた事、ぬかしてんじゃねぇ!」


 再び襟を掴み、老爺を勢い任せに放り投げた。ドンと激しい音を鳴らして扉を突き破り、廊下へ飛び出る。


「てめぇらのせいで、どれだけ沢山の人間が死んだと思ってんだ? どれだけ、罪のない人が!」


「わ、悪かった! 謝る! 謝らせてくれ!」


「詫びたら何だ、アイツらが帰って来るのか? えぇ? ムスビも、ウズメも! 帰って来るってのかよ?!」


「そ、それは──」


──悪い、みんな


──ムスビ


──ウズメ


──俺はこいつを……殺したい!



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