ブラックアメリカのアリサカ銃
メキシコ陸軍第512歩兵連隊所属オロスコ小隊は、一九四三年十月、米領オクラホマ州州都オクラホマシティ北方にて偵察哨戒任務についていた。
行政機関はすでに別働隊が抑えており、住民の反抗、もしくは住民に紛れて潜り込んでいるであろうアメリカ軍の反攻作戦に備えたものである。
もっともアメリカ軍は数も少なく、僅かに抵抗を示した騎兵と砲兵、歩兵による部隊は、前衛の戦車部隊に瞬殺されており、彼我の実力差を悟ったせいか、残存戦力はもう積極的にしかけてくることは無くなっていた。
メキシコ軍の方でも、いまやステージは「戦後処理」に移っていると判断しており、オロスコ小隊に対しても、発砲は極力控えろ、との命令が下されていた。
従って、オロスコ小隊の二十七名には、あまり最前線にいる緊張感というのは無かった。
だいたい、土地の広さと人口が釣り合っていない。見渡す限り平原、それもあまり緑の多くない乾燥した土地なので、住民や家が圧倒的に少ないのである。
さすがにオクラホマシティに入った部隊は、あちらこちらで散発的な戦闘に見舞われたらしいが、オロスコ小隊の哨戒エリアとなった郊外では、そもそも人影を見つけることの方が難しかったのである。
「小隊長、この戦争、ずいぶんノンビリしてませんか? 哨戒任務はいいですけど、我々ここでこんなことやってますけど、同じ場所に一週間もいる、って戦場の雰囲気じゃないんですよね。アメリカ軍は本気でここを取り返しに来る、って上は考えているんですかね。
それならそれで、さっさと前進して、残りをやっつけた方がいいような気がします」
縦列の先頭を走っている歩兵移動車のハンドルを握り、助手席にライフルを置いていた一人が、後席に座る小隊長であるオロスコ少尉の方に向き直って話し掛けてきた。辺りは真っ平らの赤い大地が広がっているだけの空間だ。
油断するな、と一瞬言おうかとも思ったが、オロスコはその考えを捨てた。
「コタ軍曹、それはない。メキシコシティに迫っていたアメリカ軍は撃退されて撤退に全力で当たっているらしい。こんな状況じゃ、彼等にそんな余裕はないよ。反攻があるとしたら、メキシコ領からのアメリカ軍の撤退が済んで、部隊の再編が終わってからだろう。それに先に進むにしたって、こんなに広大な場所だ。危険性ならいくらでもある。それを完全に排除しないと前進だって容易じゃない。それこそ、前線部隊が孤立するようになったら、今度は我々がメキシコに逃げ帰らないといけないハメになりかねん」
「じゃあまだまだ戦争は続くんですかね」
「そうだな。アメリカ合衆国があっさりと負けを認めるとは考えにくいな。かと言って、いますぐ反攻に移れるとも思えない。早くて半年、遅ければ一年後とかじゃないのかな」
「そんなに先か、それにしても我々がここにいる意味ってのが今一つ分からないんですが、俺ならとにかく近くにいると分かっている敵を潰してこいって言った方がいいような気がしますけど。それがたとえオクラホマ州の外だとしても。ウィチタの飛行機工場をぶっつぶしたみたいに」
「俺にもよくわからん。サンチェス連隊長からは、とにかく今はここの住民を安心させるのが我々の第一任務だと言われているからな。戦うのはやむを得ない場合に限る、となっているんだ。つまりだ、向かってくるヤツには容赦しないが、抵抗しないなら住民には親切にしてやれってわけだ」
「おっと、小隊長、あの向こうの岩、今何かが動きましたぜ。お客さんじゃないですか」
「軍曹、クルマを停めろ。隊列を作る」
コタ軍曹が命令に従い、道から路肩へと乗り入れるようにクルマを停めると、後続の車両も次々とその向きに鼻先を揃えるように路肩へと並んで停車した。
「軍曹、クルマで円陣を作らせろ。もしこっちを襲うつもりなら、おそらく正面のはおとりで、他の方向から襲うつもりだ」
軍曹はすぐに無線で指示し、停車位置を円陣にさせ、隊員には戦闘待機させた。
オロスコ少尉は伝統的なアメリカ人の戦い方をよく知っていた。
おそらく岩山でわざと気を引かせ、そちらに向かって進ませた上で、背後から騎兵で奇襲をかけ包囲殲滅するのである。
西部劇ではお馴染みの戦い方だ。
もちろんオロスコ小隊のような小部隊相手に、そんな準備をして戦いを仕掛けてくるのは正規軍ではない。おそらく義勇軍か民兵か何かの類だろう。
オロスコ小隊の武装は哨戒任務ということで軽武装だ。
要するにピストルとライフルしかない。
そのライフルは、二ヶ月ほど前、なんの前触れもなく突然全員に支給されたものだった。
なんでもメキシコシティ防衛にあたる部隊に銃を全部渡したところで、急遽どこからか調達することが決まったらしい。だからアメリカへの侵攻部隊の小銃は全部これになったそうだ。
この話を聞いたとき、オロスコは、そんな大量の小銃を一度に渡せるほど在庫を抱えた国があるのか、と内心かなり驚いたものだった。
もちろんどこかの殿下が中国戦線から部隊を撤収させた時、支給予定だった分をこっちに回したのである。
そうでなくても軍制改革のせいで、歩兵の定員が大幅に減少した日本軍では、それまでに発注した分の使用予定が立たず、在庫が目に余る勢いで膨らんでいたのだ。
いわば不良品の在庫処分のような扱いで、この小銃はメキシコ軍に渡されていたのである。
メキシコ軍にとっては、誰にとっても今まで見たことのない、全く未知の銃だった。
オロスコも、その名前がアリサカと言う名前だと知ったのはほんの数日前のことである。
激励に来た大隊長が訓示の中で教えてくれたのである。
実際に使用した兵の評判は良かった。
それまでのメキシコ軍の小銃よりも小さなタマを使うせいか、反動は小さく、狙いがブレにくい。
さらに銃身が長いので取り回しは少々しにくいが、有効射程はかなり長く命中率はけっこう良かった。ボルトアクションで、部品点数が少なく故障しにくく整備がしやすかった。
欠点は、威力が弱いということ。
モノを貫通する力が弱いので、物陰に潜んだ敵に対しては対応が難しかった。
それを補うつもりなのか、銃身にかなり長めの銃剣を装備できるようにはなっていたが、メキシコ軍としては、そんなものを使うつもりは全く無かったので、銃剣自体は支給されてはいなかった。
近接戦闘は考慮しないで、遠くの敵を狙撃だけで倒すことに特化した銃か。
よほど射撃の腕に自信のあるやつが、設計した銃なんだろうな、とオロスコは考えていた。
彼等が乗る歩兵移動車は、言ってみれば動く防壁である。
これもアリサカ銃とほぼ同じ時期に支給されたものだった。
歩兵は歩くのが常識だったメキシコ軍では歩兵移動用車両というのは画期的だった。
普通の乗用車よりはかなり大きい。
構造から言えば、四面を鉄の板で覆ったトラックのようなものであり、一個分隊、9名が一台に乗ることができた。つまり三台でオロスコ小隊を形成している。
そのエンジンは轟エンジンを半分にしたものである。つまりV型十二気筒の片側バンクだけで作った直列六気筒エンジンだった。ほぼエンジンブロックだけがこのエンジンのユニーク部品で、それ以外は全て轟エンジンの部品流用で作られていた。
前の米墨戦争で、騎兵が主力のアメリカ軍に対し、メキシコ軍が大きく遅れをとった一つの原因は、歩兵の機動力の乏しさというのもあったのである。
しかし市街地などの舗装道路があるところなら、歩兵移動車を走らせながら、その機動力を活かした攻撃をする方が良かったかもしれないが、この荒れ地を自由自在に走破する能力はこのクルマには備わっていない。スタックして騎兵に取り囲まれるのがオチだった。
それで円陣(というより三角おむすびだが)を組ませ、簡易な砦にすることにしたのである。
もちろん砲弾の攻撃などには全く対応できないが、騎兵による小銃程度による攻撃なら、四方に張った防御版で防ぐことができた。
それぞれの防御版には、銃眼となる隙間があり、そこから銃撃できるようになっていたのである。
タイヤももちろん防弾仕様だ。
相手が榴弾や迫撃砲を持っていない限りは、頼りになるクルマだった。
息を潜めるように時間が経つのを待つ。
エンジンを止めたので、わずかな灌木、ところどころに顔を出した岩石の小山ばかりの荒野を時折り強めに吹く風と、砂塵、そして草の音だけの昼下がりとなった。
三分ほど経った頃、無線機が呼びかけてきた。
「小隊長、何にも来ません」
「軍曹、何か見えないか?」
「いえ、岩山には動きはないようです」
「全員、もう一度周囲の様子を確認しろ」
再び、無音となった時間が一分ほど過ぎた。
オロスコは敵の指揮官の考えを読み取ろうとしていた。
もし軍曹の見間違えで無ければ、彼等は我々の部隊の接近と部隊規模を把握し、態勢を最適化しようとするだろう。なら、襲ってこないのは彼等には数的優位が無いからか?
もし俺がヤツの立場だったら、今何をする?
動きを読み、やり過ごそうとするか?
それとも殲滅する機会、場所に移動するのを待つか?
「小隊長、動いても安全だと思います。奴等襲ってくる気はないのでは? むしろこちらをやり過ごすつもりではないかと」
「コタ軍曹、あいつら、街道に地雷を仕掛けると思うか」
「正規軍ならそんな気の利いたのを持ってるかもしれませんが、あいつらは持ってないでしょ、そんなもの。それに地雷って馬で運ぶには重すぎるし大きすぎますよ」
「しかし襲ってこない、というのが逆に引っかかるんだよ、そうなると」
「確かに。連中、馬にさえ乗っかれば、自分たちの方が強いと信じてる感じですからね。待てよ、そうか、分かりました。連中、このクルマを警戒してるんでしょ。今までの襲撃を全部はねのけられたのは、全部このクルマで立てこもったせいですからね。あいつら、それを学習したんでしょ。だから我々が、このクルマから離れて歩き回るのを待ってるんじゃないですか?」
「地図をよこせ。お前の言うことにも一理あるが、どうも嫌な予感が収まらん……。この辺りは見かけは荒野だが、視界の切れた先にはどの方向にも集落があるんだな。放牧地って感じには見えないが……」
「おそらくですけど、ここからこんなふうに水場が点在しているから、ひょっとしたら地下水の水脈があるんじゃないですか。その上に集落が線状に出来てると」
「なるほど、見かけよりも人口が多いのは水のせいか……。我々はこの水脈と平行に移動してきたわけか、するとあの岩山というのは? これか。水脈の真上なんだな、あそこは。となると別に我々に備えたわけじゃないってことか。じゃ、何してるんだ? よし、軍曹、二人ほど偵察に出して、連中が何者であそこで何をやっているのか探らせてこい。こちらはまだ発見されてはいないだろうが、念のため、狙撃がいないか周囲警戒を怠るなよ」
偵察兵が戻ったのはそれから一時間ほど経ってからだった。
「遅かったな」
「思ったより距離があったのと、それと事態は我々が考えていたよりも複雑そうだったもので……」
「うん、どういうことだ?」
「あの岩場の裏側は湧き水の泉があるんですが、そこに男女とこども合わせて十五人ぐらいがいるんです。ちょうどこっちから見ると逆方向を警戒するような感じで、ライフルを持った男が四人ほど確認できました」
「ほう、誰と戦ってるんだ?」
「目視確認はできませんでしたが、馬の駆ける音は聞こえたんで、おそらく民兵か保安官の類ではないかと」
「じゃ、犯罪者か? 女と子連れの?」
「いや、もしかしたら、人種差別のトラブル絡みではないかと。岩場にいる連中、全員黒人みたいなんで」
「そういうことか。厄介なのに当たっちまったな。下手にちょっかいを出して死人でも出したら、それこそ好き放題に新聞に書かれそうな連中だぞ。ここは見なかったことにしておくのが一番だな。お前達、気づかれちゃいないんだろ、どっちにも」
「それは大丈夫だと思います。じゃ、後退しますか?」
「ああ、本部には異状無しと報告しておけばいい。あいつらは我々の任務とは無関係みたいだからな」
その時、無線機のコールが鳴り、通信兵がヘッドホンを耳に当て、通信文をメモに書き取った。
「小隊長、連隊本部からの指令です」
オロスコはメモを受け取って手早くその指令を読み取った。
が、指令の文言そのものは理解できたが、それが何を意味するのかは全くわからない。
「軍曹、十号装備品ってなんだ?」
「ああ、それならその隅に積んでる大きなあの箱ですよ。極秘の装備品だから中身は指示があるまで絶対に見ちゃいけないって中隊長から言われてたヤツです。で、それがどうかしたんですか?」
「軍曹、命令だ。直ちに十号装備品を開梱、隊員全員に直ちに支給、着用させ、さらに現用の軍旗、部隊マークを指定品に変更せよ。なお我々の部隊は今後は、メキシコ陸軍ではなく、ブラックアメリカ陸軍所属歩兵第512連隊となったそうだ」
「了解であります……が、ブラックアメリカってなんですか?」
「俺も知らん、これによると昨日生まれた国らしい。これはこの戦争を終わらせるために絶対に必要なことなんだそうだ。とにかく言われた通りにしろ。これは正式な命令だからな」
こうしてオロスコ小隊は、オクラホマ州北部の荒野のど真ん中で、全員が衣装換えと武装の模様替えを行うことになった。
隊員達は、新しく車両と軍旗についていたマークを話題にして盛り上がっていた。
「なんかこの星のマーク、アメリカ軍のマークに似てるよな。色が逆転してるだけって感じ」
「やっぱ、メキシコ軍の鷲のマークの方が格好いいな。それに鷲じゃないとなんか落ち着かない」
「でも遠くから見るなら、こっちの方が見分けやすいな、鷲は遠くから見るとほとんど鳥かどうかもわからなくなるからな」
「それにしても、メキシコは名前をブラックアメリカに変えたってことなのかな」
「さあ……」
そんな時、周囲を警戒していた兵が声を上げた。
「小隊長、誰か来ます。前方、約四百メートル、二名、銃を持っています」
「何、さっきの連中か? おい、間違っても撃つなよ。それでこっちに気がついてるのか」
「こっちに向かって手を振ってます」
「軍曹、話を聞いてこい。お前、英語は大丈夫だろ」
軍曹は兵を一人連れ、クルマを降りてこちらに向かって歩いてくる男二人の方へ歩いて行った。
百メートルほど先で、両者は出会い、立ち話を始めた。
四人は、オロスコの乗る車両の方をしきりと見て、何かを指さしている。
とりあえず、敵対する様子を見せなかったことに、オロスコは胸をなで下ろしていた。
四人の様子を眺めていると、軍曹の様子がおかしくなった。
やってきた二人の黒人の方は最初から様子は変わらない。
おそらく、何かの援助を求めてオロスコ達に接触しようとしたようだ。
が、そのおそらく依頼を聞いた軍曹が、ここから見ているだけでも、異常にエキサイトしているように見えたのである。
怒り狂って、の興奮ではない。
あれは、そうだ、カーニバルのノリみたいな興奮だ。
いったい、彼奴、どうしたんだ?
やがて、二人の黒人と連れて行った兵一人をその場に置き去りにして、軍曹がこちらに向かって駆け出してきた。
「小隊長、大変であります。我々、ここの国軍ということになったようです」
オロスコは、軍曹のこの第一声で、やっぱり、そういうことなのか、という思いと、まさか、という驚きのせめぎあいで、一瞬、頭が真っ白になった。
アメリカ合衆国が黒人を含めた有色人種に対し、過酷な人種差別をやっていることはメキシコでも常識として知られていた。なにしろ出稼ぎにアメリカに入ったメキシコ人も立派な有色人種で差別されるのだから当然である。
どういうつながりがあるのかは分からないが、今回のメキシコとの戦争は、その被差別層の反乱を促したらしい。そしてその反乱はうまくいったようで、新しい国をここに生み出したようだ。
そうでなければ、ブラックアメリカなんていう国名はありえない。
黒人の怨嗟の声そのもの、それがこの国号なのである。
だからブラックアメリカ、という名前をメモで見せられた瞬間、もしや、と思ったのである。
それでも軍人としてよく鍛えられていたオロスコは、すぐに冷静さを取り戻した。
「軍曹、いったい何話したんだ、あいつらはなんだ? まず、それを話せ」
「は、申し訳ありません。彼等は我々を、ここ、ブラックアメリカという国の軍隊として認めて、保護を求めてきたのであります」
「保護? 誰から?」
「ブラックアメリカ政府に反旗を翻した、反乱軍の白人からです。なんでも有色人種を認めない宗教の白人信徒がこのあたりにはたくさんいる、とかで、昨日行われたブラックアメリカ建国宣言直後に、暴徒化して、黒人などに襲いかかっているそうです。彼等は身の危険を感じて、町から出て今朝からこの岩場に潜んでいたそうですが、反乱軍に見つかってしまったそうです。そんなところに、我々が、ブラックアメリカの旗を掲げてやってきたのに気がついた、ので救援を求めてやってきたと」
「そういうことか。じゃ、俺たちの相手は反乱軍ってことになるのか……。いや、待て。保護はともかく、勝手にそんな連中と戦闘初めていいのか。一応司令部に確認取っておこう。おい、司令部を呼び出せ」
オロスコは司令部に状況を報告し、今後の方針の指示を仰いだ。
結論は簡単だった。
武器を取り、旗に向かって攻撃をしてくる者には容赦するな、ということだった。
そして、この瞬間から、オロスコ小隊の任務は、偵察哨戒ではなく、治安維持と反乱鎮圧に書き換えられたのである。
黒人を追いかけ回していた白人グループは、百名ほどからなる、それぞれライフルを持った軽装備の騎兵であり、装甲を施した、オロスコ小隊の兵員輸送車のことを全く分かっていないのか、それとも最初から存在を無視したいのか、一切警戒する素振りを見せず、まっすぐに接近してきた。
そして、オロスコ小隊の掲げたブラックアメリカ軍軍旗を見つけると、まるでこれこそ探していた仇であるかのように、全員で突撃を敢行してきた。
彼等は、西部劇よろしく、円陣になった兵員輸送車のまわりをぐるぐるまわりながらデタラメに射撃をしてきた。
騎兵との距離が、十分詰まったと判断したオロスコの命令による、アリサカ銃の一斉射は、バタバタと騎兵の列をなぎ倒していった。
砂塵が舞い、馬のいななきが響く中、まだ立っていられた者は、慌ててまわりの状況を見回し、その多くが倒されたことに気がつくと、慌てて敗走に移った。
彼等の背後からアリサカ銃の銃弾が再び襲う。
つまり実質的な戦闘は一当てで終わったのである。
このクルマでは騎兵の追撃は難しいと判断したオロスコは、死者負傷者の確認と救援を命じた。
オロスコ小隊には死者、負傷者はなく、反乱軍の被害として、死者が十名ほど、重症者五名を含む負傷者十七名を確認した。
全員が白人だったが、予想外だったのは、老人が圧倒的に多かったことだ。
最初に保護を求めてきた黒人二人が、一人の白人の老人の遺体をのぞき込んでいるのが見えた。
どうやら顔見知りらしい。
軍曹を通訳代わりに連れ、オロスコは彼等に話し掛けた。
「どうした? こいつは知り合いか?」
「知り合い、ではなく、昔の、わしらの親の所有者だった男、の息子で、今でもこの辺りで一番の地主。他の男の大半は、この男の友達か部下みたいな連中……」
「そうか、このグループの首領って、ことか。なるほど、さっさと北に逃げればいいものを、土地でのさばっていただけにそれも出来なかった、というわけか」
「殺すつもりだろ、やれるもんならやってみろ、って言いながら、我々を追っかけてきた」
「黒人が全部敵になった、と考えたってことか……。今までにやってきたことを自覚してたって意味なのかな……」
ブラックアメリカという国号は、彼等にとっては絶望のシンボルだったのである。




