僕は眠る
僕は君が中学生の頃からずっと一緒にいる。僕にとって他の誰よりも君といる時間が一番長いだろう。それは君も同じはずだ。しかし、君の考えていることは全て理解しているが、助けになったことはいちどもない。自分の事に興味がない僕にとっては、君は成長するにつれ日々、身長が伸びたり、考えが変わっていく面白い子だったよ。
君が高校生のある日には、君はきっと恋に落ちたのだろう。相手のことと君自身のことを考えすぎて、出口のない螺旋に迷っていた頃の君が懐かしい。一度も目を瞑らずに一晩過ごし、去ってしまったときはすごく心配したよ。後日、君は僕に泣きついてきて、一着しかない僕の服をびしょ濡れにしたのを今でも覚えているよ。
またある日には、君は僕を連れて旅行に出かけたね。やっぱりまだまだ子供だ。もっとも、僕はどこに連れて行かれたか分からないが、夜に君と、それから他の子達とも遊んだのは記憶にあるよ。そのせいで少し怪我もしたけれどね。
そして、大学への進学おめでとう。どのくらい頑張っていたか知らないけど、どのくらい不安で、どのくらい行き場のない憤りを感じていたかは分かるよ。だからといって、僕に噛み付かないでくれよ。
就活お疲れ様。もう立派な大人だね。これからは夢の一人暮らしだ!そして、さようなら。
結局君と会話することは叶わなかったけれど、君は最後に一言、僕に言ってくれたね。
「今までありがとう。」って。僕には喜怒哀楽はないが、あればきっとその全てを出していたことだろう。その日は七色の絵の具が青のカンバスに載せられる、洗濯日和だった。
僕は昼寝をすることにした。