2話自称ニートは学院に通う
昔、人は産まれながらに劣等種であった。
力はなく、非力で魔物という世界の驚異な存在に手も足も出なかった。
ただ狩られ、食物連鎖の最下層に居ることに殆どが受け入れてしまっていた。
しかしある日、それを打開すべく立ち上がった者が居た。
その者の名は――アルトリア。歴代最古の魔術師であり、劣等種と思われていた人種を一気に彼の魔術により発展させた救世主である。
何処から魔術を産み出したかは不明であり、公式は解るのだが理論まで完璧に理解するのに僕が生きている2000年経っても出来ていないという。また、彼の生死を確認した者も存在していないらしく、謎に満ちているため色んな仮説が立てられて今ではそれを解き明かそうと奮闘してる魔術師も居るそうな。暇人かな?
そして魔術を作った救世主であるアルトリアの名を因んでアルトリア・フォン学院という学院名になったとか。
まあ、そんな事はどうでもいい。
どうして(引きニートになる予定の)僕がエリート高校であるアルトリア・フォン学院通うことになったかということだ。
見事に姉である三奈木の唐突の謀略によって推薦という形でねじ込まれたというね。
姉さんにはそろそろ後先どうなるか分かった上で動くように言いつけなければならない。
絶対無理だとは思うけど、だって話通じないし。
気づいたらリビングに僕の制服と鞄、学院までの最短距離を書いた用紙が用意してあったし、制服とか採寸された覚えないのにピッタリで怖い。
僕は呆れながらとぼとぼ姉さん書いたであろう物凄く雑な家から学院までの地図を眺めながら歩いていた。
姉さんは僕が着替えてる間に颯爽と消えてたし多分先に行ったのだろう。
まだ春だというのに今日はやたら暑い。数メートル先にはコンクリートの上から陽炎が見える。
引きこもりには辛い暑さに危うく電柱にぶつかりそうになる。
歩くこと5分。
高さ2メートルはあるであろう引き門の向こうに広がる広大な敷地とドーム形の建物や20階は有りそうな建物が黙視で4つもある。
門の片側には入学式という大きな看板が立て掛けてあった。
「バカみたい広いな」
僕は思った感想呟いて学院の門を跨いた。
そしてふと思う。
あれ?来たはいいけど、これからどうすればいいんだ?
呆れてたせいかすっかり忘れていた。
僕は学院すら入ったことないのだ。
この学院は基本一般人を招き入れることはなく、試験もここで行うことはなく校内はかなり機密によって守られている。
合格した者のみその敷地を跨ぐ許可を貰い、敷地の案内図と一緒に合格通知が来るらしい。
初っぱなから不安である。
周りにはたくさんの生徒が登校しており、皆迷うことなく進んでいる。
ぎこちないのは僕だけだ。不審者として見られても可笑しくないレベルである。
どうしようと思った矢先、後ろから来た子が掌より少し大きめの四角い物体を持ってる事に気づいた。
「ん?あの子、電子端末を弄ってるのか?まさかッ!」
僕は即座に鞄に手を突っ込む。
「これか……」
どうしてもっと早く気づかなかったのかという後悔に軽く打ちのめされる。
恐らくこれをみれば何処に行けばいいか分かるかもしれない。
電子端末に目を向けると画面の下にスイッチがあることに気づいてそれを押す時刻、刻々と減っている数値と何かしらの文字が見えた。
良く見ると――遅刻まで後3分。
やべえええ!!
僕は叫びたい気持ちを必死に抑えて画面をタップする。
すると気が利いてるのか分からないが、『入学特別サービス』という表記が出てると、構内見取り図が浮かび上がり校門から教室までの道のりが表記された。
なんと有りがたいことか。
僕は一目散に駆け出して残り30秒で何とか教室にたどり着き、勢い余って教室の引きドアを思いっきり開ける。
「セーフ!」
余りの達成感に思わず換気の声が漏れた。
うっすらとドアの開けた余韻が聞こえ、我に帰る。
見渡すと間の抜けた表情でこちらを見ていた。
これは少々恥ずかしい。中には呆れてる者や寝てる者も居るがそこはスルーしよう。
僕は乾いた笑いをしながらそっと空席に着席する。
誰も咎めない辺り席は間違ってないのだろう。
そう思って居るとチャイムが鳴り出し、同時に誰かが入ってきた。
「はーい、皆さんおはよう!今日は担任の猫又先生が昨日婚活に失敗して自殺未遂仕掛けて落ち込んでるので『五天議会』の第四席の私、早嵜三奈木が担当いたしまーす!」
何か凄いワード聴こえたんだけど!?てかなんで姉さんを寄越してんだ『五天議会』の連中は!
あの型破りをここに持ってくるとかどうかしてるだろう!
「「「きゃーーー!!三奈木お姉様ー!」」」
うるさっ!なにこの反響!?
余りの甲高い声に思わず耳を塞ぐ。
「私!お姉様の戦いに憧れて入ったの!」
「テレビで見ました!お姉様の戦いはとても素晴らしいものでした!」
「結婚してぇ!」
さらっとアウトなのかよく分からない発言が聞こえたけど、そんな事はどうでもいい。
姉にホームルームが勤まるのかが心配なのだ。
まあ、変に目立ちたくないから様子見という形を取らざる終えないが。
「はーい、皆席に着こうねー!」
「「「はいお姉様!」」」
三奈木の一言でさっきまで騒いでた(主に女子)生徒が一瞬にして着席する。
なにこれ怖い。
これに関しては僕以外の男子もドン引きしていた。
てか姉さんめっちゃにこにこしてるじゃん。これ絶対皮被ってるでしょ……。
そう思って顔を向けると、「言ったら殺すという」という殺意の念を感じとりそっと目を逸らす。
姉さんが『五天議会』のメンバーなだけあって誰一人としてお喋りするものも居らず着々とホームルームを終えた。
普通、同じ生徒にホームルームを仕切られると嫌な顔する人が居ると思ったがそれすらいなかった。
単純にプライドの高過ぎる人がいなかったかもしれないが、この学院にとって『五天議会』がどれほど目立ち、尊敬の眼差しを向けられるのかがよく分かる。みんな目が真剣なのだ。
同時に僕なんかが推薦枠として知られたらなんて思われるか分からないという恐怖にもなった。
こんな適当な人間が学年の代表だと知られたら間違いなく反発を受けるだろう。
今すぐにでも帰りたい……。
姉さんはホームルームを終えるとニコニコしながら教室を出ようとした瞬間、なにかを思い出したかのように拳を掌に打つと僕に向かって指差した。
「あ、君。後で五天議会室に来るように。ルートは電子端末の案内にしたがようにね」
そういって姉さん教室を後にした。
名前を言わなかったのは姉さんなりの配慮だろうが指した時点で変わりはしないのまで考慮して欲しかった。
「ねぇ!あなたお姉様とどういう関係なの!」
「も、もしかして彼氏、ですか?」
ほらこうなった!
微かに殺気すら感じるんですけど!
僕は群がる姉さんのファンを押しきって教室から抜け出した。