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妹の親友に催眠術をかけられたんだが、かかったフリをしてみた。

ふと催眠術を思いついたので書いてみました。

催眠術ネタは作者の他の作品で使おうと思いましたが、魔王の少年と勇者の少女の二人は催眠術が必要ないくらいバカップルなので止めました。

作者初めての短編小説です。

よろしくお願いします。

 

 俺、和泉雄大(いずみゆうだい)は困惑していた。

 なぜなら、妹の親友が俺の寝室のベッドに寝転び本を読んでいるからだ。うつ伏せになって読書をしているが、短めのスカートが捲れ上がって、下着が見えそうで見えないギリギリのラインだ。

 視線が吸い寄せられるのは、高校二年の男子には仕方がないことだ。うむ、仕方がない。


「んぅ? お兄さんどうかしましたか?」


 俺の視線に気づいたかのように本から顔をあげ、俺に聞いてくる。

 彼女は桜井香代(さくらいかよ)。俺の妹の親友で高校一年生だ。彼女とは小学校高学年の時からの付き合いだ。妹と友達になり、その縁で俺とも仲良くなった。

 彼女はとても可愛い。長い黒髪は艶やかで、肌は白くはないが健康的な色をしている。長い睫毛にパッチリ二重。胸はそこそこあって、手足は細すぎず太すぎず健康的だ。性格も明るく、学校でも男子から人気で、よく告白をされているらしい。しかし、彼女は誰とも付き合わず、時々俺が彼氏役として駆り出されたり、買い物に付き合ったりしている。

 俺はそんな彼女の可愛い顔から視線を逸らす。


「いや、何もないけど」


 昔からの知り合いで、妹のように接していたので僅かに罪悪感を感じる。しかし、甘い誘惑に負け、スカートのことは言わない。俺も男なのだ。


「そうですか」


 彼女は何も言わず本に視線を戻す。足を時々パタパタと動かすのがまたいやらしい。見えそうで見えないのが興奮する。チラチラと彼女の太ももに視線をよせる。じっと見ないのが紳士なのだ。

 そして、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。


「なぁ、香代ちゃんはどうして俺の家に遊びに来たんだ?」


「ここに来て一時間くらい経ちましたが、なんで疑問に思わなかったんですか?」


「結構な頻度で家に遊びに来るからな」


 そう、彼女はよく俺の家に遊びに来る。正確には妹と遊ぶために家に来る。なので疑問も持たずに家にあげたのだ。


琴音(ことね)と遊ぶ約束していたんですけど、急に少しだけ用事で出かけるそうで、”家にあがってゆっくりしてていいよ”と言われたのでゆっくりするために来ました。お兄さんをこき使っていいそうです」


「あいつめ!」


 琴音とは俺の妹のことだ。そう言えば少し出かけると言っていたが、香代ちゃんが来るとは聞いていなかったぞ。それにこき使っていいとは何事だ。あとでお仕置きだな。


「というわけで、私はゆっくりしています」


 香代ちゃんは再び本を読みだした。足をゆっくり動かしている。気のせいかな。さっきより両足を少し開いた気がする。


「あの~香代ちゃん? 遊びに来たのはわかったけど、友達の兄のベッドに寝転ぶなんてしないほうがいいよ」


「私は気にしませんのでお構いなく」


 本当に気にしていないようだ。顔色一つ変えていない。


「あの~香代ちゃん? 襲われても文句は言えないよ」


「文句なんか言いませんよ。襲いたいなら勝手に襲ってください」


 なら本当に襲ってやろうか、という気が一瞬沸き起こったけどすぐに霧散した。俺は強姦魔になるつもりはない。やっぱり可愛い彼女と愛のある行為をしたい。香代ちゃんみたいな可愛い彼女と。

 俺は彼女を襲うことなく、本棚から一冊の本を取り出し読み始めた。俺と香代ちゃんはそのまま黙って読書を続けた。

 それから三十分ほど経っただろうか。香代ちゃんが話しかけてきた。


「ねぇお兄さん」


 今の彼女はベッドの上で仰向けになっている、両膝を立てて、所謂М字開脚だ。スカートはほとんど捲れ上がっている。俺の位置からはギリギリ下着は見えないが、少し移動したら見えそうだ。

 香代ちゃんが起き上がった。


「催眠術ってかけられたことはありますか?」


「催眠術? そんなのあるわけないだろ。なんで急にそんな話になるんだ?」


「このラノベです」


 見せてきたのは俺の本棚から取った一冊のラノベ。異世界へ転移した主人公が催眠術を駆使して成り上がる話だ。もちろんエロい描写もある。R18ギリギリの作品だ。


「お兄さん催眠術の実験台になってくれませんか?」


「はぁ?」


「ちょっとだけ。ほんのちょっとだけですから」


 両手を合わせて可愛らしくおねだりしてくる。そんなに可愛くおねだりされても俺の返事は決まっている。


「…ちょっとだけだぞ」


「わーい!」


 当然拒否できませんでした。うん。あれで拒否出来たら男じゃないな。


「でも、そう簡単に催眠術ってできるのか? やり方とか知らないぞ」


「大丈夫です」


 香代ちゃんが何やらゴソゴソと自分のバッグを探っている。取り出したのは一冊の本。『催眠術基礎編』と書かれている。


「ここに運よく催眠術の本がありますから」


「なんで運よく持ってるんだよ。それに基礎編って」


「大丈夫です。応用編もありますから」


 手品のようにもう一冊の本が出てくる。『催眠術応用編』と書かれている。


「はぁ。わかったよ。でも、いざやるとなるとちょっと怖いな」


「自殺させる催眠術はかけられないそうなので大丈夫ですよ」


「…それを聞いて益々怖くなったんだが」


 俺の言葉を無視して香代ちゃんが俺の前に座ってくる。正座なのでスカートの中は覗けない。基礎編のほうを開いて俺のほうを見てくる。


「さあお兄さん。目を閉じてリラックスしてください」


「いきなりだな。こうか?」


 俺は目を閉じて適当にリラックスする。リラックスしろと言われてもなかなか難しい。


「ゆっくり息を吸って…吐いて…吸って…吐いて」


 しばらく香代ちゃんの言うとおりにする。深呼吸を続けていく。


「だんだん気持ちよーくなっていきます。そして、お兄さんはどんどん意識の深ーいところに潜っていきます。深ーい深ーい一番深ーいところまで来ました」


 うん。全然来てません。意識ははっきりとあります。ここまま催眠術がかかった振りをしていくか。


「私が一回手を叩くとお兄さんは体の力がスーッと抜けて深い深い眠りに落ちます。それっ!」


 パンッ


 俺は頑張って体から力を抜いた。体が倒れ床にゴンっと頭と打ち付ける。めっちゃ痛い。でも、我慢して演技を続ける。


「あぁ! お兄さん大丈夫ですか!」


 揺すってくるが俺は起きずに寝たふりを続ける。


「このまま黙っていようかな…いや、でも起きたら痛そうにするかも…」


 おぉ。香代ちゃんが悩んでる。俺に教えるか、香代ちゃん天使と香代ちゃん悪魔が闘っている。


「うん。やっぱりお兄さんが起きたら正直に謝ろう」


 香代ちゃん天使が勝ったようだ。香代ちゃんが催眠術の続きをしてくる。


「お兄さんは深-い深ーい意識の底にいます。少しづつ少しずつ扉が見えてきます。無意識の扉です。見えたら私に教えてください」


「はい…見えました…」


 催眠術にかかった人はこんな感じだったはず。俺は笑いをこらえて演技を続ける。


「無意識の扉が少しずつ少しずつ開いていきます。お兄さんは無意識の世界に飛び込みました。これから私の言うことは全て聞いてください。わかったら”はい”と返事としてください。わかりましたか?」


「…はい」


 よしっ、とガッツポーズをする気配があった。その姿を見たかったけれど我慢する。

 まだまだドッキリの種明かしは早い。俺は演技を続けていく。


「私が二回手を叩くとお兄さんは目を覚まします。それっ」


 パンパンッ!


 俺はゆっくりと目を開ける。少し寝ぼけたような表情を残したまま起き上がる。


「あれっ? 俺は催眠術をかけられてたよな?」


「はい! お兄さんはちゃんとかかりましたよ」


 今までで一番輝いている香代ちゃんの笑顔が見える。そんなに嬉しいのだろうか。ニコニコ笑っている。


「試しにやってみましょう。お兄さん立ち上がってください」


 頭の痛みを必死に我慢しながら立ち上がる。


「コホン。では始めます。お兄さんの両腕がゆっくりとゆっくりと上がっていきます」


 最初は何もしなかったけれど、香代ちゃんが何度も、ゆっくりとゆっくりと上がっていく、と言うので次第に腕をあげていった。


「うわっ! なんで!? 腕が上がっていく!?」


「ふふふ。どうですか催眠術は!」


「…驚きだな」


 俺は必死に演技を続ける。笑いを我慢するのがキツイ。


「私が肩を掴むと体が自由になります。それっ!」


 肩を掴まれたので、上げていた腕をおろした。少し疲れたので腕をグルグルと回す。


「次は定番の奴をしてみましょう。人差し指と親指で輪っかを作ってください」


「くっつく奴だな」


 俺は言われた通りに輪っかを作る。


「私がお兄さんの指をギュッと握ったら指がくっついて輪っかが外れなくなります。それっ!」


 俺は指に力を入れて輪っかをくっつかせる。


「ほんとだ! 本当に外れない!」


「でしょでしょ! 私がもう一回ギュッとしたら外れますよ」


 俺は少し悪戯を仕掛けることにした。


「それっ!」


「んっ? 外れないぞ?」


 外そうとしても外れない演技をする。香代ちゃんが驚いた表情をする。


「嘘でしょ! えっと! もう一回ギュッとしたら外れますからね。それっ!」


「やっぱり外れない! どうすればいい!?」


 俺が焦った声を出すと香代ちゃんが慌てだした。オロオロと本を調べ始める。俺は笑いをこらえるのが必死だ。反対の手で体を抓って痛みで笑いをこらえる。


「どうしよどうしよ!? えっと…よくあることだから、焦らずもう一回唱えること」


 香代ちゃんが何度か深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。俺の顔を真剣な眼差しで見つめてくる。


「次に私がお兄さんの指をギュッとしたら外れますからね。絶対外れます。いきますよ。それっ!」


 俺はパッと指を離した。


「離れた!」


「ふぅ~。よかったぁ~」


 香代ちゃんがへなへなと床に崩れ落ちた。涙を浮かべて安堵している。

 焦った香代ちゃんの顔も可愛かったです。

 俺は床に座ってベッドにもたれかかった。


「そろそろ終わるか?」


「そうですね。びっくりしたので終わらせます。お兄さん、よーく聞いてください。私が手を一回鳴らすと深い眠りに落ちます。それっ!」


 パンッ!


 いきなりだったけれど、俺はちゃんと対応して寝たふりをした。


「ふぅ~終わらせる前に聞いておかないとね。お兄さん、聞こえているなら返事をしてください」


「…はい…聞こえています」


 まだあと少し続けるようだ。


「これから聞く質問に全て正直に答えてください。いいですか?」


「…はい」


 何度か深呼吸をする気配を感じた。何となく緊張しているようだ。俺は何を聞かれるんだろうか。


「よし…最初の質問です。………………お兄さんには好きな人はいますか?」


 うわっ。こんな質問に答えないといけないのか。これは恥ずかしい。


「…はい…います」


 俺は正直に答えた。顔が赤くならないようにお願いします。こんな中途半端なところでネタ晴らしする訳にはいかない。


「そ、そうですか。で、では、次の質問です。その好きな人は……年上ですか?」


「…違います」


「同級生ですか?」


「…違います」


「それなら年下?」


「はい…」


 これはめっちゃ恥ずかしい。正直に答えなくてもいいけれど、ちょっと期待してしまったから全て正直に答えている。


「そ、そうなんですか!」


 香代ちゃんが少し上ずった嬉しそうな声を上げる。


「お兄さんの好きな人の名前を教えてください」


「…桜井香代ちゃん…です」


 そう。俺の好きな人は香代ちゃんだ。気づいたら好きになっていた。ヘタレて告白はできなかったけれど、もう腹をくくった。


「よしっ! やった!」


 香代ちゃんが嬉しそうな声を上げる。薄目を開けると可愛らしくガッツポーズをして小躍りしていた。小動物のような可愛らしさがある。薄々は感じていたけれど香代ちゃんの俺のことが好きなようだ。


「うふふ…そうですか。私のことが好きですか。ふふふ…」


 香代ちゃんがニヤニヤを抑えられない様子だ。


「いつから私のことが好きなんですか?」


「…わかりません…いつの間にか好きになっていました」


「ほうほう! では、なぜ告白しないのですか?」


「…勇気が出ませんでした」


 うぅ…催眠術ってきつい。なんでこんな告白をしないといけないんだろう。嘘をついてもいいんだろうけど、何となく本音を言ったほうがいい気がする。


「やっぱりですか。琴音も言ってたけどお兄さんはヘタレなんですね」


 香代ちゃんの言葉が心に突き刺さる。妹も俺のことをヘタレと言っていたのか。お仕置きのグレードを一段階アップすることに決めた。


「お兄さんはさっき私のスカートが捲れていることに気づいていましたよね?」


「…はい」


「わざとしていたのにどうして見てくれないんですか!」


 何ですと。香代ちゃんはわざとスカートを捲れ上がらせていたのか。ということは、俺の視線も気づいてるだろう。


「襲っていいって言ったのに、どうして襲ってくれないのですか!?」


 確かに香代ちゃんは勝手に襲ってと言っていた。しかし、全く顔色を変えずに本から目を離していなかったぞ。


「…強姦になりそうだったので」


「何言ってるんですか! 何度も何度も昔から誘ってるのにお兄さんは全く気付かないんだから! 大体、好きでもない人とデートしたり、彼氏役させたり、ハグしたり、ベッドに寝転んだりしないでしょ! ちょっとは気づいてよ! このヘタレ! 朴念仁! 唐変木! お兄さんのヘタレ!」


 催眠術にかかっていると思い込んでいる彼女は鬱憤をぶちまける。結構溜まっていたようだ。叫んだ後に肩で息をしている。

 どうでもいいことだが、なぜ彼女はヘタレと二回言ったのだろうか。


「はぁ、もういいです。では最後の命令です。催眠術を解いたらお兄さんは私に告白したくなります。告白したくてしたくてたまらなくなります。いいですね?」


「…はい」


 催眠術を解いたら告白したくなる気持ちもなくなるのではないかと思うが、かかっているフリをしているので口には出さない。そろそろネタ晴らしも近い。


「私が手を三回叩いたら全ての催眠術が解かれます。ではいきます」


 パンッパンッパンッ!


 俺はゆっくりと目を開けた。見えたのはどことなく嬉しそうな顔をした香代ちゃん。


「おはようございます。ちゃんと催眠術にかかりましたね」


「そういえば、腕が上がったり指がくっついたりしていた気がする。他には何もしていないのか?」


「し、していませんよ」


 目を泳がせて明らかに嘘をついている香代ちゃんを見て、笑いが込みあがってくるが、ぶつけた頭を押さえることで何とか我慢をする。


「痛ってぇ。なんか頭が痛いんだが」


「あっ! お兄さんごめんなさい! 催眠術をかけたとき倒れて頭を床にぶつけていました」


 俺のことを心配して近寄ってくる。触った感じ少し腫れているようだ。血は出ていない。


「少し氷で冷やすか」


 香代ちゃんは涙を浮かべながらついて来ようとするが、俺は部屋で待つように何とか説得して、キッチンの冷蔵庫から氷を取り出し袋に入れて、ぶつけて腫れたところを冷やす。そして、ネタ晴らしのシナリオを思い描く。

 冷やしながら部屋に戻ると香代ちゃんは正座したまま動いていなかった。


「お兄さんごめんなさい」


「気にするなって。俺が変な風に座ってたのが悪いんだろ」


「でも…」


「香代ちゃんが謝ってくれたからそれだけでいいよ。そんな顔しないで笑ってくれ」


 香代ちゃんの泣きそうな顔が次第にほぐれていった。俺は近くに置いていた読みかけの本を読み始める。

 パラパラとページを捲るが読んではいない。香代ちゃんの気配に集中している。

 香代ちゃんは最初は申し訳なさそうにしていたが、時間が経つにつれてソワソワとし始めた。チラチラと視線を向けられている。しかし、俺は気づかないフリをして本の文字を眺める。

 十分ほど経っただろうか。香代ちゃんがもじもじしながら問いかけてきた。


「あの…お兄さん? 何かしたくなりませんか?」


「ん? 別に何も」


「本当に? 何か私に言いたいなぁという気分になりませんか?」


 顔を赤らめ、恥ずかしそうに目を合わせずに視線を彷徨わせている。


「いや全く」


 俺は本に視線を戻す。そろそろネタ晴らしをしてもいい頃だろう。


「えぇっ! 本当に本当に何もないんですか!?」


「ないな」


 ガーンと落ち込んだようにガックリと肩を落としている。俺は笑いをこらえるので精いっぱいだ。


「どうしたんだ? 催眠術にかけられたとき、俺は何か言ったか?」


「え…あの…ナ、ナンニモイッテナイデスヨー」


 香代ちゃんは嘘がつけない。片言になって目が泳いでいる。


「さっきから香代ちゃんの様子がおかしいんだが。ソワソワしたりチラチラ俺を見たり」


「な、何でもないです! そう…何でもないですよ…」


 言葉の前半は慌てて、後半はがっかりと寂しそうに言った。少しかわいそうになったのでネタ晴らしを始める。


「俺に告白されるのを待っていたのか?」


「なぁっ!?」


 ガバっと顔をあげ、目を見開いて驚いている。


「えぇっ! あれっ? な、なんで!? も、もしかして、催眠術かかってなかったんですか!? 全部演技だったんですか!?」


 わたわたと慌てる香代ちゃんを見て、俺はニヤリと笑みを浮かべる。


「うわ~ん! 全部嘘だったんですねぇ…」


 香代ちゃんが俺のベッドに潜り込み、シーツを被って丸くなる。中から泣き声が聞こえてくる。泣き出すとは思っていなかった。


「か、香代ちゃん! 全部演技だったけど言ったことは本当だから!」


 俺の言葉は無視されて彼女の心に届かない。やりすぎたようだ。


「俺は香代ちゃんのことが好きだから!」


「ぐすっ…嘘です…私を…騙すための…嘘です…信じられません」


 嗚咽を漏らした小さな声が聞こえてきた。


「私の心を…ぐすっ……弄んで…笑っていたんでしょう」


「た、確かに催眠術にかかったフリをしていた時は笑ってたけど、全部本当のことだから! 俺だって恥ずかしかったんだぞ!」


 しばらく無言だったけれど、小さな声が聞こえてきた。


「本当に……私のこと…好きですか?」


「あぁ。好きだ」


「……大好きですか?」


「大好きだ。愛してる」


 香代ちゃんの体がビクッとした。シーツの上から体をもぞもぞ動かしているのが見える。


「そ、そうですか…その言葉に偽りはありませんか?」


「ない!」


「私と……キス……したいと思いますか?」


「……したい」


「………………エッチなことも?」


「そりゃ…まあ…………少しは」


 香代ちゃんがもぞもぞと動いて、シーツを巻き付けてベッドに座り込んだ。顔だけをちょこんと出してくる。瞳が少し赤くなって、涙の跡が光っている。


「証拠…………証拠を見せてください」


 俺はベッドの香代ちゃんの隣に座る。覚悟を決めてウルウルとした瞳を見つめる。少しずつ顔を近づける。

 香代ちゃんはパッチリと大きな瞳を閉じた。長い睫毛に涙が少しついている。息と息がぶつかる。

 彼女のピンク色のぷっくらとした唇にキスをした。触れるだけの優しいキス。彼女の唇は柔らかく湿っていて少し塩辛かった。

 ゆっくりと唇を離す。彼女の目から一筋の涙がこぼれた。


「俺は香代ちゃんが好きだ。付き合ってくれるか?」


「…………はい…末永くよろしくお願いします」


 顔を真っ赤にして見つめてくる香代ちゃんは今までで一番可愛かった。我慢ができずにもう一度キスをする。


「…もう…いきなりすぎます」


 香代ちゃんが可愛く口を尖らせて抗議してくる。


「ごめん。香代ちゃんが可愛すぎたから」


 愛しさが溢れ出してきて彼女の温かく柔らかな体を抱きしめる。


「俺…まだ香代ちゃんから好きって言われてないんだけどなぁ」


 優しく意地悪に耳元で囁く。


「言いません! お兄さんのばか」


「俺は香代ちゃんのこと好きなのになぁ」


「ずっとヘタレてたお兄さんには言ってあげません! 私の気持ちにも全然気づいてなかったみたいですし」


「ぐはっ!」


 香代ちゃんの言葉が俺の心にクリティカルヒットする。


「恥ずかしいから絶対に言いません!」


 香代ちゃんが可愛らしく恥ずかしがっている。耳まで赤くなっている。


「小さな声でもダメ?」


「いやです!」


「お願い!」


「い、いやです」


「一回だけ、一回だけでいいから!」


「……………言いません」


 少し間が空いたけど言ってくれなかった。このまま押し切れるかなと思ったけど、あんまり攻めすぎると香代ちゃんは守りに入っちゃうから、ここらへんで止めておく。でも、攻め方を変える。


「うぅ……言って欲しかったのに」


 俺はがっかりした雰囲気を出す。実際少しがっかりしたので演技はほとんどしていない。


「そ、そんなにがっかりしなくても!」


「うぅ……」


「お兄さん?」


「…………」


「わかりました。わかりましたから!」


 とうとう香代ちゃんが諦めて覚悟を決めたようだ。作戦成功。


「その…好き……です…お兄さんのこと」


 恥ずかしそうな声が耳元で小さく囁かれた。その甘く可愛い声を聞いて俺の理性が砕け散った。

 抱きしめていた香代ちゃんをベッドに押し倒す。


「きゃっ!」


「すまん。もう我慢できない」


 俺は香代ちゃんに覆いかぶさる。香代ちゃんも俺の首におずおずと手をまわしてきた。


「…お兄さん…いいですよ」


 俺と香代ちゃんは固く抱きしめ合い、唇を重ね合った。


 その後、俺たちは結ばれ、お互いに愛し合った。

 氷を取りに行ったときに、こそっと妹に連絡していたため邪魔されることはなかったが、帰ってきた妹にニヤニヤした顔で揶揄われたのは言うまでもない。

 


お読みいただきありがとうございました。


ノリと勢いで書いたので他の作品が滞っています。

頑張って書きます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 結局は甘々なんですわ
[良い点] 甘ったるさ。タイトルあらすじ通りの終始甘さが漂う話。だいたい、読み手が望みそうな、甘々なハッピーエンドに向かう話であったし、甘々にしますよ感が最初から漂っていたところ。 [気になる点] 催…
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