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ディメンショナル・ファクター  作者: 兎藤うと
一章 『親は神様の転入生』
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一話 『転入生』

ごアクセスありがとうございます!



 (みね)(がみ)市国立峰神学園。

 日本国で七つの内の一校であり、狩人の育成を専門とする学園である。

 生徒数は二九○○人以上を超え、入学志望者だけでも年々増え続けている名門校。各地各国から力を保有する若者たちが集まり、転入や編入で在学している生徒も珍しくもない。

 特殊なカリキュラムが組まれており、授業による特別事業から、実力が認められた者は実戦を交えた魔物討伐の仕事が直々に受けられる。

 学園の敷地面積も広大であり、様々な長所短所を活かし鍛えられる施設が備わっている。

 それに、学園には多彩な種族の生徒が在学しており、ざっくりと分けると人間と亜人の二つが存在する。細かく分類すると手に負えなくなってしまうのでそこは割愛である。

 今の峰神学園は昼休み。学食で昼食を取りながら友達同士で談笑に浸っていたり、ボッチで動画視聴をする学生もいれば、男女が仲睦まじくお弁当と食べていたりと、憎たらしい……まあ、そんな昼休みには学園生の楽しみが一つある。


『さーて、やってきました! 昼休みは我らが放送部の時間だぁぁぁぁぁぁ!』


 突然、学園中のスピーカーにノイズが入り、女性の声が校内に響き渡った。

 学生たちが昼食を取り始めた瞬間を見計らったかのように始まった放送。その声の正体は放送部という部活の部員だ。毎日……いや、平日の火曜日を抜いた昼休みの時間は、学園生が食事を取り始めた瞬間を狙って放送が始まるのだ。


『なにもしなきゃ花のない昼休み。飯を食べるだけの味気ないし、遠くからは人目を気にしようとしないバカップルの声が聞こえてくるし、もう退屈でしょうがないですよねぇ』


 後半から吐き捨てるように言う司会者。いつもの冗談のつもりで言っているのかもしれないけど、なぜか一日事に昼休みを満喫してそうな学生の行動をピンポイントに言い当てるところがとても怖い。どこかで見ているんじゃないか? と疑いたくなるほどだ。


『なら我ら放送部が大騒ぎして、この昼休みに一輪の花を咲かせてやろうじゃないか! それじゃ、早速やっていこう!』


 学園内によくとおる元気な声。放送部の中で声が良くとおることで有名な女の子だ。放送部の中でよく学校行事などの司会や実況で活躍しており、なおかつ容姿が可愛いとか。まあ、放送部と一部の関係者しか顔を知らないらしいが……それでも放送部の中で人気の女子学生だ。


『ではでは、まず最初は毎度恒例のお便りコーナー! 送ってくれたみんな、いつもありがとうございます。では早速読んでいきましょうかね』


 最初は放送部へ送られてきたお便りを読むのが昼の定番だ。放送部にはあまり送られてこないお便りだが、熱狂的な学生もいることもあってお便りコーナーがなくなることはまずない。

 学生たちはこれを聞きながら昼食を楽しんでいる。逆に彼女が放送に出ていないと、放送を楽しみにしている学生たちは、昼休み終わりの授業はお通夜になるとかないとか。一部、教師も混じっていたりもする。


「相変わらずって言うか、あの子はいつも張り切ってますね」


 そしてもう一人。この学園の生徒会長もこの放送を楽しみにしていた。彼女は今日も持参したお弁当を生徒会室で食べ終え、友人と食後のティータイムをしながら聞いている。こうして毎日のように放送を聞いていると、いつも元気な司会者には苦笑してしまう。


「そうね。こうして放送委員ちゃんが元気に放送してくれると、元気をもらっているようで午後もがんばれちゃうのよね」


 テーブルを挟んで友人は紅茶を静かに(すす)り、おっとりとした口調で生徒会長に返答する。

 この二人は毎日昼休みになると生徒会室に集まり、他愛のない会話をしながら昼休みの放送を聞くのが日課だ。まあ、生徒会室で食事をするのは生徒会役員だけだ。

 たまに役員の友達が遊びにくるのもしばしばあるが、昼休みにわざわざ生徒会室に集まって昼ご飯を食べているのは基本、生徒会長とその生徒会繋がりのある友人とかである。


 これがいつもの峰神学園の日常風景だ。普通の学校と変わらない平凡な日常。魔物(クリーチャー)と抗うために育成するカリキュラムを組み込まれている学園にしては、放送でラジオのようなことをしたり、それを聞きながら昼食を食べて、学園生活を謳歌しているように見える。


「それにしても、()()学園()は平和なものですね。なにもないときは本当に」

「逆に緊迫してることってほとんどないんじゃないかしら」


 微笑みながら友人は言うけれど、生徒会長はそれに苦笑を浮かべた。


「そうなんですよね。それこそ不安の種と言いますか、なんと言いますか」

「あなたがそんなこと言うなんて珍しいこともあるものね」

「あはは……、逆に緊迫していることがないからこそといいますか、些細なきっかけだけでも生徒たちは抑圧(よくあつ)されやすい気がするんですよね」


 些細なきっかけ。それは恋愛、小競り合い、掛け勝負、でもなんでもいい。普通の生活を送る生徒たちではあるが、学び舎は特殊なカリキュラムの影響か、わりと殺伐とした争いで決着をつけるため、毎度学園中が滅茶苦茶になる。べつに学外の建物、学園の施設や校舎が破壊されたところで、新品同然まで元に戻してくれる人がいるので心配はいらない。


 だが、戦闘中の生徒たちが熱くなりすぎて、周りの生徒や住民に被害が及ぶこともあり、生徒の親からは教師へ苦情。住民からは学園関係者へ苦情。普通なら力を保有した学生同士の争いごとなんて日常茶飯事。住民も親も、ちょっとやそっとのいざこざで騒いだりしない。峰神市の市民は感覚が麻痺しているので、生徒如きの争いだけではうんともすんとも言わない。むしろ、賭け事やどちらかを応援して楽しんでいるぐらいだ。なのに、市民にまで危害が及ぶことも考えず盛大に暴れまわる生徒もいるので、はた迷惑な奴ほど苦情が届く状態だ。


 そのわりには大事にならないのはこの都市(まち)の特色なのだろうけど。人々を、世界を魔物から救ってくれている感謝から愚痴程度で済むのだろう。

 しかし、生徒会にも仕事が舞い込んでくるのでいい迷惑である。


「それぐらい大目に見てあげましょ。一生に一度の学園生活だし、羽目を外す機会もとっても重要だと思うの。もし死んでしまった時とか未練持ったじゃ嫌でしょ?」

「さらっと縁起でもないことを言わないでください」


 生徒が一人でも死亡することは絶対にあってはならないことだ。

 魔物との戦いに身を投じているとはいえ、学生は戦う資格を手に入れただけの一般学生と変わらない。熟練者ならともかく、学生は素人同然なのだ。


 なにがきっかけで死亡するかわからない世の中で、学生たちが魔物と戦うにあたって、誰も欠けずに生き残ることを前提で戦うことが推奨されている。

 それは素人でも、熟練者でも共通の誓いだ。

 だけど、死亡率は消えることなく、なんとも言えない状態だ。


「ふふっ、本気にしないで。これでもジョーダンで言ったつもりなのよ?」

「……先輩のジョーダンは冗談に聞こえないんですって」


 おっとりとした口調で穏やかそうな雰囲気の友人の裏側からなにか感じるものがある。ちなみに、生徒会長の友人は一つ年上である。


「それでも、みんなには死んでほしくない、ってことよ。一生に一度の人生なんだもの。学生一同、悔いのない人生を送ってくれることを祈っているわ」

「そうですね。それは学園側もわたしたちも同じ結論です。戦われる運命だとしても、生徒には良い人生を送ってほしいところです。まあ、領収書を出さないかぎりでお願いしたいところですけど。――はい。この話はこれでおしまいにしましょう。せっかくの昼休みなのですから、もっと楽しい話をしましょう」

「ふふっ、そうね。放送部の司会者ちゃんも盛り上げてくれてることだから、あまりこういう話はやめたほうがいいわね。っ、て自分で言っちゃうのもなんだけど」

「まったくです」


 笑みを浮かべる先輩に、生徒会長は苦笑しながら返答する。

 二人の会話は堅苦しいところがあるが、べつにこの二人の距離が遠いとかそういうことはない。学園でも長いつき合いにもなる。悩み事で相談したり、を色恋の話だって気軽にしたりする仲だ。プライベートでもよく一緒に買い物にも出かけたりもするし、本当に場の空気に合わせて付き合っているとかは絶対にない。これが二人の素である。


「それにしても、このクッキー美味しいわ~。紅茶にも合うから絶品ね♪ もしかしてこれって会長の手作り?」

「いいえ、違いますよ。お友達が作り過ぎたクッキーをおすそわけしてくれたんです。気に入ってもらえたようでよかったです」


 食後のティータイムのお茶請けに会長が用意してくれた様々な形のクッキー。軽く噛んだだけであっさりと砕け、口の中で優しく崩れてしまう。だけど柔らかいのにも関わらず、サクサクとした食感がしっかりと歯を通して伝わってくる。ほどよい甘みが舌を刺激して、バターの焼けた香ばしい匂いが鼻腔を(くすぐ)る。とても美味しい。


「こんなにおいしいもの、すごく気に入ったわ。あとでお友達さんにお礼を言っておいてね」

「はい。必ず伝えておきますね。彼女もそう言ってもらえるときっと喜ぶと思います」


 生徒会長が笑みを浮かべて、先輩にそう返答する。

 放送部による昼休みの放送を聞きながら、二人はお茶と会話を楽しむ。途中、放送で出てきた話題にちょいちょい口を挟みながら笑って、長くも短くもある昼休みを消化していく。


『さあさあ! いよいよ楽しい昼休みも終盤にさしかかってきましたねぇ! さーて、次は……なんだっけか? あ、そうそう。最後のコーナーにいきたいと――え、なに? 放送まだ途中なんだけど? ……え? 耳をかせって?』


 ハイテンションのまま司会者が最後のコーナーに突入しようとした瞬間、誰かが司会者がいる室内に入ってきたことにより放送が中断された。


「あら? どうしたのかしら?」

「なんでしょうか。大声を上げるほどのことなのでしょうか?」


 放送室には放送専用のルームが設けられており、そこに司会者担当の生徒がいる。放送部では大きな話題がない場合は司会者一人でコーナーが進められる。

 今日は例外。放送中に誰かが、といって放送部員しかいないが、乱入してくるなんてまずありえないことだ。よっぽど放送部が飛び跳ねるような情報が舞い込んで来たに違いない。


『うんうん。え!? なんだって!? それは本当なの? マジで?』


 どうやら、驚くような情報が入ってきたらしい。

 放送を聞いていた学園中の生徒たちも、いつもと違う司会者の反応にざわついた。


『マジなのか!? おい、この放送を聞いている皆の諸君! なんとも頼もしいビックニュースが舞い込んで来たぞぉぉぉぉぉぉ! 今聞いたばかりの話だけど、さっき職員室で教師たちが来週頭から転入生がこの学園に入るという話をしていたらしい! ――しかも、その生徒の保護者は、あの神様だ! つまり、神格者だあああぁぁぁぁぁぁぁ!』


 司会者が神格者と言い放った瞬間、学園中の生徒たちは騒然とした。ざわめきは次第に大きくなり、一瞬にして学生たちの話題の的となった。


「こんな時期に転入生?」

「嘘だろ、あの神格者がこの学園に転入してくるだと!?」

「もう何人目よ。この学園マジ凄いんだけど!」

「男の子かな~。それとも、女の子かな~」

「これはもう部活に勧誘しなくちゃ!」

「神格者……ぜひ、どれほどの実力なのかお手合わせしたいところだ」


 学園の様々な場所から学生たちの声が飛び交う。放送部による昼休みの最後の大詰めというところで、まさかの転入生イベントによって学園中は大騒ぎだ。


「まさか転入生が……しかも神格者が転入してくるなんて……」

「確かにビックニュースね。司会ちゃんが大声を上げるのも納得できるわ」


 一方で生徒会長も友人も、神格者という単語に驚愕していた。


「でも、会長ならこのこと知ってたんじゃないの? 転入生が入ってくるなら、生徒会にも情報が入ってきてもおかしくないはずなのだけど」

「わたしも知りませんでした。最低でも、二週間前には転入生へ送る必要な書類とパンフレットの準備をお願いされるはずなのですが……」


 あまりにも遅すぎるのだ。この学園は普通の学び舎とは違い、魔物と戦うための力と(すべ)を身につけることができる学園なのだ。そのため書く書類が多く、中には学生としての個人情報だったりと面倒くさいのだ。だから転入が決まったら早期に準備せねばならないのだが。転入してくる一週間前に情報が来るんなんて遅すぎるのだ。


「おかしな話ね。あっちの急な都合があったのであればべつだけど……それとも、顧問の先生がすべて済ませてしまったのかしら?」

「その可能性が高いかもしれないですね。なんせあの顧問のことですからありえますね」


 生徒会長と友人が答えを導くと、呆れかえったような笑みを浮かべる。二人が言う顧問は、非常に真面目で仕事ならなんでもこなす完璧超人であるが、規則などには厳しくいちいち説教するもんだからあまり人気ではない。生徒会の一員は好いているのけど……。


 二人が話している間でも、学園中は神格者で盛り上がっている。司会者もテンションが上がり切っている状態で学生たちを煽っている。

 期待と好奇心。様々な感情が混ざり合う。中には神格者と腕試しをしたいと勝手に張り切っている連中も少なからず存在しているのも確実だろう。しかし、生徒会長はこの騒ぎは昼休みでは終わらないだろうと思った。多分、当の本人が到着しないかぎり、この騒ぎは続くだろうけど、


「まあ、書類のことは心配いらないとして。あとはこの余熱(ほとぼり)がいつ冷めるか、ですね」

「大丈夫じゃないかしら? 放っておいても。それに、そのほうが面白くなりそうだし」

「先輩、心配しているのかしていないのか、たまによくわからなくなります……」

「あらあら、これでも心配しているほうよ」


 なんの悪気もなさそうに微笑む先輩に、生徒会長は溜息を吐くしかなかった。

 生徒会長は窓際から外の景色を見て、なんとなく空を仰いだ。

 春風とともに桜が靡いて、学園中を優雅に桜花が舞う。まるで宴会のように騒がしい学園は、いつにもなく楽しそうで、それは会長としては少し微笑ましいぐらいだった。

 これは、(まが)月和(つきかず)()がこの峰神市の地に到着する一週間前の出来事だ。 

 


ご静読ありがとうございました!

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