表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私はクラスで一番背が高い

作者: ささきさき

◆◆◆

日曜の朝は静かだ。

きっとみんな寝坊してベッドでまどろんでいる。

歩美あゆみは枕元の スマートフォンを掴み、時間を見ると七時過ぎ 。

まだ寝るか、起きるか。

まぶたが迷っている。

扉が開く音が静かな廊下に響く。

お母さんが起きている。

まぶたは起きることを選んだ。


キッチンに行くと、母はきちんとパジャマから着替え、コーヒーをいれていた。

お湯を電気ケトルで沸かしマグカップに注ぐ。

「おはようお母さん 」

コーヒーの香りが部屋にひろがる。

「おはよう、今日は早いね。何か用事でもあったの? 」

母はコーヒー好きだがいつもインスタントコーヒーである。

以前母にコーヒー豆挽いたり、いろいろしないのと聞いたら、これが一番簡単で美味しいと笑った。

「特に用事はないよ。お母さんは? 」

「来週友里恵の誕生日だから買い物かな 」

「友里恵さんいくつになるの? 」

「28。アラサーをごまかせない歳だって騒いでたよ 」

歩美は冷蔵庫から牛乳を取りだし、コップに注ぎインスタントコーヒーを入れる。

簡単カフェオレの出来上がりだ。

「なんだもっと上だと思ってた 」

友里恵はいつもキッチリメイクをし、落ち着いた服装が多い。

母より年上と思っていた。

母は新聞に目を通しながら言う。

「中学生から見たらその辺りの年齢はみんな同じに見えるかな 」

歩美は自作のカフェオレを一気に飲み干すと、覚醒半ばの頭が冴える。

もう一度カフェオレを作り飲み干すと、母から呆れた声がした。

「そんなに飲んでどれだけ背伸ばすつもり?ごはんにするから着替えておいで 」

歩美はハーイと返事をして自室に戻った。



着替えてキッチンに戻るとベーコンを焼くいい匂いがただよっていた。

「やった厚切りベーコン。買っておいたの焼いてくれたんだ 」

「目玉焼きにはベーコンでしょう 」

「パンないよ 」

「何言ってんの、ゴハンだよ。目玉焼きにはゴハンとベーコン 」

8枚切りの食パンカリカリにトーストして、目玉焼きベーコンケチャップでサンドイッチにしたかった。

ベーコンの脂と熱の入ったとろける黄身が合わさって美味しいのに。

「おかず運んで、ゴハンよそって 」

白米に味噌汁、目玉焼きにベーコン、ひじきの煮物、漬物少々。

和が強いメニューだ。

「スープとかないの?」

「お母さんは味噌汁がいいし、一人の時やりなさい 」

炊飯器を開けると炊きたての米の匂いが湯気とともにあふれ出し、見れば艶のある米粒が立っている。

「お母さん、ゴハン朝セットして炊いたの?」

母は後片付けをしながらニヤリと笑った。

「ちょっと早く目が覚めたからね。これでもパンがいい?」

炊きたての米をほぐすとゴハンの甘い香りが歩美の脳を刺激した。

この香りに対する反応はきっと遺伝子に組み込まれている。

「お米万歳 」

「じゃあ食べようか 」

二人で食卓につく。


歩美は母に聞いた。

「お母さん。友里恵さんに何あげるの?」

「んー、まだ子供もいないし友里恵のアクセサリー系かな。」

友里恵さんは28歳で子供がいないし、バリバリ働いている。

「お母さん。他の人の誕生日には何あげてるの?」

「みんなバラバラだね。美智子は本が好きだし、晴菜は服、文さんは旅行に行くし、はっちゃんはゴルフ用品だしね 」

歩美はゴハンを口に入れた。

本当に聞きたいことが出てこない。

漬物も一緒に入れる。

「買い物二人でいこうか?」

母が目玉焼きとベーコンをゴハンにのせ、醤油をかける。

歩美はゆっくりゴハンを飲み込み、唇を少しなめた。

「お母さん、は、進路、どうやって、決めた 」

疑問はへたくそな英訳文のようになった。









「なんだったかな、まあ声かけられて、いいよ、て返事しただけだからな」

母はご飯の上の黄身を潰した。

歩美はご飯をまた一口食べる。甘い、アミラーゼが仕事しなくても甘い。

「ほらじいさんも同業者だったから、仕事内容わかったし」

歩美はなくなった祖父を思い出す。笑った顔が母そっくりだった。

「お母さんはおじいちゃんの子どもだっけ?」

「そうあと洋子姉さん。昔の人はすごいよね、二人も子どもつくってさ。私は歩美一人で精一杯だな」

母は歩美を16で産んでいる。15歳、今の歩美の年齢で妊娠したことになる。

歩美はクラスで一番背が高い。だから担任は心配してして声かけてくれた。体は大丈夫かと。

母を見る。

歩美より背が高く180センチを軽く超える。

短く揃えた黒髪。

喉仏。

「名前は誰が決めたの?」

「じいさんだよ。洋子姉さんは洋一に、春香は字を変えて遥に」

歩美は味噌汁をすする。赤味噌の塩気が舌を抜ける。

母は私を産んでから男性になった。

そして奥さんが5人いる。

子どももいる。

「私だったら歩美からあゆむかな」

歩美の体は二次性徴とともに変化が少しづつ始まった。

男性になるために。

「歩美、エッチは気持ちいいぞー」

母がにやけた顔で言う。

女子中学生に三十路男が言うことでない。

「お父さんきもい」

母は歩美にお父さんと呼ばれ必死に謝っていた。

ホンソメワケベラ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 母娘の仲が良さそうなところ [一言] 最後の方でやられた?!と思いました。うまくだまされたと いうか(褒め言葉)、楽しまさせてもらいました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ