第五話「ライヤ散る」
神器、それは、神が持つ武器。
人が望む希望。
神器、それは、強大な力。
勝利運ぶ過去の遺物
じ〜んぎ〜
◇
「それじゃわっかんねえよ!線香のCMか!」
ーーいや、お前も神器を使えるじゃないか。
「使うなっつったのアンタだぞ!なんなんだよ、アンタ!」
ーーというか来てるぞ!
「……うおっ!」
近づいてくる雷哉の突撃を避けようと、もう一度左に重心を向けるも、左腹を衝撃が襲った。
「ぐぁ!?」
左を瞬時に見ると、そこにはヘッドが以上に大きく(直径約三十センチで長さは六十センチ)、持つ部分である柄が以上に短い(十五センチ)槌……神器「ミョルニル」が風斗の左脇腹を打ち付けていた。要するに、すごく……大きいです……。
「何!?」
「かかった!」
雷哉が叫び右側に回り込んだところで、風斗はミョルニルに押し出され、右側に弾かれた。
「ぬわっ!」
其処に待ち受けていたのは、雷神の力を持つ、雷哉。
「雷神の雷〈打撃〉ォ!」
早口に技名発声を完了し、雷哉は昇◯拳のように風斗を高く高く突き上げた。
「ぐゎっ!」
そして雷哉も、風斗の身体を打って跳ね返り地面に落ちていたミョルニルを回収し、地面を蹴り風斗に近づき、叫んだ。
「雷神の鉄槌ァァ!」
途端に全身に雷が帯び、縦に回転しながら近づいていき……風斗よりも上空に到達し、回転を止めた。そして……ミョルニルを重力に沿って、風斗の背中に叩きつけた。
「かはっ!」
そして風斗は死んだ……ように地面に倒れこんだ。流石にこんな早く主人公は死なないだろう、異世界系を除いて。
◇
風斗は雷哉の『雷神の鉄槌』を受け、地面に伏していた。制服はもう穴が空きすぎており、服として全く成り立っていない。その分傷だらけの肌が露出している。学校とゲームセンターくらいにしか行かないくせに、風斗の肌は少し焼けている方で、血と肌の対比は余り気にならないものの、露出する部分は殆どが紅く汚れている。服も同様。
結論、つまり唐須風斗は瀕死状態。
まあ、普通の人間なら即死するほどの雷に撃たれたり、建物(あくまでも神界のものなので、人間界に何ら問題無い)を簡単に破壊できる『神器』と呼ばれるハンマー『ミョルニル』で滅多打ちにされたり、地面に叩きつけられたりしたから当たり前だろう。
「痛くてごめんね……でも、もうすぐ楽になるから」
「……何だ?……殺害予告か?」
風斗は薄れゆく意識の中応えた。声は普段より小さくなっているが、聞こえなくなるほどでは無かった。
「神の力……神力が全部減れば、神の力を失うからね」
雷哉の言葉に風斗は言葉を失った。あ、失う事をかけているわけでは無い。ち、違うし!べ、別に思いついてニヤニヤしていたわけじゃ無いんだからね!
まあそのうちツンデレも出てくるだろ。男だか女だかは知らんが。ていうか男のツンデレって誰得だよ。おじいちゃんのツンデレも誰得だ。あ、あれもタイトルかけてるなあ。というわけで、かけることは恥ずべきことでは無い。Q・E・D!マーマレー
「オ……ディン、本当か……?」
ーー……本当だ。神力が底をつけば儂はこの世界から消滅する。そしてお前は元の普通の人間に戻る。そして元の日常に戻る。儂も……お前も、元に
「嫌」
風斗はゆっくりと立ち上がった。嫌が応なく襲う痛みに耐えながら。
ーーお前……
「元に戻るのは、嫌だ」
ーーおい風
「そうだ、未来を変えるために、俺は……変わるんだァァ!」
風斗は叫んだ。薄れ行く意識を戻しながら。
「ふ、風斗……」
「オーディン!すまん、『アレ』を使う!」
ーー……わかった。ロキを見つけるまで使わないと思っていたが……。
「さっきの話もそのせいだろ、拳骨一回で済ませてやる」
ーー自分で自分を殴るのか?
「じゃあやめとく。だが……今からちょっと無理をするぞ!」
ーーああ、バカ息子に喝でも入れてやれ。
「はは ……来い!『グングニル』!」
「な、神器!?」
『神器』は今は存在しないとされる鉱石で作られた、大半の神が持つ武器や防具の事で、遥か昔の大戦『ラグナロク』で所有者である神が死んだ後は鍛冶技術に優れた小人『ドヴェルグ』が回収し、戦いによって破壊されないように海に沈めた。だが、神は『融合』という代償が有りながらも蘇り、神器の名前と召喚を意味する言葉を発すれば、例えどんなに破損していても一瞬で持ち主の元に向かう。先程ビルがいきなり崩れたのは、雷哉がミョルニルをすぐさま召喚しビルを破壊したからだ。というか『』多すぎだろ、厨二か。
……そして風斗は、その『神器』である槍『グングニル』を右手に持つと今までの声の小ささが嘘のように、淡々と言い放った。
「折角力を手に入れたのに、すぐ失うのは勿体無いじゃないか。魔法少女のようにマミるのも勘弁だな。」
ーーおい。
「動機が不純だ!」
「折角の力、有効活用させてもらう!もう何も怖くない!」
ーーおい死亡フラグ。
そう言い風斗は、地面を蹴り雷哉に槍を突き刺そうとした。
「ぐっ!」
雷哉は怯んだように一瞬硬直したが、距離は約五メートル。槍は約一.五メートルなので間一髪で避けることに成功した。だが、風斗の攻撃はまだ終わってなかった。飛び込むように地面に突っ込みそうになりながらも、風斗は地面に着く前に脚を前に出しながら自らを回転させ、雷哉に向かって飛び込む姿勢を完成させた。だが、グングニルの先端を雷哉には向けられず、地面を蹴る時には、風斗から見て左を向いていた。
ーー風斗、何を!?
「このまま槍で殴る!」
ーーえ?
「な?後ろから!?」
雷哉は後ろを向いて目を見開き、回避を試みた。雷哉は死んでしまった!……いや、これ溶岩遊泳だわ。
幾ら神の力で肉体が強化されていても、あくまでも人間。そして、攻撃に使われるのは神の持つ最強の力である神器。雷哉は右手で槍の持ち手を掴み、左手で槍の穂を支える、まるで空を飛んでいるアンパン男のようなポーズを取る風斗の槍の側面をぶつける攻撃を避けられず、背中を強打した。
「背中いた〜!」
ーー槍を突かずにぶつけるバカがいるか!
「そうだ」
ーーは?
「そうだ、俺が、俺たちが、馬鹿だ!」
ーー……一緒にするなよ。
そんな知能00《ダブルオー》な会話をしていると地面に伏していた雷哉は息を切らしながらも既に立ち上がっていた。
「……まだやるか、雷哉」
「……なんで君は、融合者に」
「俺が勝ったら教えてやるよ!」
「何だって!?」
風斗は先程の雷哉のように地面を蹴り、飛びかかった。
「隙だらけだァ!」
「汚いよ!?」
「汚くて結構!」
一瞬身体を硬直させた雷哉だが、すぐに我に返りミョルニルを逆手に持ち、パンチの姿勢をとった。
「うぉぉ!」
風斗も負けじと右腕を伸ばしグングニルを突き出したが、神器同士はぶつからなかった。
そして、ミョルニルが風斗の胴を打ち付ける前に、グングニルが雷哉の腹を貫いていた。
「ごふっ!」
雷哉は血反吐を吐き手に持つミョルニルを落とした。
「風斗ごめん、救えなかった」
そう言い、雷哉は無数の光の玉になって消えた。
「何を勘違いしてるんだか……。そうだよな、お前は優しくて、騙されやすくて……優しいんだ」
ーーいや、死んでないぞ?故人を思うように言うな。
「坊主だからな」
ーーいや聞けよアホい彗星おい。
闘い終わった勝者は、敗者より少し遅れて無数の光の玉となり、人間界に戻った。
……そして傍観者も人間界に戻っていた。
〜次回予告〜(用語解説と話数を合わせたいだけ)
トールと融合した雷哉を退けた風斗。しかしまだ闘うべき相手が残っていた!果たして風斗は授業中の睡魔に勝てるのか!?
次回急展開!