第二話「チュートリアルのような説明口調」
大量の荷物を載せた大型トラックは信号が赤であるにもかかわらず走り続けた。所謂「居眠り運転」だ。ここまではいい。……いや、法律的には良くないのだが……。問題は周りの状況だ。
時刻は六時三十三分。
場所は郊外の十字路。
運転手は睡眠不足により意識が朦朧。
後続の車は無し。
周りに歩行者は一人だけ。
そしてその歩行者は……トラックの目の前にいる唐須風斗だ。
風斗は驚きのあまり身体が硬直してしまった。普通の高校生が大型トラックに轢かれたらどうなるか……。最悪の場合、死ぬ。
しかし、風斗はいろんな意味で普通じゃなかった。
ーー風斗!使え!
脳に直接ノータイムで聞こえる声によって、硬直は解除された。そして心臓が漫画でよくある「ドクン」という描写のように強く脈打ち、力が湧いてきた。その瞬間、風斗は身体と掌をトラックの方に向け、とっさに叫んでいた。バトル漫画などでよく使われる……「技名」を。
「お、風神の突風!」
風斗の掌と僅か五センチしかなかった大型トラックは真後ろに下がっていき、運転手は目を完全に覚ました。風斗の掌から、強風が出ていたのだ。
◇
北欧神話の神である、風神オーディンの依り代となる人間……即ち「融合者」はある力を手に入れる。それは「風を起こす力」と「神力」と「装備品」と「必殺技」だ。対戦ゲームで例えるなら、「能力」と「MP」「武器」と「技能」。
まず能力だが、これは風神であるオーディンらしい能力と言える。だがノーリスクというわけでもなく、しっかりと制限がかけられている。
オーディンの能力……名付けるとしたら「送風」は、体内の空気を身体の穴から風として超高速で噴射する能力である。まわりに空気があれば巻き込んで風を増大できるため消費は少ないが、遠くに発生させるには「神力」が必要だ。その代わり竜巻なども起こせる。
神力は辞書に載っているような意味ではなく、「神の力」という扱いだ。回復や攻撃に使われるためRPGの「MP」のようだが、あくまでも「神の力」なので、無くなったらもう「死」しかない。
「武器」は有名な槍「グングニル」だ。今や技名や曲のタイトル、会社の名前にも使われている。名前は古ノルド語で「貫くもの」。
全長は約百五十センチ、柄は約十センチ。穂先は長くて硬いが軽い。しかし、まだ風斗は使ったことがない。
そして技能は、今さっき風斗が使ったような、「必殺技」だ。融合した神は大昔に存在していたため、現代の汚染された空気が苦手なため融合者を必要とする。そして神は体内で休んでいるのだが、技能は能力を最大限に使う。しかし融合者はあくまで能力を「借りている」だけなので最大限に使うことができない。そのため、融合者は神と一時的に意識を共有し、動作を合わせるために発声をする。
しかし、しっかりとしたモーションや名前などの打ち合わせ……風斗の言う「技能製作」が必要である。ちなみに風斗のつけた名前のコンセプトは、分かりやすさだ。
要するに、融合者にはゲームみたいな力が手に入る。オタクの風斗にはピッタリだった。
◇
風斗の放った「風神の突風」は能力「送風」で掌の毛穴から体内の空気の殆どを噴射する技能だ。しかし、考えてみてほしい。走っていた大型トラックが真後ろに下がるほどの強風だ。使った本人はどうなるか、そんなのは明白だろう。
……吹っ飛ぶに決まってるよね☆
用語解説③〜能力と技能〜
能力:融合者にそれぞれ与えられた力の事。神が司るものや好みが反映される場合が多く、風神オーディンの融合者である風斗の能力は「送風」。能力は主に神力を消費するものとしないもの、状況に応じて消費するものに分かれており、風斗は体内からなら消費しないが、発生は消費する。
技能:融合者が自分で作る必殺技。能力を使うものが多く、能力を最大限に使う為に神と意識を共有する。とても強力だが、発動時の動作を決めたり名称を決めたりする為の綿密な打ち合わせが必要。風斗の場合は「風神の突風」など、英語かつ分かりやすい名前となっている。