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異次元の魔女 3

 鈴音遥の別荘は、市街中心地から出るバスの最後の停留所から、さらに三十分ほど歩いた丘の上にあった。驚くことに、バス停からものの数分歩いたところからすでに私有地になっていて、別荘はおろか丘のある山全体が鈴音家の持ち物なのだ。それは鈴音家以外の人間は別荘に続く道を通ることさえないということで、だからその道のりの間、僕は逢瀬川と二人っきりだった。


 どうして僕がいるのかというのは言うまでもない。もしも鈴音の別荘が何か霊的なものに憑かれていた場合、僕の霊媒体質で処理するためだ。それに、逢瀬川の秘密を主に知っているのは僕しかいない。決して逢瀬川に友達がいないというわけではないけれど、ことオカルトな話題については僕が適任なのだ。

 鈴音の家を訪ねた翌日、僕も知らないうちに逢瀬川は別荘への宿泊をオーケーしていた。僕が理由を問うと「だって、『もうすぐ死ぬ』だなんて、ワクワクするじゃない」と逢瀬川は嬉々として言った。逢瀬川ならそう答えるだろうと知っていた僕は、半ばあきれながら同伴を承諾したのだ。


 長い山道を越えてようやく開けたところに出たと思うと、目の前に大きな屋敷が立っていた。僕はカタログの写真と目の前の屋敷を見比べる。間違いなく、ここが鈴音の別荘だ。写真で見るよりもずっと迫力がある。到着した時刻は午後六時。薄暗いのも相まって、ひどく不気味に見える。そのうえ、森を抜けた僕たちを出迎えるように、カアカアと鳴き声を上げてカラスが飛び立ったせいで、本当に魔女でも住んでいるかのような雰囲気が醸し出されていた。


 逢瀬川が鍵を開けて、ゆっくりとドアを開けていく。夕日が差し込んで薄暗い屋内を照らし出すと、広々とした廊下が現れた。荷物を置いてブレーカーを上げようとスイッチに触れると、指先にざらりとほこりの感触がした。ずいぶん放っておかれていたらしく、電気をつけると宙に舞ったほこりが真っ白くさえ見えた。

「まずは掃除ね。私、汚いところでは空気を吸うのも嫌なの」

「お前、掃除って言っても、これだけ広い家を二人だけで掃除していたら、それこそ三日間なんてあっという間に過ぎちゃうぞ」

「その点は大丈夫よ」逢瀬川が笑いながら言った。「人手なら余るほどあるもの」

 逢瀬川が指を鳴らして合図すると、待っていたかのように大量の分身が現れた。僕が動揺するのをよそに、逢瀬川の分身たちはテキパキと掃除を始めて、ものの三十分もしないうちに屋敷全体が新品のようにきれいになった。

「なあ、逢瀬川。前から気になっていたんだが、一体誰がお前の本体なんだ?」

「本体なんていないわ」分身たちを見送りながら、残った逢瀬川が答える。「全員が独立した自我を持っているもの。一定の条件がそろえば記憶を共有することもあるけれど、通常は皆別々に過ごしているのよ。たいていはやることもないから眠っているか、死に方を探しているかね」

「でも、今来た分身たちは皆お前の言うことを聞いたじゃないか。それはお前がボスだからじゃあないのか」

「同じ目的があれば、誰でも一番理にかなった行動をとるものよ」

 逢瀬川は薄く微笑んで屋敷の中へ入った。


 それから僕たちは夕食を取って、寝る前の時間を屋敷の探検に充てることにした。鈴音から屋敷内の見取り図は渡されていたから、どこにどんな部屋があるかはわかっていた。一階にはキッチン、ダイニング、リビング、応接間。リビングには二階へとつながる階段があって、二階には寝室がいくつかと、鈴音が幼いころに遊んでいたという子供部屋がある。どこも変わった様子はなく、しいて言うなら父親の仕事兼趣味だというアンティークのコレクションがいたるところに飾られているぐらいだ。


 全部回り終わって、おかしなことが何もなかったことにホッとする反面、少しがっかりした。てっきり、開かずの間や、鉄仮面付きの鎧や、はたまた絵画をめくると裏にお札がぎっしりというようなことを想像していたが、なんの変哲もないお屋敷だった。これなら、僕が来る必要性はなかったかもしれない。逢瀬川も特に異変は感じないらしく、尋ねても首を横に振るだけだった。


 夜が更けて、僕は鈴音の両親が使っていたという寝室を借りることにした。逢瀬川は隣の部屋だ。「恥ずかしがらずに一緒の布団で寝ましょうよ」などと言う逢瀬川の言葉を無視して、僕は部屋の戸を閉めた。

 寝室は、鈴音の両親が使っていたというだけあって他の部屋よりもアンティークの量が多く、実際よりも手狭に感じられた。それでも僕の部屋に比べたらずっと広い。僕は少し落ち着かなさを感じながら、電気を消してベッドに入った。


 しばらくしても、僕は寝付けなかった。やけに静かだ。窓を開け放しているというのに、カエルの声はおろか物音一つしない。周囲を森に囲まれている上に、屋敷のある高い丘から先は海が広がっているから、音が聞こえないのは当然ではあるが。

 十月には少し大きめの毛布のせいで若干の寝苦しさを感じながら、僕は静かに眠りに落ちた。


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