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第63話 白

「COSMOS」超絶未完成低クオリティですが時間の都合でここにおいときます。ぶっちゃけ聞かなくていいです特に読んでいる途中に聞くのはお勧めしません笑

読み終えてからどんな感じの曲なのか知りたいという奇特な方がいれば、聴いてみてください。歌だけでも改善版すぐに出すんで、宜しくお願いします。

http://nana-music.com/sounds/020df738/



 

 ゆっくりと、切なげなピアノイントロが流れ出した。

 最近の麗奈の曲にしてはかなり珍しいバラード調だが、香奈ちゃん曰く、バラードこそ麗奈の真骨頂らしい。

 俺としてもアップテンポでポップな曲を歌っているイメージが強かったが、なるほど確かにと頷けるくらいの、イントロから人を惹きつける力を持ったバラードだった。

 逆に、どうして売れなかったのか、失敗作という扱いを受けてしまったのか、疑問になってしまうほどだ。


「♫曇りが多くなりました

 そちらはどうでしょうか♫」


 そう、この歌詞さえなければ。


「♫紅葉が見頃になります

 あなたも見ていますか♫」


 この曲は、麗奈がデビューしてすぐに書かれた曲。親に捨てられ、香奈ちゃんは病気になり、どうしようもなくなってしまった少女の、家族へ向けた、悲しい独白。


「♫共に歩んだあの日々を

 離れて歩いた日々では

 埋められないよ

 もう、戻れない♫」


 戻れない日々に向けた、彼女の涙。それこそが、彼女の原点。

 そして、その全てがサビで一気に放出される。


「♫帰ろうか

 冷たい風に

 心の芯から凍えないように♫」


 その音に、声に、想いに、皆心痺れる。


「♫秋が去って

 冬が来るなら

 嗄れる声も

 連れて行って欲しい空へ♫」


 だからこそ、この曲は受け入れられなかった。

 笑顔で元気を振りまくアイドルがこんな暗い曲を歌うなんて、と思って離れた人も確かにいるだろう。でも、この曲に深く心打たれた人だっていたはずなのだ。

 そういった一部のファンですら、この曲の復活を望まなかったのは、その想いがあまりに痛烈すぎたから。響きすぎたから。

 こんなの、耐えられない。苦しいから、聞きたくない。

 そう、思ってしまうから。


「♫子供だったあなたを

 大人でなかった僕が

 優しく包めたなら、いいのに♫」


 その証拠に、さっきまで樋口の歌で盛り上がっていたファンの声援も力をなくし、動きもなくなってきた。

 こんなこと、前にもあったよな。その時は、どうなったんだっけ。


「♫暖かささえも

 まるで刃物みたいに

 突き刺さなら教えてよ

 好きの意味を♫」


 そう、今と同じ。誰かの力で積み上げたキラキラのステージの上で、思いっきり自分の歌を、想いを歌ってみせたあの時。

 ピアノソロに入り、客の反応はより分かりやすくなる。

 どうしてレナがあんな曲を?暗い歌詞なんて似合わないよ。俺たちの求めていたものはそうじゃない。そんな声が、俺にまで聞こえて来そうだ。


「♫夕暮れ、紅く染まる坂

 路傍で咲いたあの花を

 愛と呼んだから

 目を逸らさないでいて♫」


 でも、今の麗奈は違う。

 あの時には、求めても絶対に手に入らなかった大切な人が、今、目の前で麗奈を見ているんだ。

 この歌を、一番に聞かせたかったはずの人が、目の前にいるんだ。

 だから、見せてやろう、麗奈……そして、香奈ちゃん。この曲が、2016remixだということを、その意味を。

 君が書いたこの歌詞を、ぶつけてやるんだ。

 そして、最高な瞬間を、一緒に感じよう。

 麗奈が、精一杯歌うから。アメリカまでだって、響かせるから。

 曲は終わりへ。クライマックスであるラスサビに入る。


「♫混ざらない

 二つの糸が

 解れてぐしゃぐしゃになる前に


 あなたから罪を奪って

 種を蒔くよ

 明日へと、繋がる♫」


 そして、ここで転調。

 希望の溢れる、未来を求める曲へと姿を変える。

 この瞬間が、どうしようもなく気持ちよくて、辛くて、悲しくて、嬉しくて。

 そう感じている時にはもう、彼女の歌声しか聞こえなくなっている。

 ずっと、忘れられなくなる。


「♫だから泣いていいよ

 笑っていいよ

 黄ばんだノートを捨てていいよ


 もし見れば

 思い出せるから

 一面咲く

 コスモスのような

 あなたを♫」


 最後のフレーズを歌い終える。


「っ……ぁ」


 その瞬間、俺は霞む視界の中でも、しっかりと見ていた。

 泣き崩れる、結海さんと、それを支える貴弘さん。そして、訳がわからないけど、とにかく涙が止まらない真司くん。

 ああ、“家族”だ。

 どこにでもあるような、ありふれた幸せの形なのに、どうしようもなく美しく、儚い。

 気づけば観客も惜しみない拍手を送っていた。中には俺と同じように涙している人もいる。

 麗奈は、それに笑いながら答え、舞台を降りてくる。おっといけない、涙は拭いておかなきゃ。

 でも、お前やっぱすごいよ。こんな景色、俺には一生かかったって作れそうにない。

 香奈ちゃんも、樋口だって、みんな麗奈は弱いっていうけど、こんなにかっこいい人間、他にいるっていうのか?

 俺をこんなに感動させてしまう人間が他にいるなら、連れてこいよ。


「あ……れ……?」


 その感情は、嘘じゃない。そんな麗奈が、俺は好きだ。

 でも、どうして。

 どうして俺の心は、こんなに悲鳴をあげているんだ。

 ふざけるなよ。あんなに輝いている麗奈を見て心を痛めるなんて、まるで俺が麗奈に弱くあって欲しかったみたいじゃないか。

 そんな感情ない。絶対に、認めない。

 麗奈は舞台裏に来ると、まっすぐに俺の元に走り寄る。

 汗をかき、上気した赤い頬で、瞳を潤ませたままの格好で。


「届いた……届いたかな?お母さんに、美香に、みんなに!」

「届いたに、決まってる」


 とても、あんな風に会場を沸かせたスーパーアイドルとは思えない豹変っぷり。

 交代でまたステージに上がる樋口なんか、会場見てすっごく微妙な笑み浮かべちゃってるぞ?まったく、俺の担当アイドルのデビュー戦なのに、主役にプレッシャー与えてどうする。


「じゃあ、伸一には?」

「っ……」


 だから、怒らせろよ。俺の意見なんか聞くなよ。弱いところなんか見せるなよ。

 近くにいるみたいに、思えてしまうだろ。汚いところ、見せそうになるだろ。


「最高だったよ」

「〜〜〜っ!!当然ね!!」


 だから……俺の反応なんかで、そんなに嬉しそうな顔、するなよ。

 まったく、どうして俺がこんなに苦しくならなきゃいけないんだ。

 全部全部、お前が悪いんだからな?

 初めて、お前の曲を聴いた日を、思い出させるから。

 こんなにも胸が高鳴る瞬間を、思い出させるから。

 あの時から、ずっと抱いていた感情を。しまい込んだ、身分違いな感情を、思い出させてしまうから。


「焼肉」

「え?」

「あたしも行くからね?」

「くっ……………」


 俺がそんな感傷に浸っているっていうのに、この女は……


「は……ははっ……」

「何?なんで笑うの?」

「いや、やっぱお前、ないなぁって」

「何よそれどういう意味よそれ!!」

「なんでもない!でも、お前の分は奢らないからな!」

「え!?なんでよ!!」


 肩透かしにもほどがある。俺は、一体何を思い悩んでいたというんだ。

 これでいいじゃないか。

 この距離感が一番。近づいているようで、遠い。離れているようで、近い。

 矛盾しているようで矛盾していない、こんな関係が、一番ちょうどいいんじゃないか。


 これから女の子二人、両手に花で焼肉。

 結局二人分奢ることになって、そしたら電話がかかってきて、嫉妬した先輩たちも参加してきて、俺一人では奢りきれませんと断って、そしたら仕事をサボっている俺たちを社長さんが怒りにきて、そしたら香奈ちゃんの手術が成功したって知らせが入って、全員酒を飲みながら喉が嗄れるまで笑って、疲れたらいつかのように麗奈を家に送って、今回は樋口も一緒で、家に帰ったら今日のこと、忙しくて楽しい明日のことを想像して、にやけて、眠る。


 それでいいじゃないか。

 不満なんかない。これ以上、近づく必要はない。

 これが、少しずれているけど、俺のずっと求めてきた“青春”ってやつだと思うから。

 だからずっと、このままで———————












































































 そっと、彼女の頬に触れる。


 初めて会った時、俺のことをお兄ちゃん、と呼んだ彼女は、きっと俺のことをあんまり好ましく思っていなかったのだと思う。麗奈を責める俺を、きっと理不尽に思っていたことだろう。

 病室で彼女に会った時、俺を自分の代わりに仕立てようとしてきた時は、本気で驚いた。15歳という年齢に似合わない大人びた考えが、あまりにもの強さが、少しだけ怖かった。でも、だからこそ誕生日パーティーをした時見せたほんの少しの子供らしさが、とても可愛らしく思えて。

 相談したくて病室に行った時、俺は樋口のことがあってボロボロで。そんな時、作曲しろとか言われた時は流石に焦らされたけど、結果そのおかげで麗奈は曲を書けた。さすがっていうか、預言者か、って突っ込みたくなった。そのせいで、少し勘違いもしてしまったけど。

 母親と会った時の彼女は、今まででは考えないくらい感情を表に出していて。某ネズミの国で遊んだ時に、俺はようやく彼女がまだ15の少女だったことを理解して、みっともなく泣いてしまった。

 空港で会った彼女は、やつれていながらも、確かに強い決意と覚悟を抱いていて、最後に俺に……


 なぁ、あの時、俺の唇に触れたあの感触、まだ覚えているんだぞ?

 俺の純潔、奪ったんだぞ?ずっとずっと、忘れられないまま生きて行かなきゃいけないんだぞ?


 なぁ、気持ち悪いって、笑ってくれよ。

 そしたら怒る俺をなだめて、約束したように、一緒に夢の国に行こう。


 そうだ、乗り切れなかったものに、乗らなきゃ。

 それ以外にも、たくさん行きたいところ、あるんだろう?全部行こう。


 言ったじゃないか、この戦いが終わったら、結婚するんだって。


 なら、叶えてくれよ。俺の責任、取ってくれよ。


 心残り、残りすぎじゃないかよ、なぁ……っ!!




「ぃぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああっ!!!!!!」




 小さな畳の部屋中に響く、樋口の悲痛な叫び。

 真っ黒な服を着た風間プロの面々、その他関係者は、そっと部屋から立ち去っていく。

 あの、大成功に終わった樋口のデビューライブから三日後。俺たちは、葬儀会社のホールで最期の別れをしていた。


「行こう、美香」

「ぃ…あっ……ぇぐっ……ああっ……」

「美香」

「ぁ……ごめ…ん……のの……」


 今井に手を引かれ、樋口は部屋を出る。

 残ったのは、俺と麗奈だけ。


「ねぇ、こんなに、あっさりとしてるものなんだね」

「…………そう、だな」

「人の生き死にって、もっと大事だと思ってた」

「………そうだな」


 すると、風間プロのみんなと入れ替わるように沢良木家の三人が入って来た。

 結海さんは頭を下げ、貴宏さんは俺の肩に手を乗せた。


「少し、外に出ていよう。そうしなきゃ、きっと結海さんは……」

「わかりました」


 俺は麗奈の元へ歩く。

 結海さんは横たわる自分の娘を見て、その傍らに座るもう一人の娘の顔を見て、優しげに頬を緩ませる。


「綺麗な顔……」

「…………うん」

「私、本当にここに来てよかったの?」

「……うん」

「そう……ありがとう」


 結海さんは、そっと横たわる彼女の頬に手を触れた。


「麗奈、外に、行こう?」

「…………わかった」


 麗奈はゆっくりと立ち上がり、俺と一緒に部屋の出口に向かって歩く。

 そのまま、貴宏さんと真司くんも一緒に部屋の外に出て、襖を閉めた。


「じゃあ、また後で」

「はい」


 それから貴宏さんは真司くんの手を引き、どこかへ歩いて行く。

 真司くんは、終始静かで、大人しかった。よく意味はわかっていなくても、今がどういう時間なのか正しく理解できているのだろう。


「麗奈、外の空気でも吸おう」

「……うん」


 そして、外に行こうと出口を向いた時……


「ぁっ…………ぃああああっ!!ぅぁあああ…………ぁぁぁぁああああああっ!!!!!!」

「っ……」


 振り返っちゃ、いけない。すぐに襖から離れないと。

 この声は、聞いてはいけないものだから。




 12月の空気は、容赦なく肌を鋭く突き刺してくる。季節は秋から、冬に移ろっていた。

 入り口に墨で書かれた文字が、ひどく、辛かった。


「コート……」

「……ありがと」


 俺のコートを差し出すと、受け取って羽織ってくれた。

 このままだと、彼女が凍えてしまう気がしたんだ。そうしたら、もう、戻れない気がしたんだ。


「伸一、私、おかしいの」

「……何が?」


 おもむろに、麗奈は背を向ける。


「香奈がもういないのに、とても悲しくて、もう生きていけないくらいのはずなのに、どうしてか……涙が、出ないの」

「………………」


 そう。あの日、香奈ちゃんの手術の失敗を聞いた日から、泣き虫で、寂しがりやな麗奈は、一度だって涙を見せなかったのだ。

 それは、彼女が強くなったということ。

 何かを失って、人は前に進んでいくのかもしれない。

 そう、思った瞬間……


「…………雪」


 空から、優しく雪が降り始めた。

 まるで、麗奈の代わりに泣いてくれているように。黒い服を、白く染めようとするかのように。

 掌で雪を受けながら、麗奈は振り返る。

 そしてその表情に笑顔を貼り付けて…………




「ねぇ、あたし、強くなれた……かな?」


「麗奈っ!!!!」





 強くなったわけ、ないだろ?何かを失って強くなるだと?ふざけるな。

 この子の姿を見て、そんなことがもう一度言えるか?

 俺の腕の中で、小刻みに震えて、現実味が持てなくて、泣くこともできない、こんなボロボロの彼女を見て、まだそんなことが言えるか?

 笑うなよ。笑わなくて、いいんだよ。

 だから、泣いてくれよ……


「やめてっ!!」


 どん、と突き飛ばされる。

 その目には、明確な敵意が宿っていた。


「わかっちゃうじゃん……香奈は、もういないんだって、わかっちゃうじゃない!!!」

「っ……」


 馬鹿野郎。やっぱり、お前には何にもわかっていなかった。

 現実味が持てないんじゃない。悲しみを隠して笑っているんじゃない。

 ただ、たった一人愛した家族との別れを、信じたくなくて、そう思い込んでいるだけなんだ。

 なんて、弱い。香奈ちゃんとは大違いだ。

 じゃあ、そんなこともわかってあげられなかった、自分の理想を押し付けて、勝手に憧れていた俺は、一体なんなんだ。


「もう会えない。一緒に曲も作れない!ご飯も食べれない!お母さんと仲直りも、もう、ずっとずっとできないのよ!!」

「麗奈……」

「香奈もいない、お母さんには新しい家族がいる、風間プロにはもう、美香がいる」

「麗奈ぁ……っ!!」

「ひとりぼっち……あたしには、もう、誰も側にはいてくれない……っ!!」

「っっっ!!!!」


 これ以上、耐えられない。

 こんな言葉は聞きたくない。彼女のこんな顔を、俺は求めていたんじゃない。


「離してよ!!離してったら!!!!」

「離さない」

「いや……いやぁっ!!」


 何度殴られても、絶対に離さない。

 きつくきつく、抱きしめ続ける。


「なんで……なんでこんなことするのよ……っ!!」


 湿り気を帯びた、恨み言。

 やがて俺を殴る腕も、徐々に力をなくしていく。

 こんなはずじゃなかった。

 もっとこれから色々なことがあって、その先に、もしもこんなことがあったらと、考えただけ。


「俺は、麗奈の味方だ」

「またそれ……?もういいよ。もう、私のことなんか放っておいて!!」


 でも、俺は嘘をつけない。

 目を閉じ、もう一度確認する。なんだ、聞くまでもないことを聞くな。

 俺が本当はどうしたいかなんて、そんなの決まっている。

 俺は、麗奈を。この、あまりに小さな偶像を…………




「俺は、麗奈が好きだ」




 その言葉を口に出した瞬間、腕の中の麗奈がびくりと震えた。

 ああ、言っちまった。

 相手はトップアイドル山橋レナだぞ?こんな馬鹿げたこと、頭沸いてるとしか思えない。

 でも、しかたないだろ。

 ずっと憧れていたんだ。あのライブを見た日から、ずっと、ずっと。

 でもそんなことないって、ありえないって言い続けて、目を逸らして、嘘をついてきた。


「どうし、て……?」

「麗奈?」

「どうして、そんなこと言うのよぉ…っ!!」

「〜〜〜っ!!」


 でも、ダメだった。崩れてしまった。壊してしまった。


「伸一もいなくなるに決まってる……なのに、どうしてそんなこと言うの!?」

「違う……」

「どうして、そんな期待させるようなこと言うのよ!!」

「違う!!」

「嘘よぉっ!あたしの周りの人だって、みんないなくなちゃったじゃない!!期待なんかもうしたくないの……もう、誰にもいなくなって欲しくないの!!

 こんなの苦しすぎる……もう、耐えられないよ!!」

「俺は麗奈から離れていったりなんかしない!!」


 一度堰を切ってしまった涙は止まることなく、雪に混ざり地面に染みを作る。


「どうしてそう言えるの!?」

「麗奈のことが大事だから!俺が誰よりも一緒にいたいって思うのは、お前だから!!」

「ぃぁっ…………やめてよぉ……っ!!」


 細くて、弱く、崩れ落ちそうになる彼女の体を少し離し、見つめ合う。

 言わなきゃ。ここで、誓うんだ。

 俺の言葉に嘘はない。俺はこの子を………………






 ーーーーーーーー先輩っ!






「ずっと、俺がお前を守るから」

「ふぁ……あ、ああっ………」


 誓った。

 迷いなんかない。

 この女の子と、きっと一生、ずっと側にいる。

 何も、思い悩むことなんてないんだ。




「お前のこと、愛して……んっ!!」

「ん…………」




 柔らかくて、冷たくて、濡れていて、触れた瞬間、溶けてしまいそうで。

 ああ、まるで雪みたいだな、と、思った。


「っん……ん………」

「ん…………」


 息継ぎをしようと、少しだけ唇を離す。すると……


「離れないで!」

「っ……」


 寒いからか、行為のせいか、涙のせいか。真っ赤に染まる、雪のように白い肌。


「んぁっ………あぁ…………」


 その姿が愛おしくて、今度は俺から唇を押し当てた。

 強く、絶対に、麗奈が消えてしまわぬよう、強く抱きしめたまま、彼女に触れる。

 時が止まってしまったんじゃないかと疑いたくなるほどの、長いキス。

 香奈ちゃんの時とは、時間も、密度も、覚悟も、何もかも違う本気のキス。

 これは契約。

 俺が彼女を愛し続けることを誓う、切れない鎖。


 雪は止まない。

 哀れな俺たちを、白で隠すように。




 ***********************************




「もう、大丈夫?」

「うん、平気。ごめんねのの」

「ううん、いいの……あ、雪降ってる」

「本当だ……」

「どうして、こうなっちゃうんだろう……っ」

「美香…」

「ごめん……ごめんっ、私また……」

「いいの。少し、外に出よう?」

「あり…がと……っ」

「…………ぁ」

「……どうしたの?」

「ダ、ダメ!!」

「なにが…………あ…」

「美香…」

「私、こんなに汚かったんだ……」

「え……?」

「こんな、時なのに。麗奈さん、ボロボロなのに……っ!!」

「美香ぁ……」

「ぅぁ……ああっ…………ぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




第3章はここで終了となります。


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