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第4話 君とママとインスタント

「先輩……石田先輩ですよね?」

「あ、ああ……」


 待て、まだ今何が起こっているのか正確に理解できていない。

 整理しよう。俺はまず、飲み会で潰れた男の後輩を家に送っている途中。そして、その後輩の保護者(?)と見られる女性と待ち合わせ、この公園で待っていた。

 胸が詰まって吐けないという後輩のためスーツを脱がせ、シャツの下を見ると、中にサラシのようなものを発見。それを勢いよく外し、思いっきり吐く後輩。

 そして立ち上がるもふらついて俺に倒れかかり、その勢いで俺は後輩の胸に手を……そして、そこには確かな膨らみがあって。

 それを確かめた瞬間、横から思いっきり飛び蹴りをもらい、何者かと思ったらそれは近所に住んでいる年下の女の子によるもので。

 さらにその隣には、黒髪ショートだったはずの後輩が金髪になり、美少女と化していた。そしてその美少女こそ、今世間を騒がすトップアイドル山橋レナだったというわけか。

 うん、なるほどなるほど……


「なんだ、夢か」

「夢じゃない!なに!?あたしどうしてこんなとこにいるの!?いいえ、そんなのどうでもいい!胸を……胸を揉まれた!お父さんにも揉まれたことなかったのに!!もうアイドルなんてやってやるもんか!!」

「いや、お父さんに揉まれてたら事案だろうが……」


 なんだか随分と錯乱している様子の美女。今朝見たイメージとだいぶ違うんですがそれは……


「先輩」

「ひっ……」


 絶対零度ボイスを発しながら俺の前に迫るのは樋口さん。

 一体どんな罵倒を受けることやら……もう大っ嫌いくらいは言われてもおかしくないな。


「お……」

「?」

「大きい胸がそんなにいいかァ!?」

「何を言ってるんだお前は!?」


 本当に何言ってんだ。しかも泣いてるよ樋口さん。わけがわからないよ。


「それはともかく、どうして先輩が麗奈さんと一緒にいるんですか……ってああ!さっきの電話に出た人ってやっぱり先輩だったんですね!ちょっと似てるなぁって思ったから驚きましたけど」

「あの、それはそうと放っておいていいのか、松原さんを……」

「偽名よ」

「……あ」


 いつの間にか服装を整え、樋口さんの後ろに隠れる松原、いや、違うか。


「本当に、山橋レナ……なんだよな?」

「他に誰に見えるっていうのよ……ってか、本当は知っていたんでしょそれで揉、も……ううっ……」

「ああ、麗奈さんかわいそう……先輩、私は悲しいです。先輩はそういうことをする人ではないと信じていたのに……」

「いや、違うんだ!これは不可抗力で……」

「時々私の胸を見てため息をついていたのは知っていましたが、もし私が巨乳だったら揉んでいたんですかそうなんですよねそういうことなんですよね!?」

「いやお前本当に何言ってるんだ……っていうか胸なんて見てねぇし!」


 嘘です。確かに何回か樋口のひんぬーっぷりを見てため息をついたことあります今日もつきました。バレているとは思わなかった……意外とバレるもんなんだな。他の男性諸君も気をつけよう!


「それで、サークルの新入生歓迎会でしたっけ?」

「一応俺たちのは部活らしいぞ」

「まぁよくわかりませんけど、それに麗奈さんを巻き込んだわけですよね?

 それで麗奈さん、それからこの人に何をされたんですか?」

「…………お、覚えてない」

「…………先輩、何を盛ったんですか?海の家でも経営してきたんですか?慶○大学生だったんですか!?」

「誤解だ!そんなことしない!!」

「じゃあ何を?」


 言いにくいが、あの伝説の広告研究部と同じ位置に見られるくらいなら……ッ!


「さ、酒を……」

「麗奈さんに無理矢理飲ませたんですね!?そして飲ませた勢いでよくわからないままヤ○捨てようって魂胆……」

「お前はその偏りすぎた知識をどこから仕入れてるんだ!?」

「こ、コミックL◯……」

「お前こそ未成年なのに何見てるんだよ!!」


 だめだ、みんな違法行為してるよこの小説。ってか隠す気あるならもっとちゃんと隠せ!

 しかし樋口さん、その漫画を見て何をしていたんですかねぇ?(ゲス顔)

 すると山橋レナはどんどん青ざめていき、今度は怯えたように俺を見た。


「あたし、汚されちゃった……?」

「汚してないから涙目にならないで!ってかまず男だと思ってたんだもん!」

「女だとわかっていたら犯していたんですねこの変態!」

「変態!女の敵!」

「ああもう話が進まん!俺はもう帰る!」


 どうしてわざわざ運んでやったのにこんな目に遭わされなきゃいけないんだ。

 でも、俺の手に残るあの柔らかさ、滑らかさ、そして中央の突起の感触……しかも、それがアイドルのものだときた。あれ、もはやこれ安く済みすぎじゃないかとも思えてきた。今夜ははかどりそうだぜッ!


「ありがとうございました!!!!」

「お礼言った!お礼言いましたよこの馬鹿先輩!!」

「最低……」


 最後の良心でお礼を言ったというのにこいつら……いや、今のは明らかに俺が変態だったな。

 俺は二人を避けて河川敷公園の出口へ向かう。


「夜も遅いし、気をつけろよ?」

「あ、逃げた!」

「待ちなさいよ……っ!!?」

「麗奈さん……?」

「やばい、第二波が……」

「あ、ちょ待って!!先輩!先輩助けて!!」


 …………何やってるんだ、あいつら。

 しかたなく俺が麗奈のリバースに付き添い、とりあえず樋口の家まで送って、ようやっと家に帰れたのはもう午前1時を回った頃だった。




 ***




 気持ちのいい朝だ(CV:森川智之)。

 なんだろう、まるで第三の爆弾が起動して時間が吹き飛んだかのような安心感。

 昨夜、そんなに絶望的なことが起きたのか?

 目覚まし時計を見ると、10時32分を示している。ああ、いきなり遅刻じゃないか。

 今から準備すれば3限には間に合うかな。

 俺はベッドから起き上がり……


「おはようございます」

「きゃああああああああああっ!!!!」


 再びベッドに戻って布団にくるまった。


「朝っぱらからずいぶんな態度ですね」

「……樋口さん?」

「はい、おはようございます」

「なんでここに……」

「おはようございます」

「おはようございます……」


 樋口さんはいつもの北倉高校の制服を身にまとい、いつもの調子で俺と会話している。

 そうだ、本当にいつも通り。俺の部屋にいて、エプロン姿でお料理していること以外は。

 でも、女の子が一人暮らしの男の家で朝チュン展開を迎えているってことは、これもしかしてハッピーエンドでアフターストーリーなの?

 そうかぁ、これからラブコメが始まると思っていたけどもう終わりかぁ。ここから樋口さんは妊娠して出産と同時に命を落とし、そのショックで俺は娘と5年間もの間距離を置き最後に……


「ぅっ……うぅっ…………」

「何泣いてるんですか気持ち悪い」

「き、気持ち悪い……?」


 俺がせっかく号泣必至の名タイトル(クラ○ド)に思いを馳せていたのに気持ち悪いって……


「それで、なんで俺の部屋にいるんだよ」

「鍵開けっ放しだったので。というか先輩も昨日結構酔ってましたけど二日酔いとかは大丈夫ですか?」

「え、ああ、大丈夫だけど……」


 鍵空いてたらお前は男の子のお家に入って甲斐甲斐しくお料理作ってくれるんですか?それどんなエロゲだよ公式ページのURL貼れよ。あっ、あとAmaz○nのURLも一緒にお願いします。


「俺、昨日何してたんだっけ?」

「覚えてないんですか?麗奈さんの胸を揉んだくせに」

「麗奈さん?胸を揉む?そんなリ○さんみたいなことを俺がするわけないだろそれこそそれなんてエロゲだよ」

「本当に覚えてないんですか?あの真っ白な肌を、なめらかなさわり心地を、そして柔らかな感触を……」


 ハッ!この俺がそんな幸せパッパラパー主人公みたいなことするわけ……いや、待て。記憶の片隅に男装していたスーパーアイドルのおっぱいを揉んだという記憶が僅かながらなきにしも……


「思い……出した!」

「何思い出してんですかこの最低男」

「思い出して欲しいんじゃなかったんですか……」


 それにしてもこのJK、朝っぱらからなかなかに理不尽である。


「それでもうこんな時間ですけど学校どうするんですか?」

「三限からでいいかな」

「全く、これだから大学生は……」


 樋口さんはなんだかあきれ顔だ。確かに最近の大学生はだらしがなさすぎるな。俺も気をつけよう……ってかその前に俺以上に学校が重要な人間がいるような……


「はい先輩。お味噌汁と焼き魚ですよ〜」

「おい待てお前学校は……」

「君のように勘のいい先輩は嫌いだよ」

「タッカーさん!?じゃなくてこんなことしてちゃダメだろこの不良女子高生!!」


 平日の午前10時過ぎに一人暮らしの男子大学生の家に家で朝チュンするとかどう考えても俺よりこいつの方がやばいだろ。あれ、俺捕まったりしないよね?ね!?


「大丈夫です。今日の私は風邪なのです」

「何にも大丈夫じゃない!?」

「早く食べてください。ご飯は美味しく食べないともったいないですよ」

「今怒られるべきなのは明らかに俺じゃないよね!?」


 俺の剣幕に樋口さんは、はぁ、と、ため息をつき笑った。


「いいんですよ。私はもともと欠席の多い生徒ですから。でも出席数の計算はしてます」

「そういう問題じゃないんだけどなぁ……」


 この子の更生を諦め、味噌汁をすする。


「美味しい?」

「そうだな。毎日作って欲しいくらいだ」


 確かに美味しい。まぁ比べる対象がママンとインスタントしかないんだけど。


「……樋口さん?」

「ひ、ひゃい!?」

「なに顔赤くしてんだよ」


 でも俺料理とか滅多にしないから、これは全部樋口さんが持ってきてくれた材料から作ったってことか。なんだか申し訳ないな。あとでお金払わないと。


「私、まだ17ですよ……?」

「だからなんだよ」

「あ、もういいです今ので意識して言ったんじゃないってことがわかりました」

「なんだよ人を鈍感系最低主人公みたいに言って」


 そうこうしているうちに焼き魚も食べ終え、朝食が終わってしまった。

 時計を見る。時間的に3限ももう切っていいかな。みんな大好き自主休講〜♪

 ……本当、最近の大学生ってゴミだよなぁ……俺を筆頭に。


「で、どうして今日は俺の家に?」

「今時計見てましたけど、大学はいいんですか?」

「行かせる気なんてないくせに」

「……バレましたか」


 お茶を入れ、一息ついたらテーブルで樋口さんと向かい合う。

 エプロンを外し、ちょっと黒い笑顔を見せつつ俺からお茶を受け取り、少しすすってから「あち」と言って舌を出した。あ、あざとい……


「で、昨日のことで話があったんです」

「話?」

「はい。昨日先輩は麗奈さんの秘密、大学に男装して在学しているということを知ってしまいました」

「……それを黙ってろってか?」

「察しがいいですね」


 男装していたくらいだからな。隠したいと思っていることを察するのは容易だ。


「まぁでもそうです。麗奈さんにはいちいち騒がれたり視線を浴びたりすることなく、普通の大学ライフを過ごして欲しいんです」

「……そっか」


 あいつにも色々あるんだな。日常生活まで人目に触れ続けるというのは、きっと相当なストレスになるのだろう。


「わかった。内緒にする。誰にも言わない」

「そう言ってもらえて幸いです」


 にこり、と優しげな笑顔を見せ、再びお茶をすすった。


「それで、話はそれだけか?」

「そうですね、お願いはそれくらいです」


 樋口さんは立ち上がり、カバンを手に取った。


「じゃ、朝ごはんも食べて一息もつきましたし、学校に行きましょうか」

「え、俺今日は自主休講に……」

「まだ時間あるでしょ!遅刻してでも行きましょう!ね!」

「え、ええ〜……」


 そんなこんなで、俺は二日酔いの頭痛を抱えながら、学校に行く羽目になってしまったようだ。


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