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第41話 勘違いしないでよねっ

 

 ちゅん、ちゅん、と、鳥の鳴く声が聞こえてきた。

 あれ、夜中に鳴くのは鳩の筈なのに…


「んあ…」


 ぼんやりとした意識の中、俺は外が明るいことに気づく。

 ああ、寝てしまったんだな。確か、俺は麗奈の寝顔を見ながら作曲をしていて…そうだ、麗奈は?


「おはよ」

「お、おう…」


 キッチンから彼女は顔を出し、俺に挨拶をしてきた。まだいたんだな…って、何安心してるんだ俺は。しかし、キッチンとはまさか…


「はい、朝ごはん簡単に作っといたから食べれば?」

「お、おう…」


 俺の語彙力が著しく低下している気がするが気にしない。

 麗奈が差し出してきた皿には目玉焼きとウインナー、食パンが乗せられていた。うん、なんというか普通だ。


「これも」

「おう…あっつ!」

「こぼさないでよ?」


 最後に茶碗を手渡されたかと思ったら、どうやら味噌汁らしい。前言撤回。和洋折衷ここに極まれりな朝食だった。


「手作りですか?」

「不満なの?あとなんで敬語?」

「いや、不満じゃないけど…」


 朝味噌汁作ってくれる人とか奥さんみたいだな。ああ、いや違う!今のはそういうんじゃないんだから勘違いしないでよねっ!


「いただきます」


 と、脳内でキモいツンデレを披露しつつも朝食を食べ始める。

 麗奈もキッチンから出て俺の正面に座ると、じっと食事の様子を見だした。こう見られると恥ずかしいな…よくじ見られるの恥ずかしいとかいう人の気持ちが少しだけ分かった気がする。


「どう?」

「まぁ、無難?」


 まぁ見た目通り普通だ。ちょっとよくいるアニメヒロインみたいに錬金術したりしていない点で十分合格と言えるだろう。


「素直に美味しいって言ってくれればいいのに」

「…美味しいです」

「だからなんで敬語になるのよ」


 また脳内ツンデレしてしまった…調子が狂うな…なんでだろう?

 いや、これでいつもの調子でいる方がおかしいか。だって女の子が、それもとびっきりの美少女が俺の家に泊まり、朝を迎え、朝食を作ってくれているって…これなんてエロゲだよまるで新婚さんみたいじゃ…


「まるで新婚さんみたいね」

「ぶっ!!」

「汚いなぁ…ちょっと待ってて、服もの持ってくるから」

「あ、ありがとう…」


 いや、それだけじゃないぞこれ!

 おかしい!麗奈が麗奈じゃないみたいだ!

 なんか微笑みを湛え、甲斐甲斐しくて、優しくて…そう、大人っぽくなってる…って、大人っぽくなってる!?

 昨日まで普通だったから、つまり夜のうちに何かあったということで…え、いやみなさん誤解です私は何にもしていません!ただちょっと顔にかかってる髪をどかしたくらいで、本当それだけなんです信じてください!

 まさかリ◯さんのように寝ているうちにあんなことやこんなことをしていたわけじゃないと思うけど…


「はい」

「ひゃい!」

「…君、今日変だよ?」


 怪訝そうな顔をされてしまった。と、とりあえずもらった雑巾で汚れたテーブルを拭こう。


「………………」

「……………………………」


 き、気まずい!


「あのさ…」

「は、はい!」

「さっきからどうしたのよ…まぁいいや」


 ついには呆れ顔。いつもは俺がする方だったのに、屈辱だ…

 すると、麗奈は傍から一冊のノートを取り出した。


「あ…」


 起きた時毛布がかけられていたし、もしかしたらと思っていたけど、やはり見られていたか。


「ご、ごめん…」

「なんで謝るのよ?」

「だって…」


 麗奈は、俺に曲を作って欲しくないって言っていた。それなのに、その願いを1日も経たないうちに踏み躙ってしまったのだ。怒って当然。


「怒らないのか…?」

「最初は、ちょっとショックだった。伸一はあたしのこと信じてくれないのかなぁ…って」

「そんなこと…」


 ない、と言えば嘘になる。

 実際最近の麗奈は明らかに不調だったし、スランプに陥っているようにも見えた。このままじゃやばいと思ったのは本当だ。


「でも、この曲聴いて…なんていうか、そういう想い飛んでいっちゃった」

「…そっか」


 麗奈はそう言ってくれるが、なんとなく申し訳なさが湧いてきてしまう。

 だから、俺は失念していたのだ。


「でも…」

「え?」


 彼女が、それだけで終わるはずもないことに。

 ページをめくる麗奈。俺の拙い楽譜は後ろになり、目に飛び込んできたのは楽譜の渦だった。


「これって…!」

「そう、書けたの!この曲を聴いてたら、なんだか心の奥底からメロディが湧いてきて、気付いたらあたしも曲を作ってた」

「ひ、弾いてみてくれるか?」

「いいけど…歌詞がないのよ」

「いいよそんなの!後で間に合わせればなんとでもなる!とりあえず早く聞かせてくれ!」

「そんなに聞きたいんだ…」


 麗奈はちょっと得意げに笑い、ギターを手に取った。

 朝食のことなどもう頭には残っていない。今すぐにでも、新しく出来た曲を聴きたかったから。

 深く息を吸ってから、ギターが奏でられる。




 ♬………………………………♬




 曲が終わる。麗奈はそれなりにギターもうまく、それなりに練習した事がうかがえた。

 沈黙。

 でも、決して不快じゃない。この余韻にすっと浸っていたいと思わせる、安らかな静寂だった。


「どう?」

「すごい…良かった」

「こういう時は素直なんだ」


 だって、こんなのすごすぎたから。

 ごまかしようのないくらいに、素晴らしい曲だったから。


「歌詞はいつ作るんだ?」

「それは、ののに任せることにした」

「そうなのか?」

「ええ、だって今回はあの子と合同だから、そっちの方がみんな喜ぶと思うの」

「確かに…二人のファンが来ると考えれば…」

「そうでしょ?別にもう頭使うのがめんどくさいとか働きたくないとか全然そういうんじゃないのよ?」

「…今のを聞かなければ、素直に納得していたところだったよ」


 感心していたのに、いろいろと台無しだった。

 それより…


「お前、家帰らなくて平気なのか?」

「何言ってんのよ。今はまだ8時だし、今日の仕事は10時からだからまだ全然平気…」

「お前、その格好で行くのか?」

「……………………」

「……………………………………」

「うああああああああああ!まずいいいい!!!!」

「馬鹿野郎今すぐ家帰って着替えてこい!」

「昨日のでもいいから服出して!」

「お前が洗濯機突っ込んだせいで絶賛生乾き中だけどいいのか?」

「それもいやぁ…」

「ったく、早く行くぞ!駅までならチャリに乗っけてやるから!」

「はぁ?何言ってんのよあんた!二人乗りは法律違…」

「そうか、荷物だけ持ってやろうと思った俺の好意はいらないというわけか」

「乗せてくださいありがとうございます伸一様!」


 と、そんなやり取りをしつつ慌てて準備をする麗奈。

 生乾きの衣服をカバンに突っ込み、ジャージのまま外に出る。


「この私がジャージで外出だなんて…」

「言ってる暇があるんなら急げ!」

「うっさいな!わかってるわよ!」


 と、麗奈が勢い良く玄関から外に飛び出す。

 あいつ、荷物置いて自分だけ先に行くとか何様のつもりなんだよ…

 と、文句を言いながらその後を追って扉を開ける。


「なんだよ麗奈、先に行くんじゃ…」


 なぜか扉の目の前から動いていなかった麗奈の背中を叩いてみる。が、無反応。


「ったく遅れるぞ…」


 と、言いながら顔を上げた時…




「先輩…?」

「い゛っ!?」




 俺は、一瞬で麗奈の硬直の原因を知る事になる。

 だって、今一番会いたくない人(樋口美香)が目の前に立っていたんだ。そりゃあどうしようもなくなる。


「麗奈さんも…どうしてその部屋から…」

「い、いやこれは…」


 落ち着け。冷静に話せば、これがそういう事じゃないってくらいわかるはずだ。


「あっ…いいんです!ほんとすみません私間が悪くて…そうですよね。そうなってても…おかしくないですよね」

「待て待て待て待て!」


 あー、これ絶対誤解してるよ…くそ、これだから自己完結型ヒロインは…っ!


「それじゃ…っ!」

「おい待て!!」


 本当に話を聞かないところは麗奈もお前もそっくりだよ!と、文句を言いたいのをこらえそれを追いかけようとするのだが…


「って麗奈!早く行かないと…」

「ど、どうしよう…」

「はぁ?何が…」

「美香に嫌われちゃう!」

「今そんな事言ってる場合じゃないんだよ!」


 麗奈と俺はそういう関係じゃないって、言わないと…




 ———どうして?




「っ…」


 それを考え出すとまたいろいろと面倒だから気にしない!



明日はこれを含め数話分改稿するのでお休みしますすみません…

ですが、改稿と言ってもいつも通り内容は変わらず、文体と誤字脱字を消す作業なので伏線やらエピソードやらが足されたりするわけではありませんので、読み返さなくても大丈夫です!ただ、改稿前より質は上げるつもりなので今までの話に不満があった方は改稿後を見ればまだマシになるかも…笑

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