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第2話 これ消されないよね

「あ、ねぇちょっと先輩さん!?」


 地面に転がり込んで目を閉じる。ああ、もう、何も聞きたくない。


「そのままの格好で気絶しちゃうの?」

「あ、いや、それはダメだ!」


 勢いよく立ち上がり、部室を目指して走り出す。


「雅也、本当に後で覚えていろよ!!」

「なんてテンプレ捨て台詞。じゃ、現地で待ってるぞ伸一」


 最後に、必死に笑いをこらえている失礼な一年生を見据え……


「…………」

「……?」


 やっぱり何も言わず、俺はその場を後にした。

 冷静に考えてみると、俺相当恥ずかしいことしたな。柄にもなく熱が入ってしまい、彼を困らせてしまった。

 さ、早く着替えて行こう。今日は無駄に働かさせられたんだ。雅也に飯の一回や二回は奢ってもらわないと収まりがつかない。

 でも……やっぱり何か引っかかる。あの松原とかいう一年、本当はプロなんじゃないのか?歌声も聞き覚えがあるような……


「どうでもいいか、もう」


 この話は終わったのだ。どうせ、今日の新歓会に行ったら、また幽霊部員に戻るのだから……




 ***




「おお伸一!遅かったな!!」

「そうだ〜遅いぞ石田伸一〜!!」

「おう若いの!オメェ結構いける口じゃねぇか!」

「おっすアニキ!」

「なんだこれ(なんだこれ)」


 冬美大学前駅のそばにある中華料理屋、「青龍」ではすでに会が始まっており、着替えやら何やらで到着が遅れた俺を迎えたのは酒で顔を赤くした雅也と……


「なんだ〜あんたもはよのめやい!!」

「……お前どうしているんだよ」


 さっき、俺が華麗に入部を断られたはずの一年生、松原だった。しかも、明らかに様子がおかしい。


「なぁ松原」

「松原ぁ?誰だそいつは!社長みたいな名前してるな!がはは!」

「がっはっはっはっは!!」

「……酒くさっ!お前何歳だよ?」

「じゅ〜はちさいです!!どうぞよろしく!!」

「おい雅也お前だろこいつに飲ませた奴!!」

「おっとバレたか」


 店の二階、座敷席を貸し切って行われる宴会。

 奥の方では部長のボディービル大会が行われていた。いや、本当になんの会だ。

 しかしまぁ、それなりに一年生はいるらしい。数は松原を入れて7人……でも新歓会なんてタダ飯喰らいがほとんどだから期待はできないな。


「で、松原こんなんだけど、あれからどう言いくるめて連れて来たんだよ?」

「いや、特に何もしてないぞ?飲み放題のお店行くって言ったら急に来たいって言い出しただけで」

「お前は新入生に酒を飲ませるのがルールだとでも思っているのか?」


 同じ研究部とはいえ、慶○大学広○研究部じゃねぇんだから。ここにいる女の子に何か盛ってないか心配になって来たぞ……


「はぁ、じゃあ俺も生中1つ」

「さっすが伸一おっとなぁ!」

「腹たつからやめろそれ。あと松原、もう酒はやめとけよ?」

「ええ〜なんで〜?」

「未成年だろお前……」

「い〜や〜だ〜!」

「お前本当に敬語使えないんだな」


 酒が入っているとはいえこの始末。

 最近の若者は本当に敬語使えないよな……日本の教育はどうなっているんだか。まぁ海外に敬語なんてないからこの議論は不毛なんだけど。


「ってか、らいおんさんは何歳なのさ〜?」

「や、やめろ……俺の黒歴史シリーズ最新作を思い起こさせるな……っ!」


 中学校に入った時は小学生の時のような失敗はしないと言いつつ順調に黒歴史を重ね、高校入学時には中学(主に二年次)にかかった病気を克服し彼女を作ってリア充ライフをと意気込んだ結果さらに無駄に黒歴史を量産し、大学に入ってこんだけ失敗したんだからもう生むまいと思っていた黒歴史をまた生産してしまった。

 これから俺は三日三晩ベッドに頭を叩きつけ、その頭を叩きつけた記憶からさらに過去の黒歴史を連想し、自らの痴態を延々と思い出し続ける無限ループを超えねばならないのだ。だからその……もう、忘れてください……


「はぁ、今年で20だよ」

「今年ってことは19なんじゃんまだ未成年じゃん!」

「うるせぇ!酔っ払いのくせに細かいところに気づいてるんじゃねぇ!」

「伸一、それ逆ギレ……」

「生中お待たせでーす!!」

「こっちお願いします」

「あ、飲んでる!未成年なのに飲んでるよ雅也先輩!」

「どっちもどっちだろ……ってかいつの間に俺がツッコミ役になっていたんだ!?」


 俺は届いたビールを一気に飲み干す。疲れた体にプリン体が染み渡っていく。ああ^〜たまらねぇぜ……


「うわ、すげぇ伸一さんイッキですか?」

「漢や……」

「ええい、よこせ松原!」

「あ、それあたしの……」

「あたし?」

「僕の!!」


 俺は松原の飲みかけジョッキを奪い取り、さらに飲み干す。


「あ、あぁ……」

「ふぅ、これでもう飲まなくていいな?」

「こいつ結構強いんだよなぁ……」

「ああああああ!返してよ!僕のだぞ!!」

「未成年が何言ってんだ!!頼んでも俺が全部飲んでやるぞ?」

「やだ〜!!ねぇ雅也先輩どうにかして!」

「お、おいそんなにくっつくなよ気持ち悪……くない……あれ、もしかして俺、ついに侵してはならない領域に踏み込んでしまったのか!?」

「ほら次持ってこーい!!」


 雅也が今大変危険なコメントを放っていた。これからはこいつの家に行ってもアイスティーは絶対に飲まないように気をつけないと。

 ああ、でも徐々にアルコールが回って来て、俺もなんだか楽しくなって来たな。なにせこんな風に飲むのも久しぶりだ。友達いなかったし。

 まぁでも、同じ学部に雅也がいるからぼっちってわけじゃない。○鷹くんや、ヒキ○ニくんみたいにならなくてよかった……でもラノベに出てくるぼっちって結局ハーレムを築いていたりするからやっぱそっちがいい。転職希望である。

 いや待て、今はまだ物語の序盤。俺もこれから同じようにハーレム建築の可能性が微レ存……

 すると、隣の席の新入生女子4人組が視界に入った。


「ねぇ、あそこの男子3人、やばくない?」

「近寄るとやばそう……」

「だったらまだ部長さんの方がいいね」

「うん、だって部長さん面白いんだもん!」

「マッチョだしね!」

「あ、ねぇちょっとあの人こっち見てるって」

「やば、あっち行こ」

「………………………」

 は?俺にハーレムなんて必要ねぇし!はぁ(ブチギレ)!?

 …………飲もう。




 ***




 目が覚めると、なぜか泣いている。そういうことが、ときどきある。


 ……ん?これもしかしてループしてる!?いや違うか。ここさっきと同じ中華料理店だし。ってか目が覚めると泣いている作品ってマ○ラヴオルタとか進○の巨人とかいくつかあるからわかんなくなるわ。

 でも、「君の○は。」いい映画でした。あれ、こういうとエロく聞こえない?聞こえないか。


「この前も美香がすっごく怒ってきてぇ〜……聞いてるの石田伸一!」

「ん?」


 いつの間にか隣には松原が座っており、その白い肌を真っ赤にして俺に絡んできていた。

 ってか腕ほっそ!肌すべすべ!女の子より女の子らしいくて興奮する!……だが、男だ。(CV:宮野真守)

 周りを見ると、雅也はテーブルに突っ伏して爆睡中で、部長含む他の部員、新入生たちはさっきまでの宴会ノリを失い、大人しく歓談していた。


「松原、お前もあっち混ざってきていいんだぞ?」

「んん?邪魔なのか?僕のことが邪魔なのか?」

「別にそういうわけじゃないけどさ、一年生はみんなあっちにいるぞ?雅也なら俺が看とくからさ」

「いいよ〜、僕、人と話すの苦手だからさ」

「……そうなのか?そうは見えなかったけど」


 ぼーっと、熱っぽい目をしながら歓談している部員たちを見つめる松原。

 なんか、色っぽい。花魁コスがよく似合いそう……だが男だ。(CV:宮野真守)

 そろそろしつこいな。


「本当はすっごく人見知りなんだけど……せっかく大学入ったんだから、それらしいこと、したかったんだ」

「それが新歓会で酒を飲むことだったのか?」

「まぁねぇ〜」


 それ偏見だからと否定しきれないのが悲しいが、気持ちはわからなくもない。実際俺も去年は飲んだわけだしな。


「何か、知らない世界を見れば変われるかもしれないって……思ったんだぁ……」

「そっか」

「くう……」

「あ、おい寝るな」


 すると、松原は俺の肩に寄りかかって寝息を立て始めた。

 本当に、変なやつだ。

 俺はその後輩を肩から離し、雅也に寄りかからせておいた。俺にホモ疑惑がわいたら嫌だからな。許せ雅也。

 写メを撮って一息つく。今度、仕返しにこれを学校裏掲示板にでも貼ってやろうという黒い思いを携えながら。


「そろそろ撤収だ。石田、そっちの二人起こしてくれ」

「わかりました」


 こんな、久しぶりに気分の良い時間も、こんなに簡単に終わってしまう。

 松原と雅也の肩を揺すって起こしてやろう。


「んぅ?」

「なんだよ伸一……あれ、ここどこだ?」

「寝ぼけてんな。ほら、そろそろ店出るぞ」

「眠い……」


 それに一抹の寂しさを覚えながらも、すっかり暗くなった外に出るのだった。


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