第1話 春、君を見つけた
1話長スギィ
夏と言えばなんだろう。
蝉の声、入道雲、海、山。いろいろある。
俺のようなスポーツマンは、高校生最後の大会に備えて練習をしていたりするわけだが……
みーんみーん、じじじじじ、と、うるさいくらいにセミが鳴いている。
約6年間、地上に出るたった1週間の為に彼らは生きる。
一人孤独に土の中、親の愛も知らず、友と触れ合うことも知らず、ひたすら生きて、その果てにある自由を目指していくのだ。
努力は報われる、なんて言葉は嘘だ。報われないから、努力しない奴が現れる。
その点、人間とは蝉にも劣る生物なのではないか?
どんなに努力しても、その先に、何も得られない人間がいるのだから。
球を突く、特有のドムドムという音が体育館に響く。
後輩の、ただのドリブル練習だ。ああいった小さなことから、俺も始まった。
そして、今、それも終わる。
「二度と、ここに来るな」
高校三年生の夏。うだるように暑い、体育館の中。
何か、大切なものを失ったようなとある夏の日の思い出。
朝、目が覚めると、なぜか泣いている。そういうことが、ときどき……
「ねぇよ」
どう見てもマヴ◯ヴのパクリですね本当にありがとうございました。
と、いきなり爆売れ映画に対する批判から始まる1日。じりじりじり、と、騒がしい目覚まし時計を止め、俺こと、石田伸一はベッドから起き上がる。
1LDK、6帖という、まぁ一人暮らしには十分の家を見渡し、代わり映えのなさに何故か笑みが零れる。
小さな窓のカーテンを開けると陽の光が一気に差し込み、今日がとてもいい天気だと知らせて来る。窓から見える桜の木も、不思議と嬉しそうに見えた。
気持ちのいい朝だ。
朝食の用意をしようとキッチンに向かう。すると、充電器に挿しっぱなしだった携帯がピロリン、と、何とも軽薄な音を立てた。
「雅也か」
相手の名前は氷川雅也。一応俺の幼馴染……ま、腐れ縁だけど。
「9時31分の電車、先頭車両集合。遅刻は許さねぇぞ……別に、俺は遅刻したことないだろうに」
ちなみに小学校、中学校、高校、そして大学まで一緒……なんか、ここまで来たらあらぬ疑いをかけられそうだが残念、俺はノンケだ。
でもまぁ雅也は家も近いし、去年もほぼ毎日一緒に大学まで行っていた。いや、だからほんとそういうんじゃないから勘違いしないでよねっ。
「でも、もう大学かぁ……」
長い長い、ってかこんなに長くてもやることねぇよ、と思っていた春休みは意外とあっさり終わってしまい、仕方なく、俺は新学期オリエンテーションとやらに出るために大学へ強制送還させられるのだ。
あれだけ毎日のように暇暇連呼しておきながら、終わるとこんなに絶望感が湧き上がるのはなぜだろう。これ、夏休みもそうだったな。
インスタントコーヒーと、トースターに入れておいたパンの香ばしい匂いが部屋に広がる。
時計はまだ、8時40分を指していた。なら、そんなに急がなくてもいいだろう。
俺はゆっくりとパンをかじりつつ、テレビをつけた。
『山橋レナ、ニューアルバム記念ドームコンサート、間も無くですね!』
『楽しみですねぇ……個人としては初の東◯ドーム公演、どんなお気持ちで挑まれますか?』
『ここまでこれたのは今まで応援してくれたファンの皆様のおかげだと思いますので、そのご恩にしっかりと応えられるよう、全力で歌いたいと思います!』
『立派なコメントありがとうございます!では、最後にいつものアレ、やってもらってもよろしいですか?』
『は、はーい!じゃあいっきまっすよ〜?』
『おお!』
『レナレナ!ファイティンスター!!』
『ぐっはー!!』
『こりゃ全国のサラリーマンみんな1日頑張れちゃうわ!』
『それでは次のコーナーです。群馬県北部で小学生が虐待を受けているとのことで警察が……』
な、何だったんだこの茶番は……
何がレナレナファイティンスターだ。意味わからん。ってか明らかに嫌そうな顔してたじゃないかレナとかいう子。そして最後のニュースとの温度差は一体……伏線だろうか?(違う)
最近の朝ニュースってどんどんニュースから離れて行ってる気がするけどいいのかそれで。
しかしアイドルか。俺は興味ないけど、雅也は確か高校二年生くらいの時にどハマりしてたなぁ。その中に一人に山橋レナ何て子もいた気がしなくもない。ドーム公演とは結構有名になったらしいな。
でも有名になる引き換えにあんな恥ずかしい決め台詞で社畜どもに応援を送らなきゃいけないというなら、彼女にとってどっちが幸せなんだろうか。ま、どうでもいいんだけど。
俺は使い終えた食器をシンクに置き、時計を見る。約束の時間にはまだ早いけど、もう出発してしまうか。
思い立ったら行動。その他諸々の支度をして、すぐに外に出た。
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「あ、おはようございます」
「おはよう。あれ、今日早くない?」
「ああ、ちょっと昨日からその……重い日で……」
「ぶっ!!」
「うわ、つば飛ばさないでくださいよ汚いなぁ……」
いやいきなり変なこと言ったのあんたやん、というツッコミを封殺し、代わりにため息をつく。
「樋口さんももう再来年から大学生なんだから女の子としての自覚を持たないといけないよ?」
「何ですか朝っぱらから説教ですか?ちゃんと自覚持ってますよ?」
「じゃあ出会い頭に重い日とか男の人に言っちゃいけません!」
全く最近の女子高生は進みすぎだろ。もしかして彼女、ビッチなのか?いや、それは割と考えたくない。
「重い日って……あ!!違いますそうじゃないんです!仕事です!仕事の作業量が多いんです!」
かと思ったら顔を真っ赤にしてブンブンと首を振る。うん、この処○感……もとい、純粋無垢な清楚さこそ、現代の大和撫子に求められる資質だと僕は常々思っておりましてね?ええ、はい。
「石田先輩、またロクでもないこと考えてますね?」
「か、考えてねぇし!意味わかんねぇし!は!?」
「なんでキレるんですか……」
あれ、俺様ツンデレ王子様が乙女ゲー界では流行ってるんじゃないの?ああ、そう言えば俺王子様じゃないじゃん。
では、そろそろみなさん気になっているであろうこの子について説明しよう。決して近所の女子高生にセクハラしている大学生の図なんかじゃないんだから、勘違いしないでよねっ(二回目)。
いい加減しつこくてキモいな。俺のツンデレは無視して、本題に入ろう。
この、俺のことを白い目で見ながら、俺よりちょっと後ろを歩く大和撫子の鏡のような少女の名前は樋口美香。
住所はほぼ俺とおんなじで、違うのは最後の番号が俺の場合202で、彼女は302というくらいだ。分かりにくいね、つまり同じアパートの真上の階に住んでいるということだ。
年齢は確か……
「あと、さっき再来年からって言ってましたけど、もう私明日から学校始まるんですよ?もう、高校三年生なんですから“来年から大学生”です」
「ああ、そっかそうだったな」
17歳。正真正銘の現役女子高生。学年は、明日から三年生。
特徴は肩甲骨のあたりまで伸ばしたまっすぐな黒髪で、右側にシュシュで止めて流している。
あと目立つ特徴と言えば、可愛い。とにかく、顔はものすごく可愛い。そこらへんのアイドルなんか目じゃないくらい。まぁ、まともにアイドルなんか見た事ほぼないのだけれど。
そうそう忘れてた。顔以外にも可愛らしいところがもう一つ。
「どこ見てるんですか先輩」
「いや、(見て)ないです」
「ああっ!ないって言った!気にしてたからめちゃくちゃショックな上に犯罪級にセクハラです!!」
「いや、別に誰もおっぱいのことだなんて言ってないだろ?」
「今言ったじゃんか!!」
胸が無……可愛らしいサイズなんだな、これが。
せっかくさっきアイドルの例えを出したのでここでも使わせてもらうと、千○サイズ。
うん、ひんぬーはすてぇたすだよっ!ぺったんぺったんつるぺっ(以下略)
「うんうん、可愛いからそれでいいんだよ」
「か、可愛い……!?って、そう言えば赤面するとでも思いましたか?リアル女をなめないでください。ラノベヒロインじゃないんですからそんな簡単に落ちないですよ」
「くっ……まさかこの作品、意味もなく無条件に俺のことを好きになってくれる便利チョロイン枠はないのか!?」
世知辛い世の中になったものだ。俺も部活作って美少女入れ込んでハーレムする主人公になりたかった。
まぁそもそも、こうして朝っぱらから現役女子高生(美少女)と一緒に駅まで楽しく会話しながら歩いていること自体リアルではあまりないことなんじゃないかというツッコミは却下とさせて頂くので悪しからず。
では、そもそもなぜこんな俺みたいな陰気なクソ大学生と、こんなリア充を具現化させたようなキラキラの女子高生が仲良くなったのか説明したい。
それは去年の秋の事…………
大学生になってから半年以上経ち、授業をサボることを覚えてしまった俺が真昼間だというのに我が家へたどり着いた時だった。
階段を上がり二階へ行こうとすると、俺のいた高校とおんなじ制服を着た少女が大きなダンボールを両手に抱えフラフラと目の前を歩いていたのだ。
危なっかしかった。何が一番危なっかしかったって、目の前でひらひらと揺れるスカートの中に見えるピンクの布が俺のパトスを……
「ねぇ、持とうか?」
「ひぃっ……ひぃっ……ふぅっ……っ!?」
「それ出産のやつじゃない?」
「うるさいなぁどうだっていいでしょ……って、先輩?」
「ん、先輩?ああ、まぁ確かに先輩だな。俺のこと知ってるのか?」
「あ、えっといえ、いや、なんていうか……」
「とにかく持つよ。重いだろ?」
「そんな、申し訳ないです!」
「いいんだよ、素直に甘えとけって(キリ)」
「あ、ありがとうございます……」
そんな感じで、俺のアパートの、ちょうど上の階に引っ越してきた子を助けてあげた。
それが、樋口美香と俺が、最初に会話した瞬間だった。
結局まだまだあった引っ越しの荷物を最後まで手伝い、最後にはお茶を頂いて……それだけだ。
よくあるラブコメみたいに樋口さんは落ちなかったし、そこからとてつもなく仲が良くなったりしたわけではない。
ただ、こんな風に会えば一緒に駅まで歩くくらいには仲良くなれた、というわけだ。
「今思い返せば、俺の大学生時代、最高の煌めきだった」
「何を思い出してそんな自己陶酔丸出しの顔でにやけているのか知りませんが、もう駅ですよ?」
「お、おう……」
それにしてもこの女子高生、辛口である。
改札を抜けホームに立つと、樋口さんは俺から離れて後部車両の方に行ってしまった。
まぁ、いつものことだ。こんな大学生と一緒に電車に乗っているところなんか友達に見られたら恥ずかしいよね。……あれ、自分で言っててちょっと傷ついたぞ。
樋口さんを横目で見ながら、俺は雅也に言われた通り先頭車両の方へ。
まだ朝で、しかもここが割と田舎だということもあってかベンチには誰も座っておらず、カバンを隣の席に置いて腰掛けられた。
腕時計を見ると、9時18分を示していた。雅也の指定した電車は次だ。
そう、俺がいつも乗っている電車はたとえ通勤ラッシュ時でも15分に一本しか来ない超ロースペック電車なのだ。
ちなみにドアはボタン開閉式。寒い時ドア付近にいたらちゃんと閉めようね。秒速5センチ◯ートルじゃないけど、ほんとにおじさんが睨んでくるよ。
しかし暇だ。樋口さんはもう話してくれないだろうし、やることがない。
スマホを取り出して、真っ黒な画面に映る自分の顔を見る。うーん、相変わらず悪くはないな。
俺のスペックは簡単に言えば平凡、もしくはそれより少し上くらいだろう(意地)。
身長は175センチ、体重は60キロと割と細身。髪は真っ黒のショートヘアで、適当なアニメのモブキャラにいそうな感じだ。
と、俺のことはこれくらいにして、何か音楽でも聴こう。
ポケットに入れていたイヤホンを取り出して装着。このイヤホンはうん万円したが、去年まではバイトをしていたのでなんとか買えたのだ。
うん、これで聴く音はやっぱり素晴らしいな。よくいるよね、イヤホンに尋常じゃないこだわりを持つ人。それ俺のことな。
「山橋レナ、か」
ふと思い出したその名をつぶやく。ドーム公演するくらいだから結構いい曲出していたりするのだろうか。
一度気になりだすと調べずにはいられない。Y◯utubeで名前を打ち込んで、公式PVを見つけだす。あとどうでもいいけどせっかく伏せたのにこれじゃ伏せきれてなくね?
「……へぇ」
とりあえず再生数が一番多いものから聴いてみた。うん、確かにうまい。というか、アイドルなんかしなくてもこの歌だけでやっていけるんじゃないかと思うほどだ。
他の曲も聴いてみる。うん、どれもかなりの完成度。人気が出るのもわかるな。
曲調は基本的にアップテンポで、まぁある意味アイドルらしいと言えるものばかり。歌詞も秋○康が作ってそうな、まぁやっぱりアイドルらしく可愛らしいものばかりだった。
しかし、惜しいな。個人的にはバラードの方が彼女の歌声には合っていると思うのだが、一曲もないらしい。
頭空っぽなドルオタの皆様はバラードなんか望んでいない、と言われてしまえばそれまでなのだが、でもやっぱり、もう少し暗めの曲も歌っていいんじゃないのか?(ドルオタの人本当に申し訳ありませんでした)
ま、こんなの俺のあまりにくだらない要望に過ぎないのだけれど。というか、もう二度と聴く機会があるかどうかすら微妙だ。
それに、これらの曲にはなんか違和感が……
『香川〜、香川〜』
「あっ!」
いつの間にか電車が来ていたらしい。
カバンを抱え、そもそも開いてすらいない扉を開けて中に滑り込む。
「はぁっ……はぁっ……」
「朝から元気だな、伸一」
「う、うっせ……」
電車の中には、いかにも軽薄そうな笑顔を携えた短い茶髪くせ毛、小顔のイケメンが立っていた。
こいつの名前はさっき紹介した通り。氷川雅也、俺の友達だ。
「なぁ、今日はなんの日か知ってるか!?」
「もちろんオリエンテーションの日だ。当たり前だろ?」
「ちっがうわ!いや、違いはしないか……いや、でも違うわ!!」
「二回も言わなくていいわ」
「前も言っただろ!?今日は我らが歌唱研究部の新歓会決行日なのだっ!」
いちいちリアクションが大きいから注目を集めやすい。正直知らないふりして離れたいまである。
「へぇ、そぉ、がんばってねぇ」
「なんだそのやる気のない返事。お前もやるんだぞ?」
「あ?いやだよ」
「即答!?お前幽霊部員なんだから、こんな時くらい役に立ってくれよ。人手足りないんだって。それにどうせ暇だろ?」
「それが人にものを頼む時の態度か……」
歌唱研究部というのは、俺が入学時入るサークルもなく直帰系大学生への道を歩もうとしたのに、雅也が無理やり引きずり込んできた部活のことだ。部員は総勢10名弱。ぶっちゃけかなり小規模だ。
ちなみに雅也が言うように俺はほとんど活動に参加したことがない。部活とか、チームとか、そう言うのはもういいと思ったのだ。
「はぁ……」
雅也はおもむろにため息をつき、窓から移り変わる外の景色を見つめた。
「まだ、引きずってんのか?」
「っ……」
急に真面目なトーンになるなんて、卑怯だ。
黙った俺を見て、雅也は優しげに微笑み肩を叩いてきた。
「で、どうなんだ?やっぱりダメか?」
「わかった!やるよ。やればいいんだろ」
「さっすが親友!」
「お前など親友でもなんでもないわ!」
「伸一くぅん!」
「キモいキモい離れろおい!!」
いつもと違う雅也は消え、いつもの雅也が帰って来た。
シリアスになりきれないところは、相変わらずだな。
***
電車を乗り継ぎ、冬美大学駅前で降りてから何故かバスで15分。前じゃないじゃんって言うツッコミを入れつつたどり着く冬美大学こそ、俺と雅也が通う大学だ。
校門前、敷地内と様々なところに植えられた桜の木からひらひらと花びらが舞い、その桃色が夕焼けの朱と混じり絶妙なコントラストを生む。ああ、風情なり。
「雅也、なんだ俺のこの姿は」
「なんだって見てわからないのか?ライオンさんだ」
「テメェぶっ殺すぞ雅也ァ!!」
「ま、待て!ってかお前そんなに怒るならどうして着たんだよ!!」
そんな景色の中に混じる異物こと俺。
茶色の全身タイツにフサフサの飾りをつけた俺は確かにライオンに見えるだろう。が、俺は劇団○季のスタッフでもなく、と言うか劇団○季のスタッフでもこんなとこでライオンキングのコスプレをする奴がいるだろうか。いや、いない!(反語)。
「ほら、叫んでみろよ、心配ないさああああああああ!!!!」
「そうかよし、お前今から体育館裏来い」
実はこのセリフ、大西◯イオンのオリジナルネタではなく、本編でちゃんと言っているらしい。あ、マジどうでもいいなこのネタ。
「いやぁしっかし退屈なオリエンテーションだったなぁ」
「話を逸らすな」
「そういえばオリエンテーションの時聞いたんだけど、俺らの一個下の学年に一人芸能人が入ったらしいぞ」
「はぁ……芸能人とかそう言うのに俺が興味ないの知ってるだろ?」
「ま、知ってるけどさ」
それにしても雅也が普通に私服なのは納得がいかないな。なんか着て欲しい。
というか何より、今すぐ脱ぎたい。
「あ、伸一、俺ちょっと琴美ちゃんと会う約束あるからさ!」
「はぁ!?誰だよその女俺知らねぇぞ!」
「いやその発言はどうなんだよっていうのはともかく、一年生の女の子!一緒に誰か友達連れて来てくれるらしいからさ!」
「またそれか……この前の子はどうしたんだよ」
「ふ、フラれた……」
「あ……」
「あ……」
確かに雅也はそこそこイケメンだが、女を取っ替え引っ替えする正統派イケメンキャラとはいかない。中身があまりに残念すぎて、付き合ってもすぐフラれてしまうのだ。
普通にしてればいい奴なんだけどな、かわいそうに。
「やめろっ!俺を哀れむなこの童貞野郎!」
「訂正、やっぱこいつ全然いい奴じゃないわ」
二人揃ってチェリー同盟。
でも、こいつには彼女ができるが、俺の場合そもそも彼女ができない。
うーん、何が悪いのだろう?一人暮らしで生活能力も高いはずだし、勉強も運動もそこそこのはずなんだけどなぁ……
「って遅れちまう!じゃあな伸一!」
「え、なにこれ?」
雅也は俺に一枚のパネルを渡してきた。
そこには
『冬美大学歌唱研究部、本日新歓会!連絡はこちら→@○○○×××』
と、書かれてある。
「それ持って、通りかかる人に声かけていってくれ!後は頼むな!」
「あ、ちょ、待てよ!!」
それだけ言い残し、雅也はどこかへ行ってしまった。む、無責任すぎる……
一人残されたライオン。まるで千尋の谷に突き落とされたような気分だ。
「よ、石田、久しぶりだな」
すると、俺に声をかけてくる一人の男子大学生。
「ぶ、部長……?」
「他に誰がいるっていうんだ?しかしその格好……」
「ほっといてください」
この人は歌唱研究部の部長で、新三年生の斎藤源太(21)。
身長が180センチ近くあり、鍛え上げられたその筋肉によって近寄りにくさこの上ない。ってか入る部活確実に間違えてる。
「って、部長がここに来たってことは……」
「ああ、今年も歌おうと思ってな!」
「やめて!マジでやめてください!」
そう、この部長人はいいのだが歌が壊滅的にその……下手というか、声がでかい。
でかすぎて、荒削りすぎて、正直耳が壊れる。まじジャ○アン。
「なんだ、そんなに嫌がって。俺の歌が聞きたくないとでも?」
「い、いや、そんなこと全然ないあるよ?」
しかも腕っ節もジャ○アン以上だからタチが悪い。なんか中国入っちゃったよ。
「お、新入生が来たぞ?」
「いっ!?」
部長の指差す先には、たくさんの資料の山を持った新入生たちがぞろぞろと歩いて来ていた。
その様子を見て、近くにいた他の部活、サークルの勧誘員も沸き立ち出す。みんな、新入生を獲得するのに必死なのだ。
「よし、ここはインパクトある一撃を……」
「あああああああ!!」
あんた去年もこれやって新入生にドン引きされてたじゃん。ってかその新入生俺だわ。
なぜか隣にいた雅也は「か、カッケェ…」と、恍惚とした顔をしていたが、それは本当に一部の話だ。普通にやったら新入生はいきなりこの部活を避けるようになってしまうだろう。そんなことになったら……
あれ、俺そんなに困ることないな。じゃあ、いっか。
「じゃなくて、今一番近くにいる俺の鼓膜が危ないんだって!部長やめてくれぇええええ!!」
「あ、マイク忘れた」
「……は?」
「前は石田と氷川、瞳ちゃんしか入ってくれなかったからな。今回はもっと多くの人に届くようにマイクを持ってくる予定だったのだ」
「問題の本質がわかってない!?だめだこいつ、早くなんとかしないと……」
ちなみに瞳ちゃんと言うのは俺と同じ学年の、ピアノが得意な女の子のことである。
「じゃ、俺は一度部室に戻るぜ!がはは!!」
「あ、あぁ……」
行ってしまった。行かせてしまった。なんてことだ、今年は鼓膜だけでは済まされそうにないってことじゃないか。
そんなの嫌だ。どうする、どうすればこの状況を打開できる?
そうこうしているうちに新入生はぞろぞろと校門を通り過ぎていくし……そ、そうだ!
十分なくらい新入生を勧誘して、部長の歌によるPRは必要ないって言おう。我ながらナイスアイデアだ。これしかない!
「というわけでそこの君、よければ話だけでも聞いていかない?」
「あ、いや、その……」
とりあえず近くにいた女子生徒の一団に声をかけてみた。しかし、この反応はなんだ?俺は普通に声をかけただけだというのに、ゴミを見るかのような目で見られているぞ?
「(ヒソヒソ)なぁ、見ろよあれ」
「(ヒソヒソ)ライオンキング……?」
「(クスクス)面白いと思ってるのかなぁ?」
あ、俺、全身タイツなんだった。変態なんだった。
こんな簡単なこと、どうして気づかなかったんだろう。あたしって、ほんとばか。(首をひねりながら)
「あの、すみません!他に見たいところあるんで!」
「あ、私も!」
「じゃあいこ!ね?」
引きまくってる女子新入生たちは足早に俺から離れていく。
……こんな屈辱初めてだ……ッ!雅也にはいつか然るべき罰を与えねばなるまい。
それはともかく、時間がない!どうにかして人を集め……
「ん?」
自慢じゃあないが、俺は結構視力が高い。わざわざどうしてそんなことを今告白したかと言うと……
「も、もう来ている……ッ!?」
くそ、もうなにをしようと手遅れか!こうなったらもう逃げるしかない!
俺は振り返り、着替えが置いてある部室棟を目指そうと走り出……
「うわっ!」
「ひゃっ……」
そうとしたその時、人にぶつかってしまった。
高めの声と低めの身長から女性かと思ったが、スーツが男物だし、何より胸が平らだ。
「あの、すみません、大丈夫ですか?」
「え?ああ、大丈夫……」
即座に謝り、顔を見る。
作り物みたいに綺麗な黒髪を短めに揃えた、色白のイケメンだった。少しだけ西洋風な顔立ちで、ハーフか、もしくはクオーターといったところだろう。
「……というか大丈夫じゃないのはあなたの方じゃ……」
「い、言わないで!格好のことは言わないでっ!」
そんなこと俺が一番わかっているんだから!
「じゃ、僕は行きます」
「あ、待って!」
恥ずかしさのあまり、おかしくなってしまっていたのだろうか、彼のことを呼び止めてしまった。
「なんですか?」
ほら、やっぱり怪訝そうな顔をされてしまったじゃないか。
だけど、もうさっきの女子から受けた反応で俺の心は鋼と化している。このくらいでは折れない。
「歌唱研究部、興味ないか?」
「……歌唱研究部……ですか?」
「そう、歌を歌う部活なんだけど……あ、合唱だけじゃないぞ?普通に個人で歌うJ-POPとか洋楽の技術向上を目指すのも全然あり!
どう?興味ある?実は今日新歓会あるから是非参加して欲しいんだけど」
「いや、僕ちょっと用事あるんで……」
「そ、そっかぁ……」
まぁそうだよな。こんなにかっこいいんだ。もっといろんなサークルに引っ張りだこだろう。歌唱研究部なんて弱小部活動に興味なんかあるはずもない。
ってか俺もなに熱くなってるんだか。馬鹿みたいだ。
さて、仕方ない、諦めて逃げよう。部長は今どこに……
「何キョロキョロしてんだ石田、もう用意できたぞ?」
「なん……だと……?」
いたよ。
くそ、欲が出た。もしも一人でも勧誘に成功すれば部長も気をよくするかもなんて思った俺が間違いだった。
「よし、じゃあ歌うか!」
「え、ここで?」
「そりゃそうだ。ほら見ろ石田、こんなに新入生が歩いているじゃないか?」
確かに、右を見ても左を見ても新入生がいっぱいだ。
こんなところでこの爆弾を炸裂させたら、いったい何人が死んで、何人が病院送りになるか……っ!
「部長!この人部活興味あるって!」
「何?」
「はぁ!?」
すまない……大を救うために小は犠牲になる。これ、世の摂理。
「僕は一言も興味あるだなんて……」
「そうか、興味あるか!君のような新入生を待っていた!それじゃ、ブースに行くか!」
「あ、ちょ、待ってって!時間がないんだってば〜!!」
部長は一年生の手を取ると、さっさとブースに行ってしまう。
ふぅ、これでひとまず難は逃れた。さて、ここからうまく誘導して部長の歌を阻止しないと。
ブースは校門付近の道に長机とパイプ椅子を設置しただけの簡単なもので、新入生と面接するように向かい合えるようになっている。
「お、伸一!それに部長!オッスオッス!」
そして、そのブース前で5人ほどの女子を囲っていたのは我が友……じゃないな、もう。雅也だ。
「よぉ氷川。たくさん部員を連れてきてくれたようだな?」
「ああ、はい見てくださいよ。みんないい子ばっかですよ?」
雅也は自分の連れてきた女の子たちを見せつけてくる。こいつは俺がライオンキングコスでドン引かれている間、こんな楽しそうにしていたのか……許せん。
憎き雅也は俺と部長が連れてきた一年生に興味を示したらしく、ジロジロと観察しだした。
「な、なんですか……?」
「雅也やめろ。怖がってるじゃないか」
「そうだぞ氷川。こいつは新入部員候補なんだから丁重に扱え」
「候補じゃないって言ってるのに……」
「じゃ、そこ座ってくれ。この部活についてじっくり説明させてもらうからな!」
「は、話聞いてよぉ……」
ちょっと泣きそうな声になりつつも場に流され、椅子に座ってしまった一年生。
あれ、なんか可愛いな。
女の子のような反応をするし、体つきも細身。女物のスーツを着せても似合いそうだ……だが男だ。
桜が舞っている。入学式にふさわしい季節だなぁ。だが……男だ。お祓いをしてもらいたくなってきたぜ。
「では、今から歌唱研究部創立から現在に至るまでの歴史をだな」
「う、嘘でしょ!?」
「それはこの冬美大学設立から2年が経った頃……」
ああ、この1時間耐久歴史解説、俺も聞かされたなぁ……嫌だったなぁ。可哀想に誰のせいだよ。あ、俺のせいか。
「まず学校が創立してから数年後のある日、頭の中が煩悩だらけの変態さんがいてだな」
「…………」
「彼は同じ学部のお嬢様に仕えている執事が実は女だと知ってしまって」
「………………」
「そしたらその執事少女に決闘を申し込まれ」
「……………………」
「勝った末に友達のいなかった彼女と一緒に隣人部を……」
「部活変わってるじゃん!!!!」
あ、ついにキレた。
「なんのパクリなのそれ?ねぇいくつパクったの!?」
一年生は机に手をついて立ち上がり、部長をまくし立てる。
「いや、それから男の方がぬいぐるみの力で戦士になって、死に戻りしてっていう長いサクセスストーリーが……」
「あざといっ!M○文庫的アレを利用しようって魂胆があざとすぎるッ!!」
「さすが部長!おれたちにできない事を平然とやってのけるッ
そこにシビれるあこがれるゥ!」
「うっさい外野は黙ってて!!」
しかしこの一年生、相手が二個上の部長でもこんなに勢い良くぶつかれるとは、相当に根性が座っているらしい。
ってか、まずこれなろうに書いてるんだからM○関係ないし。
いや、ただ単にあのパクリラッシュが気に食わなかっただけかもしれないけど。
「そんなに歌唱研究部ってのが素晴らしいなら、一回歌ってみてくださいよ!」
「あっ、馬鹿!」
「よぉしいいだろう!その言葉を待っていた!!」
「しまったァ!!」
なんて事だ。俺が一番恐れていた自体が今起ころうとしている。
マイクを手に取る部長。なぜか雅也が目を輝かせているのが目に入った。なんとか隣にいる一年生だけでも避難させないとっ!!
「では、歌います。君は永遠の薔薇だから」
「なぜ演歌!?しかもコアな!?」
あ、つい突っ込んでしまった。あと1秒早ければ、雅也に騙されてついてきてしまった女子生徒たちを救うことができたのに。
こうなればもう死は回避できない。ならば……
「俺が、必ず———」
———お前たちを、救ってみせる。
次の瞬間、俺は命を……
「づらいどぎもあるのにぃぃぃぃぃぃいいいいいいいい!!!!!!」
**********************************
………………………はっ!!
視界は開け、目の前にはさっきと同じ場所、そして部長の姿がある。
あれ、歌は?さては本当に死に戻りを……!?
「あ、あんびりーばぼー……っ!」
「は?」
横にいた雅也は興奮気味に顔を紅潮させ、絶え間ない拍手を部長に送っていた。
あれ、終わった?終わったの?
まさか、これが噂に聞くキング○リムゾンッ!!?
部長の歌はもうスタンド能力の次元に至ったということかッ!?
さっきまで俺が救おうと必死だった一年生の女の子5人も、ブースの周りにいた他のサークルの皆さんも、おんなじようにキョトンとしてあたりを見渡している。え、マジじゃんこれ……
「あ、そうだ君……」
肝心の部長の歌をせがんだ彼は無事だろうか。
椅子に座ったままの顔を覗き込む。
「目を閉じて……まさか死んで!?」
「死んどらんわ」
カッ、と目を開き、俺を押しのける一年生。
「ふふん、どうだ、俺の凄まじき歌唱テクニック……」
満足げに鼻を鳴らす部長。殴りたい、この笑顔。
しかし、彼は部長のキング○リムゾンを食らったのに平気なのか?
心配していると、彼はいよいよ部長の正面に立ち……
「簡潔にいうと下手」
「は?」
「へ?」
「ほ?」
いや、そんなのみんな知っとるわっていう事実を、平然と突きつけたのだった。
「な、何がだ……っ!?」
「まず、音程が取れていない。歌い方も雑すぎ。自分が気持ちいいように歌っているだけで、他人に聴かせるということを考えていない典型的なオナニープレイ」
「なっ……なっ……」
部長の顔がみるみる赤くなっていく。あ、これ噴火直前だ。
しかしこの一年、部長のあの歌を音程の次元まで聴き取ったというのか?
「まずは発声練習からやり直すべきだね、部長さん?」
そんな部長に、そんな煽るような言い方をすれば、当然……
「俺の歌に……俺の歌に文句があるっていうのかぁぁぁぁぁああああああ!!!!」
「ひゃっ!なに!?」
こうなるわな。ってかいちいち可愛らしい反応するのやめてくれない?ノンケであった日のこと忘れそうになるから。
「言わせておけば散々言ってくれやがって……」
「べ、別に僕は嘘を言ったつもりはないけど……?」
ああ、こんないたいけな新入生に怒鳴り散らすとはなんて大人気ない。
ほらまた涙目になってしまったじゃないか。
はぁ……なんだか連れてきてしまったのがひどく申し訳なく思えてきてしまった。これ以上彼に迷惑かける前に助け舟を出してあげねば。
「部長、彼も悪気があって言ったわけじゃないんですよきっと。そう、本当は部長の歌で感動したからその照れ隠しであんなことを……」
「そんなわけない。何言ってるの?」
「お前が何言ってんだよ!?」
俺の優しさ、撃沈。
せっかくフォローしたのに、なんて空気の読めない一年生なんだこいつは……
「俺だって歌の道に生きてきた身、こんだけ言われてタダでは引き下がれねぇ!一曲歌っていかんかい!!決闘だ決闘!!」
「何ラッキースケベ起こされたラノベヒロインみたいなこと言ってんだ部長!落ち着けって!!」
「なんなのもう……」
俺が必死に部長を押さえつける。くそ、やっぱ強い!!これ以上押さえつけられそうにないぞ……
「雅也!手伝え!!」
「ねー雅也センパァイ、今日はどこに連れて言ってくれるのぉ?」
「今日はね、美味しい中華に行くんだよぉ?」
「え〜、私た〜の〜し〜み〜」
「いっちょ思いっきり騒いじゃお!うぇ〜い!!」
「「「「「うぇ〜い!!」」」」」
だめだこいつら、もう目の前の現実から目を逸らし始めている。
「ねぇ、もう僕帰っていい?」
「っ…!!」
飽きたように携帯をいじる一年生。
確かに俺が連れてきたのが悪いんだけど、怒らせたのは自分なんだからなんか手伝えよ……
「ああ!もうこうなったら歌ってやってくれ!!」
「ええ!?そんなわけにもいかないんだけど……」
「これ以上押さえつけられない!面倒なことになるぞ!!」
「離せ石田ァ!!」
「えぇ……あー、えーっと……もう!しょうがないなぁ!!」
必死の形相の俺を見て決心がついたのか、一年生は立ち上がり、ため息をついた。
「特別、なんだからね?」
諦めたように、彼は微笑む。その瞳の輝きは、まるでいたずらをする少女のようで。
その不思議な可憐さは、まるで妖精のようで。
俺は射抜かれたように、呼吸を忘れ、身動きを忘れる。
風がそっと吹いた。桜が再び舞い上がり、夕日と混ざる。
そんな風情ある景色を、全部自分の装飾物に変えて、彼女は息を大きく吸い込んだ。
髪が揺れる。そして…………
「————帰ろうか。冷たい風に、心の芯から凍えないように♫」
男という割には高く、澄んでいる歌声。
切なさと哀愁が、そっと旋律に乗せられていく。
「秋が去って、冬が来るなら、枯れる声も連れて行ってほしい、空へ♫」
春なのに、今、冬が来たような。
桜の花びらが、雪に見えるような。
人の心の一番深いところに刺さり、揺らがせる。
気づけば、さっきまで騒がしかった部長も、雅也と女の子たちも、さらには周りのサークルの人たちも、全員が作業をやめ、その歌に聴き入っていた。
たったワンフレーズの歌が、彼女の口を通すことで周り全てを巻き込み、時間が止まるかのようなひと時を生み出していく。
「どう?」
でも、それは溶ける雪のように、突然と終わりを迎えた。
残ったのは、本来この新人勧誘の場にはふさわしくない静寂と、それを生み出した歌の終わりを惜しむ念のみ。
「う……うあ……うおあああああああああああああああああああああ!!!!」
「部長……?」
静寂を破ったのは、部長だった。
雄叫び……というか野獣のごとき咆哮を上げながら、地面に膝をつく。その両目には感動のあまりか涙が溢れていた。
おかげでみんな意識が帰って来たかのように「すごいうまかったね、あの人」とか、「プロかと思った……ううん、きっとそこらへんのプロよりすごかった!」などと話しており、各々興奮を隠しきれない様子だ。
そんな中、俺はと言うと……
「ねぇ、君の名前は?」
「え、名前?ま、松原です……」
「松原。松原君かぁ!」
「えっと、なんですか……?」
某出版社の社長のような名前の彼に向かい距離を詰める。
それが怖かったのか、敬語を使えるようになったらしい。でも、そんなことはどうでもいい。
言いたいことは、ただ一つなのだから。
「歌唱研究部、入らないか?」
そして、言いたいことは、他の部員もきっと同じ。
彼こそ、この歌唱研究部を立て直してくれる希望の光だと、皆感じているはずだ。
でも、俺は違う。そんな事より、もっと私利私欲のために動いている。
思えば、俺は“あの日”から何事にも関心を持てず、死んだように生きてきた。
授業も適当に流し、せっかく入った部活動にも顔を出さず、家に帰れば引きこもりのごとくゲーム三昧。
そんな俺が、こんなに惹かれるものに、出会ってしまった。
こんな年下の、しかも男が歌う歌でこんなに興奮するなんておかしいのかもしれない。でも、俺の中で、確かに何か動いたんだ。
この出会いこそはまさに運命で、今、物語が始まろうと……
「嫌だから」
「…………は?」
「嫌に決まってるでしょ?ライオンさんのいる部活とか、一緒にいると馬鹿が移りそうだし」
始まろうと……
「伸一!?おい伸一!!」
あまりにものショックで暗転する視界。
断られたことではなく、この格好のせいで断られた、という雅也への怒りで憤死したのだ。ああ、天使が見える。
…………いや、別に死んでないんだけどね。