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第13話 妹ができました

 

「い…いらっしゃいませ」

「予約していた風間だ」

「こ、こちらにございます!!」


 店員さんは社長さんを見ると、思いっきり萎縮してしまっていた。

 かわいそうに。絶対面白がって睨んでるぞ、あれ。


 そんなわけで俺たち団体様一組こと「風間プロダクション」は、俺の歓迎会と、前回のライブの打ち上げのために近所の焼肉屋にやってきていた。


「あれ、香奈いないじゃない」

「香奈は後から来るそうだ」

「そう…」


 山橋はなんだか不機嫌そうだ。いつものことだけど。


「こ、こちらです…」


 社長さんにビビりながら案内してくれるお姉さんに従って、個室座敷部屋に誘導される。

 それから各々履物を脱ぎ、座布団に座った。


「ん?」

「ん?」

「ん」


 今回は8人。香奈、と言う人は後から来るらしいので、三人と四人が向き合う形だ。


「いやいやいや、どうして君があたしの隣に来るのよ」

「あれ、ぼーっとしてたらつい…」

「先輩っ、何にしますか?注文は任せてください!」

「あ、ありがとう樋口…」


 なんと、この状況下で、俺は左に山橋、右に樋口というハーレムポジションに陣取ってしまっていた。

 こ、これが噂に聞くラブコメならではの無意識(ご都合主義)ってやつなのか!くそっ!はめられたぜ!

 しかしなんの迷いもなく上座に座るあたり、やはりこいつは大物だと思う。


「今回は俺の奢りにしてやる!たんと飲めや!」


 社長さんが明るく号令する。


「そうだな…俺は未成年だしオレン「生中」ースって、待てやこら」


 今俺のセリフ中だったのに明らかに誰か混ざってたよ。しかもダメなやつ。


「お前この前それで大変な目にあっただろ?やめとけよ」

「うるさいなぁ、いいじゃないあたしだって大学生なのよ!?

 君も大学1年でお酒くらい飲んでたでしょ?」

「そ、それ以上はダメだっ!」


 そんな大学生の闇に触れてはいけない!お酒は二十歳からったら二十歳から!

 でも本当に急性アル中とか怖いので、ほどほどに注意しましょうね。


「石田先輩、結局何にするんですか?」

「あ、じゃあ俺レモンサワーで」

「かしこまりました」

「ちょっと待てえっ!!」


 山橋が大声でツッコミを入れてくる。

 俺?19だけど何か?

 ラストティーンだもの、楽しまなきゃっ!(頭の悪いJD風に)


「………なんか、楽しそうね、あっち側」

「正面の俺たちが盛り下がってたらあっちも気使っちゃうだろ美月。さ、逆ハーレムポジションだぞ?」

「社長、日本酒です!」

「おう蓮見!気がきくじゃねぇか!」

「嬉しくない…こんなの全然嬉しくない…」


 正面には上座に社長、その隣に美月先輩、博多先輩、蓮見先輩という順で座っている。

 ちなみに今、蓮見先輩は社長の横で絶賛ごます…じゃなくて、接待中だ。


「お待たせしました!」


 そこに店員さんが酒やジュースを運んできた。酒の個数が何個だったかはあえて記載しないものとする。


「よし、みんな持ったな?それじゃあ乾杯!!」

「「「「「かんぱーい!!」」」」」


 皆でグラスをぶつけ合う。あ、泡がこぼれてしま………ち、違っ…、違うんです!誤解です運営さん!!


「くあー!おいしい!」

「お前この前まずいとか言ってなかったけ…」


 とてもアイドルってかそれ以前に女の子の反応じゃないよ。それ許されるのミ◯トさんだけだよ。

 怖い怖い。こうやって酒に慣れた結果パリピ化してヤ◯サー入って処◯喪失して酔った勢いで避◯し忘れて人生を終わらせてあああああああああ


「さあ肉だ肉〜!!」


 美月さんがテンション上がっていた。まるで若者みたいだ。


「はーい、伸ちゃんにはこのお肉あげる〜」

「炭!炭ですから!!」


 これを食えと…?まさか心を読まれた!?


「と言うか伸ちゃんってなんですか?」

「かわいいでしょ?」

「そうじゃなくて」


 ちょっとなんていうか、恥ずかしい。


「諦めろ石田」

「蓮見先輩…」


 ごますりを終えた蓮見先輩が、俺に話しかけてくる。

 うん、給料上がるといいですね…


「美月さんは誰にでもあだ名をつけるんだ。俺ははすみん、総司さんはそーちゃん、美香のことはみーちゃん」

「で、俺は伸ちゃんと…」


 うわぁ、はずかしい…

 でもなんかこういうのって仲良しっぽくていいのかもしれない。

 仕事は信頼と連体感だからな!


「あれ、山橋は?」

「「「!!?」」」


 みんな気管に酒でも入ったかめっちゃむせている。

 樋口に至っては、例のゴミを見るような目で俺を見ていた。え、ちょっとひどくない?


「俺、なんかまずいこと言っちゃったかな」

「知らないわよ…」


 山橋はそっぽを向いたままひたすらにタンを食っている。食事制限とかないのか…?

 でもまぁ、さすがに空気読めてなかったか。こいつがコミュ障なのは仕方のないことだけど…誰に謝ればいいんだ?

 場の空気がちょっと悪くなってしまった。主にというか完全に俺のせいですねすみません。

 そんな時だった。


「何しけた顔してるんだい、みんな」


 尊大な声を響かせながら、都合よく一人の制服少女が個室座敷に乱入してきたのは。


「香奈…本当に来たのね?」

「うんお姉ちゃん。社長さんに呼ばれちゃったから、仕方なくね」


 その少女に最初に反応したのは麗奈だった。

 制服や体格から判断して高校生くらい。

 髪色は茶色でショートボブだがくせっ毛らしく、パーマがかかってるみたいに見える。

 顔はというと、瞳はブルーで顔はまるで人形のごとく整っている。簡単に言えば超絶美少女だった。

 少女はにんまりとその場を見渡し、最後に俺と目を合わせる。


「君が石田伸一くん…か、お姉ちゃんが随分とご執心のようだからね、ちょっと気になっていたんだよ」

「ってちょっとちょっと香奈!何言ってんのよ!」


 え、どういうこと?ちょっと気になる…っていけない。こんなところで女性経験のなさが出てしまうとは…

 それはさておき、今までの会話で察せるようにこの香奈という少女は山橋の妹らしい。


「それにやっぱり香奈って…」

「お、気づいたかい?そう、私が君が散々バカにしたらしい曲を書いた本人、カナだよ」

「や、やっぱり…ってか曲は褒めただろ誤解を生む発言はするなよ!」

「ふん!」


 山橋はまたそっぽを向いてしまった。

 明らかに恣意的な情報操作があったことは明らかだが、この場ではもういい。

 と、そんなやり取りを見て香奈は首を傾けた。


「ふむ、石田伸一くん、君のことは“お兄ちゃん”、とでも呼んだほうがいいのかな?」

「「お、お兄ちゃん!?」」


 まさかのとんでも発言。ありがとうございます是非…


 って違う!!惑わされるな伸一!これは罠だっ!!


「どういう意味よ香奈!?」

「だってほら、随分と仲良さそうじゃないか。お姉ちゃんがこんなに他人と話すのなんてそうそう見ないぞ?」

「ぜんっぜん、全く、これっぽっちも!!!!」


 そ、そんなに言わなくても………

 あははと頭を掻きながら香奈ちゃん…ちょっと恥ずかしいけどこれでいこう。ともかく、彼女は笑った。


「すまんな、私の姉はその…俗に言うツンデレなのだ」

「あー、ラブコメには必須ですよねその要員」

「聞・こ・え・て・る・わ・よ!!何!?私をいじられキャラにしたいの?そういうことなの?」


 相変わらず騒々しい。さっきまであんなに大人しかったのに。


「久しぶり、美香」

「久しぶり香奈…」

「なんか機嫌悪い?」


 俺たちとのやりとりにひと段落ついたからか、香奈ちゃんは挨拶回りに行った。

 美月さんや他のみんなとも仲良く話していることから、ある程度馴染みのあるメンバーなのだな、と思った。姉と違って。


「さて、じゃあ全員揃ったことだ。そろそろ今日の本題に入るぜ!!」

「本題…?」


 今日は俺の歓迎会と…ああそういえば前のライブの打ち上げも兼ねているんだったな。

 それに本題もクソもないと思うのだが…


「今回、麗奈の暴走によって歌われた曲、「NEXT」についてなんだけどな」

「うんうん、あれは酷かったね。前日私の元に楽譜を持って、「どう?」なんて聞いてきたときは何事かと思ったけど、まさか翌日のライブで歌うとは…徹夜した甲斐があったってもんだよ」

「その節につきましては誠に申し訳ないと…」

「話、続けるぞ?」


 あの曲について思わぬなエピソードを聞いてしまった。

 そうか、やっぱりあの歌は速攻で作ったのか。

 ってか、この妹もよくやるな…さすがというべきか姉バカというべきなのか…


「あの曲が今、ネットで祭りになってる。ああそんな顔すんな麗奈。いい方でだ」


 ホッとした顔。今一瞬ものすごい勢いで青ざめてたな。

 どうもまだ、彼女には自信が足りないらしい。


「それでだ、CDにしようと思う」

「「「おお…」」」


 感嘆の声を上げる三人の先輩。


「作詞作曲山橋麗奈っていうのは二回目だね」


 美月先輩が日本酒を煽りながらふと口にしたその言葉。


「二回目?一回目があったのか?」

「ああいや、その話はいいじゃないかお兄ちゃん」


 それに沸いた素朴な疑問は、妹によって一瞬で封殺されてしまった。

 ………何かあったのだろうか?


「そうそう、その発売日、ゴールデンウィークの最終日で行くからそのつもりで」


 ………


 え?なんて言った?


「はっはっはっはっは!社長さんさすがだね!売り時を逃さない!よっ、商売人!」

「はっはっはっは!香奈、そんなに褒めるなよ」

「いやいやいやいやちょっと待ってよ社長!!」


 そう叫んだのは、美月先輩だった。


「今から?もう二週間もないじゃないですか!」

「そうだな、まぁ、それについては頑張ってもらうしか…」

「プロモとかも全然間に合わないっすよ!」


 美月先輩も蓮見先輩も抗議している。

 俺にはよくわからないが、この様子だと二週間というのは結構短いものなのだろうな。


「ついでに、今回は渋谷にある大手CDショップ、パワーレコードとコラボして特別限定ジャケットに加え、山橋麗奈サイン会もやるぞ!」

「え?嘘、あたしそんなことしなきゃいけないの!?」


 おお、なんかアイドルっぽいな、サイン会。

 ってかなんだそのパクリ丸出しの大手CDショップは。


「今までサイン会も握手会もやらなかったんだ。ここでいっちょ、新生山橋レナって奴をお披露目しよう!」

「お姉ちゃん、わがまま言わない」

「………まぁ、サインくらいなら…」


 しかしどうやら、山橋は妹に弱い感じがあるな。

 今度手なずけ方でも習おうか。


「よ、予算が…ああ忙しい…ああああああ」

「総司さんしっかり!!」

「私たちの問題は何にも解決してないじゃない!」


 でも、例の三人はやっぱり不服そうだ。

 社員さんも何人かやめちゃったって言うし、頑張っていただきたいものだ。


「大丈夫だ。なんのために麗奈にオフを作らせ、美香をフリーにしたと思ってる?」

「え…?」


 俺の隣で、樋口が息を飲むのがわかった。お気の毒に。


「それに、なんのために新しいバイトを雇ったと思ってる」

「ん?」


 待て待て、俺はあくまで雑用………


「さて、今夜は…いや、今夜からは、寝かさないぜ!!」


 社長さんは高笑いしながら酒をあおる。


 ろ、労基法ェ…

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