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能力はオッサン召喚魔法!?

作者:


 私の名前は佐藤チカ。

 異世界に転移した、14才の女の子だ。


 色々あって今、モンスターに襲われている。


 目の前でスライムみたいなポニョポニョしたやつがポニョポニョしているのだ。



 異世界に来て初めての戦闘だけど慌てることはない。

 私は私の能力を十分に理解している。


「ハッ!」


 手を前に出して集中する。

 すると地面に魔方陣が浮かび上がった。



 輝く魔方陣、そして現れたるはオッサン。


 スーツを着て、シルクハットを被ったスラッとした感じのオッサンだ。

 ちょび髭も生えてる。まさに英国紳士って感じ。

 だから私は、こいつを紳士と呼んでいる。


 紳士は私に背を向けて召喚される。

 ちらっとこっちを振り向くと、流し目とフッと微笑を送ってきた。

 むかつく。


「行って! 紳士!」


 私の掛け声と共に紳士が走り出す。


 紳士とスライムが接近。


 次の瞬間、紳士は腹にスライムの体当たりをくらってくの字になりふごぉ! って感じで倒れた。

 紳士が光になって消える。



 そう、紳士は凄く弱い。

 今知った。


「い、い、いやああああああああ!!」


 死ぬ! 死ぬ!

 私の身体能力は普通の女の子だから死ぬ!


 やってられるか! 紳士弱すぎだろ!

 登場直後の余裕な感じはなんだったんだよ!



 全速力で走る。

 走る。走る。


 走りながら振り向くと、ナメクジみたいな動きで追ってくるスライムの姿が。


「いやあああああああああ!!」


 めっちゃはえええええ!


 こええええええ!!

 走り方他にないの!?


 必死になって走りながら召喚魔法を行使。

 無数の魔方陣から無数の紳士が現れる。

 召喚され、即吹っ飛ばされ光になっていく紳士達。


 障害物にもなんないよ!

 何の意味があんのよあいつら!



 そしてとうとう私は追い詰められてしまった。

 進む先には崖があり、広がる森が遠くまで見渡せてしまう。

 落ちたら死ぬ。


 ......やるしかない。


 涙がにじむ目を乱暴にぬぐってスライムを睨む。

 スライムも私を追い詰めたのを悟ったのかゆっくりと近づいてくる。

 くそう。何があんたをそこまで駆り立てるんだ。

 食うのか!? 私を食うのか!?


 私だって易々(やすやす)と食べられてはあげないんだからね!


「ハッ!」


 地面に魔方陣が輝く。

 紳士が現れると、流し目と微笑を送ってきた。

 てめぇ......。


「行け! 紳士!」


 走り出す紳士、身構えるスライム。

 何の変化もなく、紳士は体当たりをくらってふごぉ! となる。


 今だ!


「うおりゃああああああ!!」


 空中に浮かぶスライムとくの字になっている紳士。


 跳躍する。


 私はスライムを紳士もろとも全体重で踏みつけた。


 踏み潰されるスライム。

 地面に顔面を叩きつけている紳士。




 ごほぉ! って感じで紳士は海老ぞりになると、光になって消えた。

 その下のスライムはつぶれて死んでいた。


「うおっしゃああああああ!!」


 崖から広大な森に向かってガッツポーズ。


 私は勝った。


 スライムに、勝ったのだ。


 生きているって、素晴らしい。






 一年後。






 数々の冒険を乗り越え、私は成長した。

 今から最奥にドラゴンがいるという噂の洞窟に潜っていく。


 思えば遠くまで来たものだ。

 スライムに追い詰められていたあの頃が懐かしい。


 どんな試練でも乗り越えてみせよう。

 私は強くなったのだから。




 洞窟に入ると魔物がわいてくる。

 でも、そんなのは私の敵じゃない。

 召喚した紳士の足首をもって片っ端から叩きつけていく。


 紳士が光になってもすぐに呼び出せばいい。

 便利便利。


 永遠の紳士剣(エターナル・シンシセーバー)


 私の必殺技だ。



 ザコを一掃しながら進んで行くと、大きな部屋に出た。

 中央にはジャングルジムほどもある巨大なカエルがいる。

 恐らく中ボスだろう。

 その姿を見て私は油断なく紳士を構えた。


 まずは様子見だ。

 紳士を召喚して、特攻させる。


 走っていく紳士。カエルは大きく口を開けると、パクっと紳士を食べた。


 くっ、強い!



 まだだ! まだ私は諦めない!


 ひとつの魔方陣から次々に紳士を呼び出していく。

 紳士達は召喚されると必ず、流し目でフッと微笑んでくる。

 殴りたいけど今は我慢だ。


 それに紳士達は片っ端からカエルに食べられてるから問題ない。

 私は溜飲を下げた。



 呼び出される紳士達、食べ続けるカエル。


 そしてついに、カエルはお腹が大きくなりすぎて動けなくなった。


 これこそが私の狙い!



 私は成長した。

 呼び出せるのは紳士だけじゃないのだ!


「ハッ!」


 魔方陣が輝く。


 そして現れたのは、オッサンだ。


 身長2メートル、横幅は成人男性の約2倍。

 色黒で、ブーメランパンツを履いている。

 ムキムキだ。まさにボディビルダーって感じ。

 だから私は、こいつを筋肉と呼んでいる。



 ビルダーじゃないよ。


 ビルダーだと思ったそこのあなた。


 ......フッ(紳士)




 筋肉は私に背を向けて召喚される。

 振り向いてこっちに近づいてくると、超至近距離で筋肉を強調するポーズを見せつけてくる。

 ニカッと笑って白い歯が輝く。

 ......殺るぞ。


 ちなみに股間を蹴るとスキップできる。

 でもそうすると1分は動けなくなるから戦闘中はダメなのだ。


「行って! 筋肉!」


 筋肉が走っていくと、カエルが舌を叩き付けてきた。

 しかし、筋肉はその舌を受け止めて逆に押さえ付ける。

 筋肉強い!


 筋肉をもう1人召喚する。


 もう一人の筋肉は動けないカエルに走っていくと跳躍。

 ハアァ! って感じで頭にチョップした。

 ドン! って音が響いてグェってカエルが鳴いた。


 カエルは頭を大きくへこませて絶命した。

 私達の勝利だ。

 筋肉強い!



 カエルの死体から紳士達がわらわら出てきた。

 全員ハンカチで額を拭いている。

 みんないい笑顔だ。


 なんだお前ら。



 筋肉2人と紳士たくさんを連れて洞窟を進む。


 少しすると、大きな谷についた。


 相当深いようで、下を覗き込んでも真っ暗でなにも見えない。

 向こう側に渡れない、どうしよう。



 しばらく悩んでいるとオッサン達が動き出した。


 筋肉が膝立ちになって紳士を肩車する。

 そしてその紳士がまた紳士を肩車する。


 1人の筋肉を残して全てのオッサン達が肩車した。


 天辺が天井に当たりそうなほど高い。


 そこで私は理解した。

 こいつら橋を作ろうとしてるんだ。

 感動で涙が滲む。

 みんな私のために......。


 一番下の筋肉が徐々に倒れていく。


 ぐらーっとオッサン達の塔が倒れていく。


 そして、一番上の紳士が向こう側に届かず全員闇に落ちていった。




 ......おい。





 そのあと2度ほど失敗してオッサン達が闇に消えたあと、遠くに橋があるのを発見してそれを通って向こう側についた。




 そして目の前には巨大な扉がある。

 私は意を決して扉をゆっくり開いていった。



 その先にはドラゴンがいた。


 真っ赤なドラゴンだ。

 めっちゃ大きい。


 こんなやつに勝てるのか!?


 私はすぐに紳士を召喚して装備すると、身構えた。



 先手必勝だ。とにかく大量の紳士と筋肉を召喚する。


 するとオッサン達が私に近づいてきて微笑と筋肉を見せつけてきたので殴って一掃した。



 気を取り直してもう一度オッサン達を召喚。

 筋肉達を突っ込ませる。

 紳士達は好きにさせる。



 筋肉達はドラゴンに近づくと大勢で口を押さえつけ、尻尾にしがみつき自由を奪った。

 筋肉達凄い!


 すると、紳士達が私の横で何かをやってるのが目に入った。

 1人の紳士をその手と足を掴んで大勢の紳士達が持ち上げ、ブランコみたいに揺らしている。


 そして勢いがつくと、思いっきりドラゴンに向かって投げつけた。

 飛んでいった紳士は華麗に回転しながらドラゴンの真上までたどり着く。


 同時にドラゴンが筋肉達を吹き飛ばし、拘束から逃れた。

 飛んでくる紳士を見つけると、大きく口を開いて待ち受ける。

 紳士の顔が驚愕に染まる。

 そして、何事もなくドラゴンの腹へと消えていった。


 なんだこれ......。何がしたかった......。

 そもそも飛んで行ってお前に何ができた。


 残りの紳士達を見ると、全員私を見ていた。

 真顔だ。


 なんだよ。

 何を求めているんだよ。

 どうしろってんだよ。


「全員、突撃」


 とりあえず突っ込ませる。


 ドラゴンはまた口を開くと炎で紳士達を焼き払う。


 うん......すっきり。



 しかし振り出しに戻ってしまった。


 もう一度オッサン達を召喚。


 筋肉達を突っ込ませる。

 紳士達は好きにさせる。



 筋肉達はまたドラゴンを拘束しようとするも、ドラゴンの方も警戒してなかなかうまくいかないようだ。


 しばらく、ドラゴンVS筋肉軍団の構図が続く。



 しかし、やつらもやはり黙っていなかった。


 筋肉達がドラゴンと戦うなか、紳士達は横で組体操をしていた。

 意味が分からない?

 うん、私も。


 紳士達は力を合わせて大きな城を作り上げた。



「おおっ......」


 思わず感嘆の声が出てしまった。

 今まで私が見てきたどの組体操の作品よりも大きくて高い。


 ドラゴンはそれを見つけると、尻尾を一振り。


 パッコーンて城が崩れて紳士達は光になって消えた。



 ドラゴンと目があった。

 ドラゴンが口を開く。


 まずい!



 ドラゴンの口から炎が放射され私を襲う。



 私は情けないけど体が固まって動けなかった。


「きゃあーーー!!」


 目をつぶって縮こまる。


 でもいくら待っても熱さが来なかった。


 恐る恐る目を開く。


 そして私は驚愕で目を見開いた。


 そこには腕を広げ、背中で炎を受けて私を守る紳士の姿があった。


「し、紳士!!」


 紳士は辛そうにしつつも、私にフッと微笑みかけると私の方に倒れてくる。


 とっさに受け止めようとして、けれど彼は私が触れる前に光になって消えてしまった。

 私は実体の無い光を抱き締める。

 涙が頬を伝った。


「ありがとう......」



 涙を流しながらドラゴンと対峙する。


 消えていったオッサン達のためにも私はここで負けられない!



 こんなところで負けるわけにはいかないんだ!



 感情が爆発し、体の中で何か得体の知れない力が生まれたのを感じた。


 それは、そう。

 筋肉達を召喚出来るようになったときと同じ感覚。


 私は確信をもって手を前に掲げる。


「ハッ!!」


 大きな魔方陣が浮かび上がる。


 そして一際目映く輝くと、それは現れた。



 身長3メートル、横幅は成人男性の約3倍。

 シルクハットを被って、スーツを着ている。

 ちょび髭も生えてる。

 その姿はまさに、筋肉紳士。


 圧倒的迫力を持つ巨漢だった。


 筋肉紳士はちらっとこっちを振り向くと、サムズアップしてニカッと歯を輝かせた。


 私は筋肉紳士に頷きかける。


「行きなさい! 筋肉紳士!」


 ドラゴンを指差して声を張り上げた。



 筋肉紳士はダッシュする。

 私の方へ。



 なんだなんだと、反応出来ないでいると筋肉紳士は流れるような動作で私の膝と背中に腕を回し持ち上げた。

 わあ、……お姫様だっこだ。


 そしてドラゴンへ向かって走り出す。


「あ、あんた......」


 たくましすぎる筋肉の腕の中で揺られながら私は気づいてしまった。



 えっ、移動用……?



 呆然と顔を見上げれば、筋肉紳士も私を見ていた。

 ニカッと笑う。



「いやあああああああああ!!」



 死ぬ死ぬ死ぬ!!


 向かっていく私たちにドラゴンは口を大きく開いて炎を吐こうとしていた。


 そこへ突っ込んでいく筋肉紳士。


 咄嗟だった。多分一年間で培った生存本能や反射神経の賜物だろう。


 ドラゴンの口が目前まで迫った瞬間。私は筋肉紳士の顎に膝蹴りを食らわせながら腕から脱し、ドラゴンの鼻の上へと跳んだ。


 スローモーションで景色は流れる。筋肉紳士が驚愕の表情で私を見ている。

 そしてそのまま、ドラゴンの口へ飛び込んでいった。


 筋肉紳士は尻だけ出してドラゴンの口にはまる。

 ドラゴンが目を見開くも火炎放射は止まらない。


 筋肉紳士が栓となって口から出なかった炎がドラゴンの体内で暴走。

 ドラゴンの腹が一気に膨れ上がると耳と鼻から炎が吹き出た。


 鼻からの火は私の尻を直撃。


「あっつぅあ! つぁっつぁっつぁっ!」


 地面をゴロゴロ転がってなんとか尻の火を消火した。


 地面に這いつくばりながらも視線を上げれば、


 白目を剥いて、ドラゴンがぐったりしている。

 すでに息はなかった。

 ......ドラゴンは絶命していた。




 どうやら......私達はドラゴンに勝った。

 私達はドラゴンスレイヤーだ。

 筋肉紳士の尻がぴくぴくしていた。





 それを眺めているとぐぅっとお腹がなった。

 戦いが終わって緊張もほぐれたのだろう。

 お腹すいた......。



 横に残った紳士がいる。


 紳士は良い笑顔で口を開くと


「お腹、空きましたね」



 .....。


 ............。


 ..................。






「しゃ、しゃべったあああああああ~~~~~~~~!?」










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― 新着の感想 ―
[一言] 最初から最後まで、笑わせていただきました。 只管おっさんを召喚しつつ、ドラゴンにまで勝手しまうなんて。 カエルの腹の中からなら生還できる紳士がかっこよかったです。 ありがとうございました。
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