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八話「十一月」

 十一月。

 すっかり肌寒くなり、秋から冬へと変化する季節である。


「おいっ! ちょっといいか!?」

「朝からどうしたんだ?」


 クライム学園の一年生田中太朗は同じクラスのアンラ・マンユに言い寄っていた。

 太朗は今日誰よりも早く登校し、入り口で腕を組み、足を肩幅まで開き堂々と教室の入り口で立っていた。そして続々とクラスメイトが登校する中一切反応せずアンラが来るのを待っていた。

 クラスメイトは「また何か変なことやるのか」と少し変な顔をしただけで明らかに邪魔になっている太朗に触れてはいない。


「瀕死の勇者を俺に殺させてくれないか?」

「それは俺様が勇者を半殺しにしてトドメを太朗がするって事か?」

「そうだ!」


 太朗はジャスティス学園で行われた文化祭の帰りに思いついたのだ。

 身動きすら取れない程に弱った勇者なら自分でも殺せると。

 その時は邪魔が入らないように他の魔王にボディーガードでもしてもらえばより完璧だろう。


「おっはよーう! 太朗君それは出来ないんだよー」

「うぉっ! おい、毎度毎度引っ付くのやめてくんない? ちょっとした力の調整ミスで死ぬんだよ俺は」

「まぁまぁいいじゃないの」

「ったく……。ところで出来ないってのはどういう事だ?」


 どこから現れたのかドゥルジが太朗の背中に覆いかぶさる。

 今までに三回程この背中アタックで殺されている太朗は嫌そうな顔をしているが、力で勝てないので抵抗はしない。

 それよりも自分の完璧な作戦がなぜ出来ないのかが気になった。


「トドメだけしてもカウントされないんだよ。与えたダメージの大きい魔王だけがカウントされる仕組みになってるんだ」

「なら拘束だけしてもらって殺せばいいのか?」

「うーん。それならいけるかもしれないけど、普段一人で戦う皆がそんな事に協力するかなぁ」

「うぐ……」

「ましてや相手は複数いるんだよね? 拘束するって言ってもせいぜい一人が限界だよ? 太朗君のやり方だと補助系統の魔法に長けた魔王が四人は必要だね」


 太朗はガックリと肩を落とし落ち込む。


「くそっ! 天啓が降りてきたと思ったのに!」

「太朗、俺様達は魔王だぞ? 神が俺様達を助ける訳がなかろう」

「俺は神に騙されたのか! 許さんぞぉぉぉぉおお!」

「それはちょっと違うと思うなぁ」


 アンラは呆れ、ドゥルジは苦笑いをする。


「なら、俺はどうすればいいんだ!? 留年待ったなしなんだけど!」


 太朗は二人に問いかけるが、アンラとドゥルジは同時にサッと顔を逸らす。


「友情なんてこんなもんか……」


 少し切ない気持ちになりながら太朗は呟く。

 そこへ声を掛ける新たな人物がやってきた。


「朝っぱらから何をやっておるんじゃ?」

「タローマティか。おはよう」

「マティちゃんおっはよー」

「……よぅ」


 普通に返事をしたのはアンラとドゥルジ、そして明らかに元気のない返事をしたのは太朗であった。

 首をかしげながらタローマティは何を話していたのかを聞いた。


「なるほどのぅ」


 一通り聞いたタローマティは目を瞑りうんうんと頷く。

 そしてカッと目を開き太朗に指をさし自身たっぷりにこう言った。


「最近のお主にはガッツが足りんのじゃ!」

「ガッツ?」

「そうじゃ! 以前は当たって砕けたり変装したりと色々あぐれっしぶじゃった! しかし最近のお主はこそこそとのんあぐれっしぶじゃ!」

「ノンアグレッシブて……それ言うならパッシブとかディフェンシブじゃねーのか?」

「細かい事をぐちぐち言うでない!」

「それに変装もこそこそしてないか?」

「細かい事をぐちぐち言うでない!」


 突っ込みながらも太朗はタローマティの言う通りかもしれないと思う。

 最近はいかに不意打ちするかに重点を置き、失敗すればより効果的な不意打ちをするにはどうすればいいかを考えていた。


「考えてみるとタローマティの言う事も一理あるな」

「そうじゃろう?」


 ふふんと偉そうに胸を張るタローマティ。太朗に褒められた嬉しさを隠そうとしているが全く隠せておらず表情は緩んでいる。

 そして残念ながら小さな彼女には貫禄という物が存在せず、偉そうなポーズは子供が背伸びしているようにしか見えない。


「よっしゃあ! 久々にダメ元でやってみるぜ!」

「おぉ、その意気じゃ」


 張り切った太朗はその日の体育の授業で四回死んだ。



------



 帰り道。

 太朗は最近勇者達に人気があるという武器屋の近くに来ていた。


(ここで待っていれば勇者が必ず現れるはずだ!)


 鋭い目付きで前を向く。

 店の前で仁王立ちをしているのが通行人の目に映りまくっているが太朗が気にしている様子はない。

 店の自動ドアが閉まりかけては開き、閉まりかけては開きを繰り返しているが太朗が気にしている様子はない。


「ねぇ、店の前に立たれてると迷惑なんだけど」


 太朗は気にしないが店の人間は当然大層気にしていたらしく、太朗に文句をつけにやってきた。


「ってアンタ魔王? 何で魔王がウチの店に来るわけ?」

「勇者を待っているんだよ。今日こそ奴らを殺すんだ」

「そう。というか邪魔なんだけど」

「もう少し待ってくれ。もうすぐ……あっ来た来た」


 太朗は店の店員を置いて走り出し、ジャスティス学園の制服を着ている者達へと一直線に向かう。

 勇者は近づいてくる太朗に気付き驚きつつも素早く陣形を整えた。


「まっ、魔王!」

「我は魔王田中太朗! 勇者共よここで朽ち果てろぉぉぉおお!」


 先頭に居た勇者が剣に手を掛ける。太朗もポケットの中からナイフを取り出す。

 太朗は走りながら飛び上がりナイフを思い切り振りかざす。

 対する勇者は腰にぶら下げた剣に手を掛けたまま待ちの姿勢を貫いている。


 勇者の眼がカッと開き剣を抜きそのまま右へと薙ぐ。

 二つの刃が交差せず――。


 太朗の頭半分が綺麗になくなった。



------



「いやぁ、ダメだったわ」

「どうでもいいけど何でウチに戻ってくるのよ……」


 太朗は蘇った後再び武器屋の前に立っていた。

 店員は太朗の戦いを見ていた為未だに外に出ている。


「何か武器買うわ」

「えぇ……まぁいいけど。何が欲しいの?」

「勇者を一撃で殺せる武器」


 二人はそんな会話をしながら店の中へと入っていく。

 そこまで広くない店だが、武器の種類は豊富でカタログもあり取り寄せサービスまである。


「勇者を一撃で殺すとなるとやっぱり銃ね」

「あるのかよ」

「ウチは客を満足させる為に全力を尽くすのよ」


 店員はそこには勇者も魔王もないと付け加える。 

 太朗にとってそれは有難く、店員に勧められるままに銃を買う事となった。


「まいどありー」

「あぁ、しかしここは気に入った。また来るとしよう」

「はいはい、お待ちしてます」


 買い物をして満足感が満たされた太朗が爽やかな顔をして店を後にする。

 そのまま足を向けるのはとあるビル。


「ちっ、立て付けわりーな」


 中に入って屋上へ進もうとした太朗が一人愚痴を吐く。

 このビルはもう何年も空っぽのまま撤去されずに残っているのだ。

 しばらくガチャガチャとドアノブを回すと錆びた音と共にドアが開く。


「お、開いた」


 そのまま外に出て下の景色を観察する太朗。

 最初に真下、次に少し前方に目を向ける。

 そのまま段々と遠くを見てある地点をじっと見つめ、頷く。


「あそこだな」


 長方形の箱から武器を取り出して地面にセットする。

 太朗自身も伏せるように寝そべる。


「流石店員イチオシのハイテク銃だな」


 スコープを覗いた太朗が感心したように声を出した。

 立ち止まってる一人の男に対し、自動的に緑の照準が動く。

 その間は「Wait……」と文字まで表示されている。


 緑の枠が動くと同時に銃自体も調整されていく。


「今だっ!」


 照準が赤に変わり「Fire!」と文字が出た瞬間太朗は引き金を引いた。消音器を付けていた為乾いた音が小さく鳴る。

 男が急に倒れた事で同じ服を着ている人間が駆け寄ったが既に遅い。

 その男は死んでいた。


「っしゃ! っしゃ!」


 興奮からかガッツポーズを何度もする太朗。

 念の為もう一度スコープを覗いて確認すると、「Good!」と表示されていた。


「当たり判定までやってくれんのかよ……」


 呆れつつも男の死亡を確認した太朗はハッと頭をあげる。

 そして慌しい手つきで学生服のなかを探る。


「お……おぉぉ……」


 その声は感極まったとばかりに震えていた。

 殺戮カウントが「1」となっていたのだ。

 太朗が殺したのはどうやら戦士だったようで、戦士欄にも「1」と表示されていた。


「ふふふ……ふははははは! さぁ、恐怖に顔を歪ませ……」


 太朗は気付く。

 不意打ちすぎて誰も自分の恐ろしさを感じ取れないではないかと。

 しかしそこはいつもの太朗。


 「まぁいいか」と考えを中断すると死んだ男に群がっていた残りの勇者共も殺した。


「これからは魔王チュートリアルなんて呼ばせないぜ」


 割と根に持つ太朗は勇者にこれまでの復讐を誓い家へと向かって歩き始めた。

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