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大聖堂へ

応援してくださっている方、ありがとうございます。

一か月の間待たせてしまってすみません。今後も頑張ります。

●玉座の間


 衛兵に連れられて豪奢な門をくぐる。

 門を抜けると石畳が張り巡らされていて、右の高く聳える塔や左のこぢんまりとした建物を横目に真っ直ぐ進む。

 目的地は玉座の間だそうだ。

 緊張してきた。先生に呼び出されて職員室に向かうときのげんなり感に似ていなくもない。

 重苦しい音を響かせて扉が開くと、俺は唾を飲み込んだ。

 他のパーティーメンバーは気にしていないのか、緊張しているのは俺だけだ。

 ラフラに至っては欠伸をしている。

 何でだよ。

 これから一国の王に会うっていうのに。

 俺の感覚がおかしいのだろうか。

 石造りの城内を真っ直ぐ突き抜けていくと大きな階段があり、赤い絨毯が敷かれている。

 二階に登る。

 大きな紋章の意匠が施された扉を、傍にいた衛兵二人がきびきびとした動作で開ける。

 視界が開けた。

 絨毯の先に待ちかまえていたのは金の冠を被った人物。おそらく彼が王様なんだろう。

 玉座の近くには紫のローブを着込んだ魔法使いのように見える初老の男性が一人。王から少し離れた所には深紅の甲冑に身を包んだ戦士が一人石像のように佇んでいる。

 そして緑の甲冑を身に付けた兵士がずらっと立ち並び、王への進路を作っていた。

 初老の男性の方が俺達の姿を見つけると、王にぼそぼそと話しかける。

 王が紅の兵士に手で合図をする。

「入れ」

 紅の兵士の声に俺のパーティーが入室する。

「止まれ。陛下の御前である」

 止められた位置は王から5メートル程手前の位置だ。

 そして王の手前にいる兵士二人が槍を斜めに交差させた。

「そなたが錬金のシュン。間違いないな?」

 王は入室しても敬礼すらしない俺達を咎めもせず、ただ質問した。

「はい」

「余の名はガルガン14世。本来の名はもっと長いんだが、これで通している。許せ」

 流石王様。何処となく偉そうだ。

「それで俺達が呼ばれた用件は」

「無礼であるぞ」

 戦士の一人が口を開いたが、それを王は右手で制した。

「よい。こちらがお願いする立場なのだ。そなたには頼みがある」

 俺を碧い目でじっと見ながら王が言った。

 俺が信頼に値するか、観察されているのだ。

 王者の風格というのか、威圧されているわけでもないのに額から汗が流れる。

 リリアや鶫が不安そうな視線を送っている。

 その空気に耐えられず口を開いた。

「聞こうか」

 雰囲気に飲まれたのかやや声が上擦った。

 王は破顔して頬杖をつく。

「そんなに堅くならずともよい。余の願いは単純だ。姫の呪いを解いてはくれぬか」

 呪い。

 リリアのラックイーターみたいなものか。

 それだったら分離のスキルで何とか出来るはずだが、しかし分離のスキルは秘密にしている。

「何で俺なら呪いが解けると思ったんだ」

 王はふう、と溜息を吐いた。

「ふむ。そなたが錬金術師だからだ」

「錬金術師だからなんなんだ」

 王は黙って俺の顔を見つめると、合点がいったように呟いた。

「認識に齟齬があるようだ、説明しよう。そなたは若いから知らないかもしれないが、錬金術師の秘奥は三つある。分離、融合、変換だ。このスキルに聞き覚えはあるだろう。そなたはそのうちの一つ融合の使い手として名を売っていると聞いておる」

 融合ってそんなにすごいスキルだったのか。合成の上位スキルだから簡単に手に入るスキルではないと思ってはいたが。

「奥義の中で一番難易度が低いのが融合だ。我が国ではおよそ十人の錬金術師が融合持ちだと確認されている」

 もっとメジャーな能力だと思っていたが。

 融合があるだけで飯が食えるとギルドのはげ頭が言っていことに納得する。

「分離のスキルは奥義のうち、難易度が真ん中のスキルだと書物に残されている。しかし我が国で分離のスキルを保有する錬金術師は、いない。隣国にもいないようだ」

 まあ分離のスキルが巷に溢れていたらスキル石はもっと入手しやすいはずだ。

 便利な分離のスキルを持っているというのは途方もないアドバンテージを得ているということになる。

「最後が変換のスキルだ。読んで字のごとく錫や銅をたちまち金や銀に変えてしまう錬金術の最奥。錬金術師の始祖が使ったと聞くが、この一千年の間どの国でもこのスキルが確認された記録はないと聞く」

 変換のスキルか。覚えておこう。 

「さて、話は戻って分離だ。ダルカ、詳しい話を説明してくれ」

 横に控えていた魔法使いのおっさんが頷く。この人がダルカというのか。

「まず現状をお話しましょうか。我が国の第五王女リンデーラ殿下はライフイーターという珍しい呪いを受けています」

 リリアのラックイーターみたいなものか。しかしライフイーターとは。

「この呪いを掛けられたものは生命が蝕まれやがて死にいたります。王女が大霊堂の死者より呪いを受けて今日で三日目。後四日もすれば王女は死にます」

「確実に死ぬのか」

「死にます」

 ダルカが断言した。ギリッと奥歯を噛み締める音がした。深紅の甲冑を身に付けた男が歯ぎしりをしたようだ。

「呪いを解こうと既に大司祭など高位の破呪の力を持った神官等に解呪をお願いしたのですが、呪いの方が強いらしく既に大司祭にも呪いの感染が起こってしまい手がつけられないのです」

 大司祭でも解けないような呪いを一介の冒険者に任せようとするなよ。しかも呪いの感染ってなんだ。リスクが高過ぎだ。

 しかし、考えようによってはこれはチャンスかもしれない。

 分離で駄目なら祝福の口づけという第二の手段もあるし。

 リリアの時は削運のスキルを付与する呪石が手に入った。

 ライフイーターを分離すれば、何か有用な呪石が手に入るかもしれない。

 感染というのが引っかかるが、まあ物は試しだ。やってみてもいい。

「そんな時、呪いを持つ森の民の奴隷が買われたという話を人づてに聞いてな。もしや、と思ったのだ。破呪の魔法が効かぬとなったら、他に打つ手はないのだ。どうだ。そなたは分離のスキルを持っているのか? もし持っているというのなら、余の為に一度でいい。使ってはくれぬか」

 王が頭を下げる。

「呪いの感染ってどういうことか説明してくれ」

「呪いは一級から五級までの種類があって、一級から二級までは他者に感染するのだよ」

 リリアの呪いは三級から五級までの間、王女の呪いは一級か二級ということか。

 呪いが強ければ、得られる呪石も貴重なはずだ。

 成功する自信があるから別に受けても俺が分離のスキルを持っていることがバレるだけだし、デメリットはあんまりないはずだ。

「わかった。その依頼を受ける。代わりにこっちも対価を要求するけど」

「構わぬ。他ならぬ娘の命だ。財宝でも領土でもなんでも授けよう」

 財宝でも領土でもいいのかよ。迷うな。そろそろ本拠地が欲しいと思っていたところだ。俺が好き勝手出来る土地は欲しい。

「じゃあ、領土をくれ。それで契約成立ということで。それから俺が分離のスキルを持っているという事はこの場にいる者だけの秘密だ。決して口外しないと守れるのなら」

「おお! 受けてくれるか! オレイル、すぐにリンデーラの部屋に錬金術師殿をお連れするのだ! 錬金術師殿の仲間はすまぬがこの場に残って欲しい。王女の部屋は手狭なのでな」

 受けた途端呼び方が変化した。別にシュンでいいんだけど。

「はっ! 陛下の御心のままに」

 甲冑に身を包んだ男性はオレイルというらしい。

 聖剣技というかっこいいスキルを持っているようだ。破魔の剣とかかっこいい。後で複製させてもらおう。

 でも今は王女の方が優先だ。

 パーティーメンバーを連れて王女の部屋へと向かう。

 部屋の前で待ち構えている兵士がオレイルの姿を確認して敬礼する。

「ここだ。王女殿下は呪いで臥せっている。冒険者の入室を許可できるのはお前が最初で最後だ」

「俺にはシュン、っていう名があるんだが」

「ふん」

 オレイルは鼻を鳴らすと王女の部屋をノックした。

 返事がない。

 オレイルは構わず入室した。

 横には神官風の男性達が必死になって祈りを捧げていた。手狭と言っていた理由はこれか。検査をしてみたが、目ぼしいスキルはないな。

「王女殿下。呪いが祓える可能性のあるものを見つけました。可能性は低いでしょうが」

 なんか言い方に刺があるな。

 王女はベッドの上でスースーと寝息を立てている。

 検査をしてステータス画面を覗かせて貰う。

 ライフイーター。

 確かに王女は呪いを持っているようだ。生命8。

 うわ、とか言ってしまいそうな数字だ。いや、俺がこの世界に来た時並みではあるが。

 特殊なスキルや魔法がないか確認する。

 霊視、霊聴のスキルがある。さっき無理をして取らなくてもよかったな。

 それに祓い、霊体攻撃、浄化、などのスキルや、光の槍、光の嵐、光雷、光の刃等の魔法がある。退魔結界とかかっこいい。ラフラとは真逆の性質だ。

 職業は退魔師と王女。二つ職業があるようだ。兼業王女ということか。

 ラフラには王女の職業がなかったのに。

 可哀そうなラフラ。

「どうだ。なんとかなりそうか?」

 オレイルが不安そうに聞いてきた。王女を治せるのは現状少なくとも俺だけなんだから、もっと丁重に扱え。

「ああ、なんとかする」

 失礼するよ、と断ってから王女の頭に手を乗せる。

 金髪でさらさらした髪だ。手入れが行き届いてさらさらとした触り心地である。

 横から切り殺されそうな殺気と突き刺さりそうな視線が伝わってくるが、これは不可抗力だ。

 触れないと分離出来ない。

 分離、と念じると掌に黒く大きな石が分離されている。

 検査してみると、削命の呪石と出る。どうやら成功したようだ。呪石は格納のスキルで箱の中に放り込んだ。

「出来た。次は……」

「まさか、成功したのか! すごいな君は!」

 いつの間にか君に呼び方が変わっていた。

「ああ。問題は全くない。次は……」

「次は陛下に報告だな! わかった! 案内は任せておけ!」

 そう胸を張ってオレイルは答えた。変わり身の早い奴め。本当は大司祭の所へ行って二つ目の呪石をゲットしてこようと思ったのだが。

「任せるよ」

 あっさりと呪いを解かれては神官たちも面白くないだろうが、出来るものは仕方ない。急な展開についていけない神官たちを尻目に、玉座の間へと戻った。

「早いな」

「もう終わったのか。もしかして、失敗したのか?」

 戻るなり王とダルカが同時に聞いてきた。

「いや、成功だ。娘の顔を見に行ってやるといい」

 王はその言葉を聞くなりオレイルを従えて玉座の間を出て行った。

 早足で行くあたり、王も人の親ということか。

 それをダルカは見送って顎の髭を擦った。

「ふむ。これほどすんなりと終わってしまうとは。錬金のシュン殿、噂に違わぬ腕のようです。王家付きの錬金術師として雇用したいくらいです。国内最高を名乗るといいでしょう。それが違わぬことを王家が保証します。王から追って謝礼の話がありますので、ひとまず客間を女中に用意させました。ゆるりと旅の疲れを癒してください」

「ああ。それからついでに大司祭の呪いも分離しておく。案内してくれ」

「なんと! 大司祭の呪いまで解くと申しますか?」

「解かなくていいのか?」

「いや、こちらからお願いしたいくらいです。では早速大司祭を運ばせましょう。とりあえず客間で休んで下さい」

 そんなに俺を客間で休ませたいのか。そこまで言うなら客間で待つか。

 やることがないのでダルカに対して検査。

 職業は賢者。魔法も知らないものが沢山ある。とりあえずここではキスが出来ないので二つくらい貰っておこう。

 ステータスの知力511も惜しいが、ここは魔術結界と追尾のスキルを貰っておこう。


 兵士に連れられて客間に案内される。

 俺の部屋はリリアとラフラが一緒の部屋で、鶫と悠香とノジュは隣の部屋だ。

「ご主人さま、どうなさいますか?」

 リリアが話しかけてきた。この城に居る間はどうも身の回りの世話は女中さん達がしてくれるらしい。

 何もすることがなくて困っているようだ。

「どうするも何も。俺はこの部屋でごろごろするつもりだけど。リリアはどうする?」

「えっと。私はご主人さまの行くところに行きます」

 甲斐甲斐しい奴め。

 耳を撫でてやろう。

 そっと触ってみると、ひゃん!とかいってリリアが逃げてしまった。耳は駄目なようだ。

 手招きすると部屋の隅っこにいたリリアがおずおずと寄ってきた。

 また耳をさわさわした。ひゃん!とかいってリリアが逃げてしまった。耳は本当に駄目なようだ。

 ベッドの中で触っても逃げたりしない癖に。

「ご主人さま! 耳は駄目です!」

 抗議された。駄目か。分かった。

 手招きした。

 今度は耳を撫でずにキスにしておいた。

 吸魔の口づけでMPが回復したのでリリアにも魔術結界と追尾のスキルをつけておいた。霊視と霊聴もコピー出来た。

 ラフラは訓練場で兵士と稽古してくると言っていたし、しばらくリリアとベッドの上でいちゃいちゃしてもいいだろう。

 そう思って膝枕をしてもらった。

 リリアに髪を撫でてもらっている間、スキルを確認する。

 リリアのスキルと俺のスキルではあまり違いはない。抹消、分離、複製、融合、探査、検査、精密検査、転移、蘇生といくつかの魔眼以外は全てコピーした。

 それだけ俺はリリアを信用しているということだろう。

 逆にラフラにはあまりスキルを与えていない。仲間に加える方法に問題がなかったといえば嘘になる。

 正直寝首を掻かれてもおかしくないレベルの蛮行に及んだ自覚はある。

 だが、未だにそういった兆候はない。

 よくわからない。

 暇なので千里眼を使った。ラフラと悠香は兵士を片っ端から木刀で返り討ちにしている。生き生きとしているな。

 ノジュはダルカと何か話しているようだ。

 鶫は部屋で寝ている。鶫もあんまり人と話をするの好きじゃないものな。

 俺もリリアと寝ることにしよう。

 そのうち大神官の許まで連れて行ってくれる使いがやってくるはずだ。

 ベッドに入って目を閉じるとすぐに睡魔がやってくる。

 最近目まぐるしかったからな。これくらいの休息はあっていいはずだ。

 


● 旧大聖堂へ



 そのまま夕暮れまで眠った。リリア枕は最高の一言に尽きる。他の情報は余分である。

 ドアをノックする音とダルカの声で目が覚めた。よ、とノジュがダルカの後ろから手をひらひらと振った。

「シュン殿。旧大聖堂までお越しいただけますか?」

 随分時間が掛かった気がするが、そこは気にしないでおこう。

 ダルカの案内によって赤く染まった城内を歩く。長い階段を下りて城を出る。

 古び、朽ち果てかけた教会風の建物。これが大聖堂というものなんだろうか。

「さて。シュン殿。ここで一つ問題がありまして」

「問題とは?」

「ライフイーターの呪いが感染した後、どうやら大司祭は旧大聖堂に入ってしまったようなのです。私とノジュで道を拓くのでシュン殿もお越し願えればと」

 そういってダルカはかつては荘厳であっただろう旧大聖堂を見上げた。もしかして俺もここに入れってこと? こんなところに無害な錬金術師を連れてくるなよ。いや、俺の職業は狩人だったか。忘れてた。

「兵士に大司祭を捜索させた所、どうも幽鬼のような足取りでここに入っていく大司祭を見かけたとの情報がありました」

 ダルカは申し訳なさそうな顔をして、頭を下げた。

「すみませぬ。旧大聖堂には忌まわしき霊共が巣食っているのです。今回リンデーラ殿下がかの呪いを受けたのもこの呪いの地を浄化しようと決断してのこと」

「なるほど。でも何で呪いの地が城の近くにあるんだ」

「そもそも初代様がここに城を立てた理由はクレオドという魔王の魂を封印する為なのです。その封印の効力も弱まり、この大聖堂を破棄する結果となりましたが」

 またかよ。魔王とか邪竜とかそんなのばっかだな。

 なんでそんな住みにくい土地を開拓しようとしたんだ。

 いや、危険だから手つかずだったってことか。

 ダルカがギィ、と旧大聖堂の扉を押した。

 俺の後ろにはリリアとノジュしかいない。賢者、狩人、魔法使い。後衛ばっかだな。

 ダルカが光源の魔法を唱える。俺やリリアは暗視があるからいらないんだが。しょうがない。

「つまり俺達は大司祭の救助と旧大聖堂の浄化、二つやんなくちゃいけないわけか」

 旧大聖堂を進むダルカが答える。

「いや、あくまでも大司祭の救出です。しかしいざとなれば殺しても構いません。封印された魂を解放させるわけにはいかないのです。旧大聖堂は魔王城の地下部分の上に建てられました。したがって地下は迷宮となっています。聖剣士オレイルが破邪に長けた神官五人を連れて先行していますので、かなり霊も駆除されていると思うのですが」

 それって死亡フラグにしか聞こえないんだが。ところどころ剥がれた壁を見る。なんでこんなに荒れてるの。

「旧大聖堂には魔王の魂が城の地下部分ごと封印されています。その強力なエネルギーによって死者が蘇り、一種の魔窟と化しています。旧大聖堂の外には退魔結界を張ってあるので魔物が外に出ることはありませんが、お気をつけて」

 ダルカが【光の矢】を唱えた。矢に貫かれて歪みが消える。

 探査には何も引っかからない。もしや、と思って霊視、霊聴を装備する。

「この百年の間に王家も何度もこの旧大聖堂を浄化しようと試みたのです。しかし何度挑んでも駄目でした。諦めかけていたのです。リンデーラ殿下が希有な才能を身につけてお生まれになるまでは」

 霊視を付けた途端、背筋が寒くなった。

 何十という霊、霊、霊。探査を起動してみると、いくつもの敵影が確認できる。

 それら全てが敵なのだ。

「ひどいな」

 霊視を持っているリリアにも促す。リリアの息を呑む音が聞こえた。

「見えないー。私だけ仲間外れかよー、私も私もー」

 ノジュがいじけそうだ。ノジュにも霊視、霊聴をコピーした。

「スキル欄良く見ろよ」

「お。霊視がある。ラッキー」

「ノジュ、お前はまだ霊視を身につけていないのか」

 ダルカが呆れた。

「そんなこと言われても霊視はムズいです」

 ノジュは膨れた。

 ダルカの前で他人にスキルをコピーするのはあまりよろしくないような気がする。そもそもダルカはなんでノジュを連れてきたんだ。

 今のやりとりで俺に複製のスキルがあることがばれないといいのだが。

「お、見える見える」

 ノジュは霊視を装備したらしく、【炎の矢】を放って霊体を攻撃した。

 リリアも【氷の矢】で霊体を攻撃する。

 俺は抹消を使うことにした。

 奥に見るからに強そうな霊が二体控えている。雑魚はともかく、それだけは俺が処理しておこう。

 抹消で大物を二体消滅させる。念じるだけの簡単なお仕事です。

「そんな、デスクリムゾンが消し飛んだ……! 一体何が」

 ダルカが慌てる。デスクリムゾンという敵だったのか。名前確認してないけど確かに赤い霊だったな。

「デスクリムゾンがいなくなったのは僥倖です。奴は即死攻撃、呪い、魅了、毒と状態異常攻撃のオンパレードですから、優先すべき駆除対象です」

 城の近くにそんなのを飼っておくなよ。

「なんでそんな危険な霊を放置しておいたんだ」

 俺は何もすることがないので三人が魔法で霊を駆逐していくのを眺めながらダルカに聞いた。

 激戦の合間にリリアの唇を奪う。リリアのHPは奪わないように吸生の口づけは外しておく。吸魔の口づけは本当に便利だ。

 ダルカの知力511をリリアとノジュにコピー。楽させてもらって悪いね。

 俺はMP0だから魔法は使えない。その代わりに魔眼で戦闘に参加出来なくもないが、緊急事態に対処できる余力を残して置かなくてはいけない。

 サボっているわけではなく、見守っているのである。

 サボりではない。

「旧大聖堂からは霊が出ることができません。建物が一種の結界の役割を果たしているのです。かわりに、何十年も恨みを募らせた霊が時に進化をすることがあります。その形態の一つがデスクリムゾンです。他にもシャドウナイト、ミストマジシャンに進化することがあります。そろそろ決めますか」

 そういって敵を光の魔法で撃破していくダルカ。

「しばし場を持たせてください」

 敵の波状攻撃が尽きたのを見計らってダルカが集中し始めた。

 リリアとノジュの二人が魔法を紡ぐ。俺はダルカが抜けた部分を埋める為に火炎の魔眼で霊を燃やした。

 耳障りな断末魔がうざい。霊聴は外してもいいかな。

 三体くらい仕留めると、ダルカが魔法を唱える。

「【光雷の波】!」

 大技らしい。一気に霊が激減した。賢者半端ない。

 どうやら霊は基本的に光の魔法に弱いようだ。ダルカの光の矢をリリアとノジュにコピーして、二人に光魔法で攻撃するように指示を出す。

 アンデッド系が光属性に弱いっていうのは定番だな。次に弱いのは炎と相場が決まっている。

 ノジュやリリアがそれぞれ【光の矢】を唱え始める。リリアは格納のスキルを使って杖を出した。樫の杖だ。魔法の威力が微弱ながらもアップする。

 状況に合わせて武器を切り替えるのは大事なことだ。

「おお、ノジュ。しばらく見ないうちに腕を上げたな。いつの間に霊視と光の矢を覚えたんだ」

 ダルカの質問に困った顔をするノジュ。

「いや、お師匠様。私もなんで使えるようになったのかわからないんです。さっき急に使えるようになって」

「まあこのような事態なのだ。状況が好転するイレギュラーならなんでも構わん。使えるものは使っておけ」

「はいお師匠様」

 ノジュとダルカは師弟関係だったのか。

 愛人関係とかではないようなので一安心だ。でもニュートラルにスパイされそうで嫌だなぁ。

 十五分程で霊は全て消え去った。

「よし。大司祭の捜索に戻ろう。オレイルは何をしているのか」

 ダルカが難しい顔をする。

 探査をしてみる。オレイル、大司祭は地下にいるようだ。

「ダルカ、ここの地下には何かあるのか?」

「この大聖堂の地下には魔王の魂が封印されている迷宮があります。……大司祭がそこに向かったということはまさか」

 魔王を解放するつもりなのか、とダルカは呟いた。


 大霊堂の地下へは隠し階段通って行く仕組みのようだ。霊はあらかた殲滅したが、地下にはまだ敵の反応が沢山ある。さっきのは前哨戦で、まだ本番ではないということか。

 大霊堂の地上部分には朽ち果てた兵士の死骸が残っている。兵士の死体は放置されているのか。ミイラ取りがミイラになる危険性のある場所だからな。

 ダルカと確認しつつゾンビとして復活しないように火炎の魔眼で燃やしながら進む。途中ぐえええとか奇怪な音を立てた。

 某ゾンビゲーをやっておいてよかった。

 探査をしながらだと生命反応がわかるから便利だ。モンスター化していれば色が変わるしな。

 隠し階段を下っていく。

 ひんやりして、しかし淀んだ空気。嗅いでいるだけで気が狂いそうな悪臭。ダルカが【清浄】の魔法を使いながら先頭を歩いていく。

 お陰で腐臭や悪臭、それから瘴気が普通の空気になった。

 つるつるとした黒い石で出来た通路を進む。途中現れる霊をダルカが浄化しながら、リリアとノジュがバックアタック、サイドアタックを警戒する。

 俺は探査を使いながら上下の攻撃を警戒しつつ大司祭、オレイルの場所を探している。

 三十分進んでもなかなか手がかりがない。再生で回復したHPは適度に抹消で消費しつつ奥へ奥へと進む。

 魔物のラッシュを何度か凌いで大司祭とオレイルの後を追う。

 途中、剣を拾った。

 

 紺碧の剣、ハーム:

 攻撃力100 敏捷10 

 能力:敏捷小上昇 風隠れ 

 

 ラフラが持つレーバーの仲間っぽい装備だ。ノジュが見つけた。誰かの遺品だろう。ノジュは結構アイテムを発見するな。

 実は盗賊とかレンジャーとかスカウトみたいな職業なんじゃないのか。

 俺が装備させてもらう。

 敏捷小上昇は乗算補正で敏捷10は加算補正だ。精密検査のスキルでわかった。疾風の剣よりはリーチが少々長くなるが、重さもそんなに感じさせない。かなり役に立ちそうな武器である。

 風隠れというのは風がある場所なら自由に剣を隠す事が出来るスキルだ。

 とあるゲームの剣士がそういうスキル持っていたが、気にしてはいけないだろう。

 シャドウナイトの群れをダルカが【光雷の波】で消し飛ばし、ミストマジシャンは俺が抹消でなかったことにした。

 シャドウナイトは影のスキル石、ミストマジシャンが霧の魔法石をそれぞれ一つずつ落とした。

「影のスキル石は武器に融合すると闇隠れ、人体に融合すると影縫いのスキルになります。影縫いは影を縫って敵を動けなくせさせるスキル。狩人の森の民に融合してあげると良いでしょう」

 とはダルカの弁だ。

 影縫いは誰かが持っていそうだ。闇隠れでいいだろう。早速ハームに融合する。


 紺碧の剣、ハーム:

 攻撃力100 敏捷10

 能力:敏捷小上昇 風隠れ 闇隠れ


 闇隠れが発動して直ちに刃の部分が見えなくなった。俺も長さがわからない。

 それでは困るので、闇隠れを抑える。スキルも善し悪しだな。

 もう少しハームになれてから隠れ系のスキルを使った方がいいだろう。自分も見えないというのは不便だ。

 透視を使えば隠れ系スキルが発動していても見えるようだが、そうすると魔眼が片方封じられる事になる。魔眼は便利なので、透視を常時発動するというのは考え物だ。

 やはり、普段は闇隠れを抑えて使う方がいいだろう。

 闇隠れなんて不便なスキルを持つレーバーを使いこなすラフラはすごいと言わざるを得ない。

「霧の魔法石を融合するとどうなるんだ?」

 ダルカがすらすらと答える。

「人体に融合すると濃霧の魔法が使えるようになります。私も使えないのでどんな効果かは見たことがないですね」

 アイテムには融合出来ないようだ。

 ノジュに融合してみた。濃霧の魔法が使えるようになったようだ。

 濃霧の魔法を検査で覗いてみると、視界を奪う魔法のようだ。

 永久の闇と同じ使い方をすることになるだろう。

 暗視とは組み合わせることが出来ないから、後で運用を考える事になるだろうがまあないよりはマシだ。

 ノジュは魔法使いだから濃霧を張って魔法で辺り一帯を薙ぎ払ってもいいわけだしな。

 そんな感じで迷宮探索が続く。

 ダルカのMPが半分になろうかというとき、ようやくオレイルの反応に辿り着く。

 オレイルの他には神官が二人。残り三人はデスクリムゾンにやられたらしい。近くに死体が三つ転がっている。三人の首に手をあてて蘇生と念じたが反応がない。死亡は確定しているようだ。

「すまん。大司祭を見つけたのだが、逃げられた」

 オレイルは悔しそうに顔を歪めた。

 顔面は蒼白だ。どうやら毒をもらってしまったらしい。ダルカが解毒の魔法をかけようとしたので、俺が先んじて分離をする。

 ダルカのMPは貴重だからな。俺のHPは今は満タンだし。

 毒の塊が掌に溜まった。別にいらないので地面に撒いた。ちょっとだけ有毒のスキル石になるかと期待していたんだが、無駄だった。

「かたじけない。ダルカ、大司祭をこのまま探すか? 私のHPはそろそろ限界だ。神官も三人失ってしまったし、大司祭一人の為にこれ以上深追いは出来ない」

「いや、この先にあるのはあの部屋だ。既に大司祭一人の問題ではない。大司祭がもし魔王の魂を解き放ったとしたらその問題は我が国だけでは済まない。殺してでも止めるのだ」

 ダルカの目に冷酷さが宿る。

 ひどい、というつもりはない。

 自棄になったかどうかは知らないが、魔王という存在がもたらす悪影響をゲームを通して学んでいるからな。

 それが目の前に現れるとしたらやはりなんとしててでも防ぎたいのが人情だ。

「なるほど。そこまで考えが及ばなかった。我らも命を賭して大司祭を捕獲しよう。魔王復活だけは許してはならない」

 ダルカが【清浄の風】を唱える。神官二人とオレイルのHPが全快した。傷口もふさがる。知力511は魔法の威力が半端ない。

 神官は二人とも男性だ。男度がアップしたせいで、一気にむさ苦しさがあがった。

 こんな仕事はさっさと終わらせて鶫やリリアといちゃいちゃするんだ。

「大司祭は次の廊下を駆け抜けていった。……この先には姫にライフイーターの呪いをかけたデッドクイーンがいる。魔王妃の一人ネイの霊魂だ、覚悟を決めないと」

 おい。魔王妃って何だ。いきなり難易度上げんじゃねーよ。

「行きましょう」

 ダルカに促されて、俺達は次の部屋に向かった。

 歩く度に空気が冷える。

 冷えて痛いくらいだ。

 鋭いカミソリを首筋に添えられているような殺気。

 怒りに震える気配。

 怨みを籠められたどこからか向けられる視線。

 黒い石を踏みしめる度に心臓が締め付けられるような憎悪。

 次の部屋の扉を開く。

 そこには小柄な女性が一人倒れていた。

 祭壇には砕け散った石。

 他に気配はない。

「大司祭……」

 オレイルが駆け寄ろうとした。

「やめんかっ!!」

 ダルカが怒鳴る。

 パチッと目を開いた女性。眼球は白目がなくなり、完全に真っ黒になっていた。

「フハハハハハハッ! ……ついに乗っ取ってやったわ! 以前の女に比べれば見劣りするが、これほどに魔力が溢れていれば及第点よの」

 小柄な女性がむくり、と起き上がる。

 動作一つ一つに黒い煙がまとわりついている。

「遅かったか。あれは魔王妃の一人、ネイの魂を封じた封界石。こうなった以上、放っておけば他の封界石も壊され、王国は一夜にして滅亡するでしょう」

 抹消するだけの簡単なお仕事で済むかどうか確認してみる。

 ゲーム上のボスには基本的に即死耐性という厄介な能力がある。これがあるせいで苦戦を強いられるわけだ。

 しかし、抹消でどうやら大司祭を対象に選べるようだ。それに彼女に絡みついている黒い煙さえも。

 というわけでヌルゲー決定だ。

 集団で攻めてどうしても勝てないようだったら抹消で消滅させる。

 とりあえずはオレイルやダルカに戦わせてどうも不利っぽかったら助けてやろう。

 それに有利とみたらネイとやらが情報をペラペラ喋ってくれるかもしれないし。

 封印の魔眼を開眼する。

 目に見えて狼狽した様子の魔王妃。

「ふん、スキルと魔法を封じた程度でいい気になるなよっ!」 

 手助けくらいはしてやってもいいだろう。リリアは俺の隣に控えさせる。

 大司祭を検査。

 ネイという名前が表示される。ステータスは驚くほどに高い。コピーすべきだが先に魔法とスキルだ。

 魔法欄に光魔法に加えて煉獄、氷獄、地獄、嵐獄とある。リリアの唇を奪い、その四つをコピーした。

 4つの魔法はそれぞれ火、氷、土、風の属性の魔法で敵全体を一気に壊滅させる魔法のようだ。

 スキル欄には霊体攻撃、霊視、霊聴、反撃魔法しかない。霊体攻撃と反撃魔法をコピー。

 憑依とか呪いというスキルを持っていそうな気がしたのだが、そういうのはないようだ。

 観察して分かった事は大司祭が持っていた魔法と、ネイが元々持っていた魔法の両方が使えるらしいということだ。

 煉獄という魔法は光魔法や回復魔法を中心に覚えるはずの大司祭が習得するにはちょっと無理がある系統だ。

 逆に魔王妃に光魔法はちょっとおかしい。

 職業欄には大司祭と魔王妃。

 状態には憑依と表示されている。いろいろ貴重な情報を仕入れる事ができた。

 聖剣士オレイルがネイに斬りかかる。そこに賢者ダルカが魔法を唱えてサポートする。

「【光の刃】!」

 光の刃とは武器に光を纏わせる魔法だ。主にアンデッドに有効だ。

 オレイルの剣は大司祭を捉えることは出来ない。

 小柄な肉体からは想像出来ないほどのスピードで回避すると、伸びきったオレイルの腕を掴んで力任せに投げ飛ばした。

 派手な音を立てて壁に激突する。

「ごほっ!」

 オレイルの顔が苦痛に歪む。

 運よく首や頭にダメージがなかったようだが、左腕が甲冑ごと変な方向に曲がっている。

 神官が近寄ると、【接合】の魔法を唱えてオレイルの左腕を治癒し始める。【接合】の魔法は骨折や切断された部分を治す魔法だ。

 俺は融合で代用できるが、あの魔法もあった方がいいな。コピーしてリリアにくっつけた。

「シュン殿、助太刀をお願いします!」

 ダルカが【光の矢】を連発しながら叫んだ。しかし俺は無視してリリアとキスしていた。

 十連発の光の矢をネイは事もなげに回避する。

「そんな青瓢箪に何が出来る! お前らは妾の手で八つ裂きにしてくれるわっ!」

 ネイが二人の神官を蹴り飛ばした。ごき、と鈍い音がして神官が崩れ落ちる。それで神官二人は絶命した。

 ネイの貫手をオレイルが転がって回避する。

「はああっ!」

 立ち上がりざま、気合と共にオレイルが胴を払う。完全に殺すつもりの一撃だ。

 しかしネイは無造作に左手の中指と薬指の間で刃を完全に押し留める。

「これしきの刃、スキルも魔法もいらぬわっ!」

 その隙を狙ってノジュの【炎の槍】がネイの頭を狙って投げつけられる。

 しかしネイは【炎の槍】を右手で掴んで握り潰した。

 レベル83。

 大司祭のレベルではないのだろう。オレイルもダルカもレベル30そこそこだ。大司祭が抜きんでて高かったはずがない。

 ネイのレベルだ。

 ネイの貫手はオレイルの胴体を甲冑ごと、豆腐の様に貫いた。

 ネイの右手から腕にかけてがオレイルの血液で赤く染まる。

 オレイルの生命反応さえも途絶えた。

 俺がちょっとぼんやりしている間にこれか。

「ふん、残りはハエが四匹か」

 ネイのステータスは運と運命以外は500を上回る数値だ。スキルを封じてさえこの強さ。まともに戦ったら勝ち目はないだろう。

 なら、まともに戦わなければいいだけの話だ。

 事切れたオレイルの体をゴミのように捨て、ネイはダルカに駆け寄った。止める間もなくネイはダルカの首を握り、潰した。

 首の骨が折れる音。

 ダルカが死んだ。

 今度は俺のパーティーの番だ。

 俺はネイのステータスをコピーすることに集中していた。

 ダルカやオレイルに必死で戦わせている間、リリアとキスばかりしていたのだから怒られるのも当然だろう。

 ノジュが【焼尽】を唱える。ノジュが持っている魔法の中で最上級の炎魔法だ。

 MPを全て注ぎ込む代わりに相手を焼き尽くす。

 【焼尽】は火種が小さい。マッチの炎のような微かな炎だ。しかし触れた瞬間高温の熱を発し対象を火炎で包み込む。

 その炎は焼けないものはないほどの熱だとノジュは言っていた。

 ダルカの首を折って満足そうな顔をしているネイに、【焼尽】の魔法がぶつかる。

 ごう、と言う音とともにネイの体を焼いた。

「ふ、ハエもこの程度は使えるようだ」

 炎に包まれながらネイは歩いている。HPは100を切っているが、全身は炭化することもなく、煤けただけだ。

「嘘、どんな魔法抵抗力があるっていうの」

「妾の意志は600。ハエの魔法など効かぬわ」

 意志は魔法抵抗力を表わす量だったのか。なるほど、覚えておこう。

 やっとネイのステータスのコピーが終わった。後は料理するだけだ。

 ネイがノジュに向かってダルカの死体を投げつけた。ノジュのHPが0になる。死亡したらしい。

 まずいな、大体五分で片づけないとダルカその他の死亡が確定するから早めに片を付けないと。

 俺のステータスはネイのステータスをコピーしたお陰でこうなっている。


 小笠原俊 レベル19


生命600 魔力600 筋力550 体力550 耐久600 器用さ550 敏捷550 知力600  運300 意志600 運命100


 運命以外のパラメーターは全て上書きされた。流石魔王妃レベル83。

 ダルカやオレイルを上回る物凄いステータスだ。

 ステータスの上では五分。魔法、スキルの面では有利。後は抹消するだけだ。

 他に情報をペラペラしゃべってくれそうにもない。魔王とかどうでもいいし。魔法とスキルを良くチェックして取りこぼしがないか再度確認。


 抹消。


 大司祭の後ろでゆらゆらと立ち上る黒い煙を対象に抹消と念じた。

 その瞬間大司祭が崩れ落ちる。

 結局剣を抜く必要すらなかったな。

 検査をするとネイの文字が消えて、シュマという名前が表示される。

 職業も大司祭のみ。魔法欄からも煉獄などの魔法が消えていた。

 どうやら魔王妃の亡霊だけが抹消されたようだ。

 残りは十分制限を超えない間にこの場にいる全員を生き返らせる。

 蘇生を繰り返すにはリリアの助力が必要不可欠だ。

 蘇生。キス。のループでメンバーを全員復活させた後、俺とリリア以外の気を失った全員を連れて転移した。



●王宮にて



 王宮では一波乱起きていた。

 大司祭と賢者と近衛隊長が全員消えたとあっては慌てるのも道理だ。

 俺が行かなかったらその三人は死亡で魔王復活。

 俺のお陰でこの国の中核にあるべき命が三つ救われ、ネイは消滅。魔王の復活は防がれた。

 俺が行こうとしなければもっとひどい目にあっていたはずだ。

 俺はもう救国の英雄でいいのでは。

 そう考えていたのだ。

 ところが、蓋を開けるとそう上手くはいかなかった。

「ええい! 一体どうなっておるのだ!」

 怒鳴ったのはダルカだ。わざわざ俺の部屋で怒鳴らないで欲しい。

 大臣や貴族達にやりこめられて怒りがおさまらないのか顔が真っ赤になっている。

 ダルカやオレイルに蘇生のスキルがばれたり、どうやってネイの魂を駆除したのかと問い詰められたり、どうしてネイ戦では棒立ちだったのだと責められたりした。

 でも最終的には助かって良かったと彼らには感謝されたし、彼らのように実際に自らの身を危険に晒してその上で批判するというのなら俺も納得する。

 あの貴族たちは何なんだ。

 いろいろ頭に来ることが多かった。

 大司祭は旧大聖堂侵入の罪に問われて身分剥奪。国外追放という処分に。

 オレイルは将来有望な神官三人を殺してしまった責を負わされ降格。

 ダルカは事件の失態の責任を取らされて三か月の謹慎だ。

 俺はというと分離、融合という貴重なスキルを保有していることに加えて王女の呪いを解きネイを撃退した功績を慮った王家に庇われた一方で、貴族や大臣共の批判にさらされた事に頭に来ていた。

 なんだよ。助けてやったのに。

 何でこっちが責められなくちゃいけないんだ。

 鶫とリリアが慰めてくれたが、俺の気は晴れない。

 オレイルだってダルカだって頑張った。

 なのに何で誰も評価しないんだ。

 確かにネイを消滅させたのは俺だけど、その俺を連れてきくれたのはダルカだし、霊を駆除しながら大司祭を追いかけ、ネイと戦闘で時間稼ぎをしてくれたオレイルだって評価されていいはずなんだ。それにつき従った神官だって、ノジュだって。リリアも。

「ご主人さまと一緒に生きていられればそれで満足です」

 ほわっとしたリリアの笑顔に癒された。また膝枕してもらった。これは病みつきになるぜ。

 ベッドの脇にはノジュが腰かけている。

「あの貴族連中は何なのさ。折角お師匠様やシュンがネイの亡霊を倒したっていうのに」

 安全な所で何もしなかった奴らに批判されてノジュも頭に血が上っているようだ。

「そんな楽しい冒険に何故私達を連れて行ってくれなかったのだ」

 別方向で怒っているのはラフラだ。根っからのバトル脳なラフラは霊や魔王妃という貴重な対戦を逃した事にご立腹らしい。

「だってお前ら訓練場で木刀振りまわしていたじゃないか」

「いや、それはそうだけど」

 悠香が悔しそうに言った。お前も戦いたかったクチか。

「私も連れて行って欲しかったな」

 というのは鶫。迷宮というところに魅かれたようだ。

「すまない皆。今度はパーティー全員で潜ろう」

 貴族とのやりとりの間、ダルカやオレイルが矢面に立たされているのを尻目に俺はガルガン14世その人と交渉して、旧大聖堂で霊の駆除作業をする許可をもらっていた。

「いいのかい? あの旧大聖堂は王家の許可を得ずに入った者は等しく罰せられるって話だよ」

 ノジュが言った。

「王様にいつでも入ってオッケーっていう許可をもらってきた。ネイを討伐したご褒美だとさ」

「へー。すごいじゃん」

 悠香に褒められた。でも視線では褒められていない。何故私を連れて行ってくれなかったの、という非難の視線だ。

「でも霊ってどうやったら攻撃できるの? 剣を振っても当たらないんじゃない?」

 鶫の疑問に俺が答える。

「大丈夫。霊体攻撃っていうスキルと霊視があれば誰でも攻撃出来るみたいだ。実際オレイルはそうやって攻撃していたし」

「魔法が使えれば問題ないともいえる」

 未だに怒り心頭のダルカが補足する。

 そういえばオレイルの聖剣技はまだコピーしていなかったな。

 後で様子をみて頂戴しておこう。悠香やラフラにつけておけば旧大聖堂の霊の駆除作業も安心だ。


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