王都へ
いつも読んで下さってありがとうございます。
●クラスメイトと
ゴブリン討伐完了。
転移でチレットの街まで戻るとなると、馬車が邪魔になる。
ヒロロの村でゴブリン・ソードを全部売り払った後、馬車も処分する。
チレットの街まで転移。
ギルドまで戻って報告し、報酬を受け取ると同時にミラが離脱。
少し寂しい気がするが、仕方ない。
チレットの街に宿をとる。
夜はとりあえずの酒場と化したギルドでスキル収集だ。
リリアを連れていく。誰かにキスさせて貰わないと上限が二回だからな。
前回と同じように金をばら撒いて周囲の目を眩ます。
その間に目ぼしいスキルをコピーさせてもらう。
前回はステータスにばかり目が行っていてスキルのコピーはそんなに出来なかった。
ついでに情報も集めよう。
高揚
沈静
斧技・防具破壊
斧技・武具破壊
のスキルを4つと、
柳の力
樫の力
茨の力
微風
微震
石弾
土の壁
鉄の壁
土の剣
火の剣
氷の剣
氷の盾
の魔法12個を複製する。
高揚は攻撃力が微増、防御力が微減するスキル。
沈静は攻撃力が微減、防御力が微増するスキル。
この二つは常在型スキルで装備しないと意味がない。また同時に二つ装備することは出来ないようだ。
防具破壊と武具破壊のスキル。
これは斧での攻撃を相手が武器や防具で受けた時に一定確率で装備品を破壊するスキルだ。
これも装備しないと意味のないスキルだ。
柳の力は攻撃の威力を分散させてダメージを軽減する魔法。
樫の力は攻撃の威力を増加させてダメージを増加する魔法。
茨の力は攻撃の威力を跳ね返すして反撃する魔法だ。
微風は正直いらないと思ったが、夏場には必須の魔法だと聞いて考え直した。
微震は軽度の地震を起こして相手の行動や移動を制限する魔法。
石弾は読んで字のごとく、人間の頭一つ分の石塊を作り出し、的にぶつける魔法だ。
土の壁と鉄の壁は大地の土や砂鉄を使って防御壁を作り出す魔法。
土の剣、火の剣、氷の剣は魔法で剣を作り出す。
それぞれ土、火、氷の属性を持った剣だ。
時間が立つと壊れるなどデメリットがある一方で、武器が手元にない時には役に立つだろう。
氷の盾は魔法で作る盾だ。緊急防御用の盾で一定時間で消えてしまう。魔法使い用の防御手段だが、これは使える。
他にも土斧の魔法などがあったが、情報収集をしたいので打ち切る。
そろそろ酒が回ってきたので酒場の騒々しさはとどまる事を知らない。
誰それがオークを狩った、俺の方がすごい、とか。自慢話が多い。
俺は手近に居た優男風の剣士に話を聞きに行った。
「なんだ。錬金の。ちゃんと飲んでるぜ」
そう言って半分位空になったグラスを掲げて見せた。
「海側の情報を教えてほしいんだけど」
情報は大事だ。まだ海に行くと決まったわけではないが。
「いいぜ。それくらいなら……」
バン! と机を勢いよく叩きつける音が聞こえた。
何事かと一瞬で酔いが醒めた冒険者たちが音の方向へ振り返る。
「何だ何だ! 俺様に酌が出来ねーってのかっ!」
大声で喚く巨漢。
この前のスキル収集時にはいなかったはずだ。
「そんな真似出来ません。わたしはご主人さまのものですから」
「だからあんなガキより俺様の方が何倍も強いし、金だって持ってんだ!」
そう言って嘯く巨漢が酒瓶をラッパ飲みしてお代りを注文する。
巨漢は筋骨隆々としていてシャツの上からでもはみ出る程の筋肉がある。髭面で獰猛な目つき。
現実世界だったなら半べそかきながら道を譲っていただろう。
カウンターに置いた俺の金から何枚かスッと持ち去られて酒を巨漢の前に置く。
絡まれているのはリリアだった。
ちょっと席を話した隙にこれか。
まあリリアは俺の目から見ても群を抜いて美人だからな、ある意味仕方ない。
「ふーん、誰が俺より強いって?」
巨漢に近寄って、挑発する。
検査でステータスを覗く。でかい顔をするだけあって筋力は100以上ある。だが他は並み以下だ。スキルもない。
「ああん? 何だお前。いいからこいつは俺が貰っていく。お前の金も俺が貰っていく。何故なら俺様がお前より強いからだ。文句あるか」
「あるに決まってるだろ」
俺とリリアに絡まない事が俺が酒場で酒を奢る条件だ。
巨漢はふん、と鼻を鳴らしたかと思うと右拳で思いっきり俺の顔を殴ってきた。完全に見えていたが、敢えて受ける。
俺は殴られるままに吹っ飛ばされた。
幾つかのテーブルを巻き添えにしてしまったが、冒険者たちにとっては日常茶飯事なのか自分のグラスや料理はしっかり抱えて退避していた。
ゆっくり起き上がる。
ダメージ1。
これが彼我の戦力差だ。痛みと言う物がまったくない。
逆に殴った巨漢の方が手首を痛そうに握っていた。
下川に殴られた時とこれほどの差があるとは。
「もう一発殴ってみろよ」
そういって右の頬を差しだした。ぺちぺちと自分の頬を叩く。
左の頬を殴られたら右の頬を差しだしなさいとどこかの誰かも言っているしな。
「……舐めやがって!」
巨漢が拳を振り抜く。
それをかわすと同時に左足を軽く蹴り飛ばした。
巨漢は自重を支えきれずに無様に床に突っ伏した。
怒りに顔を真っ赤にした巨漢は立ち上がると獲物を抜いた。
刀身が反り返っている。曲刀だ。
そろそろ冗談じゃ済まないな。
やんややんやと囃す他の冒険者。
お前ら止めないの?
「死ねやぁ!」
巨漢が怒声とともに曲刀を振り下ろす。
「やめんかっ!」
酒場に怒声が響く。
しかし刀は簡単には止まらない。
が、刀を触れさせるつもりのない俺には関係なかった。
俺は左足を踏み込んで易々と巨漢の後ろに回り込んだ。視力と敏捷を上げているお陰だ。
すかさず巨漢のズボンを掴む。
今こそ俺の筋力が試される時だ。
思いっきりズボンを引きずり下ろす。
途中ぶちぶちと嫌な音がしたが気にしない。
膝のあたりまで下ろしておけば身動きが取れないはずだ。
これにて一件落着。
「馬鹿者っ!!!!」
駄目か。
怒鳴ったのは紫のローブを着こんだ壮年の男性だ。鷹のように鋭い眼光、鷲のような鼻、禿げあがった頭。
猛禽類の顔だが、哺乳類で間違いないだろう。
彼は木製の杖をついて、蓄えた茶色い髭を撫でた。
「おい、ギルドマスターだぜ」
「久しぶりに見たな」
誰だよ、と思っていたが、このギルドの管理者か。
自分の庭で抜き身の剣で斬りかかる馬鹿がいたら怒るのも当然だ。
「おい、錬金の」
ギルドマスターが俺を睨む。
え、俺?
「お前さん、チレットの街を出ていけ」
ええ、何でだよ。融合持ちの俺はギルドの星じゃなかったのか。
「言い方が悪かったか。チレットの街を出て王都へ向かうがいい。お前さん何をしたんだ。王直々の呼び出しとは只ごとじゃないぞ」
まあ、一介の錬金術師のようには見えんがな、とギルドマスターは付け加えた。
「王が? 俺を?」
「だから、そう言っただろう。今回の討伐が終わって直ぐに王直属の賢者ダルカから念話が届いた。準備が出来次第すぐにこいとのことだ」
●準備
一夜明けた。
ひとまずパーティーメンバーには自由行動と指示を出しておいた。
俺達のパーティーは王都に向かうことになった。
王様の呼び出しを無視して王国で生きていくというのは考え辛い。
どんな用件で呼び出されたのかはわからないが、きちんと準備をしておくべきだ。
だが同じ位息抜きも必要だ。
悠香はノジュ、鶫はリリアと出かけた。
ラフラだけが俺についてきている。
昨夜が昨夜だけに大人しい。
ギルドにたむろしているクラスメイトが10人くらい。
副級長が依頼の掲示板でにらめっこしていた。
話かけたいが、自分から話しかけるのは苦手だ。
ラフラには椅子に座っているよう言い含める。
さりげなく掲示板に近付き、副級長の横に並ぶ。
副級長が気付いてくれないだろうか。
そう思いチラリと横目で見る。
熱心に依頼を検分しているようだ。
「あら。小笠原じゃない。どうしたの」
隣の掲示板を見ようとして視界に俺が入ったようだ。
良かった。話かけてくれて。これで会話が出来る。
「次の依頼どうしようかと思ってさ。やり残したものがないかチェック。渡辺はこれから依頼を受けるのか?」
「ええ。まずは食べ物を確保しなくちゃね。と、軍資金ありがとう」
「いいんだ。必要経費だ。その代わりクラスの連中がどうしているか教えてくれるとありがたい」
「それくらいなら。冒険者ギルドで働く気になったのはクラスメイトのうち半分強の25人」
「残りは?」
副級長は肩を竦めた。それが答えだ、と言わんばかりに。
「さあ。知らない。全員が2000プライムはしっかり貰ってたから、野たれ死んでいるってことはないと思うけど」
「級長は?」
「富田と日下部と組んで依頼を受けているわ。……オオムカデの駆除依頼だったかな?」
そのレベルの依頼なら、おそらく青の依頼だろう。
「渡辺……あれ、オガじゃん」
副級長に話かけてきたのはカズだ。カズも冒険者として活動するつもりのようだ。
既に武器屋と防具屋に寄ったのか、制服姿から駆け出しの冒険者の格好になっている。
つまりは俺と一緒で皮の装備品一式だ。
「よう」
「おう。悪かったな、装備品の代金まで」
「いいさ。同じクラスのよしみだ」
勿論メリットがあるからやるわけだが。
「ところでオガも依頼受けるのか?」
「ああ。まあ今日はオフだから目ぼしいのがあるかどうか確認するだけだけど」
目ぼしいのがあったら王都に行くに行けないからな。
「そっか。ギルドの連中から聞いたけど、お前錬金のシュンって呼ばれてんのな」
「どこから聞いた……ああ、受付の」
受付のお姉さんが小さく手を振っている。おしゃべりなお姉さんだな。
「そういうこと」
「カズこそどんな依頼を受けるんだ?」
「んー、俺も討伐依頼を受けてみようかと思っているんだ。オオムカデだったら俺でも狩れるしな」
オオムカデ狩りか。
「いいんじゃないか」
「そうね。まずはレベルを上げない事には始まらないもの」
討伐となるとカズや副級長のステータスには気を配らないわけにはいかないな。
「何人でパーティーを組むんだ?」
「私とカズと貴理子。それから熟練の冒険者の方一人についてきてもらうことにしたの。250プライム、だったかな」
冒険者から学べる事は多いはずだ。
野宿の仕方とか火の起こし方とか。
とはいえ、冒険者が全て善人とは限らない。
俺も昨日いざこざがあったしな。
カズと副級長のパラメーターだけでも調整しておくか。
ラフラを呼んで、吸魔の口づけの装備を確認。
二人のパラメーターの生命と敏捷と体力と器用さを上げておく。
八回コピーなので、ラフラと三度キスをする。
「……オガ。貴方前鶫と散々キスしていたけど、どういうこと」
副級長に白い目で見られた。
「……度胸あるな。衆人環視でキスとか。しかも銀髪美人と」
感心した風に言うな。これでも人の視線は人一倍気になる性質なんだ。
「これもお前らの為なんだ」
「……」
無言で困った顔をする二人。
本当だから!
言語のスキルを上げた時にも鶫とキスしていただろうが!
いろいろ訂正しておきたいが、バラしてあれもこれもと要求されたら面倒なのでここは我慢。
「……小笠原って真面目そうに見えるけど、浮気性なのね。鶫が可哀そう」
酷い。いや、酷いのはもしかしたら俺なのか?
「浮気じゃないぞ」
「ご主人様は見境のない猿……じゃなかった好色なお方だからな。英雄色を好むと言うし」
ラフラ、それフォローになってない。
「……ご主人様?」
副級長に汚物を見るような視線で睨まれる。
「やるな」
カズが賞賛した。
何をだ。
ギルドでもう少しカズと話をしたい気もするが、後ろ髪を引かれる思いで後にする。
「ご主人様。どこに向かうつもりだ」
せめて丁寧語で話せ。
「んー。今日は休みだからデート」
「私と、か?」
他にもいるだろう、と困惑するラフラ。
「まあ細かい事はいいだろ。お前には殺したり脅したりと怖い思いをさせているわけだし、少しは俺のパーティーに参加する旨みを感じさせてやらないと、な」
一度ラフラから装備品を全て取り上げたわけだが、再びレーバー、闇の鎧、頑強の指輪は返却してある。
「ラフラは戦闘以外に趣味はあるか?」
「武器の手入れ、馬術、それからトレーニング全般だ」
どうだ、という風に胸を張るラフラ。
どう考えてもそれはバトル脳だよ。もしくは戦闘狂と言ってもいいか。
その分興味を引くのは簡単である。
「なら、レーバーでも強化するか」
「おうおっさん」
「またきたか」
恒例の武器屋だ。
「武器なら間に合っているのだが」
ラフラの不審そうな表情は無視。
買うのは疾風の剣だ。この武器屋の目玉と言ってもいい。
「お前さんの紹介のお陰でこっちはぼろ儲けさ。20人はお前さんの名前を出してこの店を訪ねた奴らがいたぜ」
クラスメイトの武器購入はここで。
そんな感じでアドバイスをしておいた。
「わりぃなおっさん。武器の在庫はまだある?」
「新しい武器は入荷してないな」
「疾風の剣を一本くれ」
「毎度」
「その剣だったら私はレーバーの方がいいぞ」
そりゃまあ攻撃力が違うからな。後リーチとか。
「心配するな。考えてある」
「……まあ私ならその剣でも十分に戦えなくはない」
いや、だから疾風の剣自体を使わせる気はないのだけど。
ラフラを連れて防具屋だ。
闇の鎧ではカバー出来ない範囲の装備品を探す。
闇の鎧は確かに立派だが、釣り合う装備品がない。主に色合い的な意味で。
「そう言えば素手だったよな」
「ああ。お陰で掌は豆だらけでごつごつさ。しかし闇の鎧に適する装備品がなかったものでな。どうせ私より強い相手がいないからと真面目に探さなかったのだ」
「じゃあ黒蜥蜴の手袋と黒蜥蜴のブーツが似合いそうだな」
黒い剣と黒い鎧。それなら手袋やブーツも黒い方が統一感がありそうだ。
「黒蜥蜴の皮は私が住んでいたところでは貴重品だったのだが、こっちでは違うのか?」
防具屋の主人が答える。
「こっちでは黒蜥蜴なんて掃いて捨てる程いるよ。王都の周りには黒蜥蜴の巣があってね。年中冒険者や軍が討伐しているって話だ。黒蜥蜴は皮製品よりは頑丈だけど、見た目が嫌だからって忌避する人が多くてね」
普通の皮と黒蜥蜴の皮だと値段にも防御力にも差がないし、ラフラがいいならそれでいいだろう。
「じゃあそれで。後は頭の部位に何を装備するかだな」
「邪魔になる」
「邪魔にならない防具もあるが」
するとカウンターの中から一つ銀色の額当てを取り出す。
「じゃあこれなんかどうだ。力の額当て。レアアイテムだ」
力の額当て
防御:30
効果:筋力小上昇
おお。なかなかいいのがあるじゃないか。
「幾らだ」
すると店主は指を五本立てた。
「5000プライム。オークションに流せばそれくらいする」
「じゃあ何で今出したんだ」
「錬金のシュンならそれくらい5日くらい働けば稼げるだろ」
いや、まあその通りだが。しかも有毒のスキル石、防毒のスキル石のストックもあるし。
「分かった。言い値で買おう」
5000プライム硬貨を置く。
「流石有名人。払いがいいね」
「ただし、今後もレアアイテムを入荷したら優先的に回してくれ」
ほう、と店主が面白そうに眉を上げた。
「いいぞ。任せておけ」
「早速装備してみるか」
買ってみた額当て。とりあえずラフラにプレゼントだ。
「いいのか? こういうのは優先的にご主人様が身につけるべきではないのか」
「いいさ。ラフラには今後モンスターの群れに突撃してもらうことになるし、筋力は高い方が安心するだろ」
これだけ高いものを買うとなると、同じ奴隷のリリアにも何か買うべきだろうか。どうせ王都行くんだし、王都行ったら考えよう。
露店でアップルパイを買うとラフラと食べる。
そう言えばリリアとここで前にもアップルパイを食べたな。
リリアの分、鶫の分も買って帰ろう。
それと忘れずに悠香の分も。
あれ、そうなるとノジュの分を買わないと仲間外れだな。
結局全員の分を買った。
他にすることもなく宿屋に戻った。
宿屋に戻ったからといってするわけではない。
他にすべき事があるなら、そっちの方が優先だ。
疾風の剣を取り出して分離と念じる。
片刃の剣と疾風のスキル石に分かれた。
疾風のスキル石とは安直な。
疾風のスキル石とレーバーを融合させる。
漆黒の剣、レーバー:
攻撃力100 防御力10
能力:闇隠れ 効果:敏捷小上昇
名前やアイテム自体に変化は見られないが、確かにレーバーには新効果がある。成功だ。
ラフラがひゅん、と振ってみる。
「……確かに。錬金の二つ名は伊達ではないな」
錬金術師じゃないけどね。
俺の職業は狩人。
狩人のままだ。ラフラの職業は魔剣士。どうやって魔剣士のジョブについたのだろう。
気になったので聞いてみた。
「ラフラは最初から魔剣士のジョブだったのか?」
そうだな、とラフラは顎に手を添えて考えた。
「いや、私は剣士のジョブから魔剣士のジョブになったな。剣士の前は戦士だ」
「口ぶりからすると上級職にどんどん転職していく感じなのか?」
「それで大体は正解だ。戦士から剣士、槍士、斧士、騎士の4つのジョブになれる。剣士からは聖剣士、魔剣士、豪剣士、殲滅剣士の4つのジョブになれる。私は魔族だったし周囲の勧めもあって魔剣士にした」
そんなに派生するジョブがあるのか。
夢が広がるな。
「ところで転職ってどうやるんだ?このままずっと狩人は嫌なんだけど」
狩人は俺にとって役立たずだ。リリアは使いこなしているが。
ジョブチェンジ出来るなら早くしたいところだ。
「それなら王都に行くといい。私の国でもそうだったが、首都には大抵転職神殿があるはずだ」
転職に神殿とは。
安直過ぎてどっかのロールプレイングゲームからクレームがきそうだ。
王都に行く理由が増えた。
●王都へ
夜になった。
懲りずに酒場と化した冒険者ギルドに向かう。鶫以外のパーティーメンバーは宿屋に置いてきた。
リリアは昨日絡まれたばかりだし、ラフラは行きたくないの一点張りだった。
目的は二つ。スキルのコピー、それから級長だ。探査で場所はわかる。
どちらかというと後者の方が主目的だ。
「おう。錬金の」
グラスを掲げた禿頭のおっさんに声をかけられる。
昨日の今日だから内心びくびくしていたが、大丈夫そうだ。
会釈して目的のテーブルへ。
「なんだ。オガじゃないか」
級長は一仕事終えたのか富田とタツと果実酒を飲んでいた。
既に出来上がっているのか三人とも顔が真っ赤だ。
「級長。ちょっと話がある」
級長のパーティーの使っているテーブルの椅子を引いて腰を掛ける。
鶫も隣に座った。
「……何の用だ」
タツが邪険にするが、気にする必要はないな。
そもそも何で俺ってタツに突っかかられるの。
「それで?」
級長に促されて続ける。
「探索の情報共有。クラスも幾つかのパーティーに別れて、これから活動するわけだ。それの検討会を開いて欲しいんだ。俺じゃクラスに声を掛けられないし、級長の方がいいと思って」
情報の共有。
俺一人が情報を集めるのと、同じ目的を持った仲間がそれぞれ情報を集めるのではどっちが効率がいいのかという話だ。
極端な話。
俺一人が東西南北を回るより、四人で分担して東西南北を探索するのではどっちが時間が掛からないか。
後者だ。
俺一人でこの世界をクリアするんじゃない。俺達でこの世界をクリアするんだ。
かといって俺じゃ皆を説得して回るなんて芸当は出来ない。
「……級長は以前言っていただろ。全体のリーダーと班毎のリーダーを決めて、リーダー同士で相談しようと。今はそんな感じじゃないけど」
「そうだ。確かに言った」
級長は苦々しそうに呟いた。
「現実はそんなんじゃない。皆好き勝手やってるんだ。俺には制御なんか出来ない」
吐き捨てるように言った。
「俺にもう、クラスを背負わせないでくれ」
「わかった。すまん」
級長の負担なんて考えてなかった。
ひとまず俺の考えを伝えたし、今はこれでいい。
級長、タツ、富田に俺の体力、生命、筋力、敏捷、耐久をコピーしておく。
鶫にキスを繰り返しつつ、そこから真っ赤になった鶫に耳を引っ張られるまでがワンセットだ。
折を見てクラスメイトの能力を強化するのは後々俺の為になるからな。
土の斧、火の斧もコピーしておく。まだ居残ってもいいが、ギルドマスターがまた雷を落とす前に退散しよう。
今日は奢るわけでもないしな。
それから時空魔道士の一人に声を掛ける。
時空魔道士のスキルは転移。
他に持っている奴らは見たことがない。ラフラが持っているのは謎だが。
時空魔道士なら王都に行ったことがあるかもしれない。
話しかけてみると、500プライムで連れて行ってくれるらしい。
微妙に高額な気がするが、無駄に時間を掛けたくもない。
明日の朝ギルド前で待ち合わせをすることを約束した。
ギルドを出て宿に戻る。
「ご主人さま、ひどい顔ですよ」
リリアが出迎えてくれたのでそのままベッドに直行した。
翌日。
パーティーメンバーには少々待っていてくれと言っておく。
ギルド前、と言っても宿屋から四軒隣なのでたいした距離ではないが、そこまで小走りで向かう。
「よう錬金の」
時空魔道士ジャスティ。今年で三十になるそうだ。男性だし、俺のパーティーにはいらないな。
転移以外には目立った魔法やスキルはない。時を止めたり時間を遡ったりは出来ないようだ。
まだ転職したてだということだし仕方ないか。
「今日はお願いします」
「任せとけ」
時空魔道士と手を握る。
男と手を握るのは手袋越しでもちょっと嫌だ。
転移。
一瞬で俺とジャスティは、チレットの街を離れた。
次に目を見開いた場所は荘厳な門の前だった。
門の外側に連れてこられたわけではなく、門の内側にいるようだ。
さっきから商人の威勢のいい掛け声が聞こえてくる。
「ここが王都だ。ギルドはここから北に10分も歩けばあるから。それじゃな」
それだけ言うとジャスティは500プライムを受け取ってさっさと転移してしまった。
お願いしたことは王都まで連れて行ってくれる事だけだからそれ以上は望んではないが。
俺も早速王都からチレットの街まで転移。
パーティーメンバーを連れて王都までやってくる。
ノジュ以外は王都は初めてだということだ。
もしかしてノジュに転移をコピーした方が良かったんじゃないかという思いが一瞬頭をよぎったが、考えないことにした。
気を取り直す。済んだ事を考えても仕方ない。
俺達のパーティーが王都に来てやるべきことは二つ。
転職と王城に向かうことだ。
先に王の呼び出しを済ませた方がいいな。
要らぬ不興を買って指名手配になったら嫌だし。
王城を目指すだけなら簡単だ。城下町の上の方に聳え立つ城が目的地だろう。
「ノジュ、城に入ったことは?」
「何回か。友達もいるし、お師匠様もいるしね」
「ラフラは?」
「私の国とガルガン王国の間に親交はない。国を三つも越えなくてはいけないからな。私のように転移のスキルを与えられでもしない限りは、移動にも一苦労だ」
ラフラは転移のスキルを与えられた、と言った。しかし、今はそこの部分を根掘り葉掘り聞くべき時間じゃない。城で用を聞いてからでも遅くはないだろう。
「リリアは?」
「いえ、私は北方より連れてこられたので、王都には立ち寄ったことはありません……」
いつも明るいリリアが珍しく言葉を濁す。何か思い入れでもあるのだろうか。
「鶫や悠香が来ているはずはないよな」
「ないね」
「ない」
ですよね。鶫と悠香は一言で否定した。
城に向かって歩く。門から城までは結構距離があるようだ。
直線距離にして10キロが短いのか長いのかはわからないが、馬があればすぐなんだろう。
大通りには商人が所狭しと露店を開いているせいで、人々がごった返している。
お陰でのろのろと歩いていくより他の手段がない。
二時間かけてようやく人込みを抜ける。
石造りの巨大な門が見えてきた。ガルガン王国の聖獣であるグリフィン、ロロンガの紋章も刻まれている。
俺や鶫、リリアが身につけているブレスレットと同じ意匠だ。
門番に用件を伝えると、伝令が走る。入れてもいいかどうか上に確認するのだろう。
俺は暇だったので兵士のステータスを検査させてもらった。
特に見るべき点はない。
職業は戦士ではなく、槍士だった。
槍技の三つは既にコピー済みだったので、特に見るべき点もない。
やるべき事がないので設定を弄る。
最近はもっぱら基礎視力にパーティーのMPを注ぎ込んでいた。
目は魔眼の資本だ。
目の性能が向上すれば魔眼も性能が向上する。逆に失明すればそもそも使えなくなる。
実際、視力が上がった後魔眼の性能もわずかに上昇していた。
現在では硬直の魔眼の効果時間は3秒から5秒に伸びた。
勝手にラフラ他を止めて怒られたのが5秒後だった。
2秒しか伸びていないと考えるか、2秒も伸びたと考えるか。
俺は後者だ。
だから今は魔眼の底上げが精一杯で新スキルは取得していない。
でも今は手持ち無沙汰だし、何か取得するか。
何を取得出来るか確認するだけでも得るものがあるだろう。
耳スキルか、新しい魔眼を取得するか。
目の項目をスクロールすると、遅延の魔眼や加速の魔眼、霊視なんてものがある。
遅延の魔眼は見つめた対象の行動を鈍らせる。
加速の魔眼は見つめた対象の行動を早くする。
それぞれ取得は300ポイント。
霊視は霊体を見る為には必要な魔眼だ。
取得は100ポイント。
耳の項を見ても同じ霊聴なんてスキルがある。
こっちの取得も100ポイントだ。この世界には幽霊がいるのか。
「お待たせしました」
兵士が戻ってきたようだ。設定による取得は後にしよう。
王様の前でちゅっちゅしてたら流石に失礼だということは俺でもわかる。